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【受け継いでいくもの】暁にみた夢/番外編vol.4

これからどんな生活が始まるのか。
予想の出来ない現実に押し潰されそうだ。
あの夢は、この日の夜だった。

父の退院の日が決まった日、私の疲労も緊張もピークに達した。
タイミング悪く、手すりの設置工事の方が後になってしまったのだった。
これは絶対怒られるパターン。
「だから早め、早めに動けと言っただろう」
そう言われるのが手に取るように分かる。
今は内緒にして、退院して来たら白状しよう。

とは言え、リハビリをやっているのはわずかな時間。あとは殆どベッドの上だから、手すりの出番はもしかしたらあまりないかもしれない。それはそれで、気が休まる日はなさそうだ。
今のうちに体力温存しておかないと。

入院中は、全部病院にお任せだと思っていたが、私の考えが甘かった。
リハビリに付き添って、家で介助する時の力の入れ具合とか、身体の支え方とか覚えないといけなかった。
高額医療費、介護保険、ケアマネさんとの打ち合わせ、介護用品の手配……。
毎日のように、申請書や申込用紙に同じ住所と氏名を何度も記入し続けていた。
役所に行くことだって一日仕事だし。
最後に申請した障碍者手帳は、名称のこともあってちょっと気持ちが落ち込んだ。
ずっと健康だったからな、お父さん。「風邪を引いたことがない」っていうのが自慢だった。
今では笑い話だけれど、子どもの頃、頭が痛くて横になってたら「何さぼってるんだ」って怒られて。
お母さんは呆れ顔で「お父さんは、頭が痛いって、どういうことか分からないくらい健康なひとなのよ」って、私のことを慰めてくれたな。
私じゃなくて、お父さんに「手加減してやって」って言って欲しかった。
遠い記憶をたどるうちに、現実との境が曖昧になってきた。
あの頃の父も母も、今は現実にはいない。
子どものころの私も、もういないんだ。
なんだか、ひどく疲れたな……。


瞼を閉じた先に明かりが見えてきた。薄暗い通路を誰かと歩いている。
通路を抜けると、一気に視界が開けた。
大きなドーム状の建物に繋がっていたのだ。
建物といっても天井は薄い膜のようなもので覆われていて、太陽の温かさを感じることができる。
中央には沼地もあって、いくつかの植物を栽培しているようだった。
農業ではなく研究のための場所のようだ。

「そっちはどうだ、何か変化はあったか?」
一緒に歩いてきた男性が話しかけてきた。
どこかで見かけたような顔。誰だか思い出せない。
知っているはず。心の中ではそう思っても名前が分からない。
「どうした、疲れているのか? 休憩するか」

近くにあったベンチに腰かけると、唐突に飲み物を差し出してくれた。
今、手ぶらで歩いていなかったか?
自販機なんて見当たらないのに、どうして。

「ほら、お前が好きなフルーツジュースだ」
「あ、ああ。うん、ありがとう…」

恐る恐るコップを受け取る。
「まだ慣れないか」

え? 何もないところから物を出すとでも言うのだろうか。

「自分の身体を使って作物を育てることなんて必要のない星にいたからな」
男性は足元の土をすくい上げると、珍しいものを見るかのように手のひらの上を見つめた。

「念の力で、一瞬で目の前に欲しいものを出すよりも新鮮だ。なにより、自分の心が喜んでいる」

男性の話によると、ここでの研究が、これから先の地球の進化にとても重要だという。
そして、自分と男性は地球に到着してから、ずっと一緒に研究を続けているのだとか。

「君は、本当に心が素直で、仕事熱心だ。僕はそういう君のことを尊敬している。だから、時にはリラックスする時間を意識して持つといい。これからも頼りにしている。よろしく頼むよ」
ぼんやりしていた私の顔を覗き込んだ。
微笑んだその表情に、胸の奥がかすかに震えた。
この人を、私は知っている。
ずっと昔から。

目が合った。
あの時の、あの瞳だ!
(つづく)

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