なぜ君たちは小選挙区で勝つことができないのか――「超過集票力」で描く衆院選のリアル
先に発表した第51回衆院選総括試論では、かつて立憲民主党が強かった東日本で中道改革連合の比例票が伸び悩んでいたことを指摘して、ほぼその一点を足場にしながら中道の敗北について論じました。しかしこれは、あくまで自民党の勝利を高市旋風やネット選挙の影響などで論じる当時の風潮に一石を投じることを狙った小論であり、選挙そのものの分析を意図したものではありません。特に議席の多くが決まる小選挙区について票の精査が不十分である点は問題です。
そこで今回は小選挙区に目を向けて、比例代表もあわせて「並立制の票の全体像をとらえるやり方」を導入し、検討を加えることにします。とりあげる題材は立憲や中道に関してであるものの、内容としては小選挙区制の選挙にのぞむ野党一般に通じるものをめざしました。データとその説明を先行させ、解釈はなるべく後まで留保したので、異論がある方も多くの部分を共通の土台として読んでいただけると思います。
「合流しなければもっと負けていた」のか
さて、政治家や支持者のなかには、参院の立憲と公明も中道に合流するべきなのか、あるいは逆に中道の枠組みが解消すべきなのかといった議論に関心のある方も少なくないようです。しかしぼくは外部の人間であり、ここでは特にそうした話に口をはさむつもりはありません。ひとまず合流も含めた経緯によって、先の選挙がどうなったかという事実をおさえれば十分です。
先の衆院選では、現行憲法下ではじめて単一の政党が3分の2を占める結果となりました。下の図は第50回衆院選(2024年)と第51回衆院選(2026年)の各党の議席を小選挙区に限って描画したものですが、これら2枚を比べると、中道に移籍した立憲の多くが小選挙区で敗退したことが自民の議席増に対応することが読み取れます。


ここで、中道の熱心な支持者――幾人かの政治家と政治学者も含む――によってしばしば行われる主張のなかに、「立憲と公明が合流して中道にならなければもっと負けていた」というものが挙げられます。小選挙区で実際に得た7議席からより負けるとはどういうことなのか、あるいは6や5にならなくて幸せだったとあえて言うことにどれほど意味があるのかといった疑問にはあまり触れないでおくとしても、この主張が無理筋だということは書いておかなければなりません。
第一、立憲もそのように捉えていたわけではありませんでした。ぼくが政党内部の情報を勝手に出すことはできませんが、たとえば中道から比例で当選した有田芳生氏は、総選挙前に立憲が行った調査では「100議席に近い90議席代」であったと述べています(出典)。これは第49回衆院選(2021年)で立憲が得た96議席と近い水準であり、制度的に議席が変化しにくい比例代表を差し引くと、小選挙区ではおおむね60議席前後が見込まれる数字にあたります。けれども実際に中道が小選挙区で得たのは7議席にとどまっているのです。
その「大きすぎる敗北」が起きたのはどうしてなのでしょうか。きちんと考えていくために、まずは選挙結果を整理してみましょう。
並立制の票を描いてみる
1994年の公選法の改正によって衆院選の制度が並立制に移行すると、有権者は小選挙区と比例のそれぞれに投票するようになりました。小選挙区の区割りはその後5回の変更を経て、現行(2022年12月~2026年6月現在)では次のように定められています。

人口密集地の区割りが緻密になるため、上の図3では北海道1区も青森1区も「1」というように小選挙区の番号だけを小さく記入して、適当な色で塗り分けることで都道府県の識別をしました。地図は細かいため必要に応じて拡大してください(この記事の地図はサムネイルで縮小されているものなども全て同じ規格で作成しているので、パソコンの方は地図をクリックして矢印キー「→」「←」で、スマートフォンの方は地図をタップしてからスワイプして見比べていただけます)。また、誤解を生じないために、地図上に表示した番号は常に小選挙区の第何区かを表すこととして、それ以外の意味では用いないようにします。
具体的に、第50回衆院選(2024年)の小選挙区で立憲の候補が得た票を描き出してみましょう。

