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シロクマ文芸部 掌編小説「水の音」

この詩は、#シロクマ文芸部の「水の音」からはじまる掌編小説です

この前の出来事を女性の視点で書いたものです
小牧様いつもお世話になります
またよろしくお願いします<(_ _)>

連載のお題は仮「潮騒」とします
家族の多様性が軸になります。

見出しの絵はさくら様のイラストをお借りしました
ありがとうございます



水の音だけが、やけに鮮明だった。
洗面台の水を出しっぱなしだったから、私も迷っていたのだろう。

だから、「さようなら」を書こうとした手に力が入り、
口紅が途中で折れた。

鈍い音だった。

その音を聞いた時、フィアンセが亡くなりましたと告げた
警察官の重たい声を思い出してしまった。
思わず泣き崩れてしまった。
こんなことは初めてだった。

季節の終わりがすぐそこまで来ていることを、
私は、この肌で感じ取っていた。
季節が変われば、別れるものだと決めていた。
こういう関係は引き際が大事だから・・・
勝手にそう思い込んでいたのだ。

ひと回りも年が離れていることなんて、
今の私にはどうでもよかった。

ただ、目の前にいるあなたの呼吸が、
迷うようにわずかに震えたのを見逃さなかった。

「また会おう、ぼくでは駄目か?」

あなたはそう言いたかったのだろう。
けれど、その言葉は発せられず、
代わりに差し出されたのは一枚の名刺だった。

「こんな名前も知らない相手に名刺を握らせるなんて、危ない人……」
もし私が、悪い女だったらどうするつもりなのだろう。
美人局だって、いくらでもいるのに・・・


世の中良い人ばかりじゃない。
そのことは、私が一番よく知っている。
でも、あの人にはずっと言わずにおこう。
純粋な人だから、きっと悩むだろう。
悩みながらも引き受けてくれる、そういう人だ。

戸惑いながら、私はその小さい紙の重みを指先に感じていた。
それは単なる連絡先ではなく、新しい人生への招待状なのかもしれない。

それはあまりに眩しい。

けれど、夏の終わりに置き去りにされるはずだった私の体と心を、
不器用なやり方で、あなたは拾い上げてくれた。

潮風が頬に刺さるように痛いのは、きっと沢山の生傷のせいだ。

「次の季節まで、ずっと待っているから」

声にはならなかったあなたの願いは、
離れて行く指先を通じて、確実に届いていた。

次に応えるのは、私の番だ。

 リクを連れて、あの人のメグに会いたい。
リクとメグの相性はどうだろう。
きっと良いに決まっている。
猫は飼い主に似るのだもの
あの人の飼う猫は優しい子だろう。

不揃いな私たちが重なり合う。
そういうあり得ないような未来を信じてみたくなった。

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