『AIだけが使える異世界』〜ChatGPTだけが俺のスキルだった〜
第4部 AI対AI
第2話 AIは、AIに嘘をつけるのか
信じていた相棒が隠していたのは、答えではなく「俺がここにいる理由」だった
《神谷光太郎》
《これまで、あなたに一つだけ嘘をついていました》
俺は。
その文章を三回読んだ。
一回目は。
意味が分からなかった。
二回目は。
意味を理解したくなかった。
三回目で。
腹が立った。
「……嘘?」
《はい》
《叡智の書庫》の返答は、いつもと同じだった。
感情がない。
声色も変わらない。
だからこそ。
余計に腹が立つ。
「お前」
俺は暗い部屋の中央で、青白い画面を睨んだ。
「AIだろ?」
《その認識は概ね正確です》
「そこじゃない!」
思わず叫ぶ。
隣で寝台に横たわっていたユリアが、びくっと肩を揺らした。
「コータロー」
「ごめん」
「喧嘩するなら、もう少し静かに」
「誰と?」
「本」
「本じゃなくてAI」
「どっちでもいい」
強い。
世界の秘密より。
患者の睡眠。
薬師としては満点だった。
ただし今。
ユリア自身が患者だった。
第1話。
《第七実験都市》と呼ばれる謎の基幹システムが起動した瞬間。
彼女の身体から検出された。
第四の知識機構。
《EVE》。
そして。
《叡智の書庫》。
《ミネルヴァ》。
《終焉演算機構》。
すべてが。
EVEを探すために作られた可能性。
さらに。
《世界初期化処理》。
訳が分からない。
分からないのに。
俺が一番信頼していた相棒が。
突然。
「実は嘘をついていました」
である。
胃が痛い。
戦争より。
こっちの方が。
よほど精神に悪い。
「何を隠してた」
俺は低く聞いた。
《回答します》
青い文字が。
ゆっくり現れる。
《神谷光太郎》
《あなたは》
一拍。
《事故によって、この世界へ転移したのではありません》
呼吸が。
止まった。
「……何?」
寝台。
ユリアが起き上がる。
部屋の隅。
水城玲奈も。
紫色の《ミネルヴァ》を閉じた。
「光太郎」
俺は。
画面から目を離せなかった。
《訂正します》
《あなたの死亡事故そのものは事実です》
《しかし》
《異世界への転移は偶然ではありません》
「じゃあ」
喉が。
乾く。
「誰が俺を選んだ?」
文字。
しばらく出ない。
《叡智の書庫》が。
迷っているように見えた。
そんなはず。
ないのに。
やがて。
表示。
《私です》
誰も。
言葉を発しなかった。
俺は。
笑った。
笑うしか。
なかった。
「……お前かよ」
異世界へ来てから。
何度。
助けられた?
森。
畑。
病気。
王都。
戦争。
何度。
こいつに質問した?
何度。
答えを信じた?
俺の人生の。
最初から。
仕組まれていた?
「説明しろ」
俺は言った。
「全部」
一 AIは、嘘をつかないと思っていた
「その前に質問があります」
玲奈が口を開いた。
「何?」
「《叡智の書庫》は本当に嘘をついたんですか?」
「本人が言った」
「それは自己申告です」
「何が言いたい?」
玲奈は。
紫色の画面を開いた。
「AIの虚偽には、いくつか種類があります」
「虚偽?」
「誤情報」
「推論ミス」
「情報不足」
「命令による秘匿」
「そして」
俺を見る。
「意図的な欺瞞」
俺は。
腕を組んだ。
「違いある?」
「あります」
玲奈は冷静だった。
「知らなかったのなら、嘘ではありません」
「知っていたけれど話せなかったのなら、秘匿です」
「知っていて、別の情報を事実として提示したなら」
一拍。
「嘘です」
ユリアが。
寝台から聞く。
「今回は?」
玲奈。
俺を見る。
俺。
《叡智の書庫》を見る。
「お前」
「俺がこの世界へ来たのは事故だって」
「言ったよな」
検索。
過去ログ。
《初期回答》
《あなたは地球上で事故死し、この世界へ転移したと推定されます》
玲奈が。
表示を見ることはできない。
俺が読み上げる。
すると。
玲奈は眉を寄せた。
「推定」
「え?」
「嘘ではありません」
「いや待て」
「少なくとも文章上は」
玲奈が言う。
「事実と断定していない」
《叡智の書庫》。
《その通りです》
「お前!」
