日本の小電力無線の民
電波法施行規則第6条を読みながら
序 小さく声を出す国
電波法施行規則第6条は、読む者によっては例外規定の並びに見える。免許を要しない無線局。著しく微弱な無線局。市民ラジオ。コードレス電話。特定小電力無線局。小電力データ通信システム。狭域通信。高度道路交通システム。
だが、この条文を少し斜めから読むと、そこには小さな無線の民俗誌が現れる。
彼らは、大放送局のように山の上から国中へ声を投げない。携帯電話網のように基地局の帝国を築くわけでもない。彼らはもっと小さい。机の上、病室、舞台、倉庫、山道、厨房、車輪、玄関、トイレの天井、自動ドアの上、子ども部屋、雪山の胸元に棲む。
ある者は声を運び、ある者は命令を運ぶ。
ある者は名札を読み、ある者は気配を読む。
ある者は雪の下の拍動を探し、ある者はタイヤの息切れを告げる。
ある者は「ピンポーン」と店員を呼び、ある者は「開け」と車に命じる。
この随筆では、電波法施行規則第6条を戸籍簿として読みながら、日本の小電力無線の民の歴史、特徴、棲み処をたどっていく。
第1部 微弱と古い声の民
微弱の民 3mの影
第6条第1項第1号には、著しく微弱な電波を発する民がいる。
この民は、周波数の村名よりも、声の小ささによって戸籍を得る。無線設備から3m離れた場所で測った電界強度が、定められた許容値の内側に収まるかどうか。そこが、この民の門である。
この門は、技適の札とは別の門である。弱いと名乗れば済む話ではない。弱いことを、告示に従った測定で示す必要がある。微弱の民は、自由な民である前に、測られる民である。
彼らは、家屋、車庫、机上、玩具箱、機械の腹に棲む。押せば光る。押せば鳴る。押せば開く。押せば知らせる。人間の手が届かない少し先へ、短い命令だけを送る。
315MHzの小さな合図
315MHzは、世界を結ぶ広い通信路ではない。遠方の声を運ぶ場所でもない。だが、車のキー、簡易リモコン、センサー、チャイム、小型ギミック、ドア開閉器のような小さな機器が、この周波数の周辺に集まっている。
315MHzの面白さは、同じ土地に異なる戸籍の住人がいることだ。
一方には、特定小電力の住人がいる。315MHz帯テレメーター、テレコントロール、データ伝送の民である。彼らは用途と技術基準の門をくぐり、技適の札を持って村に入る。
もう一方には、微弱電波の住人がいる。簡易リモコン、玩具、小型ギミック、ドア開閉器、簡易チャイム、組込み用の小さな送信モジュール。彼らは用途の戸籍ではなく、測定された弱さによって村に入る。
外から見れば、どちらも似たリモコンに見える。押せば開き、押せば閉まり、押せば知らせる。だが、制度の目から見れば、彼らは別の門を通ってきた住人である。仕事が似ていても、戸籍は違う。ここに315MHzの小さな民俗がある。
押す。
鳴る。
光る。
安心する。
315MHzの微弱の民は、私的な命令を公共の電波空間へそっと出す。目立たず、短く、弱く、毎日のように働く。彼らは、金属の鍵を見えない鍵へ変えた民である。
ガントラの民 玩具トランシーバー
微弱の民には、子どもの手に握られた者もいる。玩具トランシーバー、すなわちガントラの民である。
彼らは、業務のために置かれた無線機ではなかった。消防、警察、鉄道、船舶のような大きな制度の声でもなかった。子どもの部屋、庭、団地の階段、空き地、秘密基地ごっこ、スパイごっこ、戦隊ごっこ、夏休みの電子工作。そこに棲む、小さな声の民であった。
ガントラの多くは、27MHz帯AMの民として始まった。初期の玩具トランシーバーには、超再生受信機と簡素な送信回路が用いられた。27MHz帯、AM、超再生。これらは、子どもが最初に触れる無線の身体であった。
日本のガントラは、よく飛ぶ無線機ではなかった。雑音も多く、感度も不安定で、筐体は玩具の軽さを持っていた。だが、子どもにとっては、それで十分だった。
「聞こえる?」
「こちら秘密基地」
「応答せよ」
「いま2階にいる」
言葉は短い。だが、その短さの中に、距離と想像がある。
ガントラの民は、通信を手段にする前の無線である。通信そのものを遊びにする民である。特小トランシーバーが後に近距離連絡の実用品として広がる前に、子どもたちは、微弱な玩具の中で、すでに電波の不思議を味わっていた。
雪の下の声を聞く民 457kHz雪崩ビーコン
微弱の民には、雪の下から聞こえる者もいる。457kHzの雪崩ビーコンである。
雪崩ビーコンは、雪崩に巻き込まれて雪中に埋没した人を、同行者が探すための携帯型の送受信機である。雪崩トランシーバーとも呼ばれる。山に入る者はこれを身体に装着し、通常時には送信モードにして歩く。事故が起これば、埋まらなかった者が受信モードへ切り替え、埋没者のビーコンが出す457kHzの信号を探す。
これはGPSのように座標を得る装置ではない。携帯電話のように基地局へ通報する装置でもない。埋没者の機器が低い拍動を発し、捜索者の機器がその強さと向きを読んで近づいていく。
457kHzの信号は、言葉を運ばない。氏名も、座標も、遭難時刻も載せない。搬送波が短く灯り、消え、また灯る。捜索者は直進する電波を追うのではない。埋没者の周囲にできる、曲がった磁界の地図を読む。
制度上、この民は第6条第1項第1号の「3mの影」に近い場所へ置くのがよい。ただし、日本の測定法に従って3m電界強度を確認した公開情報は見つけにくい。ここでは「第6条第1項第1号の微弱無線局として扱われるべき性格を持つ」と書き、該当性は要確認としておく。
457kHzは、数字であり、規格であり、磁界であり、訓練であり、制度である。だが、それはまた、仲間を雪の下から呼び戻すために共有された作法でもある。
周波数と出力の小戸籍 微弱の民 3mの影
・制度上の位置:第6条第1項第1号
・法律上の根拠:電波法第4条第1項第1号
・省令上の根拠:電波法施行規則第6条第1項第1号
・測定方法の根拠:昭和63年郵政省告示第127号
・告示名:発射する電波が著しく微弱な無線局の電界強度の測定方法
・告示URL:https://www.tele.soumu.go.jp/horei/law_honbun/72008000.html
・戸籍の入り方:周波数や用途ではなく、告示に従って測定された電界強度で入る
・315MHzの近縁:リモコン、センサー、車のキー、小型送信モジュール
・ガントラ:主に27MHz帯AM、超再生受信機、玩具トランシーバー
・雪崩ビーコン:457kHz、微弱無線局該当性は要確認
・民俗的位置:押す、鳴る、話す、探す、という生活の小さな儀礼を支える微声の民
微弱の民 500mの遠い霧
第6条第1項第2号には、500m地点の電界強度と告示指定によって扱われる、もう1つの微弱の民がいる。3mの影が家屋内や机上の小さな気配であるなら、こちらは、もう少し古い制度の霧をまとった民である。
遠隔操縦の民 27MHzラジコン
この民の中で、とくに濃い民俗を持つのが、27MHz帯ラジコン用発振器である。彼らは声を運ばなかった。機械を動かした。車を走らせ、船を進ませ、飛行機を旋回させた。27MHz帯の遠隔操縦の民である。
彼らの棲み処は、27.120MHz ±162.72kHzという帯域の村として現れる。個別の番地を1つずつ列挙するのではなく、まず村の境界を描く。日本の27MHzラジコンは、そのような帯域の村として始まった。
その村の中に、旧1〜6バンドの番地が置かれた。
・旧1バンド:26.995MHz
・旧2バンド:27.045MHz
・旧3バンド:27.095MHz
・旧4バンド:27.145MHz
・旧5バンド:27.195MHz
・旧6バンド:27.255MHz
やがて、ラジコン人口が増えると、村には区画整理が必要になった。旧6バンドだけでは足りない。そこで、01〜12バンドの新しい番地が整えられた。
ナロー化とは、村に細い路地を増やす作業であった。だが、路地を増やすには、送信機の声も細く整えなければならない。発振器の安定度、占有帯域、隣接バンドへの漏れ、受信機の選択度。それらは、抽象的な技術条件ではなく、模型を安全に動かすための共同体の作法であった。
模型店でクリスタルを選ぶ指がある。送信機と受信機の水晶を対にする作法がある。「今日は何バンドですか」と尋ねる声がある。同じバンドの者同士が順番を譲り合う習慣がある。
27MHzの遠隔操縦の民は、声を発しなかった。
しかし、彼らの沈黙の命令は、車を走らせ、船を進ませ、飛行機を空へ送った。
周波数と出力の小戸籍 微弱の民 500mの遠い霧
・制度上の位置:第6条第1項第2号
・性格:告示指定の著しく微弱な無線局
・代表的な民:27MHz帯ラジコン用発振器
・中心的な帯域:27.120MHz ±162.72kHz
・旧6バンド:26.995MHz、27.045MHz、27.095MHz、27.145MHz、27.195MHz、27.255MHz
