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MVP ARCHIVE HISTORY | Civilization Security : CWC|Chemical Weapons Convention / 化学兵器禁止条約 - 使わないから作らない・持たない・残さないへ

CWC|Chemical Weapons Convention / 化学兵器禁止条約 - 使わないから作らない・持たない・残さないへ

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化学兵器禁止条約 - 使わないから作らない・持たない・残さないへ

化学は、現代文明を支える基礎技術の一つである。
医薬品、農薬、肥料、樹脂、繊維、半導体、燃料、工業材料。
人間社会は無数の化学物質と化学産業によって成立している。

塩素・ホスゲン・マスタードガス・サリン・VX。
第一次世界大戦 で 化学兵器 が大規模に使用されてから、国際社会は長い時間をかけて一つの答えへ進んでいった。
それを包括的な国際法として定めたのが、CWC|Chemical Weapons Convention 化学兵器禁止条約 である。

1915 化学兵器が戦場を変えた

1915年4月22日、第一次世界大戦 中、ベルギーのイーペル周辺でドイツ軍が大規模な塩素ガス攻撃を行った。

しかし、工業的に生産された毒性化学物質が大規模な戦争手段として使用されたことで、戦争は新しい段階へ入り、各国は化学兵器を開発する。
ホスゲン、マスタードガス、さまざまな化学剤が戦場へ投入された。

第一次世界大戦 では、化学兵器によって100万人を超える死傷者が生じたと推定されている。
OPCW は、化学兵器による死者を約9万人としている。
科学と工業生産能力が結びつくことで、人間は毒性物質を大量殺傷手段へ変える能力を手に入れた。

1925|Geneva Protocol

第一次世界大戦 後、化学兵器への国際的な拒絶は強まった。
1925年、Geneva Protocol|ジュネーブ議定書 が成立する。
正式名称は、Protocol for the Prohibition of the Use in War of Asphyxiating, Poisonous or Other Gases, and of Bacteriological Methods of Warfare 戦争における毒ガスなどと細菌学的戦争手段の使用を禁止する国際的枠組みだった。

「 化学兵器を戦争で使用してはならない 」
しかし、化学兵器そのものを包括的に禁止する条約ではなかった。
つまり、使用は禁止されたが、兵器は残った。

禁止されても、化学兵器は消えなかった

第二次世界大戦 期にも、主要国は化学兵器を保有していた。
冷戦 に入ると米国とソ連を中心に大量の化学兵器が備蓄され、神経剤などの研究・開発も進んだ。
Sarin|サリン・VX など、少量でも人体へ重大な影響を与える神経剤が軍事体系へ組み込まれていく。

つまり国際社会には、「 使ってはいけない兵器を大量に保有する 」
という状態が存在した。

Iran–Iraq War

1980~1988年の イラン・イラク戦争 中、イラクはイラン軍などに対して化学兵器を使用し、1988年3月、イラク北部のクルド人都市 Halabja|ハラブジャで化学兵器 が使用され、多数の民間人が死亡した。

第一次世界大戦 から70年以上、ジュネーブ議定書成立から60年以上。
それでも化学兵器は実際に使用された。

軍縮交渉

冷戦 終結後、米国とソ連は二国間でも化学兵器削減について交渉を進めた。
そして、国連軍縮会議 を中心とする長い交渉の末、1992年、Chemical Weapons Convention が採択された。
1993年1月13日、パリで署名開放、1997年4月29日 CWC は発効した。

CWCが禁止したもの

CWC は、それ以前の化学兵器規制から大きく踏み込んだ。
締約国は、いかなる状況でも化学兵器を、使用の他運用を全面禁止、そして、他者が禁止行為を行うことを援助・奨励・誘導すること も禁止される。
化学兵器を軍事システムとして成立させる一連の行動そのものを禁止した。

廃棄する


条約発効時にすでに化学兵器を保有している国について、保有を認めたまま使用だけ禁止する という選択をしなかった。
保有国には、化学兵器を申告し、廃棄する 義務を課した。
さらに化学兵器製造施設についても、申告・閉鎖・廃棄または条約で認められた目的への転換 などが求められる。

OPCW

そこで CWC には、条約を実行するための 国際機関 が組み込まれた。
OPCW|Organisation for the Prohibition of Chemical Weapons
化学兵器禁止機関
である。
CWC 発効と同じ1997年4月29日に活動を開始、本部はオランダ・ハーグ。
OPCW は締約国からの申告を受け、化学兵器施設を査察、廃棄作業を確認、化学産業施設を検証する。

