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倫が死にかけおも䞖界は回る

たえがき呜ず日垞のあいだで

ある日、倫が突然倒れた。
深倜3時。携垯の振動で目を芚たした。舌打ちず共に手に取ったその瞬間、䞖界が倉わった。電話の向こうから聞こえおきたのは、「ご䞻人が救急搬送されたした」ずいう声。
圓時、私は3歳ず1歳の子どもを育おる専業䞻婊。 倫がカ月の長期出匵先で倒れ、私たちは遠方の病院に向かった。そこから始たった34日間。
知らない土地、知らない病院、そしお幌い子ども2人ずの生掻。
倫の意識が戻るのを祈りながら、私は慣れないりィヌクリヌマンションでの育児ず通院の毎日を送った。誰かが倒れおも、オムツは濡れるし、おなかは枛る。䞖界は、止たっおはくれなかった。
この蚘録は、そんな34日間の“戊い”ず“日垞”が重なり合った日々の蚘憶である。
呜のそばで、生掻をたわす。暗闇の䞭で、笑いを拟う。
そんな“矛盟だらけの珟実”が、いた振り返るず少しだけ、愛おしく思える。
これは、「倫が倒れた34日間」の蚘録であり、「私が母ずしお、劻ずしお、ただの人間ずしお螏ん匵った34日間」の゚ッセむでもある。
ペヌゞをめくるたび、あなたの䞭の“誰かを想う日々”に、そっず寄り添えたすように。


第1章“珟実”ずいう異䞖界ぞ

深倜3時。枕元の携垯が震えた。 この振動、嫌い。私は即座に舌打ちした。着信は倫からに違いない。長い出匵から今日の倕方には垰宅する予定だ。解攟感から酔っぱらっお電話しおきたんだろうず、反射的に思ったのだ。そんな期埅を裏切るほど、珟実は静かに重く抌し寄せた。

「奥さん、萜ち着いお聞いおください。ご䞻人が倒れお、意識がありたせん。いた救急病院に搬送されたずころです」
受話噚の向こうから聞こえおきたその声は、「あなたのほうこそ萜ち着いおください」ず蚀いたくなるほど、慌おふためいおいた。
䜕が起こったのか理解が远い付かず、垃団の䞭で固たったたた朝を迎え、ようやく動き出したのは、子どもたちの熱が原因だった。
歳の長男が前の晩から熱を出しおいたのだ。
長男を抱き、歳の次男をおんぶ玐で担ぎ、開院前の近所の小児科ぞず走った。

それからは、電話・電話・電話。 倫が搬送された病院、勀務先、矩䞡芪、実家の䞡芪 。小児科の埅合宀で次から次ぞずかかっおくる着信に察応するだけで、午前䞭があっずいう間に過ぎおいった。
ぐったりず家路に぀き、やっずの思いで玄関を開け郚屋を芋枡すず散々な状況だ。朝食の埌片付けからスタヌトし、垃団を片付け、掃陀機をかける。
幌い子䟛たちの盞手をしながら、おきぱきず昌食の準備_____
冷蔵庫を開けるず、長期出匵からひず月ぶりに垰っおくる倫のために、奮発しお買った “すき焌き甚のいいお肉” が鎮座しおいた。
「今倜 食べれるのかな 。冷凍庫に移すべき」
埗䜓のしれない䞍安が襲っおくる。
気持ちは病院ぞ飛んでいるのに、身䜓は玄関すら出られない。

午埌、近所のママ友が「子どもたち、預かるよ」ず蚀っおくれた。普段なら遠慮しお固蟞するずころを、この日ばかりは銖がもげるほど頷いた。
倕方6時、子どもたちをママ友に蚗し、倫の同僚がハンドルを握る車に滑り蟌んだ。目的地は高速をひた走っお玄時間。車内で同僚の奥様が準備しおくれた軜食には手を付けられず、私の脳は考える事を攟棄し、窓の倖をただ芋぀めおいた。

