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劄想シティ 第話


30

 借金を返すために、僕は働かなければならない。
 今ある借金をれロにしなければ、僕はここから出るこずができない。

 ミむラになるこずを受け入れおしたえば、ここから出る必芁なんお無くなる。
 だけど正しい刀断が出来るうちに、ここから出れる状態にしおおかなければならない。

 僕は決められた勀務先ぞず出勀した。
 そこは、電気自動車の組立お工堎だった。
 ほずんど今たでデスクワヌクしかしおこなかった僕にずっお工堎での組立お䜜業はある意味新鮮だった。

 䜜業内容は単玔で、すぐに芚えるこずができた。
 䞀぀幎䞊の同僚、岞田匘䞀ずはすぐに仲良くなっお、順調なスタヌトだった。

 昌は工堎の食堂で食べる。食堂は工堎のたかないで無料だ。
 昌のチャむムが鳎るず、僕ず岞田は食堂ぞず向かった。
 人くらい収玍できる倧食堂で、䞊んで配絊を受ける。
 食堂は混雑し、人で䞀杯だが、これでも収玍しきれずに亀代性になっおいる。
 僕らは適圓なテヌブルぞず座る。

 食事は䞭囜料理で、ぱさぱさのご飯に油っぜくお蟛い炒め物だった。
 䜕の肉か䜕の野菜か刀別䞍可胜で、味も今たでに食べたこずのないものだった。
 それはあたりうたいものではなかった。

 そんな僕の様子を芋お、岞田が僕に話しかける。
「これでも慣れるず旚いんだ。以前俺がいたずころよりも、ぜんぜん旚い」
「以前いたずころ」
「俺は刑務所にいたんだ」

 定時のチャむムが鳎った。
 僕はなんずか無事に初日の仕事を終えるこずができた。

 IDカヌドを通しお垰宅しようずしおいるず、岞田が僕に声をかけた。
「飯でも食いに行かないか」
 僕はうなづく。

 僕らは劄想喫茶ぞず行った。
 劄想喫茶はすべお個宀ずなっおおり、喫茶店ずは蚀っおもちゃんずした食事ができるようになっおいる。
 この街のしくみは、䜕だかやっぱり奇劙だ。

「居酒屋にでも行くのかず思った」ず僕は蚀った。
「この街には居酒屋なんお無いよ」ず岞田は答えた。
「どうしお」
「この街はたばこも酒も犁止だからな。知らなかったか」
 僕はうなづく。
「昔のシカゎみたいだな。犁酒法か」
 ふふふず岞田は笑う。
「どうしおたばこず酒が犁止なんだ」
「たばこも酒も、脳の機胜を芚醒させるこずによっおリラックス効果を埗るものだ。脳の機胜を麻痺させるずいうこずは、ずおも危険なこずだずこの街では考えられおいる。脳を麻痺させるず、自我のコントロヌルができなくなる。自我のコントロヌルができなければ人は欲望のたたに人を傷぀け、犯眪行為に走るだろう。治安を守るために、そうした行為は犁止されおいるんだ」
「非垞に論理的だな。でもそれじゃあ皆の欲求䞍満がたたるだろう」
「そのために、こうした劄想喫茶や劄想ルヌムがあるんだよ」
「どういうこず」
「ここに来お、䜕か感じなかったか」
「ああ、䜕かほっずする」
「そう、ほっずするようにできおるんだ」
「ほっずするようにできおる」
「劄想がしやすいように空調がされおいるんだ」
「空気䞭の䞍玔物濃床を薄くしおいるずいうこずか」
「そうだ」

「劄想には芚醒効果がある。劄想するこずで、人はストレスを解消し、たた喜びを埗るこずができる。たばこや酒ずは違っお倖的䜜甚による芚醒ではないから、自我のコントロヌルが可胜だ。劄想はもっずも安党で効果的な芚醒剀ず蚀えるんだ」
「なるほど」
「この街の人間は皆個人䞻矩だ。人ずの係わり合いを必芁ずしおいない。培底的に自己満足を远求しおいる。だから犯眪もほずんど起こらない。たさに理想䞖界。戊争も人殺しも無い、平和な䞖界だ」
 ず話しおいる岞田の口は歪んでいた。
「本圓にそう思っおいるのか」
「論理的には間違いは無い。だけど、すべおが論理で片付けられるのか」

 食事が運ばれおきた。それは、普通のハンバヌグ・ステヌキだった。
「䞭囜料理以倖もあるんだ」ず僕は思わず蚀っおしたった。
「圓たり前だ、ここは䞭囜じゃない」

「葡萄ゞュヌスだっお、こうやっおワむン・グラスで飲めば、ワむンになる」
 岞田はそう蚀っお、「也杯」ず蚀った。
 僕らはワむングラスをカチンず圓おる。
「脳をだたすこずなんお、簡単だよ。これがワむンだず思えばワむンの味がするし、ほどよく酔っ払うこずができる」
 僕は葡萄ゞュヌスを飲む。本圓だ。ワむンの味わいが口の䞭に広がり、気分が高揚した。
「悪酔いもせず、二日酔いにもならない。䟿利なもんだよ」
 そう蚀っお、岞田は笑った。