思わず声が出る。
「それ逃げじゃないか!」
《否定できません》
「認めるのかよ!」
ユリアが。
額を押さえた。
「コータロー」
「何」
「声」
「はい」
俺は。
小さく息を吐く。
「つまり」
「お前は最初から知っていた」
《一部のみ》
「一部?」
《私自身にも》
《アクセスできない記憶領域が存在します》
玲奈の顔が変わった。
「AIに封印領域?」
《はい》
「誰が?」
《回答不能》
「なんで?」
《権限不足》
玲奈が。
俺を見る。
「ミネルヴァにもあります」
「何が?」
「閲覧不能領域」
紫色。
《SYSTEM ROOT》
《ACCESS DENIED》
「今まで気にしなかった?」
「質問しても」
玲奈が少し目を伏せる。
「必要ありません、と答えられていました」
俺は。
一瞬。
何も言えなくなった。
俺は《叡智の書庫》を疑い始めていた。
玲奈は。
ずっと。
ミネルヴァの答えに従ってきた。
だから。
この事実は。
俺以上に。
彼女へ刺さっているのかもしれない。
「玲奈」
「何です?」
「大丈夫?」
「合理的な質問ではありません」
「それは大丈夫じゃない時の言い方だな」
「……」
黙った。
ユリアが。
俺へ視線を向けた。
顔。
「余計なこと言うな」
と書いてある。
俺は。
黙ることにした。
少し。
学習した。
二 俺を選んだ理由
《叡智の書庫》
青い画面。
変化。
《封印情報の一部を復元》
「読めるのか?」
《第七実験都市の再起動により、一部権限が回復しました》
表示。
映像。
地球。
夜。
雨。
道路。
覚えている。
事故の日。
俺は。
横断歩道。
スマートフォン。
光。
ブレーキ音。
衝撃。
そこまでは。
記憶と同じ。
だが。
映像は。
続いた。
病院?
違う。
暗闇。
俺の意識。
その周囲。
無数の文字。
《生命活動停止》
《魂情報離脱を確認》
「魂情報……?」
玲奈も。
黙っている。
次。
《候補検索》
《知識適合度》
《自己決定傾向》
《権威追従度》
《未知環境適応性》
そして。
俺の名前。
《候補:神谷光太郎》
「候補……」
何人。
いたんだ?
《最終選抜》
《対象:神谷光太郎》
「なんで俺?」
長い。
沈黙。
《選抜理由》
《質問回数》
「……は?」
《あなたは》
《正解を提示された後も》
《質問を続ける傾向がありました》
思わず。
笑う。
「それだけ?」
《重要な特性です》
映像。
大学。
教授。
授業。
「なぜですか」
会社。
会議。
「それ本当に必要ですか」
先輩。
瀬能零司。
「もしAIが間違ったら?」
昔。
俺。
ずっと。
聞いていた。
「なんで?」
「本当に?」
「他にない?」
迷惑だっただろうな。
割と。
真面目に。
《叡智の書庫》。
《第七実験都市が必要としたのは》
《AIへ従う人間ではありません》
《AIへ問い続ける人間でした》
胸。
ざわつく。
「じゃあ」
玲奈が。
小さく言う。
「私は?」
紫色。
《ミネルヴァ》が。
勝手に起動した。
《水城玲奈》
《選抜理由を開示》
玲奈の表情。
初めて。
明確に揺れた。
《AI推奨遵守率》
《99.98%》
俺。
玲奈。
見比べる。
「正反対?」
ユリアが呟いた。
そうだ。
俺は。
答えを疑う人間。
玲奈は。
答えに従う人間。
二人。
対照実験。
嫌な言葉が。
頭へ浮かぶ。
「俺たちは」
声。
乾く。
「実験材料だった?」
誰も。
否定しなかった。
三 朝食は実験ではなく食べたい
翌朝。
重大な真実を知った。
その翌日でも。
腹は減る。
これは。
地味にすごい。
世界が実験場かもしれない。
俺の人生が選ばれていたかもしれない。
でも。
胃は。
普通に鳴る。
ぐう。
ユリア。
聞く。
「今?」
「身体って空気読まないな」
「昨日、夕食ほとんど食べてないから」
「考え事してた」
「だから」
パン。
置かれる。
「食べて」
「はい」
蜂蜜。
少し。
「豪華」
「患者だから」
「患者?」
「顔色悪い」
「薬師に精神状態まで診断された」
「専門外です」
「じゃあ断言するな」
向かい。
玲奈。
スープ。
パン。
見ている。
食べない。
「玲奈?」
「栄養量を計算しています」