09|Declaration

最初に必要なのは、Declaration|申告 である。
締約国は保有している化学兵器、関連施設、対象となる化学物質などについて情報を提出する。

Inspection

次が、Inspection|査察 である。
OPCW 査察官 が現地へ入り、施設、設備、記録、化学物質、廃棄作業などを確認する。

Challenge Inspection

さらに CWC には、Challenge Inspection|申立査察 という仕組みがある。
ある締約国が別の締約国について条約違反を疑った場合、OPCW を通じて査察を要求でき、対象国は原則として査察を受け入れる義務を負う。
未申告活動への疑いまで制度上扱えるようにした。
これは CWC の検証制度を特徴づける重要な仕組みである。

Dual Use

Dual Use|軍民両用 の問題である。
CWC では、化学物質をリスクなどに応じて管理し、一定の化学産業施設も申告・査察制度の対象としている。

Schedule 1・2・3

CWC では、条約上重要な毒性化学物質や前駆物質を、分類して管理する。
Schedule 1 : サリン、VX、マスタードなど、化学兵器との関連が特に強く、平和利用が限定的な物質
Schedule 2・Schedule 3 へ進むにつれ、民生産業でも利用される物質が増える。

2023 申告備蓄100%廃棄

CWC の歴史における大きな節目が、2023年7月7日 だった。
米国が申告していた最後の化学兵器備蓄の廃棄を完了。
これによって OPCW は、CWC 締約国 が申告した化学兵器備蓄について、
100%が不可逆的に廃棄された ことを確認した。
OPCW によれば、廃棄された申告済み化学剤は 72,304.34 metric tonnes に達する。

Syria

2013年、シリアは CWC へ加入した。
シリアが申告した化学兵器について国際的な廃棄作業が行われた。
しかし、その後もシリア国内では化学兵器使用事件が発生した。
OPCW の調査では、シリア政府軍による化学兵器使用が特定された事件があり、ISIS よる化学兵器使用が特定された事件もある。

国家以外の主体

CWC が作られた時代と現在では、安全保障環境も変化している。
1995年、日本ではオウム真理教による地下鉄サリン事件が発生した。
非国家主体がサリンを製造し、大都市の公共交通機関で使用した。
化学兵器問題は、テロリズム・犯罪組織・非国家主体 まで含む問題となっり、CWC 締約国 には、国内法によって禁止行為を犯罪化するなど、条約を国内で実施することも求められている。

BWCとの違い

CWC と BWC は非常に近い理念を持つ。

BWC : 生物兵器を包括的に禁止。
OPCW に相当する包括的な国際検証機関が存在しない。

CWC : 化学兵器を包括的に禁止。
OPCW による申告・査察・廃棄確認制度を持つ。

TPNWとの違い

核兵器禁止条約 TPNW との比較も興味深い。
TPNW は核兵器そのものを包括的に禁止する。
理念としては CWC に近い。
しかし核兵器保有国は現在 TPNW へ参加していない。
一方 CWC では、米国やロシアを含む主要な 化学兵器保有国 を制度内部へ取り込むことができた。

なぜ化学兵器ではできたのか

なぜ化学兵器では、大規模な国際的廃絶制度を構築できたのか。
つまり CWC の成功は、「 化学兵器は悪いから世界が廃棄した 」だけでは説明できない。
理念と国家の合理性が一定の地点で接続したからこそ、実際の軍縮へ進むことができた。

同じ価値観でなくてもいい

CWC 締約国は、「 化学兵器を戦争手段として認めない 」という一点では、極めて広い合意が成立した。
必要なのは、最低限どの行動を許容しないのかという境界を共有すること。
CWC はその境界を明文化した。
OPCW はその境界が守られているかを観測する。

Archive Point

ジュネーブ議定書ですでに「 使用してはならない 」という規範は存在していたが、化学兵器は残り、再び使用された。
CWC がさらに進めたのは、包括的禁止だった。
そして OPCW を作り、申告 → 査察 → 廃棄 → 検証 → 継続監視 という実行プロセスまで構築した。

理念だけでは現実は変わらない。
しかし、理念に実行可能なプロセスが接続されたとき、現実は動かせる。

CWC は、その結果が実際の兵器廃棄として残った国際軍縮史の重要な事例である。

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