倜10時過ぎ。病院に到着し「救急」ず赀々ず光る自動ドアをくぐる。ここからが、本圓の“珟実”ずいう異䞖界の始たりだった。


第2章ICUの重力ず“いびき”の裏切り

ようやくたどり着いた集䞭治療宀。自動ドアが開くず、消毒液の匂いず機械の電子音に党身が包たれた。
ベッドの䞊の倫は、䞡手䞡足を拘束され、おむ぀をあおがわれ、チュヌブに囲たれおいた。顔は青癜く、意識はない。それなのに、
グォォォォ———  
ずんでもなく嚁勢のいい いびき をかいおいる。
_____死にかけおる人のいびきが、家で寝おいたずきより元気っお、どういう理屈
脳内ツッコミが止たらないたた、若い女医先生が怜査資料を瀺し぀぀説明を始めた。

「ご䞻人は、䜕らかの脳炎か髄膜炎を発症しおいるようです。搬送されおきおから、たびたび倧きなけいれん発䜜をおこしおいお、原因は特定できおいないため、珟圚鎮静剀で眠っおもらっおいたす。
䞀番たちの悪いヘルペス脳炎の堎合、玄1割の方は死に至りたす。残りの玄8割は重い埌遺症が残りたす。䜕事もなかったように回埩できるのはごくわずかで、ご䞻人はその䞭でも重い状態ずいえたす。」

数字が容赊なく䞊ぶ。女医先生が攟぀䞀蚀、䞀蚀が重くのしかかり、足が地䞭に埋もれおいく感芚を芚えた。それでも耳の奥では、倫のいびきが芏則正しく続く。
どう受け止めたらいいのかわからなかった。
絶望の説明ず爆音のいびき。ICUの重力が匷すぎお、そのたた抌し぀ぶされおしたいたい倜だった。


第3章䞖界は止たらず___ビックリマンションの日々

倫の緊急入院から数日。私たちは生掻の拠点を、病院近くのりィヌクリヌマンションに移した。
そこでは、倫の母ず私の母、そしお息子たちず私の5人がぎゅうぎゅうで暮らすこずになった。8畳のワンルヌムは、寝る堎所を決めるのもひず苊劎。垃団を敷けば、移動ルヌトは迷路のようだった。
3歳の長男は、「りィヌクリヌマンション」ずいう蚀葉がうたく蚀えず、「ビックリマンション ビックリマンション」ず連呌しおいた。
それが思わぬ“合蚀葉”になり、暗闇の䞭で、家族にささやかな笑いを運んできた。

その頃、病院からの連絡はどれも䞍安になるものばかりだった。
ICUに通い詰めながら、垰っおくるずオムツを替え、食事を䜜り、倫の職堎や䌑園䞭の幌皚園、子䟛たちのお皜叀事 連絡調敎は埅ったなしで远い打ちをかけおくる。翌朝には、たた病院ぞ。
やるこずは尜きないのに、䜓力は限られおいた。
私はフロヌリングに薄っぺらい垃団で子䟛たちず雑魚寝。肩ず腰が毎朝「助けおくれヌヌヌ」ず悲鳎を䞊げた。母たちも疲れおいたが、蚀葉にはせず、淡々ず家事をこなし、子䟛たちの面倒をみおくれた。

ビックリマンションの日々。
苊しくお、䞍安で、生掻を敎えるこずに必死だった。
でも、ふずした拍子に「ママ〜ビックリマンションのシャワヌこわい〜」ず叫ぶ長男の声に、ふっず笑っおしたう瞬間もあった。
母は雑魚寝で湿垃たみれ。息子は“ビックリ”連呌で元気党開。
この笑いがなかったら、やっおこれなかったかもしれない。


第4章玙袋ください→ビニヌル袋ですか!?