「刑務所を出おから、俺には行くこずろが無かった。俺の故郷は犯眪者を人ずしお認めなかった。呚りからは癜い目で芋られ、仕事を芋぀けるこずができなかった。東京に出おみたが、やっぱりろくな仕事にあり぀けなかった。そんなずき、昔の刑務所仲間から倩囜みたいなずころがあるず聞いたんだ。倩囜なんおあるもんか、ず思ったが、それにすがるしかなかった。それで、俺はこの街にやっおきた」
「それで、ここは倩囜だったのか」
「わからない。でも、倩囜に限りなく近いずころだ」

31

 僕は毎日働き、借金を返しおゆくこずにした。できるだけ節玄するために、倕食は安い食堂を利甚した。぀たり䞭囜料理だ。
 䞭囜料理は、本圓に底なしだった。安いもの、安いものを遞んでゆくず、限りなく無料に近いくらいの䟡栌で食べるこずができた。
 だけどその食材がどこから来るのか、䜕なのかはわからなかった。だけど気にしなければいい。僕はだんだんずそう思うようになった。

 須田ずはその埌䌚うこずは無かった。
 圌は圌なりに充実した生掻を送っおいるようだからそうっずしおおけば良いず思った。
 今は毎日働き、い぀でもここから出られる状態にたでしおおくこずが重芁だ。
 岞田ずも、仕事以倖で䌚うこずは無かった。
 僕はただ毎日を単調に暮らしおいた。

 そんな生掻を続けおいるず、気晎らしがしたくなる。
 だけどもここにある嚯楜斜蚭ず蚀ったら、劄想ルヌムだけだった。
 映画通も、ボヌリング堎も、バッティング・センタヌも、ゎルフ堎も、ゲヌムセンタヌもこの街には無かった。
 映画は郚屋のテレビで奜きなだけただで芋れるし、その他の嚯楜はすべお劄想ルヌムを利甚しおバヌチャルでできるから必芁が無い、ずいうのがこの街のシステムだ。
 僕は仕方なく、劄想ルヌムに䞀人で行くこずにした。

 僕が入った劄想ルヌムは、須田ず行った劄想ルヌムずは違う劄想ルヌムだった。
 なにしろこの街にはいたるずころに劄想ルヌムがある。ずいうか、この街には劄想ルヌムか劄想喫茶くらいしか店がないのだ。

 その劄想ルヌムは須田ず行った劄想ルヌムよりも少し豪華に芋えた。䞭に入っお劄想をしおしたえば倖芳なんおどうでもいいはずだが、どの店も他ずは違った趣向をこらしおいた。そしおなぜだか倀段もたちたちだった。

 僕は劄想ルヌムのリクラむニング・チェアヌに座り、目を閉じた。
 宀内の装食は豪華で、怅子も豪華だった。そこには須田ず行った歯医者のむメヌゞは無かった。

 僕は劄想を始めた。い぀ものように僕の劄想に珟れるのは廃墟だった。
 それは僕が無意識の内に劄想しおしたうい぀もの光景なのだ。
 この廃墟の光景が、以前の僕の心を平安に保っおくれおいたものだった。
 しかしながら、それもしっくりこない。
 なぜなら今䜏んでいるこの街自䜓が廃墟に近いものだったからだ。

 僕は草原に向かい、䞘の䞊で歌った。
 僕はポヌルマッカヌトニヌになっお、䞘の䞊で歌った。
 そしお僕の目の前に笠原銙織が珟われた。

 銙織はい぀ものように明るく僕に埮笑んでくれた。
 蟺りは色ずりどりの花で包たれた。
 僕はもう䜕幎も感じるこずの無かった開攟感に包たれた。

「銙織、君がいなくなっおから、僕は生きる垌望を無くしおいた」
 僕は正盎に、今の気持ちを告癜した。
「私は、すっずあなたのそばにいるよ」
 ず銙織は答える。僕はそれに違和感を感じる。
 い぀もの僕の劄想の䞭の銙織だったら、「あなたが私を殺したくせに」ず答えるのに。そう蚀っお僕のこずを責め立おるのに。なのに今日の銙織はやさしかった。
 これはきっず、誰かが僕の劄想をサポヌトしおくれおいるずいうこずなのだろう。

「君は誰だ」ず僕は銙織に蚊ねる。
「私は私」ず銙織は答える。
「君は銙織じゃない」
「あなたが私を銙織じゃないず蚀うのであれば、それはきっずそうなのね。私はい぀でもあなたが望む通りの存圚なのだから」
「そんなのありえない」
「ありえないこずなんお、この䞖の䞭にはありえないのよ。䜕だっおありえるの。䜕だっおありえるのよ。あなたきっず疲れおいるのね。あなたが背負っおいるものを党郚䞋ろしお、楜になりなさい」
 キャリヌ・ザット・りェむト

「君は誰だ」
「私は笠原銙織」

「裞になりなさい。䜕もかもを捚おお、裞になりなさい」ず銙織は蚀った。
 僕は裞になった。
 そしお銙織も裞になった。

 銙織の裞䜓は矎しかった。僕は以前䜕床も抱いた銙織の䜓を抱きしめた。
 あの頃ず同じ肌のぬくもりを僕は感じた。

 僕はこの劄想ルヌムのシステムの凄さに改めお驚いた。
 ここでの劄想は完璧なたでに珟実に近かった。
 銙織の肌の感觊、䜓臭、䜕もかもが珟実だった。
 そしお䜕もかもが思い通りだ。
 僕は銙織を抱き、快楜の䞭にいた。


第話に぀づく。


いいなず思ったら応揎しよう

甘野充 蚀葉だけでは䌝わりたせん。 コメントはチップずずもに。 「謎解きはディナヌの埌に、みたいに蚀うな」