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【小説】二人、江戸を翔ける! 19話目:女任侠伝⑥

■本文

 そして決闘当日の夜が訪れた。
 お京率いる度度須古組の面々は、指定された時間よりも早くに決闘場所に集まっていた。

 指定された砂津句すなつく川の河原は周囲に人家がなく、決闘騒ぎが起こっても誰も気づかない場所であった。
 申し込んだ側の須古土井組は、まだ現れていなかった。風が吹くなか、お京が豚吉に尋ねる。

「……豚吉。結局、うちは何名集まったんだい?」

「へい。三十五名でやす。ほぼ全員来ていやす」

「へえ、もっと少ないかと思ってたのに、やるじゃないか」

 お京は誇らしげな顔になる。圧倒的不利な状況にも関わらずこれだけ人が集まったということは、お京が皆に慕われている証拠であった。

 ここで豚吉が周りを見回し、がいないことに気付いた。

「……お嬢。頭が来ていやせんね」

「ああ、親父ね……」

 お京は遠い目をして、頭とのやり取りを語り始めた。

 あの日、お京は事のあらましと、決闘を受ける旨を頭に報告した。

「そうか…… それじゃあ、俺も出張らねえといけねえか」

「親父……」

 お京はちょっとだけ頭を見直した。だが、頭は服を脱ごうとした途端、突然叫び声をあげる。

「アダダダダダ! あいつにやられた肩の古傷が~! こ、これじゃあ足手まといにしかならねえ!」

 大袈裟に痛がる様子はわざとらしく、明らかに演技であることがわかった。お京は前言撤回し、ため息をつく。

「それはやられた傷じゃなくて、五十肩だろ? ったく、わざとらしい…… いいよ、親父はここで養生してな」

「そ、そうか! 悪いな! それじゃあ、俺はここでお前らの勝利を祈ってるぞ!」

 そう答えると、ほっとした表情で布団に横たわるのであった。

「……とまあ、こんな感じさ」

「なんと言いやすか…… 頭もちょっと前までは悪いことはしやすが、それなりに一本筋の通った人でやんしたけどね……」

 豚吉もまた、お京と同じように遠い目をする。

 指定の宵五つに近づいた。すると、見張りに出ていた組衆が駆け戻ってきた。

「き、来やしたぜ! 須古土井の連中です!」

「……来たか」

 お京は前方を見据える。すると、松明たいまつが幾つも連なって、こちらに近づいてくるのが見えた。
 松明の数は度度須古組側よりも多く、ざっと八十近くはあった。

「な、なんて数だ……」

「こっちの倍以上はいるじゃねえか……」

 相手の数の多さに、怖気づく者が出始める。

「始まってもいないのに、ビビるんじゃないよ! 喧嘩は数がいりゃあいいってもんじゃないだろう!」

 お京が喝を入れるが、あまり効果はなかった。

 松明の大行列は次第に近づき、互いの顔がわかる距離までになった。ここで、須古土井組のが一歩前に出て大声を張り上げる。

「よく逃げなかったじゃねえか、度度須古の。てっきり怖気づいて逃げ出したかと思ったぜぇ!」

 負けじと、お京も声を張り上げる。

「ふん! あいにくうちにはそんな臆病者はいねえのさ。それより、よくもうちのもんを痛めつけてくれたね。今までの借りも含め、ここできっちりと返させてもらうよ!」

 するとと、あざけるような笑いが返ってきた。お京はつい、カッとなる。

「何がおかしいんだい!」

「痛めつけられるのは、お前らが弱いからだろう? たった一人に二度もやられたお前らが、俺らに勝てるつもりかあ?」

「なんだとぉ!」

「周りを見てみろよ、お京。ほとんどが震えてるじゃねえか!」

 お京が振り向くと、言われた通り多くが震え、怯えていた。豚吉もその一人である。

「(豚吉! あんたまで震えてどうすんだい!)」

「(だ、だって、あっしは喧嘩がからっきしなんですよぉ!?)」

 豚吉の泣きごとに、お京は軽くため息をつく。
 一方の豚吉は震えながら、たちの到着を今か今かと祈る。

(ああ! 姉御ぉ! 早く、来てくだせえ! このままじゃあ、やられちまいやすう!)

 その時、彼らを見下ろす土手の上に人が立ったのだが、豚吉は気づかなかった。

 お京が須古土井組の頭を睨みつけ、

「へん! 喧嘩は数じゃないんだ! 気持ちが強い方が勝つんだよ!」

と啖呵をきった、その時だった。

____トン!

と、どこからか太鼓の音が聞こえた。

「「「ん?」」」

 河原にいる全員がこの音に気付くが、どこで鳴ったのかわからなかった。すると、

 ____トン!

 またも音が鳴り、今度は音が続いて鳴る。

_____トン、トン、トン、トントントン………… トン!!

 段々と音の間隔が短くなり、最後に大きな音が一つ鳴る。そのすぐ後に、高い声が続いた。

「その、とぉ~~りぃ~~」

 周囲にざわめきが起こった。皆はどこから聞こえたのだと、きょろきょろ探し回る。

「なんだ、なんだ?」

「どこだ?」

「女の声?」

 そのうちに一人が気付き、土手を指さし叫んだ。

「あ、あそこだ!」

 皆が土手を見上げると、そこには全身同じ色の忍び服をまとい、さらに天狗やおかめなどのお面で顔を隠した人影が四体立っていた。四体の色はそれぞれ違い、松明の明かりに照らされて、赤、黒、紫、桃色が浮かび上がるように見えた。

 皆がたじろぐ中、先頭の一番背が低い人影が、切口上のような文句を語り出す。

「弱きをくじき、強きを助く悪党ども! 多数で少数を苛める卑劣なやからども! そんな奴らは、我らが月に代わってお仕置きしてくれよう! 我ら、月光五連邪阿れんじゃあ~! 参、上!」

 言い終わると後ろにいた三体がそれぞれ決めポーズを取る。切り口上を語った人影はふんぞり返るような姿勢を取っていて、どこか誇らしげであった。

つづく

↓この話の第一話です。


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