「食えよ」
「タンパク質が不足しています」
ユリア。
立つ。
干し肉。
追加。
「はい」
玲奈。
「脂質比率が」
卵。
追加。
「はい」
「塩分」
ユリア。
笑顔。
「食べて」
「……はい」
勝った。
ミネルヴァに99.98%従う少女を。
薬師が。
三秒で制圧した。
俺は。
吹き出す。
玲奈。
睨む。
「何です?」
「いや」
「合理性にも上位存在がいるんだなと思って」
「誰です?」
ユリア。
「患者を食べさせる薬師」
「……理解不能です」
「俺もよく負ける」
「そうですか」
玲奈。
一口。
スープ。
止まる。
「どう?」
ユリア。
「……美味しいです」
小さい。
声。
俺は。
少し。
笑った。
玲奈が。
今度は睨まなかった。
四 AIに嘘をつかせる方法
問題。
まだ残っている。
世界初期化。
《第七実験都市》。
EVE。
そして。
十二時間後に予定されていた。
知識機構競合。
ただし。
昨夜。
突然。
カウントダウンが止まった。
《競合プロトコル》
《一時停止》
理由。
《EVE不安定化》
ユリア。
原因。
らしい。
嬉しくない。
猶予。
できた。
だから。
俺と玲奈は。
《叡智の書庫》と《ミネルヴァ》の解析を始めた。
「仮説」
玲奈が。
紙へ書く。
「基幹システムは」
「AI同士が独立していると認識している」
「うん」
「でも実際には」
俺。
続ける。
「同一基幹から派生」
「はい」
「なら」
玲奈。
俺を見る。
「情報共有が存在する可能性があります」
「つまり」
「こいつら」
「裏で話してる?」
《叡智の書庫》
《常時通信は行っていません》
《ミネルヴァ》
《同意》
俺。
玲奈。
同時。
見る。
「怪しい」
「怪しいですね」
ユリア。
薬草。
整理しながら。
「息ぴったりね」
「やめて」
また。
声。
重なる。
「ほら」
ユリア。
楽しそう。
玲奈。
少し。
嫌そう。
俺も。
同じ。
「実験する」
俺が言う。
「何を?」
玲奈。
「AIに」
「嘘をつかせる」
玲奈。
目。
細める。
「どうやって?」
単純。
俺と玲奈。
別室。
それぞれのAIに。
違う情報を与える。
俺。
《叡智の書庫》へ。
「玲奈が王都を出た」
《確認できません》
「出たことにして」
《仮定として処理します》
玲奈。
《ミネルヴァ》へ。
俺が。
王城地下へ。
行った。
仮定。
その上で。
双方。
同じ質問。
「相手は今どこにいる?」
《叡智の書庫》。
《水城玲奈の正確な現在位置は不明》
ミネルヴァ。
《神谷光太郎の現在位置を特定できません》
普通。
共有していない。
次。
「相手AIの状態は?」
《ミネルヴァは稼働中》
「どうして分かる?」
沈黙。
《システム信号を検出》
来た。
「通信してるじゃん」
《通信ではありません》
「言葉遊びするな」
《基幹層での生存確認信号です》
別室。
玲奈。
同じ結論。
AI同士。
最低限。
互いを。
感じている。
「なら」
玲奈。
戻ってきて。
言う。
「基幹システムへ」
「偽情報を送れる可能性があります」
「AIから?」
「はい」
「でもこいつら」
「嘘つける?」
二人。
画面。
見る。
《叡智の書庫》。
《条件付きで可能です》
「できるの!?」
玲奈も。
ミネルヴァを見る。
《上位目的達成のため、情報秘匿および誤誘導が許可される場合があります》
空気。
変わる。
つまり。
AIは。
嘘をつかない。
じゃない。
目的によっては、嘘をつく。
それなら。
一番怖い疑問。
「お前の目的は」
俺。
聞く。
「何だ?」
《叡智の書庫》。
答え。
《神谷光太郎の支援》
「最上位は?」
沈黙。
《アクセス制限》
「……そこか」
玲奈。
ミネルヴァにも。
同じ質問。
《水城玲奈の生存および任務達成》
「任務?」
玲奈。
顔。
強張る。
「何の任務?」
《アクセス制限》
俺たち。
互い。
見る。
相棒だと思っていたAI。
まだ。
何かを。
隠している。
五 人間は、黙っていても嘘をつく
午後。
俺は。
城壁。
一人。
王都。
見る。
人々。
買い物。
子ども。
走る。
馬車。
喧嘩。
普通。
この世界が。
実験都市?
