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番外編|上野を歩いていたら、『深夜特急』を思い出した。

上野のアメ横を歩いた。

焼けた肉の匂い。

呼び込みの声。

人の熱気。

少し前まで静かな場所を歩いていたのに、
上野へ入った瞬間、
空気の密度が一気に変わった。

数十年前に訪れた、
アジアのマーケットを少し思い出した。

雑多な看板。

混ざり合う匂い。

人のエネルギー。

昔の自分なら、
ああいう空気にもっと興奮していたと思う。

でも今は、
少しだけ”圧”を感じた。

嫌ではない。

ただ、
受け止めるのに少し体力がいる。

上野へ入った瞬間、空気の密度が変わった。

そんなことを考えていたら、
ふと一冊の本が頭に浮かんだ。

昔は、この本を読めばどこへでも行ける気がしていた。

昔は、この一冊が世界への切符だった。

最近また読み返している。

『深夜特急』

沢木耕太郎。

昔、
自分もこの本に影響を受けた。

当時は、
バックパッカーという言葉そのものに、
少し憧れがあった。

自分も少しだけ、
バックパッカーを齧った。

タイ。

カンボジア。

ベトナム。

安いバスに揺られ、
陸路で国を越えた。

エアコンの弱い宿。

ぬるいビール。
衛生面がギャンブルみたいな屋台飯。

腹を壊したこともある。

でも、
“知らない街にいる”
それだけで面白かった。

街に溶け込みたかった頃

マーケットで飯を食い、
汗をかきながらビールを飲み、
少しでも街に溶け込んでみたかった。

今思えば、
全然溶け込めていなかった気もする。

でも、
あの頃は本気だった。

いろんな旅人とも出会った。

日本人。

欧米人。

何をしているのかわからない人。

数日だけ一緒に行動して、
別の街で自然に別れた。

今思うと、
名前すら曖昧な人も多い。

でも、
あの頃はそれでよかった。

SNSがなかった時代

ボロボロになっても、捨てられなかった。

昔は、
今みたいにSNSはなかった。

旅先で出会った人とは、
紙のアドレス帳で連絡先を交換していた。

メールアドレスを書く人もいれば、
実家の住所を書く人もいた。

ページが少しずつ埋まっていく。

それが妙に嬉しかった。

帰国してから、
手紙を書いたこともある。

返事が来るまで時間がかかった。

でも、
その時間も嫌いじゃなかった。

今、
その人たちと繋がっているかと言われれば、
ほとんど繋がっていない。

名前も、
顔も、
曖昧になっている。

それでも、
当時の写真や、
このボロボロのアドレス帳だけは、
なぜか今でも捨てられない。

たぶん、
あの頃の自分が、
まだ少し残っているからだと思う。

今も歩き続ける理由

今思うと、
あの頃のバックパッカー生活が、
今の旅好きの原点だった気がする。

遠くの国じゃなくてもいい。

知らない街を歩いて、
知らない空気を吸う。

それだけで、
少し自分が動き出す感覚がある。

ただ、
昔は良かったとは思わない。

今は今で便利だし、
SNSのおかげで見られる景色も増えた。

でも、
便利になった分だけ、
歩かなくても満足できる時代になった気もする。

だから最近、
また歩いている。
山手線沿いを歩いているのも、
たぶん同じ理由だ。

遠くへ行きたいわけじゃない。
少し知らない空気を吸いたい。

少しだけ、
自分を動かしたい。

昔を懐かしむためじゃなく、
まだ前に進みたい。

だから、
たぶん自分は、
これからも歩き続けるんだと思う。

あの日、上野で思い出した一冊

『深夜特急』は、
自分に旅を教えてくれた一冊だった。

そして今は、
旅をする代わりに街を歩いている。

歩く場所は変わっても、
歩く理由は、
あの頃とあまり変わっていないのかもしれない。

もし最近、
少しだけ知らない街を歩いてみたいと思ったなら。

この一冊は、
そんな気持ちを思い出させてくれるかもしれない。

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