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Born to be fussy

コロナ明け、恒例のプライベートジェットツアーが久しぶりに入った。

F夫妻は友人夫妻と東京では1台のハイヤーで移動していたが、ペースが違うため、関西では別行動することになった。
東京パートを担当したガイドさんはかなり疲弊していた。話を聞くと、やはり要求も高かったようだ。

私はあたかも京都在住のような顔をして京都駅でF夫妻を出迎えた。

到着早々、ご主人から

「明日の昼食はこの街でベストレストランを予約してくれ。」

と言われた。
「ベスト」って難しい。それって人によるから。

神戸牛の鉄板焼きをお勧めし、旅行会社にレストランの予約をお願いした。できたばかりの祇園のモーリヤを予約してくれた。

翌朝、ハイヤーの車内でご主人が言った。
「今日のレストランはベストなんだろうね?」
「そう、思っております。」
「そうでなければ、今日は歩いて帰ってもらうから」

ひぇー(怖!)

奥様がその後を続ける。
「まや、主人には胸にタトゥーが入っているの。」

は?タトゥー?なんの話?

「Born to be fussyってね」

え?
あ!これって、もしかして助け船?

私は、うふふと笑い奥様の方を振り返る。

ランチは、2名で予約していた。コロナ明けでレストランはガラガラ。
ご主人は私も同席するように促した。

「こちらはお二人の予約になっております。高級なレストランですから。」
「このレストランがベストかどうか分からないから、君には同席してもらわないとね。」
口調や顔つきはかなり厳しい。でも、椅子を引いてくれる様子から紳士だと分かる。

店内は私たち3名だけだったので、シェフが付きっきりで料理をしてくれた。ご主人は、何も見逃さない目つきでシェフの一挙手一投足を見ていた。やがて、その厳しい目つきが、好奇心に満ちた顔つきに変わっていった。

ステーキが焼きあがる。

「塩コショウもわさび醤油も良いですが、私はわさび塩がおススメです。」とその頃、私がハマっていた食べ方をご案内した。
隣の奥様に、まやがこう言っている、と申し送りをする。

すると、友人夫妻から電話があった。

「今、街一番の素晴らしいレストランに来ている。僕のガイドが予約してくれたんだ。今すぐ来てここで君たちも昼食を食べた方がいい。」

ステーキを食べ終わるころ、友人ご夫妻とガイドさんが到着した。
ガイドさんは、え?まやちゃん一緒に食べているの?って顔をしたので、目くばせしたら、そのガイドさんも自分のお客様の横に座った。

ご主人は、料理がどんなに丁寧に、目の前で完璧に調理されたかを友人につぶさに説明した。それを聞くだけで、レストランを気に入ったことが分かった。

それからのツアーはとても楽になった。楽っていう言い方は変ね。張り詰めた空気が少し緩んだ。

翌日、予定を全部キャンセルしてミホミュージアムに行きたいと言われた。あの周辺は昼食場所が美術館の中にしかない。入り口の建物にあるカフェで、無農薬のおむすびとお漬物のセットを提案した。

あの気難しいと思っていたご主人が文句も言わずに全部完食した。そして、食材の産地まで質問し、ヘルシーできちんとした食事だとコメントした。
笑顔じゃないけど、これって褒め言葉だよね?

昼食後、歩いて本館に向かった。歩きながらご主人にI.M.Peiは中国人か聞かれた。
「中国系だったと思います。でも、メインランドチャイナではなくベトナムだったかな?」
ご主人は気になったらしく、ネットが繋がった瞬間、携帯を見ながら言った。
「中国人だった!」
「そうでしたか。すみません、私の記憶違いでしたね。」

京都市内に戻り私の好きなお店にお連れし、奥様は買い物を楽しんだ。

夜、芸舞妓のディナーが予定されていたが、お二人は乗り気ではない。奥様は、女性の自分が行って楽しめるのか聞いてくる。奥様の「言葉にしない誤解」を解くため、京都の芸舞妓文化を丁寧に説明し、やっと行く気になってくれた。そしてディナーには、その日の装いに合わせて、その日買ったばかりの絞りのバッグを持ってきた。

舞を見た後、ご主人は芸妓さんにありきたりな質問をするのではなく、地方さんに三味線について質問し、もう一曲リクエストした。それを見ていた先輩ガイドのEvaさんは「まやさんのお客様とても風流ね」と言った。確かに、曲をリクエストするようなお客様は過去一度もいない。

出発日、プライベートジェットのターミナルにお送りした。
奥様からは、まやをスーツケースに入れて連れていきたい、と言われた。
封筒に入ったチップをもらったのに、ご主人はあまった1万円札を私のカバンに入れた。

なんで、この夫妻にこんなに気に入られたんだろう。奥様が助け船を出してくれた時に、それに気が付いて笑いとばしたからだと思う。

旅行会社の社長には毎日、行った場所やお客様の様子を報告していた。I.M.Peiの国籍を間違えた話をしたら、「あのお客様、とても厳しい方なので、他のガイドさんだったらクレームになってたと思います。」

それじゃ、モーリヤのお陰かな。
やっぱり胃袋をつかむのが一番ってこと!

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