残された右手——奈良・新薬師寺『盗まれた香薬師像』が語るもの
ふだんテレビはほとんど見ない。
けれど「国宝」「奈良」「京都」「仏像」「エジプト」といった言葉が並ぶ番組だけは、自動録画にしている。気づけば、興味だけが先走って消化できない積読本のように録画でいっぱいになっていた。
その中で面白かった番組「名宝消失」。
https://www.nhk.jp/p/ts/2ZRXNQKVGM/episode/te/3MJL6KP6V9/
副題は「消えた国宝級仏像・右手発見の謎」。画面に映ったのは、奈良・奈良・新薬師寺の「香薬師像」だった。
新薬師寺は、奈良県奈良市高畑町にある華厳宗の寺院。山号は日輪山。本尊は薬師如来。開基(創立者)は光明皇后または聖武天皇と伝える。
奈良時代には南都十大寺の1つに数えられ、平安時代以降は規模縮小したが、国宝の本堂や奈良時代の十二神将像をはじめ、多くの文化財を伝えている。
新薬師寺と言えば、みうらじゅんが仏像メリーゴーランドと呼んだように、中央の薬師如来を十二神将が円を描くように囲む、独特の配置。
初めて見たときは「囲まれてる……!」と思わず笑ってしまったけれど、十二神将の表情の気迫と、エキゾチックで柔和な薬師如来の表情との対比が絶妙な世界を作っている。
香薬師像と消えた右手

香薬師像は、その新薬師寺の香薬師堂に安置されていた仏。奈良時代の作で、明治時代は国宝指定されていた。
銅で作られているのだが、金の塗装がされていたことで、黄金仏、と呼ばれていた。
おかげで明治に2度盗難に遭い、昭和18年、像は3度目の盗難に遭い、とうとう所在不明となってしまった。
残されたのは、大正期に身代わりとして作られた「お身代わり像」と、「右手だけが発見された」という記録。
番組は、その右手がどのタイミングで本体と切り離され、どう発見され、いま奈良国立博物館で保管されていることをたどっていた。
木箱に入っているのは、ただ一つの右手。
本体のない右手。
優雅な指先から、まだ何かを救おうとしている力を感じた。
欠けたまま祈るということ
映像を見ながら思った。
本体を失った右手を、これまでどんな人がどんな思いで見つめてきたのだろう。
完全であるよりも、欠けた姿のほうが、人の心を動かすことがある。
本体のいない右手が、80年以上の時を経てなお、この像の存在感を伝えている気がした。
いま、奈良国立博物館で
奈良国立博物館では、現在その右手が展示されている。
本体はまだ見つかっていない。
見つかったら即刻国宝指定間違いない、という。
右手だけが残され、本体を待ち続けている。
いつか再び、ひとつの像として戻る日を想像してみた。
本体のない右手が、それでも人々の心に何かを語りかける。その穏やかな力を、香薬師像の右手を画面越しにながめた。
ちなみに、この右手を見に行く予定はまだ立っていない。
でも、国宝リストを作り終えたら、きっと行くと思う。(宣言したからには、作らなきゃ……)
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