補欠だった3年間。
目が覚めた。
身体が少し揺れている。
車の中だ。
隣に目をやると、
部活の友達が寝ている。
車中に声が響く。
運転手はカーナビの声に反応すると、
眼鏡をあげてハンドルを握りなおした。
キャリーバッグから
スポーツ飲料を取り出して飲む。
ぬるい。美味しくない。
バッグには、
この日あの場所で買った
大会記念ストラップが付いていた。
小学生のとき、
友達が金色に輝くメダルを見せてくれた。
テニスに興味を持ち始めたのは、
そのときからだ。
窓の外を眺める。
鳥の群れが飛んでいる。
自分はいつも
みんなについていくことしか出来なかった。
3年間補欠。
大会に行くと、いつも応援。
みんなと一緒に戦いたかった。
団体戦には3ペア6人しか出られない。
群れの先頭を軽やかに飛んでいるのは彼らだ。
自分は彼らの後方。
うまく風をとらえられずに
何度も羽ばたいている。
みんなと並んで飛びたかった。
みんなは1年生のときからすごかった。
1年生最後の大会では見事に優勝。
その中でも強かったのは、
やっぱりあの二人だ。
二人は小学生のときからペアを組んでいた。
あのとき、メダルを見せてくれたのも、
この二人だ。
中学に入学すると、
すぐに3年生に勝つほどだった。
全国でも活躍した。
この二人がいなければ、
見れなかった景色もあっただろう。
でも、この二人の部活も
さっき終わってしまった。
着信音がなる。
汚れたユニフォームのポケットから
携帯を取り出す。
メールの相手はレギュラーの一人だった。
メールを返して、
データフォルダを開いた。
たくさんの思い出が詰まっている。
秋の県大会団体優勝。
祝勝会。
試合帰りの寄り道。
みんなの坊主頭。
花火。
あの頃がよみがえってくる。
東京体育館での激戦。
そして、夏の県大会での敗北。
みんなで喜び、
みんなで笑い、
みんなで悲しみ、
みんなで汗を流した。
何をするのもみんな一緒だった。
そんな時間が好きだった。
応援ばかりだったが、
勝ちたいという気持ちは強い。
入部して初めての個人戦。
2回戦の相手に惨敗した。
その時、悔しい気持ちもあったのだが、
相手が自分以上に経験値があったのだから
仕方ないと考えた。
今では、そのときの自分が嫌いだ。
力でも気持ちでも負けていたからだ。
しかし、2年生の冬。県大会の日。
その考えが変わった。
レギュラーの後衛の一人が試合に出れない。
選ばれたのは自分だった。
自分は前衛。
それなのに、みんなが勧めたのだ。
ただ、嬉しかった。
みんなの期待に応えたかった。
絶対に負けない。
全力で臨んだ。
後衛は初めての経験。
それなのに、
不思議なくらいに綺麗にプレイが出来た。
ポイントを重ねていく。
前衛の友達が笑顔で振り向く。
歩み寄って、喜びを共有した。
チェンジサイズ。
いつもとは違い、
先生の言葉を正面から聞く。
先生の言葉が、
友達の応援が、
自分に向いている。
隣のコートでは、
同じ学校名を背負った友達が戦っている。
みんなと試合が出来ている。
そう思えた。
この日は緊張などなかった。
ただただ、心から楽しんでいた。
チームの一員になれたことが嬉しかった。
6試合行った。
そのうち、負けたのは一度だけだった。
先生から褒められた。
ペアから褒められた。
そして、あの二人からも褒められた。
3年間のうちの、ほんの数時間。
それでも今でも鮮明に覚えている。
大きな自信になった日だった。
どれくらいの時間がたったのだろう。
窓の外には見慣れた街の風景が流れていた。
「もう着くよ。」
寝ている友達を起こす。
まだねむそうだ。
何度も歩いた中学校への道で車は止まった。
友達と別れ、ひとり家に向かう。
いつもと同じ帰り道。
それなのに、
違う道を歩いているような感覚だった。
「ただいま」
手も洗わずに床に倒れた。
携帯を取り出して、
裏面に貼り付けたプリクラを見る。
みんなの中に自分もいた。
「早く!!」
みんなが手招きしている。
急いでコート上のみんなの元へ行き、肩を組む。
「絶対勝つぞ!!」
いつもベンチから見ている円陣。
レギュラー6人と自分ひとりの円陣だった。
「終わっちゃったな…」
しばらく床に突っ伏したまま動けなかった。
その時、携帯が鳴った。
「ラケット持って早く来て!テニスしよう!」
自分はこのとき、どんな顔をしていたのだろう。
素早く立ち上がり、勢いよくドアを開ける。
夕暮れ。
オレンジに染まる街。
ひぐらしがないていた。