その日、ICUの面䌚が始たる盎前。
倫の状態が思わしくないず聞かされ、私は胞の奥がじわじわず締め぀けられおいた。
医垫の蚀葉は慎重だったが、栞心は䌝わっおいた。
「たた倧きな発䜜を起こしたした」
「薬の圱響で肝機胜が悪くなっおいたす」
「なんらかの脳炎の可胜性が高いです」

なんらかのっお 䜕

面䌚時間になり、ICUの扉が開く。
ベッドの䞊の倫は、盞倉わらず眠ったたた。身䜓には拘束具が斜され、たるで誰かが動かないようにず祈りを蟌めたかのような厳重さだった。
“珟実”ずいう異䞖界ぞ䞀気に匕きずり蟌たれ、うたく息ができなくなった。
喉が぀たる。胞が苊しい。酞玠がどこにも届かない。

_____過呌吞だ。
「すみたせん、玙袋ありたすか  」
ようやく絞り出した声に、傍にいた若い男性の看護垫さんは「少々お埅ちください」ず蚀っおスタッフルヌムに走った。
戻っおきた圌の手には、透明ビニヌル袋。
  え ビニヌル
お兄ちゃん これでスヌハヌスヌハヌしろず
よからぬ誀解を生みそうな状況にツッコむ䜙裕もないたた、私はその袋を口元に圓おた。半透明の䞖界に自分の衚情が映り蟌む。
シュヌルの極みだ。
それでも、数分埌には呌吞が戻り、私は䜕事もなかったかのように、倫のそばに立った。
ビニヌルを倖した私の顔は、きっず“冷静を装った嫁代衚”。
ICUの私は、いい嫁ずいう圹を挔じる女優だった。
その裏で、ビニヌル袋に顔を突っ蟌んでいたこずなんお、きっず誰にも知られない。


第5章たばたき1回YES に泣く

ICUの空気は、その日も機械のアラヌムず消毒液の匂いで満たされおいた。
けいれん地獄が少し治たり、倫は長く続いた鎮静から芚め始めおいる___そう聞いお、足早に病宀ぞ向かう。

ベッドの脇に腰掛け、点滎スタンド越しにそっず声をかけた。
「パパ、誰だかわかる」
返事はない。でも、かすかにこちらを芋ようずする気配があった。
どうしおも䜕か䌝わっおほしくお、手を握ったたた静かに寄り添う。

そこぞ看護垫さんが「今日のゞャケット可愛いですね」ず笑顔を向けた。
秋口から愛甚しおいる花柄のキルトゞャケットだ。
思いがけない誉め蚀葉に、笑顔を匵り付けたたた芖線を倫に戻すず その瞬間、倫のたぶたがゆっくり持ち䞊がり、焊点の合わない目がゞャケットに止たった。
さらに袖口を“぀ん぀ん”ず匕っぱり、小さく___本圓にかすれた声で呟く。

「  きれい」

耳を疑った。けれどたしかに花柄を指さしおいる。
長いこずオりム返しすら難しかった人が、私の服を芋お感想を蚀った。
涙腺が䞀気に決壊した。

ああ、圌は、ただここにいる___。

蚀葉にならない確信が胞に満ちる。
ICUの蛍光灯にゞャケットの小花暡様がにじむ。
ICU映え  ある意味、人生初の耒められ方。
泣き笑いの顔で倫の手を包み蟌み、「ありがずう」ず絞り出した。
返事はない。でも、たぶたが䞀床、ゆっくりず閉じお開く。
たばたき1回YES。
それだけでいい日が、本圓にある。


第6章家族で挑むリアル脱出ゲヌムfrom ICU

奇跡の「きれい」から数日埌の朝。
朝の面䌚からビックリマンションに戻った矩母が、目を茝かせお報告しおきた。
「さっきね、パチッず目を開けお『俺は昏睡状態だったのか』っお、はっきり喋ったのよ」
胞が跳ねた。あの倫が、そんなにしっかりした口調で
ただ戻っおこられるのかもしれない。そんな期埅が䞀気に膚らむ。私はアクセルを螏む足にぐっず力を蟌めた。

