【小説】『梅雨明けのプロムナード』第三章:六度の夏、静謐と澱(おり)
(最初から読む)
翌朝は、いつも言葉を失うほどに爽やかだった。
窓の隙間から差し込むまばゆい朝日の中で、世界で私たち二人だけが時間の流れから取り残されたような錯覚を覚える。
夏だけ限定の、何ものにも代えがたい大好きな存在。その愛しさが胸を満たす。
誰もが羨むような、完璧で、孤独で、最高に美しい「真夏の夜の夢」。
それは六年間、寸分狂わず繰り返された。秋分の日が来れば綺麗に解散し、次の夏まで互いの日常に踏み込まない。
その絶妙な均衡の上に、私たちの幸せの城は成り立っている…「はずだった」。
しかし、七年目を迎える前の冬。
東京の冷たい雨が降る夜、モニターの光に照らされた自分の顔をガラス窓に見た時、私の心に無視できない澱のようなものが溜まっていることに気づいた。
仕事での、自分なりの成功も、そして自由な生活も、ひどく無機質で空虚なものに思えた。
「彼に、会いたい…」。
ただの幻影であるはずの彼を、この東京の現実に引きずり込んで、私の人生を温めてほしい。
そんな禁断の誘惑が、夜ごと私の理性を削り取ろうとしていた。
そして、七度目の夏。
いつものように教会の前で落ち合った時、彼の手が私の指を絡め取る力が、これまでとは全く違うことに私は気づいていた。
強く、すがるような、湿った熱。
彼もまた、現実の重さと孤独に耐えかねて、この夏の魔法に救いを求めている。
私たちは言葉にしないまま、互いの内に潜む「壊れたがっている自我」を感じ取っていた。
(第四章へ進む)
(最初から読む)
