英国の小電力無線の民
Ofcom IR2030を読みながら
前稿からの橋
本稿は、前稿 「日本の小電力無線の民――電波法施行規則第6条を読みながら」 の続編である。[1]
前稿では、日本の電波法施行規則第6条を、免許不要の小電力無線の民の戸籍簿として読んだ。微弱無線、特定小電力、小電力データ通信システム、ラジオマイク、無線LAN、狭域通信。そこには、日本の制度が、無線局、出力、周波数、用途、そして生活の場面をどう分けてきたかが見えていた。
本稿では、海を渡って英国へ行く。読むのは、OfcomのIR2030、Licence exempt Short Range Devicesである。英国の小電力無線の民は、どの周波数に棲み、どの用途の村に分けられ、どのような小声の作法で暮らしているのか。日本の第6条を読んだ目で、英国のIR2030を読む。
そして、霧の国にもまた、小さな声で社会を支える民がいることを見ていく。
日本の役人 無線局の戸籍を見る者
前稿で見た日本の役人は、こう尋ねる。
「どの免許不要局の家に入るのか」
日本では、まず無線局は免許を受けるという大きな門の前に立つ。その脇に、電波法施行規則第6条の「免許を要しない無線局」という小門が開いている。[1] 著しく微弱な無線局、特定小電力無線局、小電力データ通信システム。日本の小電力無線の民は、無線局という大きな戸籍の中で、どの家に属するかを問われる。
技適マークは、その家に入るための印である。日本の制度は、機器を無線局制度の中へ収め、免許不要であっても、どの戸口から入る民なのかを丁寧に見る。
これに対して、英国の役人は少し違う問いを立てる。
「どの用途の村に住むのか」
ここから英国編へ移る。
霧の国の微声
英国の空には、声の大きな王侯がいる。放送、航空、海事、携帯電話。彼らは塔を建て、免許を掲げ、広い領分をもつ。だが、その足もとには、もっと小さな民がいる。短距離を歩き、低い声で囁き、戸口、倉庫、病室、舞台裏、鉄道の枕木、車のバンパー、台所のメーター箱に棲む者たちである。OfcomのIR2030は、その小民たちの戸籍簿であり、棲み処の地図である。[2]
彼らはLicence exempt Short Range Devices、すなわち免許不要の短距離機器の民と呼ばれる。ただし自由奔放な野の民ではない。彼らの自由は、低出力、短距離、周波数、占有時間、空中使用の可否といった細い掟に織り込まれている。SRDは共有された空に住み、保護を求めず、他者に迷惑をかけぬ前提で暮らす。[3] 民俗学者の目で見ると、これは近代国家の中に残る「声を小さくする作法」の体系である。
雑居の民 Non-specific SRD
章のはじめ 名もなき広い氏族
まず現れるのは、名もなき雑居の民である。IR2030/1、Non-Specific Short-Range Device。彼らは、用途や目的をひとつに縛られず、所定の周波数帯の技術条件を満たして暮らす小電力無線の広い氏族である。IR2030の定義でも、典型用途としてテレメトリ、遠隔制御、警報、一般的なデータ伝送などが挙げられている。[4]
この民は、王国の戸籍でいえば「雑居」である。雪山の下で人を探す者、玩具の模型を操る者、戸口のセンサー、倉庫の札読み、街角のメーター、機械の腹の内側で短い報告を送る者。名はひとつでも、暮らしぶりは多い。IR2030 Table 3.1は、その広い雑居地を、周波数と声の大きさで細かく書き分けている。[5]
低い谷の民
低いところでは、442.2–450.0 kHzに人検知・衝突回避の民がいる。つづく456.9–457.1 kHzには、雪崩ビーコン、すなわち雪に埋もれた者を探す民が棲む。雪山の白い沈黙の下で、457 kHzの細い声が「ここにいる」と告げるのである。[5]
6765–6795 kHz、13.553–13.567 MHzには、近接の合図や小さなデータを扱う古い谷筋がある。ここでは出力というより、10 m地点での電界強度で声の大きさが測られる。雑居の民は、はじめからmWで語る者ばかりではない。低い谷では、空気の震えを測るように、dBµA/mで名乗るのである。
模型と短距離通話の枝村
26 MHz台には、玩具ラジコンの民が顔を出す。26.99–27.20 MHz付近の小さな枝道は、Non-specific SRDの戸籍に載りつつ、Model Controlの掟とも重なる。模型飛行機、車、船。人が手に持つ送信機から、遠くない模型へ、見えない手綱が伸びる。[6]
40.66–40.70 MHzにも模型や小さな制御の気配があり、49.82–49.98 MHzには小型トランシーバに近い短距離通話の民を置くとよい。ただし、IR2030の戸籍名はNon-specific short-range devicesである。ここでは短距離の声、リモコン、簡素な信号の枝村として扱う。
433 MHzの小声の村
433.05–434.79 MHzには、LPD433と呼ばれる小声の通話の民、リモコン、センサー、簡素なデータ通信の民が雑居する。彼らの声はおおむね10 mW e.r.p.に抑えられ、枝村によっては1 mW e.r.p.のさらに小さな声でも暮らす。[5]