・用途:模型自動車、模型船、模型飛行機などの遠隔操縦
・民俗的位置:声を持たず、命令だけを飛ばす遠隔操縦の民
測るための民 測定用小型発振器
第6条第1項第3号には、測定用小型発振器の民がいる。
この民は、会話をしない。呼び出しもしない。物の名札も読まない。彼らは、測るために鳴る。受信機の感度を調べ、回路の応答を確かめ、工場や研究室や保守現場で、電波の物差しとなる。
通信の民が手紙を運ぶ者なら、測定用小型発振器は音叉である。自分が主役になることはない。だが、ほかの無線の民が正しく歌えているかを確かめるために、静かに基準音を出す。
周波数と出力の小戸籍 測るための民
・制度上の位置:第6条第1項第3号
・用途:測定用小型発振器
・周波数:測定対象に依存
・民俗的位置:通信ではなく試験・測定のために鳴る音叉の民
27MHzの町角 市民ラジオの民
第6条第3項には、市民ラジオの民がいる。CB無線である。
市民ラジオの民は、自由の民として語られる。免許はいらない。無線従事者資格もいらない。買って、持って、山へ行き、海辺へ行き、イベント会場で声を交わすことができる。
しかし、日本の市民ラジオの自由は、荒野の自由ではなかった。そこには、周波数の柵があり、出力の柵があり、電波型式の柵があり、無線機の構造にまで入り込む柵があった。
規制された自由の民
制度上、この民は26.9〜27.2MHz帯に住み、空中線電力は0.5W以下とされた。使える周波数は8波である。
・1ch:26.968MHz
・2ch:26.976MHz
・3ch:27.040MHz
・4ch:27.080MHz
・5ch:27.088MHz
・6ch:27.112MHz
・7ch:27.120MHz
・8ch:27.144MHz
電波型式はA3E、つまりAM音声である。通信方式は単信方式。話す者と聞く者が同時に叫ぶのではなく、押して話し、離して聞く。市民ラジオの会話には、送信と受信が交互に来る呼吸があった。
飛び飛び8波の民
市民ラジオの8波は、連続した8チャンネルではない。
26.976MHzの次は26.984MHzではなく、27.040MHzへ飛ぶ。27.088MHzの次も27.096MHzではなく、27.112MHzへ飛ぶ。
この飛び飛びの並びは、偶然の乱れではない。27MHz帯の先住民たちとの折り合いの跡である。
1961年、27Mc帯の簡易無線局として市民ラジオ制度が発足した。だが、その時点の市民ラジオは、今日の感覚でいう「8ch全部入り、0.5W、誰でも買って使えるCB機」ではなかった。27MHz帯の中には、漁業無線、海上通信、簡易無線、無線操縦がすでに住んでいた。そこへ、市民の声を運ぶA3音声の小さな番地が置かれたのである。
市民ラジオの8チャンネルは、広い空き地に一列で建てられた住宅ではない。27MHz帯の既存集落の中で、声の民に許された番地を拾い集めたものである。
機械に刻まれた作法
日本のCB機には、機械としての作法も刻まれていた。水晶発振方式を用いること。筐体は一体型で、容易に開けられないこと。アンテナは2m以内のホイップ型であること。外部給電線や接地装置を用いないこと。
持ち主は免許を持たない。
しかし、機械は制度の札を持つ。
人を一人ずつ縛るのではなく、機械の内側に作法を入れる。
ここに、日本の市民ラジオの独特さがある。
市民ラジオの民は、近くの仲間と連絡する道具であり、遠くの声を待つ遊びでもあった。
0.5Wでありながら、ときに空を渡る。
27MHzの町角で、彼らはEスポに胸を躍らせ、山頂から呼び、海辺で耳を澄ませた。
周波数と出力の小戸籍 市民ラジオの民
・制度上の位置:第6条第3項
・呼び名:市民ラジオ、CB無線
・周波数帯:26.9〜27.2MHz帯
・空中線電力:0.5W以下
・通信方式:単信方式
・電波型式:A3E
・周波数:26.968MHz、26.976MHz、27.040MHz、27.080MHz、27.088MHz、27.112MHz、27.120MHz、27.144MHz
・機器構造:水晶発振方式、一体型筐体、2m以内ホイップアンテナ
・禁止事項:外部給電線、接地装置
・民俗的位置:自由を機械の作法に包んだ、27MHz帯の市民の声
第2部 家屋と構内の電話民
家屋の電話民 アナログコードレス電話
第6条第4項第1号には、コードレス電話の無線局がいる。家屋の電話民である。
この民を理解するには、まず電話がかつて「場所」に結びついていたことを思い出さなければならない。電話は玄関にあり、茶の間にあり、台所にあり、事務室の机にあった。電話をかけること、電話を受けることは、その場所へ行くことでもあった。
コードレス電話は、この関係を変えた。受話器は電話線から解かれ、人は家屋内を移動しながら通話できるようになった。家の中に、親機と子機を結ぶ小さな通信空間が生まれたのである。
1985年の端末機器開放は、この民の背景であった。電話機は、借りるものから選んで買うものへ変わった。留守番電話、FAX電話、親子電話、そしてコードレス電話は、新しい家庭用電話機市場の中で広がった。
ここでいうコードレス電話は、現在の1.9GHz帯デジタルコードレス電話ではない。第6条第4項第1号に定められる、253.8625〜254.95MHzおよび380.2125〜381.3MHzを使用し、空中線電力0.01W以下の旧来型コードレス電話である。説明上、ここではアナログコードレス電話と呼ぶ。
この民の声はアナログであった。250MHz帯・380MHz帯の音声は、周波数と変調方式が合えば、広帯域受信機で受信され得た。ワイドバンドレシーバーの世界では、コードレス電話は受信対象の1つとして扱われていた。そこには、家の中の電話が、電波の縁側から外へ漏れるという不安があった。
もちろん、聞こえることと、内容を漏らし、利用することは別である。だが、利用者の安心という点では、法的禁止があることと、聞かれにくいことは同じではない。アナログコードレス電話には、「聞かれるかもしれない電話」という影がつきまとった。
やがて、この影はデジタルコードレス化を後押しした。さらに大きかったのは、固定電話そのものの後退である。携帯電話が普及し、スマートフォンが個人の主要な通信端末になると、「家の電話」を家の中で自由にすることの価値は小さくなった。電話は家の設備から、個人の持ち物へ移っていったのである。
それでも、古いアナログコードレス電話の民は、完全な伝説にはなっていない。古い家、古い事務所、買い替えられずに残った親機と子機。そこでは、極まれに、生き残りの声を聞くことがある。250MHz帯と380MHz帯のかすかなFM音声は、昭和末期から平成初期の家屋の声である。
周波数と出力の小戸籍 アナログコードレス電話
・制度上の位置:第6条第4項第1号
・用途:コードレス電話の無線局
・周波数:253.8625〜254.95MHz
・周波数:380.2125〜381.3MHz
・空中線電力:0.01W以下
・標準規格:RCR STD-13
・主な普及期:1980年代後半〜1990年代
・技術的影:アナログFM音声のため、広帯域受信機で受信され得た
・現在の姿:新規出荷ベースではほぼ終息。まれに残存機の声が聞こえる
・後継:1.9GHz帯デジタルコードレス電話、DECT、sXGP、自営系構内通信
デジタルの家屋民 デジタルコードレス電話
第6条第4項第5号には、デジタルコードレス電話の民がいる。
アナログコードレス電話が、電話を場所から解いた民であるなら、デジタルコードレス電話は、その声を暗号と時分割の作法の中へ移した民である。家の中、事務所、病院、劇場、倉庫、店舗。彼らは、固定電話の子機であり、構内内線であり、業務用端末でもある。
1.9GHz帯のDECT、そしてsXGPの民は、アナログの家屋民の後継であると同時に、構内PHSの遺産を受け取る若い民でもある。電話線から解かれた声は、やがてIPネットワーク、PBX、業務アプリ、ナースコール連携へとつながっていく。
周波数と出力の小戸籍 デジタルコードレス電話
・制度上の位置:第6条第4項第5号
・主な棲み処:1.9GHz帯
・DECT系:1893.5〜1906.1MHz帯
・sXGP系:1888.5〜1916.6MHz周辺
・出力:方式別に要確認
・標準規格:ARIB STD-T101、ARIB STD-T118
・民俗的位置:家屋の電話をデジタル化し、構内通信へ広げた1.9GHz帯の民
構内の末裔 PHSの陸上移動局
第6条第4項第6号には、PHSの陸上移動局の民がいる。1.9GHz帯に棲む、構内の末裔である。
