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下村観山の葉脈、初めての宿坊|②逃した展覧会が、高野山まで連れていってくれた

こんにちは。
宝生 還(ほうしょう めぐる)です。

前回のつづきです。

紀伊國一之宮の
二社を参拝したあと
和歌山駅に戻って
タクシーに乗りました。

向かうのは
この旅のそもそものきっかけ、
下村観山展です。


1. 和歌山県立近代美術館という建築

到着してまず
建物に目を奪われました。

設計は黒川紀章
1994年の開館です。

正面には巨大な灯籠が並び
入口には庇が幾重にも重なっている。

あとで知ったのですが
北側に突き出した大きな屋根は
刀をイメージしたもの。

東側の三段の庇は
和歌山城の天守閣の屋根と
ネガとポジの関係になるように
設計されているのだそうです。

三年坂をはさんだ向かいに
和歌山城があります。

敷地には池と滝が配され
熊野古道をイメージした
散策路がめぐらされている。

黒川の「共生の思想」が
そのまま形になった場所でした。

そして中に入って
もうひとつ良かったこと。

広い。
ゆったりと観覧できました。

東京会場のふだんの混雑を考えると、
和歌山まで来て
大正解だったと思います。

見逃したことが
かえって良かったのかもしれない。

前回そう書きましたが
この時点で
もう確信に変わっていました。


2. 観山の金と、白

下村観山(1873–1930)

