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シロクマ文芸部『星を見る』から始まる掌編小説「生きる意味」


この掌編は
#シロクマ文芸部  「星を見る」から始まる掌編小説です
小牧さまよろしくお願いします

見出し絵はとよひこさんのイラストをお借りしました
ありがとうございます


この話の続きです。


星を見る余裕さえなかった
ただ涙がこぼれないように、上を見て歩いていた。
やっぱり、あの時死んでいればよかった。
何で自分だけ、こんなつらいことばかり起きるのだろうか?

産婦人科の医師は、なるべく淡々と話してくれた。
妊娠2カ月半ですが、でいったん止まり、
「あなたは2万人に1人の難病『骨形成不全症』という病気です。
それも、かなり重症な方で、このままだと妊娠中期か後期で。赤ちゃんはおなかの中で死んでしまいます」
「それって、わたしは子供が産めないということですか?」
「早い時点で入院し、整形外科と連携をとって治療すれば、運よく生まれる命もありますが、たいてい肺機能や脳に障害があります」
「今すぐ決めろと言うのも酷なことですから、よくパートナーやご親族とお話しされてから、次のことを決めましょう」
そういって、もう次の人が呼ばれた。

話す相手などもう誰もいない。
勇樹は、小学生を助けるために死んだ
田舎の母は兄さえ側にいればいい。

産まれた時からそうだった
田舎の農家は跡取りばかり大切にして
わたしが東京の大学に進学したいと言ったときも
勿体ないと言って
近くの服飾の専門学校に行かされた。

「これで、手に職もついたでしょう。後は自分の裁量で生きなさい!」
「結婚相手は血筋のいい方を選ぶのよ」
「血筋って、どうすればわかるのか教えてよ!」
「バカね。苗字や産まれた場所でわかるものよ」
そういわれて、もうついてゆけないと思い、専門学校を出たら
勝手にひとりで東京に就職を決めた。

こちらから縁を切ったのだ。両親もホッとしただろう。
兄から時々姪たちのLINEが届く。兄だけは気遣ってくれる。
結局3人とも女だったから、母さんの機嫌が悪いよ。お前がうらやましいよ。という内容だ。
わたしは返信はしない。
兄は既読が付くことで、わたしの安否を確かめているのだ。

ふと、あの日の女性のことを思い出した
まだ1万円も返していない。年金生活だろうに、有難かった。
年配だからくずもちでも買って、明日お礼に行こう。

5階建ての古いマンションの2階で、エレベーターにペットお断りと書いてあった。
玄関のベルを押すと、中からドアが開いて、あの時の女性の顔が見えた。
「いらっしゃい。きっと来ると思っていたわ。お上がりなさいな」
「はい、これお土産です。くずもちですが大丈夫ですか」
「まあ、そんなに気を使わなくてもいいのに」
そういって、この前とは違うジャスミンティーを出してくれた。

「あの、これ。この前お借りしたお金です。ありがとうございました」

「さっき焼いたシフォンケーキよ。召し上がれ。そんなに細いと駄目よ。赤ちゃんが育たないわ」
わたしは、急に子供のように泣き出した。
昨日医者に言われたこと
フィアンセが死んだこと
すべて目の前の女性に話した。
しばらく、何も言わず背中をさすってくれた。

私が泣き止むのを見計らって、
「なら、リク君があなたの大事な息子さんね。弟妹を迎えることだってできるわ。だから生きるのよ。お腹の子のことは早めにしなさいね。田舎のお母様もきっとそう言うわ。自分の産んだ子に先立たれたりしたら、どれだけ自分を責めるか。わたしにも娘がいたのに、3歳の時に病気で死んだのよ。どれだけ自分を責めたか。自分が身代わりになりたいってって叫んだの」

あの日の勇樹の母親の姿を思い出した。母親とはそういうものなのか。
わたしにはまだよくわからないし、もしかしたら一生分からないのかもしれない。でも確かにリクを息子のように可愛がればいいのか。
あの人との忘れ形見だものね。
それなら、まだ私には生きる意味があるのかも?

この人のハーブティーには魔法の秘薬でも入っているのかしら?
気持ちが楽になる。

「また、いつでも来なさい。旦那は掛け麻雀に夢中だから、わたしはいつも一人。でもその方が気楽なの。娘がいなくなったことは何年経っても二人の傷なのよ。生きていればあなたより少し大きいくらいなの。歳を取ってからできた子だったけど、女の子と知ってどうしても産みたかったのよ。
わたしのエゴだったのかもしれないわ」
笑顔が寂しそうに見えたが、また来ますと言ってその日は帰った。


2日後にわたしは産婦人科で手術を受けた。中絶と避妊の手術も受けた。
整形外科でカルシウムをもらい、年寄りみたいに生活上の注意を受けた。
高いヒールの靴は履かない出ください。転倒にはくれぐれも気を付けてください。海藻やキノコ類も食べてください。朝日光に少しだけでも当たってください。いっぱい言われた。

真昼の青空に浮かぶ雲が綺麗だと思えた。
帰ってたらリクと少し寝よう。


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