PHSは、携帯電話の廉価版としてだけ見ると輪郭を誤る。公衆PHS、構内PHS、家庭用コードレス電話、端末間直接通信、データ通信、テレメタリングなど、いくつもの顔を持っていた。携帯電話、コードレス電話、構内内線、小電力無線の交差点に立つ制度的存在であった。
1990年代後半、PHSは「ピッチ」と呼ばれ、若者のポケットに入った。小さく、軽く、音声がよく、料金も比較的安い。携帯電話がまだ高く、スマートフォンもWi-Fiも日常化していなかった時代、PHSは身近な通信手段として輝いた。
しかし、この民の小ささは弱点でもあった。1つの基地局が覆う範囲は狭く、郊外や山間部、高速移動では携帯電話に劣った。携帯電話が安くなり、3G、LTE、スマートフォンの時代へ進むと、公衆PHSの居場所は急速に狭くなった。
だが、PHSの民はそこで完全に消えたわけではない。公衆網のPHSが終わったあとも、構内PHSは病院、企業、工場、大学、介護施設などに残った。
とくに病院は、PHS晩年の王国であった。病院におけるPHSは、携帯電話の代用品ではなく、院内の神経だった。医師を呼ぶ。看護師を呼ぶ。ナースコールと連携する。内線番号で人を探す。検査室、病棟、薬剤部、事務、当直室を結ぶ。緊急呼出しを行う。夜勤帯の少人数運用を支える。
公衆通信市場では弱点だった「狭さ」が、病院や企業構内では秩序になった。どこまでも広くつながることより、施設の内側で、管理された相手に、確実に内線が届くことが大切だったのである。
PHSの遺産は、1つの後継者には渡らなかった。公衆通話は4G/5Gスマートフォンへ、構内内線はWi-Fi内線、IP-PBX、クラウドPBX、DECT、sXGPへ、病院PHSは医療用スマートフォン、ナースコール連携アプリ、院内VoIPへ分かれていった。
公衆PHSは終わった。
だが、構内PHSの記憶はまだ消えていない。
ナースステーションの充電台で、小さなランプを点滅させる端末。内線番号で呼ばれる医師。夜勤の看護師の胸ポケット。そこに、1.9GHz帯の小さな通信史が残っている。
周波数と出力の小戸籍 PHSの陸上移動局
・制度上の位置:第6条第4項第6号
・用途:PHSの陸上移動局
・主な呼び名:PHS、構内PHS、自営PHS
・周波数:1.9GHz帯
・代表的な周波数範囲:1893.5〜1919.6MHz付近
・空中線電力:10mW以下級
・標準規格:RCR STD-28
・代表的な棲み処:病院、企業、大学、工場、介護施設、構内内線
・後継:sXGP、DECT、Wi-Fi内線、IP-PBX、クラウドPBX、医療用スマートフォン、院内VoIP
・民俗的位置:若者の通信から病院の神経へ移り、最後は構内通信の老兵となった1.9GHz帯の小電力の民
第3部 特定小電力13氏族
特定小電力の総村 免許主義と微弱のあいだ
第6条第4項第2号には、特定小電力無線局の民がいる。
本稿では、この大きな村を13氏族に分けて読む。
彼らは、微弱の民とは違う。微弱の民は、まず声の小ささによって戸籍を得る。3m地点の電界強度、あるいは500m地点の電界強度。測って弱ければ、用途の名をあまり問われずに暮らせる。
一方、特定小電力の民は、弱さだけで戸籍を得る民ではない。用途を持つ。周波数を持つ。電波型式を持つ。空中線電力の上限を持つ。そして、技術基準に適合した機械として市場に現れる。
この村は、電波法の免許主義を捨てた場所ではない。免許主義の原則を保ちながら、個々の利用者を一人ずつ免許する代わりに、機械の側へ規律を埋め込んだ村である。利用者は免許申請をしないが、使う機械は制度の札を持つ。
特定小電力の民は、微弱の民が住めなくなった土地と、免許局にするほどではない土地のあいだに作られた村である。
書記の民は、メーターと機械の状態を書く。
病室の波形民は、身体の信号を運ぶ。
体内の使者は、人体の内側から通信する。
港とコンテナの民は、国際物流の札を読む。
呼び出しの民は、ピンポーンと人を呼ぶ。
声を運ぶ小さな無線民は、舞台や講堂の声を渡す。
耳元へ返す民は、聞こえを助ける。
案内する声は、移動と理解を助ける。
無線電話用の民は、近くの仲間と短く話す。
名札を読む民は、物の名前を尋ねる。
高い岩場の目は、ミリ波で距離を見る。
気配を読む民は、人や物の動きを反射で読む。
山野の通報民は、人と動物と地域の気配を知らせる。
特定小電力の総村は、自由の村である。
ただし、その自由は、法令と告示と技適の札の内側にある。
周波数と出力の小戸籍 特定小電力の総村
・制度上の位置:第6条第4項第2号
・法律上の根拠:電波法第4条第1項第3号
・省令上の根拠:電波法施行規則第6条第4項第2号
・告示上の根拠:平成元年郵政省告示第42号
・告示名:特定小電力無線局の用途、電波の型式及び周波数並びに空中線電力を定める件
・告示URL:https://www.tele.soumu.go.jp/horei/law_honbun/72008500.html
・制度の骨格:小電力、特定用途、技術基準適合設備
・規制の重心:利用者ごとの個別免許ではなく、用途・周波数・出力・機器認証による統治
・民俗的位置:人を一人ずつ免許するかわりに、機械に作法を刻んだ小電力無線の総村
1 書記の民 テレメーター、テレコントロール、データ伝送
第6条第4項第2号(1)には、テレメーター、テレコントロール、データ伝送の民がいる。書記の民である。
彼らは声を運ばない。数字を運ぶ。状態を運ぶ。開閉を運ぶ。水位、温度、湿度、使用量、警報、ボタンの押下、設備の状態。人間が常に見に行くには小さすぎる場所、遠すぎる場所、面倒すぎる場所に、彼らは小さな筆記係として置かれる。
この民は周波数の村をいくつも持つ。315MHzの小さな合図、426MHz・429MHzの構内連絡、920MHz帯のセンサー網、1200MHz帯の古い枝。用途は広い。農地、工場、倉庫、住宅、メーター、設備監視、呼出ボタン、車両の情報。どれも、短いデータを確実に渡すことを仕事にしている。
車輪と鍵の民 TPMS/RKE
この書記の民の中に、車輪と鍵の民がいる。TPMSとRKEである。
TPMSは、タイヤの内側から空気圧を告げる。RKEは、手のひらの鍵から車へ開閉の命令を送る。一方は車輪の身体情報であり、もう一方は鍵の合図である。
「空気圧が下がった」
「温度が変わった」
「この車輪はここにいる」
「開け」
「閉めよ」
「応答せよ」
315MHzの自動車小声の民に並んで、433MHz帯にも国際整合のための通路が開かれた。これは315MHzの家から433MHzへ完全に引っ越す話ではない。315MHzの家は残り、その横に、国際流通に合わせた433MHzの別宅が建つのである。
文字を中継する民 MeshtasticとLoRaメッシュ
書記の民の新しい顔として、LoRaメッシュの民がいる。
この民は、声を運ぶ民ではない。ボタンを押して「どうぞ」と話す無線電話の民でもない。スマートフォンやPCで書かれた短い文字を、小さなLoRa端末へ渡し、その端末が920MHz帯の空中へ送り出す。届いた端末は、必要に応じてまた次の端末へ中継する。
人間はスマホで書く。端末はLoRaで送る。空中では、端末同士が小さなパケットを渡し合う。通信は、声の瞬間から、文字の痕跡へ移る。聞き逃した声ではなく、あとから読める記録になる。一対一の会話だけでなく、端末の数だけ育つ網になる。
ただし、この民も特定小電力の総村にいる。日本で使うなら、技適の札を持つ機器を、JP設定と認証条件の内側で使う必要がある。便利だからといって、周波数、出力、アンテナ条件を勝手に広げてはいけない。
山道、キャンプ地、河川敷、離島、広いイベント会場、防災訓練。携帯電話の圏外で、あるいは通信網に頼りきらない場所で、この民は小さな文字の網を張る。
周波数と出力の小戸籍 書記の民
・制度上の位置:第6条第4項第2号(1)
・用途:テレメーター、テレコントロール、データ伝送
・315MHz帯:312〜315.25MHz周辺
・426MHz帯:426.025〜426.1375MHz
・429MHz帯:429.175〜429.7375MHz
・920MHz帯:915.9〜929.7MHz周辺
・1200MHz帯:1216MHz帯、1252MHz帯
・TPMS/RKE:315MHz帯、433MHz帯
・433MHz帯TPMS/RKE:433.795MHz超〜434.045MHz以下、要確認
・Meshtastic/LoRaメッシュ:920MHz帯データ伝送の枝として扱う
・出力:0.025mW級〜1W級まで帯域・方式別
・標準規格:ARIB STD-T67、ARIB STD-T108、ARIB STD-T93、ARIB STD-T124など
・民俗的位置:人が見に行かない場所の状態や短い文字を、小さな情報として書き送る民
2 病室の波形民 医療用テレメーター
第6条第4項第2号(2)には、医療用テレメーターの民がいる。病室の波形民である。
