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【小説】『梅雨明けのプロムナード』第四章:七度目の嵐

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 その兆候は、八月の中旬を過ぎ、激しい夕立が通り過ぎた後にやってきた。

 濡れたアスファルトから立ち上る夏の匂いの中、静けさを取り戻した小径で、ふと、彼は立ち止まり、私の横顔をじっと見つめた。
「なぁ」
 彼の声が、いつもより低く、震えていた。
「もしもさ。もしも今年、秋分の日が来なかったら、どうする?」

 心臓が、大きく跳ねた。
 それは、私たちが七年間、最も強く禁じてきたタブーだった。
「……そんなこと、言わないで」
…私が震える声で返すと、彼は一歩近づき、私の肩を掴んだ。
 その力は、強烈な執着と独占欲に満ちていた。

「怖いのさ」
 彼は自嘲気味に笑った。
「君が、秋分の日が過ぎた途端に、この日本のどこかで全く別の顔をして生きていることが。考えただけで、頭がおかしくなりそうになるんだ。……君の、本当の日常が知りたい」

「私もよ……」
 抑え込んでいた私の東京での孤独が、一気に決壊した。
 私もまた、彼がどこに住んで、誰の名前で呼ばれているのかを知りたくて仕方がなかった。
 スマホを取り出して、連絡先を交換して、この軽井沢の魔法を現実の泥の中に引きずり下ろしたいという飢え。

 その夜の営みは、かつての神聖な儀式とは似ても似つかなかった。
 私たちは互いの秘密を暴こうとするように、肉体を貪り合い、傷つけ合うように求め合った。
 幻想は破れ、人間としての生々しいエゴが、美しかった芸術の城を内側から食い破っていた。
「私たちはもう、あの純粋な夏だけの夫婦には戻れない…」。
 私は暗闇の中で、静かに絶望を噛み締めていた。

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