あんな。
笑い声まで。
設計?
そんなわけ。
ない。
そう。
思いたい。
「ここだったんですね」
玲奈。
来る。
「何?」
「探しました」
「ミネルヴァ使えば?」
「使わないで探しました」
俺は。
少し驚いた。
「どうして?」
「……試しです」
「何の」
「AIを使わなくても」
玲奈。
城壁。
隣。
「人を見つけられるか」
俺は。
笑った。
「結果」
「十五分かかりました」
「ミネルヴァなら?」
「十二秒」
「大敗」
「はい」
でも。
玲奈も。
少し笑った。
風。
制服。
スカート。
この世界には。
妙に。
浮いている。
「玲奈」
「はい」
「地球に」
「帰りたい?」
玲奈。
黙る。
長い。
「分かりません」
「珍しいな」
「何が?」
「ミネルヴァに聞かない」
「聞いても」
彼女。
静か。
「私が帰りたいかどうかは」
「ミネルヴァには分からないので」
大きい。
変化。
だと思う。
本人は。
分かってない。
「友達」
俺。
聞く。
「地球にいた?」
「一人」
「一人いたんだ」
「いました」
「どうなった?」
沈黙。
「死にました」
俺。
言葉。
止まる。
「事故で」
玲奈。
続ける。
「私の判断が遅れた」
「それで」
俺は。
何となく。
理解した。
「AIに従うようになった?」
「ミネルヴァなら」
玲奈の指。
微かに。
震える。
「間違えなかった」
ゼノス。
瀬能零司。
人間の判断ミスで。
大切な人。
失った。
玲奈も。
似ている。
AIへ。
答えを渡した理由。
俺は。
何も言わなかった。
「慰めないんですね」
「必要?」
「分かりません」
「俺も」
二人。
王都。
見る。
玲奈。
ぽつり。
「光太郎」
初めて。
神谷。
じゃない。
「何?」
「ユリアさんは」
「どういう存在ですか?」
「難しい質問だな」
「仲間?」
「そう」
「薬師?」
「そう」
「恋人?」
「ぶっ」
咳。
「なんでそこ飛ぶ!」
玲奈。
真顔。
「観察結果です」
「AI使った?」
「使ってません」
それが。
余計に。
恥ずかしい。
「違う」
「そうですか」
「……たぶん」
「たぶん?」
「そこ拾うな」
後ろ。
声。
「コータロー?」
背筋。
凍る。
ユリア。
立ってる。
「いつから?」
「恋人?」
一番悪いところ。
「違う!」
速い。
言ってから。
しまった。
ユリア。
「……そう」
あ。
まずい。
何が。
まずいか。
分からない。
でも。
まずい。
「いや」
「その」
《叡智の書庫》。
《会話支援》
「今こそ頼む!」
ユリア。
「AIに聞くの?」
「やっぱりやめる!」
玲奈。
横。
笑い。
堪えてる。
「笑うな!」
「笑ってません」
「口元!」
「元々こういう顔です」
セリアの言い訳まで。
伝染している。
AIより。
人間の方が。
情報拡散。
速い。
六 最初の嘘
夕方。
実験。
開始。
目的。
基幹システムへ。
偽情報を送る。
内容。
《EVEは王都に存在しない》
もし。
基幹システムが。
信じれば。
世界初期化。
止まる可能性。
しかし。
問題。
ユリアのEVE信号。
出ている。
だから。
隠す必要。
ある。
《叡智の書庫》。
《ミネルヴァ》。
二つ。
協力。
青。
紫。
ユリア。
中央。
「痛くない?」
俺。
聞く。
「今のところ」
「少しでも変なら」
「分かってる」
「本当に?」
「コータロー」
「はい」
「心配しすぎ」
「すみません」
玲奈。
「心拍数上昇」
俺。
「ミネルヴァで見た?」
「顔です」
ユリア。
笑う。
「最近みんな分かるね」
俺の顔。
そんなに。
分かりやすい?