地図の塗り分けには絶対得票率を用いました。グレーの斜線を引いたのはデータが欠けている箇所で、これは公認候補が擁立されていない小選挙区にあたります。
得票率
得票率には相対得票率と絶対得票率の二種類があります。相対得票率は「その政党(に所属する候補)へ投票した人が有効票全体の何パーセントを占めているか」という指標で、絶対得票率は「その政党(に所属する候補)へ投票した人が有権者全体の何パーセントを占めているか」という指標です。つまり相対得票率の分母は有効票を入れた人だけですが、絶対得票率の分母には無効票を入れた人や棄権した人も含まれます。
選挙結果は有効票を入れた人が決めるので、相対得票率は一度の選挙の勢力バランスを見ることに適します。しかし投票率が異なる複数の選挙を比較する際は、それぞれで有効票を入れた人の数が異なれば、分母も異なってしまいます。ですから前回と今回の増減を検討するような場合には、常に分母を有権者数におく絶対得票率が有効です。
次に比例代表の票も見てみましょう。ただし通常とは異なって、小選挙区の区割りに揃える形で票を集計していきます。

この図5のデータの元となったのは、選挙管理委員会の発表による最小単位の集計です。市区町村の多くは統合され、一部の人口密集地は町丁目や番地で分割されて小選挙区の区割りとなっています。
小選挙区の票は比例代表を超過する
図4と図5を比べると、第50回衆院選(2024年)で立憲が候補者を立てた小選挙区のほとんどは、小選挙区の票が比例代表を上回っていることがうかがえます。これには大きく2つの理由が挙げられます。
その第一は、小選挙区では投票先の選択肢が限られているため票が集中することです。下の図6を見てください。これは第50回衆院選(2024年)の小選挙区について、選択肢が少ないほど赤く、多いほど青くなるように描画したものです。一騎打ちの場合が赤で、三つどもえのときがオレンジです。多くの小選挙区の選択肢は2から5つであり、東京1区が最大の9となっています。

対して比例代表の選択肢の数は最も少ない場合が9であり、あらゆる地域、あらゆる投票所で小選挙区よりも多くなっています。

※参考に第51回衆院選(2026年)の選択肢の数も示します。


こうした事情のため、比例代表の票が多くの政党に分散する一方で、小選挙区の票は限られた候補にまとまります。これは単なる選択肢の数の問題なので、政党の規模やその時々の勢いにかかわらず、多くの政党で見られる一般的な傾向です。
もっとも立憲の場合、小選挙区の票が比例を超過する傾向は他の政党より明瞭なものがありました。そこで出てくるのが、小選挙区では最大与党と最大野党に票が集中するという二つ目の理由です。
比例代表はそれぞれのブロックで複数人が当選する制度なので、小さな政党に入れられた票も有効になりやすく、投票者は制度的な束縛をあまり受けずに最も適する政党へ票を入れられます。対して小選挙区ではそれぞれの区割りで一人しか当選しないため、なるべく自分の一票を活かそうという考えのもとに、最適な候補をあきらめて当落線上の次善の候補に投票するという行動が生まれます(戦略投票と呼ばれます)。最大与党と最大野党は、多くの小選挙区で当落線をはさんで競うことになるので、票が集中するわけです。
超過集票力
ここまで、小選挙区の票が比例代表の票を超過することを考えてきました。その程度の大きさを表す「小選挙区と比例代表の集票力の差」を、新たに「超過集票力」と名付けましょう。
具体的に第50回衆院選(2024年)の立憲民主党について超過集票力を描いた結果を以下に示しました(これは小選挙区で擁立したところに限って図4から図5を引き算したものにあたります)。