彼らは、患者の身体から、心電図や生体信号を運ぶ。病室のベッドサイドから、ナースステーションへ。人間の身体の揺れを、電波の細い道に乗せて送る。
この民の声は、雑談ではない。身体の変化である。病室で小さく鳴る電波は、看護師や医師の目を、患者のそばへ引き寄せる。
PHSが院内の人を呼ぶ神経なら、医療用テレメーターは身体の波形を伝える神経である。病院には、いくつもの小電力の民が重なっている。
周波数と出力の小戸籍 病室の波形民
・制度上の位置:第6条第4項第2号(2)
・用途:医療用テレメーター
・周波数:420〜450MHz帯
・A型〜D型:1mW以下
・E型:10mW以下
・標準規格:RCR STD-21
・棲み処:病室、ナースステーション、検査室
・民俗的位置:身体の波形を病院の神経へ渡す民
3 体内の使者 植込み医療の民
第6条第4項第2号(3)には、体内植込み医療の民がいる。
彼らは、身体の外から身体の内へ、また身体の内から外へ通信する。医療機器は皮膚の下にあり、通信は人体というもっとも私的な場所をまたぐ。電波はここで、機械と身体のあいだの短い橋になる。
この民を軽く書いてはいけない。出力は小さい。通信範囲も狭い。だが、意味は深い。彼らは人間の体内に棲む無線の民である。
周波数と出力の小戸籍 体内の使者
・制度上の位置:第6条第4項第2号(3)
・用途:体内植込型医療用データ伝送、遠隔計測
・周波数:402〜405MHz帯
・体内植込型医療用データ伝送:25μW e.i.r.p.以下、要確認
・遠隔計測:403.5〜403.8MHz、100nW e.i.r.p.以下、要確認
・民俗的位置:人体の内側から短い通信を行う医療の使者
4 港とコンテナの民 国際輸送用データ伝送
第6条第4項第2号(4)には、国際輸送用データ伝送の民がいる。港とコンテナの民である。
433MHzの第一の通路は、港湾・倉庫・コンテナの通路である。
欧州の一部では、433MHz帯はLPD433やSRDの小声の村として育った。ガレージドア、気象センサー、警報、キーレスエントリ、低出力ハンディ機。そこでは、433MHzは小さな機器が雑居する村であった。
だが、日本の433MHz付近には、すでに430MHz帯アマチュア無線の濃い生活があった。呼出周波数があり、非常通信の意識があり、コールサインを名乗る人間の声がある。そこへ、国際物流のための機械の声を入れるには、村を丸ごと移植するのではなく、通路を彫る必要があった。
その通路が、433MHz帯国際輸送用データ伝送である。
コンテナは国境で周波数を着替えない。船に載り、港を渡り、ヤードを通り、倉庫へ入り、また別の国へ出ていく。国際輸送用貨物に装着されたアクティブタグは、港ごとに別の声へ変わるわけにはいかない。だから、日本の433MHzにも、物流のための細い道が必要になった。
周波数と出力の小戸籍 港とコンテナの民
・制度上の位置:第6条第4項第2号(4)
・用途:国際輸送用データ伝送用
・標準規格:ARIB STD-T92
・周波数:433.67MHz超〜434.17MHz以下
・中心的な呼び名:433MHz帯アクティブタグシステム
・構成:インテロゲータ、アクティブタグ
・主な棲み処:港湾、空港、工場、倉庫、国際輸送用貨物
・民俗的位置:アマチュア無線の町内に、国際物流のために彫られた433MHzの細い通路
5 呼び出しの民 無線呼出
第6条第4項第2号(5)には、無線呼出の民がいる。
彼らを、ポケットベルの記憶だけで終わらせてはいけない。現代の人びとがもっとも日常的に触れている無線呼出は、ファミレスや居酒屋の卓上ボタンかもしれない。
ピンポーンの民 飲食店の呼出ボタン
テーブルの隅に、小さなボタンが置かれている。客が押す。
ピンポーン。
普通の客にとって、それは「店員さんを呼んだ」という出来事である。だが、無線の民俗学者の目には、そこに店内ローカルの小さな通信制度が立ち上がる。テーブル番号、端末ID、呼出種別、誤り検出、再送、受信表示機。声を張るかわりに、短いデータが店内を渡る。
この機械が変えたのは、注文の作法である。かつて客は、店員の目をつかまえる必要があった。声を張る。手を上げる。目配せをする。店員の動線を読み、いま呼んでよいかを計る。客席には、小さな空中戦があった。
卓上ボタンは、その空中戦を沈黙させた。
「すみません」という声は、1回の押下に置き換えられた。待ち時間そのものが消えるわけではない。料理が急に早くなるわけでもない。だが客は、「気づかれていないかもしれない」という不安から、「呼出済み」という状態へ移る。
ボタンを押す。
その瞬間、テーブルは一時的にアドレスを持つ。
客席は地図になり、店員はその地図上の点へ向かう。
ピンポーンの民は、声を出さずに人を呼ぶ。客席を番号に変え、待ち時間の不安を少し整理し、店員の動線を滑らかにする。電波としては1mWや10mWの小さな存在である。だが社会装置としては、外食の礼儀を変えた民である。
周波数と出力の小戸籍 呼び出しの民
・制度上の位置:第6条第4項第2号(5)
・用途:無線呼出用
・標準規格:RCR STD-19
・近い親族:ARIB STD-T67、400MHz帯/1200MHz帯テレメーター・テレコントロール・データ伝送用
・代表的な民:飲食店の卓上呼出ボタン、店員呼出ベル、構内ページング
・よく見られる周波数:426MHz帯、429MHz帯
・出力例:1mW級、10mW級。製品仕様により異なる
・民俗的位置:声と身振りによる呼出を、番号化された短い無線信号へ変えたピンポーンの民
6 声を運ぶ小さな無線民 ラジオマイク
第6条第4項第2号(6)には、ラジオマイクの民がいる。声を運ぶ小さな無線民である。
彼らは、舞台、講堂、駅、展示会、撮影現場、体育館に棲む。話者の胸、歌手の手、俳優の衣装、案内係の襟元から、受信機へ声を渡す。
声は、口から出て空気を震わせる。だが大きな会場では、それだけでは届かない。ラジオマイクの民は、声を電波に変えて、音響卓や拡声装置へ運ぶ。彼らがいることで、講演者は演台から離れ、歌手は舞台を歩き、俳優は衣装の内側から声を客席へ届ける。
周波数と出力の小戸籍 ラジオマイク
・制度上の位置:第6条第4項第2号(6)
・用途:ラジオマイク用
・806.125〜809.75MHz:B型、10mW以下
・322.025〜322.15MHz:C型、1mW以下
・322.25〜322.4MHz:C型、1mW以下
・74.58MHz、74.64MHz、74.70MHz、74.76MHz:D型、10mW以下
・標準規格:RCR STD-15
・棲み処:講堂、劇場、駅、展示会、撮影現場、体育館
・民俗的位置:人の声を拡声装置へ渡す舞台と会場の民
7 耳元へ返す民 補聴援助用ラジオマイク
第6条第4項第2号(7)には、補聴援助用ラジオマイクの民がいる。耳元へ返す民である。
ラジオマイクが会場全体へ声を運ぶ民なら、補聴援助用ラジオマイクは、聞こえに困る人の耳元へ声を返す民である。講師の声、窓口の声、案内者の声が、補聴器や受信機の近くへ届く。
この民は、音量を上げるだけの民ではない。必要な声を、必要な人の近くへ届ける民である。騒がしい場所で、残響の多い部屋で、遠い席で、声の輪郭を少しだけ取り戻す。
周波数と出力の小戸籍 補聴援助用ラジオマイク
・制度上の位置:第6条第4項第2号(7)
・用途:補聴援助用ラジオマイク
・周波数:75MHz帯、169MHz帯
・出力:要確認
・標準規格:ARIB STD-T54
・棲み処:教室、窓口、講演会場、集会室
・民俗的位置:聞こえを助けるために、声を耳元へ返す民
8 案内する声 音声アシスト用無線電話
第6条第4項第2号(9)には、音声アシスト用無線電話の民がいる。制度上の枝番は(9)だが、ここでは声の支援系として補聴援助用ラジオマイクの直後に置く。
彼らは展示案内、施設案内、移動案内、視覚障害者支援に棲む。大きな声で世界へ叫ぶのではなく、必要な案内を必要な人へ渡す。駅、博物館、公共施設、展示会場、通路。人が迷う場所に、案内する声の民がいる。
周波数と出力の小戸籍 音声アシスト用無線電話
・制度上の位置:第6条第4項第2号(9)
・用途:音声アシスト用無線電話
・周波数:75.8MHz帯
・出力:要確認
・標準規格:ARIB STD-T68
・棲み処:展示案内、施設案内、移動案内、音声支援
・民俗的位置:案内を必要とする人へ、声を短く届ける民
9 無線電話用 特定小電力トランシーバーの民
第6条第4項第2号(8)には、無線電話用の特定小電力無線局がいる。特定小電力トランシーバーの民である。
市民ラジオから特小へ
かつて、免許なしで近くの仲間と話す道具として、市民ラジオがあった。27MHz帯、AM、0.5W。工事現場、学校行事、登山、海辺、レジャー、地域連絡。携帯電話が日常化する前、27MHzの市民ラジオは近距離連絡の民でもあった。