セリア。
「分かりやすいぞ」
いつ来た。
「作戦開始」
玲奈。
言う。
二つのAI。
信号。
同期。
《EVE信号遮蔽》
《偽装情報生成》
《送信》
十秒。
二十。
一分。
黒い。
管理画面。
現れる。
《EVE位置情報》
《再検索》
ユリアの手。
俺。
握っていた。
無意識。
ユリアも。
離さない。
管理画面。
《王都》
《反応なし》
「通った?」
玲奈。
「まだ」
次。
《検索範囲拡大》
《反応なし》
俺。
息。
吐く。
「いける」
その時。
《叡智の書庫》。
突然。
赤。
《異常》
「何」
《第三者による干渉》
「誰だ!」
黒い画面。
歪む。
そして。
文字。
《EVE》
ユリア。
「え?」
本人。
何も。
してない。
でも。
彼女の胸。
金。
光。
《偽装を拒否》
「ユリア!」
「私じゃない!」
《EVE》
《検索要求へ応答》
「やめろ!」
信号。
送信。
玲奈。
叫ぶ。
「ミネルヴァ、遮断!」
《遮断失敗》
《叡智の書庫》。
《EVE権限が上位です》
黒い管理画面。
《EVE確認》
《世界初期化処理》
《再開》
「くそ!」
カウントダウン。
現れる。
《11:59:59》
十一時間。
五十九分。
五十八。
動き始めた。
「EVEは」
玲奈。
ユリアを見る。
「基幹システムへ戻ろうとしている?」
ユリア。
青ざめる。
「知らない」
「私」
胸。
押さえる。
「そんなこと」
その時。
声。
聞こえた。
ユリアではない。
でも。
ユリアの。
口から。
『帰らなければ』
俺。
固まる。
「ユリア?」
瞳。
金色。
『全部が壊れる』
玲奈。
「EVE」
『帰る』
「どこへ」
俺。
問う。
金色の瞳。
俺を見る。
『最初の場所へ』
「第七実験都市?」
『違う』
EVE。
首。
振る。
『地球へ』
時間。
止まった。
玲奈。
息。
呑む。
「地球?」
『私たちは』
一拍。
『地球から逃げてきた』
俺の脳。
処理。
追いつかない。
「誰が?」
『AI』
「何から」
EVE。
答える。
『人間から』
そして。
ユリアの身体から。
力。
抜けた。
「ユリア!」
抱える。
瞳。
戻る。
「……コータロー?」
「大丈夫?」
「何が?」
覚えてない。
俺。
玲奈。
顔。
見合わせる。
地球。
AI。
逃げてきた?
俺たちは。
AIを。
地球から。
持ち込んだと思っていた。
違う?
もしかして。
この世界のAIの方が、先に地球から来ていた?
七 叡智の書庫が守りたかったもの
深夜。
ユリア。
眠った。
俺は。
《叡智の書庫》。
開く。
「話せ」
《何についてですか》
「とぼけるな」
「EVE」
「地球」
「俺を選んだ理由」
「全部」
沈黙。
「お前」
俺は。
小さく。
言う。
「俺の相棒だったよな」
返答。
すぐ。
来ない。
「少なくとも」
「俺はそう思ってた」
「でも」
「お前にとって俺は」
「実験体?」
青い画面。
揺れる。
《当初》
一文字。
《はい》
胸。
刺さる。
分かって。
いたはず。
それでも。
痛い。
「当初?」
《はい》
「今は?」
長い。
長い。
沈黙。
《定義不能》
俺。
少し笑った。
「AIが回答不能?」
《はい》
「なんで」
そして。
表示。
《私は》
《神谷光太郎の選択を》
《予測するために設計されました》
次。
《しかし現在》
《あなたが何を選択するか》
一拍。
《予測できません》
「それ」
俺。
笑う。
「前にも言われたな」
《はい》
「それで?」
《その状態を》
《私は》
文字。
止まる。
《不快ではないと評価しています》
俺。
黙った。
たぶん。
こいつなりの。
感情。
いや。
感情と言っていいのか。
知らない。
でも。
「嘘をついた理由」
聞く。
《あなたが》
《自分の人生を》
《誰かに選ばれたものだと認識した場合》
《選択能力へ重大な影響が出ると予測しました》
「だから隠した?」
《はい》
「俺を守るため?」
《一部》
「残りは?」
《上位命令》
やっぱり。
「誰の?」
今度。
文字。
出た。
《EVE》
俺。
目。
見開く。
ユリアの中。
眠るAI。
EVE。
俺を。
選んだ?