超過集票力(比例代表に対する小選挙区の超過集票力)
小選挙区(※1)の公認候補の集票力(※2)から、その候補が所属する政党の比例代表(※3)の集票力(※2)を引いた値(※4)と定義します。
※1:小選挙区に擁立しているときにのみ計算します。
※2:集票力とは、得票数、相対得票率、絶対得票率のいずれかを意味します。このうちどの指標を用いたのかは併記することが必要です。
※3:比例代表には擁立していなくても構いません(その場合は比例票を0とします)。無所属の候補も比例票を0として扱えば計算ができます。
※4:マイナスになることもあります。
ここで、選択肢の多い比例代表では、投票者は制約をあまり受けずに最適な政党に投票できるのでした。各政党が得た比例票はそうした自由な選択が積もり積もったものなので、各政党の基礎力(いわば党勢)をあらわすバロメータのようにみなすことができます。
対して、選択肢の少ない小選挙区では、投票者は数人の候補者のなかから投票先を選ぶという制約を受けます。特に最大与党や最大野党の候補は有力な投票先になりえます。そうした結果、小選挙区の候補者は、自らが属する党の基礎力を超える集票をするわけです。
超過集票力 = 小選挙区の集票力 - 比例代表の集票力
という定義は、移項をすれば次のように読みかえることができます。
小選挙区の集票力 = 比例代表の集票力 + 超過集票力
これは計算としては非常に単純なものですが、単純な見方で多くのことがわかるとしたら、それは優れた指標になりうると考えます。比例代表で得た票は政党の基礎力や党勢のあらわれであり、小選挙区では内部の「まとめるべき票」にあたります。対して超過集票力は候補者個人の力によって外部からかきあつめた「党をまたいだ集票」です。そしてその合計が小選挙区の候補者の得票になると考えるわけです。
ですから超過集票力というのは、はじめから小選挙区の候補者の「党をまたいだ集票」に関心をおいています。先に「小選挙区に擁立しているときにのみ計算します」「比例代表には擁立していなくても構いません」と書いたのはこのためです(無所属で政党の推薦や支援を得ているようなときは、その枠組みで比例票があるとして超過集票力を計算することも可能ですが、どのように扱ったのかを明記する必要があるでしょう。今回の記事では立憲と中道の公認候補だけを議論しています)。
計算上の注意
第50回衆院選(2024年)の立憲は、小選挙区で得た票の合計が1574万票で、比例代表の合計が1156万票でした。しかしこの差の418万票がそのまま全国の超過集票力であるとみなすことはできません。なぜなら当時の立憲が候補者を立てたのは全国に289ある小選挙区のうち207か所であり、1574万票はその限られた地域で得られたものであるからです。したがって超過集票力の計算は、207か所の小選挙区で得た票と、それと重なる地域で得た比例票によって行わなければなりません。この比例票は927万票なので、正しい超過集票力は647万票となります(図8はこれを絶対得票率で描画したものです)。擁立した207の小選挙区で割り算すると、1つあたりの超過集票力は3万1256票で、これは当時の自民党も含む全政党の中で最大でした。
ここからは、いよいよ第51回衆院選(2026年)の中道について超過集票力を計算し、第50回衆院選(2024年)の立憲からの増減を検討していきます。見えてきたのは「党勢の伸び悩みによって中道の敗北を説明しきるのは難しい。むしろ超過集票力の減少のほうが大きく働いて負けている」ということでした。
それは先の選挙における中道の敗北だけでなく、今に至る支持率の低迷にも、今後かかえることになるはずの問題にも関わっているのですが、それが意味する恐ろしさについて、今はまだ中道の執行部も周辺の政治学者の面々も気付いている様子がありません。ですから今回の記事はぜひ多くの人に最後まで読み、考えてもらればと思います。
みちしるべでは様々なデータの検討を通じて、今の社会はどのように見えるのか、何をすれば変わるのかといったことを模索していきます。今後も様々な成果をお見せできるように頑張っていくので、応援してもらえたらうれしいです。