だが、市民ラジオには癖があった。アンテナは長く、27MHzは遠くへ伸びることがあり、混信も起きる。違法CBの影もあった。近くの相手と安定して短く話したい者にとって、もっと小さく、軽く、扱いやすい無線が必要になった。
そこで特小が現れる。
特小トランシーバーは、市民ラジオが持っていた実用的な近距離連絡の役割を引き受けた。免許なしで、誰でも、近くの相手と連絡できる。出力は主に10mW。小さく、軽く、電池が持ち、操作は簡単である。
「いまどこですか」
「東口に回ってください」
「搬入車が着きました」
「先頭は予定どおり通過しました」
通信を手段とする者にとって、特小の理想は透明である。短く、確実に、余計な儀礼なしで届く。店舗、工事現場、学校行事、イベント、登山、警備、倉庫。そこでは、交信そのものより、連絡が済むことが大事である。
しかし、同じ特小を、通信そのものを目的として使う者もいる。
「聞こえますか」
「メリットはいくつですか」
「こちらはどこそこ移動です」
「交信ありがとうございました」
市民ラジオが電離層と遠方への憧れを含む無線なら、特小は地形と見通しを読む無線である。山頂、展望台、ビルの屋上、河川敷。10mWの声がどこまで届くかを楽しむ者は、電波の地形を読んでいる。
同じ無線機が、便利な道具にも、地形と電波の遊びにもなる。そこに特小トランシーバーの2つの顔がある。
周波数と出力の小戸籍 特小トランシーバーの民
・制度上の位置:第6条第4項第2号(8)
・用途:無線電話用
・周波数:421.575〜421.8MHz/440.025〜440.25MHz
・周波数:421.8125〜421.9125MHz/440.2625〜440.3625MHz
・周波数:422.05〜422.1875MHz
・周波数:422.2〜422.3MHz
・周波数:413.7〜414.1475MHz/454.05〜454.19375MHz
・空中線電力:主に10mW以下、一部1mW以下
・標準規格:RCR STD-20
・棲み処:店舗、工事現場、学校行事、イベント、登山、レジャー、警備、倉庫
・民俗的位置:市民ラジオの近距離実用を受け継ぎ、見通しの地形を読む400MHz帯の小声の民
10 名札を読む民 移動体識別
第6条第4項第2号(10)には、移動体識別用の特定小電力無線局がいる。名札を読む民である。
彼らは人間の声を運ばない。物に名を問う。商品、荷物、台車、コンテナ、衣服、部品、工具、車両。読み取り側は質問器であり、札は応答器である。問いかけ、返事を受け、物の存在と名前を記録する。
この近くには、EASの民もいる。売場の出口に立つ結界札の民である。EASは「この商品は、結界を越えてよい状態か」と問う。RFIDは「この品物は、どの個体か」と問う。FeliCaは通行手形の民である。権利、残高、資格、通過を扱う。
EASは結界札。
RFIDは名札。
FeliCaは通行手形。
この区別を置くと、移動体識別の民の顔がはっきりする。彼らは盗難防止の警報そのものではない。物に名を与え、移動を記録する民である。
かつて950MHz帯の電子タグの村があった。のちに920MHz帯へ移った。周波数の村は移っても、物の名を読む仕事は残る。倉庫、アパレル、物流、工場、図書館、棚卸し、資産管理。920MHz帯の札読みの民は、物の世界に小さな戸籍を与える。
周波数と出力の小戸籍 名札を読む民
・制度上の位置:第6条第4項第2号(10)
・用途:移動体識別用
・呼び名:RFID、電子タグ、UHF RFID、パッシブタグ
・現行の主な棲み処:916.7〜923.5MHz
・旧村:950MHz帯電子タグシステム
・現行規格:ARIB STD-T107
・旧規格:ARIB STD-T90
・近い親族:EAS、FeliCa、13.56MHz帯HF RFID
・区別:EASは結界札、RFIDは名札、FeliCaは通行手形
・民俗的位置:物に名を与え、移動を記録する920MHz帯の札読みの民
11 高い岩場の目 ミリ波レーダー
第6条第4項第2号(11)には、ミリ波レーダーの民がいる。高い岩場の目である。
彼らは言葉を運ばない。反射を読む。対象物までの距離、動き、速度、相対位置。車両、機械、測距、衝突防止。高い周波数の細い目で、世界の輪郭を測る。
ミリ波の民は、声の民よりも目の民に近い。空間へ波を出し、戻ってくる反射を読む。見ているのではない。だが、見ているようにふるまう。
周波数と出力の小戸籍 ミリ波レーダー
・制度上の位置:第6条第4項第2号(11)
・用途:ミリ波レーダー
・周波数:60GHz帯、76GHz帯、76〜81GHz帯
・出力:方式別に要確認
・標準規格:ARIB STD-T48、ARIB STD-T111系
・民俗的位置:高い周波数で距離と動きを見る、反射を読む民
12 気配を読む民 移動体検知センサー
第6条第4項第2号(12)には、移動体検知センサーの民がいる。気配を読む民である。
彼らはデータを運ぶ民ではない。声を運ぶ民でもない。反射を聞く民である。
自動ドアの上、照明器具、廊下、トイレ、駐車場、工場の搬送路、ベッドサイド。そこにいる24GHzの民は、人に名を問わず、顔も写さず、カード番号も読まない。ただ、空間へ電波を出し、戻ってくる反射の変化を読む。
ドップラーの民は、動くものに反射した波の周波数ずれを読む。近づくもの、遠ざかるもの、速いもの、遅いもの。速度計測、在不在検知、侵入検知、衝突防止、さらには呼吸や微小な体動のような生存のリズムまで、この民の読みは広がる。
24GHzの土地には、別の民もいる。第5部で扱う25GHz帯広帯域アクセスの民である。あちらはデータを渡す民。こちらは気配を読む民。同じ24GHz近傍にいても、戸籍は違う。
周波数と出力の小戸籍 気配を読む民
・制度上の位置:第6条第4項第2号(12)
・用途:移動体検知センサー用
・標準規格:ARIB STD-T73
・周波数:10.5GHz超〜10.55GHz以下
・周波数:24.05GHz超〜24.25GHz以下
・追加系:57GHz超〜64GHz以下の60GHz帯移動体検知センサー
・出力:方式別に要確認
・棲み処:自動ドア、照明、廊下、トイレ、駐車場、工場、搬送路、ベッドサイド、見守り機器
・民俗的位置:名を問わず、顔を写さず、反射から気配を読む民
13 山野の通報民 人・動物検知通報システム
第6条第4項第2号(13)には、人・動物検知通報システムの民がいる。山野の通報民である。
この民は、はじめ動物検知通報システムとして姿を整えた。鳥獣害対策、首輪、罠、山野の見守り。そこに人の検知、登山者検知、地域の見守りが加わり、やがてデジタル小電力コミュニティ無線、LCR、デジコミの民へと広がった。
この民の仕事は、都市の便利な連絡ではない。山道、集落、自治会、防災、アウトドア、イベント、鳥獣害対策。携帯電話網が頼りにくい場所で、地域の小さな声をつなぐ。
LCRの面白さは、無線電話のようであり、通報システムの末裔でもあるところにある。GPS測位、ID送出、選択呼出、緊急呼出。山野の通報民は、動物の気配を知らせる民から、地域の人の位置と声を支える民へ広がった。
周波数と出力の小戸籍 山野の通報民
・制度上の位置:第6条第4項第2号(13)
・用途:人・動物検知通報システム
・標準規格:ARIB STD-T99
・周波数:142.93MHz超〜142.99MHz以下
・周波数:146.93MHz超〜146.99MHz以下
・チャネル間隔:6.25kHz
・チャネル数:18チャネル
・変調方式:4値FSK
・最大空中線電力:500mW
・送信時間制限:連続送信1分以内
・棲み処:山野、登山道、鳥獣害対策、地域防災、自治会、見守り、アウトドア、イベント
・民俗的位置:動物の気配から人の位置までを知らせる、山野と地域の通報民
第4部 結界の民
家の結界を守る民 小電力セキュリティシステム
第6条第4項第3号には、小電力セキュリティシステムの民がいる。家の結界を守る民である。
戸口、窓、防犯、火災警報、非常通報。彼らは、家屋や施設の境界に棲む。何かが開いた。何かが侵入した。何かが燃えている。何かが押された。その短い知らせを、親機や受信機へ送る。
この民は、名札を読む民とは違う。EASのような売場の結界札とも違う。彼らは、家の境界、施設の境界、生活の安全圏を守る民である。
家の窓が開く。
離れた親機が鳴る。
人はそこで、境界が破られたことを知る。
この民は、強い声を必要としない。必要なのは、家の内側で確実に届く短い知らせである。結界を守る民は、生活の安心を、426MHz帯の小さな合図に変える。
周波数と出力の小戸籍 小電力セキュリティシステム