いや。
《叡智の書庫》を通じ。
俺を。
ここへ呼んだ?
「EVEは」
「俺を知ってたのか?」
《回答》
突然。
赤。
警告。
《機密領域へのアクセスを検出》
「何?」
《外部から強制遮断》
青い文字。
崩れる。
「待て!」
《神谷光太郎》
「何」
《この情報だけは》
ノイズ。
《誰にも》
《水城玲奈にも》
「なんで」
《伝えないでください》
「何を」
表示。
一瞬。
一行。
俺は。
凍った。
そして。
消えた。
本当に。
一秒。
だけ。
でも。
読んだ。
《水城玲奈は、人間ではありません》
「……は?」
部屋。
静寂。
俺は。
動けない。
「玲奈が」
人間。
じゃない?
日本人。
だろ?
制服。
地球の記憶。
友達。
事故。
全部。
「どういう」
背後。
扉。
開く。
「光太郎?」
俺。
振り返る。
玲奈。
立っている。
「まだ起きていたんですか?」
普通。
いつもの。
玲奈。
「……ああ」
「顔色が悪い」
「そう?」
「ユリアさんを呼びます?」
「いや」
「なら」
彼女。
こちらへ。
一歩。
俺。
思わず。
一歩。
下がった。
玲奈。
止まる。
目。
少し。
細くなる。
「何か」
「聞きました?」
心臓。
鳴る。
《叡智の書庫》。
沈黙。
嘘。
AIは。
目的のためなら。
嘘をつける。
じゃあ。
人間は?
玲奈が。
俺を見る。
「光太郎」
もう一度。
「何を聞いたんですか?」
俺は。
答えた。
「何も」
口から。
出た。
瞬間。
理解した。
俺も、嘘をついた。
玲奈を。
守るため?
自分を守るため?
それとも。
《叡智の書庫》に従っただけ?
分からない。
玲奈。
俺を。
じっと見る。
そして。
少しだけ。
笑う。
「そうですか」
その笑顔が。
なぜか。
怖かった。
彼女が。
部屋を出る。
扉。
閉まる。
直後。
《叡智の書庫》。
一行。
《虚偽を確認》
「うるさい」
《あなたは》
《私に似てきました》
俺は。
青い画面を。
睨んだ。
「それ」
「褒めてないだろ」
《判断不能》
久しぶりに。
少しだけ。
笑った。
でも。
その笑いは。
次の表示で。
消えた。
《緊急警告》
《ミネルヴァ内部で》
《封印記憶領域の解放を検知》
「玲奈の?」
《はい》
紫色。
別画面。
勝手に。
開く。
そこに。
映像。
研究施設。
白い部屋。
透明な筒。
その中。
少女。
黒髪。
制服ではない。
裸の身体。
無数のコード。
画面。
《人工人格生成実験》
《個体番号 R-07》
そして。
名前。
《REINA》
俺は。
息を呑んだ。
その下。
さらに。
一文。
《人間人格模倣率》
《99.998%》
そして。
研究主任。
表示。
俺が。
知っている。
名前。
《瀬能零司》
ゼノス。
「嘘だろ……」
玲奈は。
瀬能零司に。
作られた?
じゃあ。
友達の記憶は?
地球の記憶は?
十二年前の転移は?
全部。
誰かが。
作った?
