夜の踏切(化け猫)
この掌編小説はクヨクヨウサギさんの
#時間帯と怪異
に提出の作品です
よろしくお願いします
見出しの写真には稲垣様のものをお借りしました
ありがとうございます
このお話の続きになります
名刺には森宏とあった
有名な保険会社の課長さんだった。
決めたはずだった。でも心が揺れる。
おそらく大切に育てられた人なのだろうと思うから・・・
自分の体のことを話さずに、付き合っていいのか迷っている。
「ただの猫友達じゃないの」という自分がいる。
「いや、あの人は真剣な付き合いを望んでいるわ」と考える自分もいる。
あれは勇樹の葬儀が終わり、結局彼の子供がお腹にいることを、彼の両親に言えないまま、お母様が「勇樹──勇樹──」と泣き叫ぶのを見ていたら、こちらが倒れそうになり、会釈だけして、一人で帰宅する途中だった。
駅の近くの踏切まで来ると、
田舎の親ともいつの間にか疎遠になった自分が
子供など育てられるはずがない。
仕事はどうすればいいの?
薬局の検査薬で調べただけで、まだ病院にも行ってない。
病院に行ってはっきりしたら心音の写真で驚かそうと思っていた。
このまま勇樹の後を追えば……。
踏切の赤いランプがチカチカと光ったのに、音がしない。
その時である。後ろで猫の鳴き声がした。
それも、この世のものとも思えぬ大きな鳴き声だった。
もしかして化け猫でもいるの?
そうだ!家にリクを残していることを忘れていた。
突然、誰かにスカートを引っ張られ、しりもちをついた。
「勇樹なの?そうなんでしょう?リクのことを忘れたから怒ってる?」
私は、誰もいない暗闇に呟いていた。
その時である。70歳くらいの女性が
「大丈夫?」と声をかけてくれた。
「あら、真っ青じゃない。救急車呼んだほうがいいかしら?」
「いいえ、大丈夫です」
と言ったが、ふらついてご婦人の肩に倒れこんだ。
「わが家はすぐそこなの。少し休んでいきなさい。ちょうど夫は麻雀に行ってるから、大丈夫よ」
そう言われて、ダイニングのソファーに横になった。
しばらく眠っていたようだ。
一昨日警察から連絡を受けてから、寝ていなかった。
その女性はレモンバームティーを出しながら
「飲んでみて、心が落ち着くし、つわりにもいいのよ。このハーブティー」
「えっ!」
思わず、声が漏れた。
「分かるのよ。その指輪、新婚さんでしょ?」
怖かった。何もかも見透かされているようで・・・
「そんな時にご不幸があったのね。すこしスカートを緩めたら」
「あの、あの時猫っていましたか?」
「さあ、でも猫ならこの辺たくさんいるわよ。ほら飲食店が多いから」
「そうですよね」
「でも、すぐに前の親猫はいなくなって、また子猫がうまれてるのよ」
「そうなんですね」
「野良猫は意外と寿命が短いからね」
そのあと会話が途切れた。
「そうそう、うちの息子ね。もう40歳近いのに、この近くで親からはぐれた猫を拾ってきてね。猫の飼えるアパートに引っ越したのよ。バカでしょう。ハチワレという種類で縁起がいいんだって。きっと誰とも付き合っていないくせに、彼女が猫が好きだからって。親にいろいろ言われるのが嫌なだけのくせにね」
「あら、私たちも猫を飼っているんです。リクという男の子なんですよ」
「今はじめて笑ったわね。もう大丈夫ね。猫ちゃんが待ってるから、タクシーで帰りなさい」 と、バッグに小さい袋を入れた。 今日は甘えておこうと思った。お礼ならまたいつかできるだろう。 「お腹の赤ちゃんのことで困ったことがあったら、また来なさいね」 そう言って、私をタクシーに押し込んだ。
不思議な人だった。見ず知らずの私に・・・
悲しくて仕方なかったし、問題も解決していないけれど
もう少し、生きてみようかと思った。
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