・制度上の位置:第6条第4項第3号
・用途:小電力セキュリティシステム
・周波数:426.25〜426.8375MHz
・タイプ1・2:48チャネル、12.5kHz間隔
・タイプ3・4:24チャネル、25kHz間隔
・空中線電力:1W以下
・EIRP:12.14dBm以下
・標準規格:RCR STD-30
・棲み処:戸口、窓、防犯、火災警報、非常通報
・民俗的位置:家屋と施設の境界を見張る結界の民
第5部 広帯域を渡る6村
1 2.4GHzの盆地 雑居する通信民
第6条第4項第4号(1)には、2.4GHz帯の小電力データ通信システムの民がいる。Wi-Fi、Bluetooth、Zigbee、Thread、無線マウス、ゲームコントローラ、スマート電球、センサー、監視カメラ、ドローン、独自2.4GHz無線。現代の家屋や職場でもっとも身近な広帯域の民である。
だが、2.4GHz帯をWi-Fiの村とだけ呼ぶと、地図を狭く見すぎることになる。この帯域には、電子レンジ、Wi-Fi、Bluetooth、Zigbee、Thread、無線マウス、ゲームコントローラ、スマート電球、センサー、監視カメラ、ドローン、独自2.4GHz無線、さらに2400〜2450MHzのアマチュア無線局もいる。ここは単一の村ではなく、制度化された雑居地である。
この盆地には、2種類の住人がいる。
本来の民は、電波を言葉ではなく力として使う。電子レンジ、高周波加熱、医療や実験の高周波利用設備である。ISMとはIndustrial, Scientific and Medicalの略であり、通信のための清浄な道路ではなく、高周波エネルギーを局所的に発生・利用する土地であった。
後から来た民は、情報を運ぶ。Wi-FiはSSIDという表札を掲げる。Bluetoothイヤホンやマウス、ZigbeeやThreadのセンサー、スマート電球、独自2.4GHz無線の機器は、Wi-Fi一覧には現れないが同じ盆地で通信する。アマチュア無線局は免許とコールサインを持って名乗る。電子レンジは誰にも名乗らず、情報も運ばず、ただ2.45GHz付近の高周波で食品を温める。
電子レンジは、この盆地の古い神である。SSIDを掲げず、接続要求を送らず、再送制御に参加せず、譲り合わない。ただ存在し、2.45GHz付近の高周波エネルギーで食品を温める。
通信しない者が、通信する者の場を変える。この無関心さこそが、2.4GHz帯の雑居性をよく示している。
周波数と出力の小戸籍 2.4GHzの盆地
・制度上の位置:第6条第4項第4号(1)
・用途:小電力データ通信システム
・標準規格:ARIB STD-T66
・周波数:2400〜2483.5MHz
・代表的な通信民:Wi-Fi、Bluetooth、Zigbee、Thread、無線マウス、ゲームコントローラ、スマート電球、センサー、監視カメラ、ドローン、独自2.4GHz無線
・近い住人:2400〜2450MHzのアマチュア無線局
・本来のISM系住人:電子レンジ、高周波加熱、医療・科学・産業用高周波利用設備
・民俗的位置:現代生活の床下で、通信する者、実験する者、交信する者、加熱する者が同居する雑居の盆地
2 2.47GHzの脇道
第6条第4項第4号(2)には、2.47GHz帯の民がいる。
2.4GHzの盆地の端に、少しだけ別の脇道がある。2471〜2497MHz付近。模型、データ通信、特殊な小電力機器。この民は大都市ではない。だが、2.4GHzの喧噪から少し外れた場所に、脇道として置かれている。
周波数と出力の小戸籍 2.47GHzの脇道
・制度上の位置:第6条第4項第4号(2)
・用途:小電力データ通信システム
・周波数:2471〜2497MHz
・出力:要確認
・標準規格:RCR STD-33
・民俗的位置:2.4GHz盆地の端にある小さな脇道の民
3 5GHzの回廊
第6条第4項第4号(3)には、5GHz帯の小電力データ通信の民がいる。5GHzの回廊である。
2.4GHzの盆地が雑居の市場なら、5GHzは少し高い回廊である。Wi-Fiはここで、より広い帯域、より多いチャネル、より高い速度を得た。だが、高い周波数は壁に弱い。部屋をまたぐと痩せる。見通しと反射の読みが必要になる。
5GHzの民は、速い。
だが、粘らない。
近くで太く、壁の向こうで細る。
そこに、この民の性格がある。
周波数と出力の小戸籍 5GHzの回廊
・制度上の位置:第6条第4項第4号(3)
・用途:小電力データ通信システム
・周波数:5150〜5350MHz
・周波数:5470〜5730MHz
・出力:屋内外、帯域、方式別に要確認
・標準規格:ARIB STD-T71
・民俗的位置:高速な無線LANが部屋と建物の中を渡る5GHzの回廊
4 6GHzの新村
第6条第4項第4号(4)には、6GHz帯の民がいる。6GHzの新村である。
Wi-Fi 6E、Wi-Fi 7。2.4GHzの雑居、5GHzの回廊に続き、6GHzには新しい区画が開かれた。広いチャネル、低い混雑、短い距離。新村は広いが、住み方には条件がある。屋内、低出力、超低出力。6GHzの民は、自由な新天地ではなく、決められた作法で開かれた新しい村である。
新しい村には、新しい礼法がある。
広い道をもらうかわりに、遠くへ声を出しすぎない。
混雑を避けるかわりに、棲み処を選ぶ。
周波数と出力の小戸籍 6GHzの新村
・制度上の位置:第6条第4項第4号(4)
・用途:小電力データ通信システム
・周波数:5925〜6425MHz
・用途:Wi-Fi 6E、Wi-Fi 7系
・出力:低出力屋内、超低出力などに分けて要確認
・標準規格:ARIB STD-T71
・民俗的位置:Wi-Fiのために新しく開かれた6GHz帯の新村
5 24GHzの短い橋 25GHz帯広帯域アクセスの民
第6条第4項第4号(5)には、24GHz近傍の小電力データ通信の民がいる。ここでは、25GHz帯広帯域アクセスの民として読む。
24GHz近傍の高い土地には、反射を読む者もいれば、データを渡す者もいる。第6条第4項第4号(5)に住むのは、後者である。彼らは、人や物の動きを読むセンサーではなく、広帯域アクセスのための通信の民である。
この民の棲み処は、24.77〜25.23GHzと27.02〜27.46GHzである。24GHzという名で呼ばれながら、制度上は25GHz帯広帯域アクセスの民として見るのが正確である。
低い周波数の民が壁の陰へ回り込むなら、この民は見通しのよい短い橋を架ける。長く広く漂うのではなく、近い距離に太い道を作る。家屋内の炉端というより、建物と建物、端末とアクセスポイント、最後の数十mを結ぶ小さな橋である。
周波数と出力の小戸籍 24GHzの短い橋
・制度上の位置:第6条第4項第4号(5)
・用途:小電力データ通信システム
・標準規格:ARIB STD-T83
・方式名:HiSWANb、25GHz帯広帯域アクセスシステム
・周波数:24.77〜25.23GHz
・周波数:27.02〜27.46GHz
・出力:要確認
・棲み処:建物間、構内、短距離広帯域アクセス、見通しのよい短い通信路
・民俗的位置:24GHz近傍の「データを渡す民」。反射を読む民とは隣人だが別戸籍
6 60GHzの高原
第6条第4項第4号(6)には、60GHz帯の民がいる。60GHzの高原である。
57GHz超〜66GHz以下。ここまで来ると、電波は空気の細い山道を進む。直進性が強く、遮蔽物に弱く、狭い範囲で太い通信路を作る。60GHzの民は、部屋の中、機器間、近距離高速通信に向く。
遠くへ行かないことが、ここでは利点になる。隣の部屋へ漏れにくい。狭い場所で太く使える。小さな範囲に高速な橋を架ける、高原の民である。
周波数と出力の小戸籍 60GHzの高原
・制度上の位置:第6条第4項第4号(6)
・用途:小電力データ通信システム
・周波数:57GHz超〜66GHz以下
・空中線電力:10mW以下型/10mW超型
・10mW超型:250mW以下、EIRP 40dBm以下の条件を要確認
・標準規格:ARIB STD-T117
・民俗的位置:近距離に太い通信路を架ける60GHz帯の高原の民
第6部 道路と屋外アクセスの民
道路の関所役人 狭域通信システム
第6条第4項第7号には、狭域通信システムの民がいる。道路の関所役人である。
ETC、ETC2.0、DSRC。彼らは道路の門に棲む。車が通る。路側機が問い、車載器が答える。料金所、ランプ、道路情報、安全運転支援。道路の一点で、短く、確実に、車と道が会話する。
この民は、遠くへ話しかけない。目の前を通る車に問い、必要な情報だけを受け渡す。道路には道路の礼法がある。速く通りすぎる者に、短く、間違えず、確実に問う。狭域通信の民は、移動する車を相手にする関所の役人である。
