連載小説「オボステルラ」【幕章】番外編1「アドルフへの手紙」(3)
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番外編1「アドルフへの手紙」(3)
夜、ゴナンは先に寝室で寝ている。
リカルドは少しワクワクしながら、ゴナンの手紙を開き読み始めた。そして読み進めると、また少し悩ましい気持ちになる。
「ツマルタへ行く途中は獲物がいっぱい獲れたので、豪華な晩御飯をみんなで楽しめた」
「ツマルタではすごい道具を作る工房がたくさんあって、楽しかった。食堂でおいしいご飯も食べた」
「鉱山で働かせてもらって、そこでディルムッドという体がとても大きくて強い騎士と知り合った。彼も旅に付いてきてくれることになった」
「鉱山で掘っていた鉄鉱石は貴重なものだったらしい。これを鉄にするにはどうするのかリカルドに尋ねたら、今度、製鉄の工場に連れて行ってくれるって。日雇いの仕事があれば働かせてもらえるかもしれない」
「巨大鳥も見かけたので、鳥探しも順調だ。でも、自分に不幸なことは何も起こっていないから、心配なく」
……ざっくり、こんな内容だ。あとは、ディルムッドがいかに体が大きく筋肉が凄くて強いかの感動が随所に綴られている。そしてやはりエレーネに関する記述も多め。まあ、嘘を書いているわけではないが、相変わらず良いことしか書いていない。ふふ、とリカルドは一人微笑む。
(…本当に、アドルフさんには心配を掛けたくないんだなあ…)
しかし、やはり体調のことなどは知らせておいたほうがいいだろう。人攫いに遭わせてしまったことも、ケガを負わせてしまったことも伝えておかないと、もし傷が残ってしまった場合、ゴナンが帰郷した際に驚かれてしまうかもしれない。
(…なるべく、ゴナンに起こったことを正確に…)
リカルドはペンを手に取る。ゴナンが書いたものの何倍もの長さの手紙になってしまった。アドルフにとっては、読むに堪えない内容もあるかもしれないが、仕方が無い。
手紙を書き終わり、シャワーを浴びて寝支度をしたリカルド。寝室に入ると、また発光石の照明をつけたままだ。そして例によって、キングサイズのベッドの隅っこに寝ているゴナン。
リカルドはふふっと微笑むと、ベッドに入り照明を消して、ゴナンの体を自分の方に寄せた。そして、ゴナンの腕をギュッと握る。また夜中に出ていかないかが心配で、こうしないと眠れなくなってしまった。
(…ゴナンがいれば、僕は大丈夫…)
自分の死後、ゴナンがどんな大人になっていくのかに想いを馳せることで、リカルドの心はとても穏やかになる。心がザワついたときのルーティンになりそうだ。ゴナンと会う前、このように心乱れたときにどうやって乗り越えていたのかを、リカルドはもう忘れてしまっていた。そしてそのまま、穏やかに眠りに落ちていった。
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「アドルフくん」
一面の荒野。地面にヒビが入るほどに乾ききった、北の村。そこで一人の女性が、アドルフに声をかける。
「あ、ライラさん」
「ようやく来たわよ、お待ちかねのもの」
「…!」
アドルフは目を輝かせ、オズワルドの元妻・ライラに飛びつきそうになった。が、すんでのところで自重する。
「やっと来たか…。無事、リカルドさんと会えたってことだな。ゴナンならちゃんと手紙を書いてくれるとは思っていたけど、この村まで届くのが難儀だからなあ…」
そう呟いて、アドルフは周囲を見回す。
二人が今居るのは、『お屋敷』だ。ある夜、突如として姿を消したこの屋敷の主と従者達(と、ゴナン)。流石に中の全てのものを持ち出すのは難しかったようで、ほとんどの家具や調度品、燃料の薪、そして幾ばくかの食糧と水の樽が残されていた。それを確認した兄弟たちは、村の皆に、もうユートリアが戻ってこないであろうこと、命を繋ぐためにこの屋敷を活用すべきだと言うことを触れ回った。
最初は「お屋敷様のものを奪うなんて」と遠慮がちだった善良な人々も、やがてお屋敷の中へと入り、その居心地のよい空間に驚き、そして体調の悪い者や家が崩れてしまった者たちから優先的に入って、この中で寝泊まりするようになった。水や食糧も少しずつ分け合い、少しの間、村人の命を支えた。干ばつで夫を亡くし、1人で幼い子どもを育てるライラも、この屋敷に身を寄せている。
「手紙の束が2つあるわよ。どちらも結構な分量」
「2つ?」
アドルフは、油紙に丁寧に包まれた2つの紙の束を受け取る。と、「すみません、通ります」と横から声が聞こえて、人が大荷物を代車に載せて押してきた。2人は廊下の端へと避ける。
実は昨日、突然この屋敷をキャラバン隊が訪問してきた。その報告を受けて、兄弟たちが慌ててこの屋敷に来て対応していたのだ。聞けば、ストネの街近くのとある貴族による慈善事業で、支援物資を託されたという。未だこの村に雨が降る気配すらないが、このおかげでまた、村人達の命がつなげそうだ。
「キャラバン隊の人が私宛に届けてきてくれたの」
「きっとリカルドさんが、物資の手配と合わせて、手紙を託してくれたんですね」

「これも預かっているわよ」
そういってライラは、布がかけられた籠と箱も手渡す。これは何だろう。
「大荷物になってしまいましたね。ありがとうございました」
アドルフはライラに頭を下げる。サバサバとした性格で何かと相談事をしやすかった、兄の元妻。もう、家族の縁は切れているというのに、兄には秘密のこの手紙のやりとりで、今回もつい頼ってしまった。オズワルドもこんなできた女性を手放すとはもったいないことをしたものだと、未だにアドルフは思っているが、まあ、仕方ないのかもしれない。
「じゃ、私はキャラバンの人を手伝ってくるわね」
骨と皮の顔にシワシワの微笑みを浮かべて、ライラは去って行った。この村の者は、誰もが骨と皮だ。
アドルフは一刻も早く手紙を読みたかったが、この屋敷で兄たちが物資の仕分けの手伝いをしていることを思い出し、懐に収めた。箱と籠を抱え、そっと屋敷を出た。
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