紀伊徳川家に代々仕えた
能楽師の家に生まれ

橋本雅邦に学んで
東京美術学校の
第一期生となった人です。

卒業後は同校で教えていましたが
校長の岡倉天心とともに辞職し
日本美術院の設立に参加しました。

狩野派、やまと絵、琳派、中国絵画。
そしてイギリス留学で得た西洋の視野。

そのすべてを
自在に操った画家です。

生誕地・和歌山での回顧展は
1981年以来45年ぶり。

150件を超える
作品が並びました。

《木の間の秋》

1907(明治40)年の作品で
東京国立近代美術館の所蔵です。

図録や写真では
何度も見ていたはずなのに、
実物はまったく別のものでした。

たよやかな葉脈が、金で描かれている。

これは、実物の前でしか
わからないことでした。

その細い金の線が
画面のあちこちで光を拾って
全体を自由に際立たせている。

配置に窮屈さがまるでない。

どこを見てもいいし
どこから見てもいい。

人生でいちど
お目にかかりたかった、
優美で侘しさの漂う作品でした。

《白狐》

そしてもうひとつ。

和歌山会場だけの限定出品で、
2週間しか公開されない作品に
出会うことができました。

《白狐》
1914(大正3)年
東京国立博物館の所蔵です。

木々のあいまに
白い狐が妖艶に光っている。

色調はどこまでも抑えられているのに
その白だけが
神々しいほどの
存在感を放っていました。

会期のこの数日に
居合わせたことが
ただただありがたかったです。

イギリス留学時代の作品や
渋沢栄一をはじめとする
支援者たちとの親交まで。

観山という画家の全体像に
触れることのできる
本当に貴重な展覧会でした。


3. 高野山へ

充分に堪能したあと
バス乗り場を探して
迷子になりかけました。

それでもどうにか
予定していたバスに間に合い
南海の特急「こうや」で極楽橋へ。

極楽橋からは
高野山ケーブルに乗り換えて
高野山駅に到着です。

すれ違った、赤い列車

今回は美術館に寄る旅程だったので
観光列車には乗りませんでした。

けれど途中で
すれ違ったのです。

「GRAN 天空(グラン テンクウ)」

今年4月24日から走り始めた
南海の新しい観光列車です。

これまでの「天空」は
橋本〜極楽橋の山の中だけを
走っていましたが
GRAN 天空は難波から極楽橋まで。

都会の街並みから
真言密教の聖地の空気へ。

その移り変わりを
まるごと味わえる列車になったそうです。

4両編成で
展望を楽しむワイドビューシート
誰でも使えるロビーラウンジ
食事つきのグランシート。

制服はコシノジュンコさんのデザイン。

すれ違っただけでしたが
それは素敵な車両でした。

次の機会には
ぜひ乗ってみたいものです。


4. はじめての宿坊 ── 福智院

高野山では
宿坊に泊まってみたい
と思っていました。

選んだのは、福智院です。

高野山真言宗の別格本山で
今から800年ほど前
覚印阿闍梨が開いたと伝えられています。

ご本尊は愛染明王。

古くから
福徳円満・所願成就の霊仏として
信仰を集めてきた仏様です。

収容人数250名、客室数60室。
高野山の宿坊のなかでも
最大級の規模です。

重森三玲の庭

昭和を代表する作庭家・重森三玲の
庭園が三つあります。

池泉庭園の「登仙庭」
枯山水の「遊仙庭」
そしてご本尊の名を冠した「愛染庭」。

昭和48年
百日あまりをかけて作庭された
重森最晩年の仕事です。

愛染庭は、遺作にあたります。

「完全に善美を尽くすことができた」

そう著書に書き遺したと
伝えられている
その庭が、ここにあります。

はじめての精進料理

予約のときに
「基本の膳」を選びました。

出典:rakuten travel

正直、足りるだろうかと
少し心配していたのですが
お腹いっぱいになりました。

肉も魚も使っていないのに
味わいが豊かで
それでいてどこまでも優しい。

自家製胡麻豆腐や
旬の野菜など
豊かな食材が並びます。

そして、ごはんは
つやつやでした。

ふだん夕食にごはんを食べないわたしが
おかわりをして
二膳たいらげてしまったほどです。

おなかの中から
ゆっくりと
リラックスしていくのがわかりました。

温泉と、写経

福智院は
高野山でただ一軒、
天然温泉のある宿坊です。

単純アルカリ泉。
露天風呂とサウナもあります。

女性は「天女の湯」
男性は「桃源の湯」

旅で疲れた体には
これ以上ないごほうびでした。

そして夜は、写経へ。

宿坊内には見学できるお部屋も

なぞり書きの用紙と
筆ペンが用意されていて
初めての人でも参加しやすい会でした。

墨をする必要も
字の上手下手も、関係ありません。

ただ、なぞる。

それだけのことなのに
だんだんと呼吸が
静かになっていくのがわかりました。

記念に腕輪念珠をいただきました。
瑪瑙とつげ、でしょうか。

思いがけないことで
とても嬉しかったです。


<追記>
福智院での写経は
その場限りの体験でしたが

自分の書いたものを
実際に高野山へ納めてみたい方には
もうひとつ
ご紹介したいものがあります。

「宗祖弘法大師御入定
千二百年御遠忌大法会」の
写経奉納プロジェクトです。

お大師様の御宝号
「南無大師遍照金剛」を七遍浄書し

お大師様御入定の地
御廟前へ奉納していただけます。

申し込むと
写経用紙10枚と返送用封筒、
そして記念の塗香が届きます。

この塗香は
奥之院で実際に使われているものと
同じ香りなのだそうです。

自宅で静かに書いて
郵送するだけ。

高野山まで足を運べない日にも
心だけは先に届けられる。

そんな心地がします。


5. 宿泊される方へ(実用メモ)

はじめての宿坊・福智院で
知っておいてよかったことを
書き留めておきます。

門限は午後9時
翌朝6時半まで門が閉まります。
夕食後に出かける場合は、
フロントに伝えておきましょう。

なお、開門が6時半のため、
奥之院で朝6時から行われる
生身供に立ち会うことはできません。
公式サイトにも明記されています。

朝の勤行は午前6時から、約40分
お経、お話、本堂内の見学があります。
浴衣での参加はできません。
写真撮影も禁止です。

チェックアウトは午前9時

温泉の時間
内風呂は午後3時から翌朝9時まで。
露天風呂とサウナは午後8時まで。
※大浴場にタオルの用意はなく
お部屋から持っていくスタイルです。

お部屋は内鍵
外から施錠はできないので
貴重品は室内の金庫で管理します。

洗面とトイレは、共用が基本
個人的な感想ですが
まったく不便はありませんでした。
館内図を見ると、
洗面所とお手洗いが
各所に細やかに配置されています。
そのおかげで混み合うこともなかったです。

アメニティ
シャンプー、石鹸、ドライヤーは
浴場に備え付けです。
歯ブラシはフロントでいただけます。

お部屋に鏡台があります
支度の場所に困りません。

食事は浴衣のままで大丈夫です
着替える必要はありません。
(朝の勤行と写経体験は
浴衣での参加ができないので、
そこだけご注意を)

木造建築の個室
夜は静かに過ごすのが作法です。
とはいえ、
わたしの滞在中は隣室の音も気にならず
驚くほど静かでした。
みなさんが心得ているのだと思います。

売店
夕方5時半〜8時、
翌朝7時〜9時。
お土産品などがあります。

コーヒーコーナー
朝7時から9時まで(当時1杯500円)。

体験は事前予約制
写経は午後8時から写経室で(腕輪念珠付き)。
お酒を飲んだ方と浴衣での参加はできません。
ほかに写仏、腕輪念珠づくり、
吉祥宝来(切り絵)などもあります。


つづきます

夜の高野山は
驚くほど静かでした。

そして翌朝。

午前6時の勤行から
一日が始まります。

奥之院にも
壇上伽藍にも
まだお参りしていません。

続きは、次回の記事に。


みなさまの道行きにも
良い巡り合わせがありますように。

最後まで
読んでくださり

ありがとうございました。

© HOSHO MEGURU
※画像・文章の転用はご遠慮ください


この記事で訪れた場所

和歌山県立近代美術館
和歌山市吹上1-4-14

下村観山展(会期は終了しています)
2026年5月30日〜7月20日

南海電鉄「GRAN 天空」※参考まで
難波駅〜極楽橋駅

高野山温泉 福智院
和歌山県伊都郡高野町高野山657

※宿坊の時間や体験の内容は
変わることがあります。
ご予約時に最新の案内をご確認ください。

©️福智院
©️福智院
©️福智院
©️福智院
©️福智院

旅程前半

※2026年7月の旅程です。公共交通機関の正確な時刻は公式サイトなどでご確認ください。
※誤:南海りんかいバス→正:南海りんかんバス


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