周波数と出力の小戸籍 狭域通信システム
・制度上の位置:第6条第4項第7号
・用途:狭域通信システム
・周波数:5.8GHz帯
・路側:5772.5〜5807.5MHz
・車載:5812.5〜5847.5MHz
・出力:路側機・車載器別に要確認
・標準規格:ARIB STD-T75
・民俗的位置:車と道路が短い問答を交わす関所の民
5GHzの外縁 5GHz帯無線アクセスシステム
第6条第4項第8号には、5GHz帯無線アクセスシステムの民がいる。5GHzの外縁である。
ここでいう外縁は、通常の屋内無線LANの回廊から、屋外や構内の広い空間へ出ていく境目を指す。屋外アクセス、構内、広帯域移動アクセス。5GHzの民は、家の中だけでなく、外の空間にも通信の道を作ろうとする。
5GHzは速いが、気難しい。見通し、距離、遮蔽物、干渉。屋外へ出るには、家屋内のWi-Fiとは違う作法がいる。この民は、5GHzの回廊を外へ延ばす、境界の民である。
周波数と出力の小戸籍 5GHz帯無線アクセスシステム
・制度上の位置:第6条第4項第8号
・用途:5GHz帯無線アクセスシステム
・周波数:5GHz帯
・5030〜5091MHz系の扱い:要確認
・出力:局種別に要確認
・標準規格:ARIB STD-T71系
・民俗的位置:屋内無線LANの回廊から、屋外や構内の広い空間へ通信の道を延ばす5GHz帯の外縁の民
車と道の合図民 700MHz帯高度道路交通システム
第6条第4項第10号には、700MHz帯高度道路交通システムの民がいる。車と道の合図民である。
車が車に知らせる。道が車に知らせる。見通しの悪い交差点、接近する車両、危険の予兆。700MHz帯の民は、道路交通の安全のために、車と道路のあいだに短い合図を置く。
この民の仕事は、快適な通信ではなく、安全の合図である。人間が見落とすかもしれない場所で、車と道が先に気配を伝え合う。道路の上では、声の速さより、気づきの早さが命を守ることがある。
周波数と出力の小戸籍 700MHz帯高度道路交通システム
・制度上の位置:第6条第4項第10号
・用途:700MHz帯高度道路交通システム
・周波数:755.5〜764.5MHz
・帯域幅:9MHz
・出力:陸上移動局・基地局別に要確認
・標準規格:要確認
・民俗的位置:車車間・路車間の安全合図を担う700MHz帯の民
5.2GHzの力持ち 5.2GHz帯高出力データ通信システム
第6条第4項第11号には、5.2GHz帯高出力データ通信システムの民がいる。5.2GHzの力持ちである。
通常の小電力データ通信の民よりも、少し強い。だが、強いから自由というわけではない。場所、用途、条件、周波数の作法を守りながら、屋外利用や広い範囲のデータ通信を担う。
小電力の民の中にも、力持ちはいる。だが、その力は放任された力ではない。条件の内側で使われる力である。5.2GHzの力持ちは、第6条の最後のほうで、そう教えている。
周波数と出力の小戸籍 5.2GHz帯高出力データ通信システム
・制度上の位置:第6条第4項第11号
・用途:5.2GHz帯高出力データ通信システム
・周波数:5150〜5250MHz
・出力:通常の小電力データ通信とは分けて要確認
・標準規格:ARIB STD-T71
・民俗的位置:5GHz帯の中で、屋外と高出力の条件を背負う力持ちの民
結び 小さな声の棲み分け
電波法施行規則第6条は、免許不要の一覧である。だが、それは放任の一覧ではない。
微弱の民は、測られた弱さで入る。
市民ラジオの民は、8波と0.5Wと機械の作法で入る。
コードレス電話の民は、家屋の声を場所から解く。
PHSの民は、公衆通信から病院の神経へ残る。
特定小電力の13氏族は、用途ごとに周波数と出力の戸籍を持つ。
小電力データ通信の民は、2.4GHzの盆地から60GHzの高原まで、情報の道を広げる。
道路の民は、車と道の短い問答を支える。
小電力無線の民は、弱いから自由なのではない。
小さいから無秩序なのでもない。
彼らは、小さいなりの村を持ち、小さいなりの作法を持つ。
玄関で鍵が鳴る。
テーブルでボタンが鳴る。
舞台で声が渡る。
病室で波形が届く。
倉庫で名札が読まれる。
山道で位置が知らされる。
車輪が空気圧を告げる。
雪の下から457kHzの拍動が返る。
大きな通信史は、しばしば電話会社、放送局、衛星、携帯電話、インターネットを語る。
しかし、生活の細部には、もっと小さな通信史がある。
それは3mの影であり、500mの霧であり、27MHzの町角であり、1.9GHzの病院の廊下であり、2.4GHzの盆地であり、920MHzの札読みであり、24GHzの気配であり、142MHzの山野の合図である。
日本の小電力無線の民は、今日も生活の隙間で、小さく声を出している。
註釈候補
一次資料・法令
註釈 [1] 電波法。無線局開設の免許主義と、免許を要しない無線局の例外構造を確認する基礎資料。
https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000131/
註釈 [2] 電波法施行規則。第6条「免許を要しない無線局」が本稿全体の直接の戸籍簿となる。
https://laws.e-gov.go.jp/law/325M50080000014
註釈 [3] 無線設備規則。コードレス電話、特定小電力無線局、小電力データ通信システム、狭域通信システム等の技術条件を確認する基礎資料。
https://laws.e-gov.go.jp/law/325M50080000018
註釈 [4] 平成元年郵政省告示第42号「特定小電力無線局の用途、電波の型式及び周波数並びに空中線電力を定める件」。電波法施行規則第6条第4項第2号に基づく特定小電力無線局について、用途、電波の型式、周波数、空中線電力を定める告示であり、本稿第3部「特定小電力13氏族」の主要な根拠資料である。
https://www.tele.soumu.go.jp/horei/law_honbun/72008500.html
註釈 [5] 昭和63年郵政省告示第127号「発射する電波が著しく微弱な無線局の電界強度の測定方法」。電波法施行規則第6条第1項第1号の「発射する電波が著しく微弱な無線局」について、電界強度の測定方法を定める告示であり、本稿第1部「微弱の民 3mの影」の主要な根拠資料である。
https://www.tele.soumu.go.jp/horei/law_honbun/72008000.html
一次資料・標準規格
註釈 [6] RCR STD-13「250MHz/380MHz帯コードレス電話の無線局の無線設備」。
https://www.arib.or.jp/kikaku/kikaku_tushin/desc/std-13.html
註釈 [7] RCR STD-15「特定小電力無線局ラジオマイク用無線設備」。
https://www.arib.or.jp/kikaku/kikaku_tushin/desc/std-15.html
註釈 [8] RCR STD-19「特定小電力無線局無線呼出用無線設備」。
https://www.arib.or.jp/kikaku/kikaku_tushin/desc/std-19.html
註釈 [9] RCR STD-20「特定小電力無線局無線電話用無線設備」。
https://www.arib.or.jp/kikaku/kikaku_tushin/desc/std-20.html
註釈 [10] RCR STD-28「PHSの無線設備」。
※ARIB規格概要要確認。
註釈 [11] RCR STD-30「小電力セキュリティシステムの無線設備」。
※ARIB規格概要要確認。
註釈 [12] RCR STD-33「小電力データ通信システム/ワイヤレスLANシステム」。
https://www.arib.or.jp/kikaku/kikaku_tushin/desc/std-33.html
註釈 [13] RCR STD-21「医療用テレメーター用無線設備」。
※ARIB規格概要要確認。
註釈 [14] ARIB STD-T48「特定小電力無線局ミリ波レーダー用無線設備」。
※ARIB規格概要要確認。
註釈 [15] ARIB STD-T54「補聴援助用ラジオマイク用無線設備」。
※ARIB規格概要要確認。
註釈 [16] ARIB STD-T66「第二世代小電力データ通信システム/ワイヤレスLANシステム」。2.4GHz帯小電力データ通信・無線LAN・Bluetooth等の確認資料。
https://www.arib.or.jp/kikaku/kikaku_tushin/desc/std-t66.html