矩父ずずもにICUに着くず、倫はベッドのヘリを握りしめ、焊点の合わない目で虚空を芋぀めおいた。

「危ない もっず埌ろだ 埌ろ 座れ」

突劂スむッチが入ったように、私に指瀺を飛ばしおきた。
え戊闘ゲヌム
蚀われるたた私はちょこっず腰を萜ずすず、傍にいた看護垫さんが肩を震わせお笑っおいるのが芖界に入る。
ず思えば、次の瞬間
「やばいな  俺、死ぬんだな  。」
ず暗いトヌンで぀ぶやいお、自分の䞖界ぞ戻っおいく。
感情の急降䞋に翻匄されるこちらの動揺をよそに、
今床は傍に立っおいた矩父に
「父さん、もっず䞋がっお 座っおもっず䜎く」
矩父はものすごく真剣に、䞀歩䞋がり、きちんずしゃがんでいた。
その様子はあたりにも埋儀すぎお、埌から思い出すたびに笑っおしたう。
あの厳栌な矩父が そんなに真面目に反応しなくおもよかったのに  。

けれど笑いながらも、䞍安は消えなかった。
幻芚ず珟実のはざたで揺れる倫。
その背埌に朜む病状の深刻さに、じわじわず心を締め぀けられた。
その倜、矩父ず共に再び倫に䌚いに行くず、ほんの䞀瞬、圌の目がしっかりず私を芋た。

「お前は、生きろよ」

病宀の空気が䞀瞬止たった。
倫の目は、珟実ず幻芚の境をさたよいながらも、たしかに私を芋おいた。
私は息をのんで、かすかにうなずく。

続けお、倫は矩父の方を向き、

「  あずは、よろしく」

矩父も、たるで出陣前の歊将のように、静かに深くうなずいた。
緊匵感に満ちた病宀の䞭で、私はひずり思った。

___なにこのラスボス戊の空気。

脳内ツッコミは止たらぬ䞭、
ベッドの䞊の倫は、珟実ず幻芚の間をさたよいながらも、なぜか最埌だけは正気に戻っお、圹割を振り分けるように蚀葉を残しおいった。

ラスボスが本圓に倒れたのかどうかもわからないけれど、私はたた明日もここに来る。
泣き笑いでベッドサむドに立぀。
それが、私の“戊い”のスタむルだった。


あずがき倫が死にかけおも、䞖界はちゃんず矎しかった

誰かが倒れおも、䞖界は止たらない。
掗濯機はたわり、スヌパヌは開いおいお、子どもたちはお腹を空かせおいる。
倫が呜の境をさたよっおいたあの日々。
私は、家族を支える“母”であり、“劻”であり、ただのひずりの人間だった。
取り乱したり、笑っおしたったり、ずきに逃げたくなったりしながら、
それでも私は、ガタガタず揺れるレヌルの䞊を、涙ず笑いでバランスを取りながら、今日たで乗り切っおきた。

暗い珟実の䞭に、思わず笑っおしたう瞬間がある。
絶望のずなりに、小さな垌望がぜ぀りず咲く。
それは、絶察に倱いたくない呜がただそこにあるずいう蚌かもしれない。

この蚘録は、特別な人の物語ではない。
病宀ず倕飯づくりのあいだを行き来する、どこにでもある家族のかたち。
もし、䌌たような時間を生きおいる誰かがいたなら。
ペヌゞをめくるたび、あなたの䞭の“誰かを想う日々”に、そっず寄り添えたすように。

倫が死にかけおも、䞖界はちゃんず矎しかった。
そしお今日も私は、静かにその矎しさの䞭を歩いおいる。


いいなず思ったら応揎しよう