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手料理でお母さんを泣かせたい

秋田の実家に帰省した。

一年ぶりの実家だ。

私は今回の帰省で
密かに計画していたことがある。

お母さんに、
初めて手料理を食べてもらう。

お母さんは、私が不器用なことを
誰よりも知っているから
きっと驚くはずだ。

「立派な大人になったねえ」

そう言って、感動の涙を流させる!

作る料理は、ハンバーグだ。

私が料理を始めたきっかけは、
以前書いた「こちらの記事」です。


実家がある最寄り駅に着き
スーパーで食材を買った。
やっぱり東京より安い気がする。

「ただいまー」

そう言って、実家のドアを開ける。

「あー、おかえりー」

いつものお母さん。

久しぶりの再会だと思えないのは、
LINEで頻繁に話しているからだろう。

「今日は、私が料理を作るよ!」

スーパーの食材を見せる。

「包丁使うの? 怪我しないでよね」

OK、OK。

今のうちに
子供扱いしておいてください。

25歳になった私の成長と
ハンバーグの美味しさに
驚くことでしょう。

早速、料理に取り掛かった。

「仕事どう? 上手くいってる?」

矢継ぎ早に質問が来る。
料理中に話しかけられると
レシピを間違える可能性もある。

「まあまあだねー」と適当に相槌。

そして、持参した秘密兵器を取り出した。

「じゃーん!」

ブンブンチョッパーの登場だ。

みじん切りが、簡単に出来ると説明したが
「包丁の方が早いじゃん」と一蹴。

忘れていた。

昭和の女は
文明の利器に懐疑的だ。

ブンブンチョッパーで
玉ねぎをみじん切りにして、
ひき肉を捏ねる。

何度もレシピを確認した。

慣れないキッチンと
質問攻めのせいで
いつもより時間がかかってしまった。

ハンバーグが焼けるのを待つ間、
ご飯やサラダをテーブルに用意する。

ハンバーグは、焼き加減が命。

『爪楊枝を刺して、
肉汁が透明なら火が通っている証拠。』

YouTubeで
料理研究家が言っていたこの言葉を
私は魂に刻んでいる。

火の通りもOK!

フライパンから皿に移し
テーブルに持って行く。

全ての準備は整った。

イッツ、ショータイム。

感動の夕食が幕を開けた。

テーブルの上には
茄子炒め、お新香、納豆。
そして、私が作ったハンバーグ。

私のハンバーグだけ、
毛色が違う気もするが問題ない。

「いただきまーす!」

まずは自分で
ハンバーグを食べてみる。

よし!美味しい!

粗挽きの肉と、玉ねぎの食感。
熱々の肉汁が口に広がる。

我ながら、完璧だ。

これは泣くでしょう。

私は、お母さんの様子を
目の端で追う。

お母さんは、納豆を混ぜ始めた。

いやいや、早くハンバーグを食べてくれ。

美味しいから。
泣くから。

「冷めないうちにハンバーグ食べてみて」

胸の高鳴りを抑えきれず、
つい、言葉が出てしまった。

納豆の入ったお椀を受け取り
代わりに混ぜながら、様子を伺う。

そして、

ついに、お母さんがハンバーグを食べた。

感想を待つ。

「……うん。ハンバーグだね」

リアクション、薄っ!

何?その感想。

ハンバーグ作ったんだから
当たり前じゃん。

全然、泣く気配なし。

ハフハフしながら
普通に食べている。

泣かせる作戦は、

……失敗に終わった。

そして、お母さんは、
最近ハマっている藤井風について
熱く語り始めた。

藤井風の曲がどれだけ素晴らしいか。
そして人間的にどれほど魅力的かを。

「こんなに好きになったの、尾崎豊以来だよ!」

ハンバーグの感想の、100倍テンションが高い。

思っていた結末とは違うけど、
楽しそうに話す姿を見て
まあ良いか。と思った。

ハンバーグを、もうひとくち。
いや、めっちゃ美味しいけどな。

気を取り直して
納豆を、ご飯に乗せて食べた。

食べた瞬間。

やばいと思った。

私の地元では、納豆に砂糖を混ぜる。

全国共通だと思っていたので
上京してから恥をかいた。

久しぶりに食べた甘い納豆は
まさしく実家の味だった。

涙が込み上げてきた。

東京で大変だったことや
嫌な思いをしたことを
急に思い出す。

「がんばったね。おかえり」

そう言われた気がした。

泣くな。

堪えろ。

25歳にもなって、
実家の味で泣く訳にはいかない。

こっちが泣かせるはずだったのに。

バレないように
鼻から息を吐き出して
深呼吸する。

お母さんは嬉しそうに
藤井風の魅力を語り続けている。

何か言葉を発すれば
それを合図に、涙腺が崩壊するだろう。

私は、もう混ぜる必要のない納豆を
ぐるぐると、かき混ぜ続けた。


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