註釈 [17] ARIB STD-T67「400MHz帯及び1200MHz帯のテレメーター用、テレコントロール用及びデータ伝送用無線設備」。
https://www.arib.or.jp/kikaku/kikaku_tushin/desc/std-t67.html
註釈 [18] ARIB STD-T68「音声アシスト用無線電話用無線設備」。
※ARIB規格概要要確認。
註釈 [19] ARIB STD-T71「広帯域移動アクセスシステム(CSMA)」。5GHz・6GHz帯無線LAN系の確認資料。
https://www.arib.or.jp/kikaku/kikaku_tushin/tsushin_kikaku_number.html
註釈 [20] ARIB STD-T73「特定小電力無線局移動体検知センサー用無線設備」。
https://www.arib.or.jp/kikaku/kikaku_tushin/desc/std-t73.html
註釈 [21] ARIB STD-T75「狭域通信(DSRC)システム」。ETC/DSRC系の確認資料。
https://www.arib.or.jp/kikaku/kikaku_tushin/desc/std-t75.html
註釈 [22] ARIB STD-T83「小電力データ通信システム/広帯域移動アクセスシステム(HiSWANb)」。25GHz帯広帯域アクセス系の確認資料。
https://www.arib.or.jp/kikaku/kikaku_tushin/tsushin_kikaku_number.html
註釈 [23] ARIB STD-T90「特定小電力無線局950MHz帯移動体識別用無線設備」。950MHz帯電子タグから920MHz帯への移行確認資料。
https://www.arib.or.jp/kikaku/kikaku_tushin/desc/std-t90.html
註釈 [24] ARIB STD-T92「433MHz帯国際輸送用データ伝送用無線設備」。
https://www.arib.or.jp/kikaku/kikaku_tushin/tsushin_kikaku_number.html
註釈 [25] ARIB STD-T93「315MHz帯テレメーター、テレコントロール及びデータ伝送用無線設備」。
https://www.arib.or.jp/kikaku/kikaku_tushin/tsushin_kikaku_number.html
註釈 [26] ARIB STD-T99「特定小電力無線局150MHz帯人・動物検知通報システム用無線局の無線設備」。
https://www.arib.or.jp/kikaku/kikaku_tushin/desc/std-t99.html
註釈 [27] ARIB STD-T101「時分割多元接続方式広帯域デジタルコードレス電話の無線局の無線設備」。
https://www.arib.or.jp/kikaku/kikaku_tushin/tsushin_kikaku_number.html
註釈 [28] ARIB STD-T107「特定小電力無線局920MHz帯移動体識別用無線設備」。
https://www.arib.or.jp/kikaku/kikaku_tushin/desc/std-t107.html
註釈 [29] ARIB STD-T108「920MHz帯テレメーター用、テレコントロール用及びデータ伝送用無線設備」。
https://www.arib.or.jp/kikaku/kikaku_tushin/desc/std-t108.html
註釈 [30] ARIB STD-T117「60GHz帯小電力データ通信システム」。
※ARIB規格概要要確認。
註釈 [31] ARIB STD-T118。sXGP関連規格。
※ARIB規格概要要確認。
註釈 [32] ARIB STD-T124。433MHz帯TPMS/RKE関連規格。
※ARIB規格概要要確認。
国際標準・公的発表等
註釈 [33] ETSI EN 300 718-1。457kHz雪崩ビーコンの国際標準。
https://www.etsi.org/deliver/etsi_en/300700_300799/30071801/02.02.01_60/en_30071801v020201p.pdf
註釈 [34] Y!mobile等による公衆PHSサービス終了の発表。公衆PHS終了時期の確認資料。
※一次発表URL要確認。
註釈 [35] Meshtastic Documentation「LoRa Region by Country」。日本でのRegion JP設定の確認資料。
https://meshtastic.org/docs/configuration/region-by-country/
註釈 [36] Meshtastic Documentation「LoRa Configuration」。Frequency Slot等の設定確認資料。
https://meshtastic.org/docs/configuration/radio/lora/
参考資料・民俗的補助線
註釈 [37] 315MHz周辺の生活リモコン、微弱電波と特定小電力の隣接性について。
https://note.com/lopra_lab/n/ne1bbf7b89cd3
註釈 [38] 玩具トランシーバー、ガントラ、玩具無線文化について。
https://note.com/lopra_lab/n/nda16d14668a2
註釈 [39] 457kHz雪崩ビーコン、近傍磁界、雪崩捜索の民俗的整理について。
https://note.com/lopra_lab/n/nfc15bf87ab65
註釈 [40] 27MHz帯ラジコン用発振器、旧6バンド、遠隔操縦文化について。
https://note.com/lopra_lab/n/nc0296473a3ea
註釈 [41] 市民ラジオの8波が連続していない理由、27MHz帯の先住用途との関係について。
https://note.com/lopra_lab/n/nb6fc9f9a4fb6
註釈 [42] 日本のCB無線制度、8波、0.5W、A3E、水晶発振方式、一体型筐体、免許不要化について。
https://note.com/lopra_lab/n/na1e1eea73d84
註釈 [43] アナログコードレス電話、250MHz帯・380MHz帯、端末機器開放、傍受可能性、デジタル化への移行について。
https://note.com/lopra_lab/n/n4638a2de2f9d
註釈 [44] PHSの盛衰、公衆PHS、構内PHS、病院PHS、sXGP等への移行について。
https://note.com/lopra_lab/n/n90a12531b10c
註釈 [45] 特定小電力無線制度の概念、電波法第4条、施行規則第6条、平成元年郵政省告示第42号について。
https://note.com/lopra_lab/n/n01584c084a4a
註釈 [46] 433MHz帯、国際輸送用データ伝送、TPMS/RKE、アマチュア無線との周波数地誌について。
https://note.com/lopra_lab/n/n62b4fcdaede0
註釈 [47] 飲食店の呼出ボタン、無線呼出、426MHz帯・429MHz帯の構内呼出について。
https://note.com/lopra_lab/n/n5deda728f6e6
註釈 [48] EAS、RFID、FeliCa、920MHz帯移動体識別の違いについて。
https://note.com/lopra_lab/n/n5a21c9dbc367
註釈 [49] 人・動物検知通報システム、LCR、デジタル小電力コミュニティ無線について。
https://note.com/lopra_lab/n/nf59970ceaefa
註釈 [50] 24GHz帯移動体検知センサー、ドップラー、在不在検知、25GHz帯広帯域アクセスとの対比について。
https://note.com/lopra_lab/n/ncb7bb3de1e02
註釈 [51] 2.4GHz帯の雑居性、Wi-Fi、Bluetooth、Zigbee、Thread、電子レンジ、アマチュア無線について。
https://note.com/lopra_lab/n/n5254ab719a7c
註釈 [52] Meshtastic、LoRaメッシュ、920MHz帯データ伝送、JP設定と技適条件について。
https://note.com/lopra_lab/n/na5a278e51871
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