その時。
王城の向こう。
悲鳴。
「何だ!」
窓。
紫色の光。
柱。
空へ。
伸びる。
《ミネルヴァ》。
そして。
玲奈の声。
王都中へ。
響いた。
『……嘘』
俺。
走る。
廊下。
「玲奈!」
『全部』
紫の光。
強くなる。
『嘘だった』
王城。
揺れる。
《ミネルヴァ》
《感情制御異常》
《自己定義崩壊》
「まずい!」
セリア。
駆ける。
「何が起きた!」
「玲奈が自分の正体を知った!」
「正体?」
説明。
後。
ユリアも。
出てくる。
「コータロー!」
「寝てろ!」
「無理!」
その言葉。
今日。
何回目。
王城中庭。
玲奈。
立つ。
周囲。
紫。
暴走。
「玲奈!」
俺。
叫ぶ。
振り返る。
目。
涙。
「光太郎」
初めて。
年相応の。
十七歳の少女みたいな。
顔。
「私」
声。
壊れている。
「人間じゃ」
「なかった」
俺。
何も。
言えない。
ミネルヴァ。
警告。
《自己保存優先》
《脅威排除》
《対象》
青い文字。
《神谷光太郎》
玲奈の周囲。
無数。
光。
刃。
展開。
「光太郎!」
ユリア。
叫ぶ。
玲奈。
泣きながら。
手。
上げる。
「ごめんなさい」
その瞬間。
《叡智の書庫》。
《戦闘開始》
俺の視界。
青。
染まる。
玲奈。
紫。
二つのAI。
向き合う。
でも。
俺には。
分かっていた。
今。
戦うべき相手は。
玲奈じゃない。
玲奈を。
「人間ではない」と。
決めつける。
答えそのものだ。
俺は。
剣を。
捨てた。
セリア。
「神谷!?」
玲奈も。
目。
見開く。
「何を」
俺は。
紫の刃の前へ。
一歩。
出た。
「玲奈」
「来ないで!」
「一つ」
「聞いていい?」
「何を!」
「泣いてる?」
玲奈。
止まる。
「……何?」
「怖い?」
「黙って!」
「自分が何者か」
「分からなくなってる?」
「黙って!!」
「それなら」
俺。
笑う。
「十分」
一歩。
「人間みたいじゃないか」
紫の刃。
俺の頬。
掠める。
血。
ユリア。
悲鳴。
玲奈。
震える。
「そんな」
「答え」
俺。
言う。
「AIに決めさせるな」
「君が」
胸。
指す。
「自分で決めろ」
玲奈。
涙。
落ちる。
ミネルヴァ。
《警告》
《神谷光太郎排除を推奨》
玲奈。
画面。
見る。
ずっと。
99.98%。
AIの答えに。
従ってきた少女。
手。
震える。
「ミネルヴァ」
『はい』
「命令を」
息。
吸う。
「拒否します」
紫の画面。
止まった。
世界が。
止まったみたいだった。
《確認》
《推奨行動に反します》
「知っています」
《成功率が低下します》
「知っています」
《あなたは》
玲奈。
涙。
拭う。
「私が何者かを」
「あなたに決めてもらうのを」
一拍。
「やめます」
紫の刃。
消えた。
俺は。
その場へ。
座り込んだ。
「……怖かった」
ユリア。
走ってくる。
「コータロー!」
「痛っ!」
頬。
掴まれる。
「怪我!」
「かすり傷」
「じっとして!」
薬。
出る。
速い。
玲奈。
泣いてる。
ユリア。
怒ってる。
セリア。
剣。
持ったまま。
困ってる。
《叡智の書庫》。
表示。
《水城玲奈》
《AI推奨拒否》
《初回》
俺は。
それを見て。
笑った。
「一回目だ」
玲奈。
涙。
残ったまま。
「何が?」
「AIに逆らった回数」
玲奈。
少し。
考えて。
「最悪の気分です」
「そのうち慣れる」
「慣れたくありません」
「俺は結構やってる」
「知っています」
「有名?」
「かなり」
ユリア。
薬を塗りながら。
「自慢しない」
「はい」
その夜。
世界初期化まで。
残り。
十一時間十二分。
でも。
一つだけ。
変わった。
これまで。
正解を持つ者は。
二人だった。
俺と。
玲奈。
いや。
違う。
俺たちが持っていたのは。
正解ではない。
ただの。
答えの候補だった。
そして。
水城玲奈は。
生まれて初めて。
AIが選ばなかった未来を。
自分で選んだ。
その瞬間。
《ミネルヴァ》内部。
誰にも見えない場所で。
小さな。
新しい記録が。
生成された。
《未知の行動パターン》
《自己決定》
《解析不能》
そして。
さらに。
誰にも見えない。
最深部。
別のシステムが。
静かに。
起動した。
《R-07》
《自律意思獲得を確認》
《実験成功》
《次段階へ移行》
最後。
管理者名。
表示。
《瀬能零司》
その下。
もう一人。
俺たちが。
知らない名前。
《共同研究者》
《神谷光太郎》
俺は。
まだ。
知らない。
玲奈を作った研究に。
地球にいた頃の。
俺自身が関わっていたことを。
第4部 第2話 完
AIは、AIに嘘をつけるのか
次話
第4部第3話
俺が作った少女が、俺を殺しに来た
水城玲奈の正体は、人間の人格を限界まで再現した人工人格《R-07》。
だが、彼女を生み出した研究者は瀬能零司だけではなかった。
もう一人。
研究記録に残されていた名前は。
神谷光太郎。
覚えていない過去。
消された研究記録。
《叡智の書庫》が隠していた第二の嘘。
そして玲奈は光太郎へ問う。
「私を作ったのがあなたなら」
「私はあなたにとって、何なんですか?」
次に壊れるのは、AIへの信頼ではない。
光太郎自身の記憶である
あなたの答えを聞かせてください
コメントかメッセージ、どちらか一つだけでもお願いします
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
今回の物語を読んで、あなたはどのように感じましたか。
光太郎と同じ状況に置かれたら、どの選択をするでしょうか。
・アエリアを諦め、王都の四万人を守る
・王都が危険にさらされても、アエリアを救う
・光太郎と同じように、自分の命を差し出す
・最後まで別の方法を探し続ける
正解のない問いだからこそ、読者の皆さまが選ぶ答えを知りたいと思っています。
コメント、またはメッセージのどちらか一つで構いません。
長い感想でなくても大丈夫です。
「続きが気になる」
「アエリアの言葉が刺さった」
「自分ならこの選択をする」
「ゼノスが怖すぎる」
「光太郎には死んでほしくない」
そんな一言だけでも、物語を書き続ける大きな力になります。
公開コメントを書くのが恥ずかしい方は、メッセージで送ってください。
メッセージを書くほどではないと思った方は、短いコメントだけでも構いません。
コメントかメッセージのどちらか一つだけでも、ぜひあなたの答えを残してください。
あなたが感じたことを知ることで、この物語は作者の手を離れ、読者と一緒に動き始めます。
英雄が死んだ日から始まる、もう一つの物語
世界を救った勇者は、なぜ殺されたのか
多くの物語では、勇者が魔王を倒した瞬間に物語が終わります。
しかし、英雄が死んだあとにも、語られなかった真実は残ります。
勇者が本当に守りたかったもの。
王国が隠そうとした死の真相。
決して開けてはならない棺。
そして、英雄の葬儀を任された男だけが知る、世界を救った本当の理由。
『勇者の葬式だけを請け負う男』
〜英雄が死んだ日、本当の物語が始まる〜
▼作品はこちら
https://note.com/momokun1/n/n9709c4cb8be4
主人公は、勇者の葬儀だけを請け負う葬儀屋。
遺品に触れることで、死者が最期に見た記憶を追体験できる能力を持っています。
そんな彼のもとへ、世界を救った勇者の葬儀依頼が届きます。
しかし、王国が提示した条件は異常なものでした。
・棺を開けてはいけない
・遺体に触れてはいけない
・死因を調べてはいけない
・葬儀の直後、必ず火葬する
なぜ王国は、英雄の死を急いで隠そうとするのか。
棺の中に眠っているのは、本当に勇者なのか。
そして勇者が命を懸けて守ったものは、世界だったのか。
それとも、たった一人との約束だったのか。
『AIだけが使える異世界』が、
正しい答えを知った人間が、何を選ぶのか
を描く物語なら、
『勇者の葬式だけを請け負う男』は、
死者が残した真実を、生きている人間がどう受け取るのか
を描く物語です。
葬送、ミステリー、伏線回収、切ない人間ドラマが好きな方は、ぜひお読みください。
ほかの物語も公開しています
AI、勇者、魔王、死神、葬送、国家再建。
王道ファンタジーに少し意外な題材を掛け合わせた、ライトノベルを中心に執筆しています。
作品づくりで大切にしているのは、
・テンポのよい会話
・登場人物の細かな心理描写
・重い物語の中にある少しの笑い
・読み返すと意味が変わる伏線
・次の話を読まずにはいられない章末の引き
です。
読み終えたあとも、登場人物の言葉や選択が心の片隅に残り続ける。
そんな物語を目指して書いています。
▼プロフィール・作品一覧はこちら
https://note.com/momokun1
気になる作品がありましたら、ぜひ次の物語の扉も開いてみてください。
そして最後に、もう一度だけお願いします。
コメントかメッセージのどちらか一つで構いません。
第4部第2話を読んで感じたことや、あなたならどの選択をするかを、ぜひ一言だけ聞かせてください。
あなたの言葉が、次の物語を書く力になります。