このあたりには、家屋内の小使いもいる。赤外線リモコンの飛脚そのものは光の民であり、電波の戸籍には入らない。だが、リモコン中継機となると話は変わる。手元の赤外線をいったん受け取り、433 MHzや2.4 GHzの小さな無線路で隣室へ運び、機器の前でふたたび赤外線に戻す。彼らは光と電波のあいだを往復する、家屋内の小使いである。
800 MHzと900 MHz台の小使い
862–870 MHz、870–876 MHz、915–921 MHzあたりには、センサー、警報、遠隔測定、簡素なデータ通信、メーター読み取り、建物や設備の監視、データネットワークの民が棲む。短い距離を小さな声で渡る、倉庫、家屋、設備、街角の小使いである。
868 MHz側には、LoRaWAN系の巡礼者、Wi-SUN系の書記、Z-Waveの小神、独自FSKの小商人を置くと収まりがよい。彼らは長文を朗読する者ではなく、短い報告を抱えて、戸口からメーター箱へ、機械室から管理盤へと歩く。Networked SRDsは、データネットワークの中で、移動する小機器をマスター局が束ねる民として定義されている。[7]
915–921 MHz側には、独自FSKの小商人、センサーと警報の小使い、遠隔測定の巡礼者が似合う。916 MHz台にはRFIDの札読みも近い親族として現れるが、RFIDは別戸籍も持つため、ここでは「隣村から出入りする札読み」として描くのがよい。
2.4 GHzの小さな道
2400–2483.5 MHzには、太いデータ通信の道とは別に、10 mW e.i.r.p.の小さな道もある。ここには、センサー、リモコン、デジタル・テレメトリ、簡素なデータ通信、測定や制御の小機器が棲む。2.4 GHzという同じ丘に住みながら、広帯域の若者たちほど大声では語らない。彼らは、机上、棚下、機械の腹の内側で、短い報告を交わす小使いである。
高い岩場の民
さらに上へ行くと、5725–5875 MHz、24.150–24.250 GHz、57–64 GHz、61.0–61.5 GHz、122–123 GHz、244–246 GHzといった高い岩場がある。ここではe.i.r.p.で声の大きさを測る民が増える。低い谷の磁界の声から、ミリ波の細い見通しの声へ。雑居の民は、英国の空の縁を、下から上まで小さく使い分けている。
長話を慎む掟
雑居の民、すなわちNon-specific SRDの多くには、長話を慎む掟がある。IR2030でいうduty cycleであり、送信してよい時間の割合を定める作法である。433 MHz帯や868 MHz帯のいくつかの枝村では、この掟がとくに目立つ。彼らの会話は、村の広場の演説ではなく、襖の向こうから短く咳払いするようなものだ。IR2030はduty cycleを、観察時間に対する送信オン時間の割合として定義している。[8]
417.9–418.1 MHzには、2007年12月31日以前から使われていた既存機だけが残る古い集落もある。新しい機器は入村できないが、古くからの住人はなお暮らしてよい。英国の小電力無線史は、新しい帯域の開放だけでなく、こうした古い戸籍を残すしぐさにも宿っている。
周波数と出力の小戸籍 Non-specific SRD
・442.2–450.0 kHz:7 dBµA/m at 10 m
・456.9–457.1 kHz:7 dBµA/m at 10 m
・6765–6795 kHz:42 dBµA/m at 10 m
・13.553–13.567 MHz:42 dBµA/m at 10 m
・26.957–27.283 MHz:10 mW e.r.p./42 dBµA/m at 10 m
・26.99–27.00 MHz、27.04–27.050 MHz、27.09–27.10 MHz、27.14–27.15 MHz、27.19–27.20 MHz:100 mW e.r.p.
・40.66–40.70 MHz:10 mW e.r.p.
・49.82–49.98 MHz:10 mW e.r.p.
・87.5–108 MHz:50 nW e.r.p.
・138.20–138.45 MHz:10 mW e.r.p.
・169.4–169.475 MHz:500 mW e.r.p.
・169.4–169.4875 MHz:10 mW e.r.p.
・169.4875–169.5875 MHz:10 mW e.r.p.
・169.5875–169.8125 MHz:10 mW e.r.p.
・173.20–173.35 MHz:1 mW e.r.p.
・173.5875 MHz、173.6 MHz:10 mW e.r.p.
・417.9–418.1 MHz:250 mW e.r.p.
・433.05–434.79 MHz:10 mW e.r.p.
・433.05–434.79 MHz:1 mW e.r.p.
・434.04–434.79 MHz:10 mW e.r.p.
・862–863 MHz:25 mW e.r.p.
・863–865 MHz:25 mW e.r.p.
・867.4–867.6 MHz:出力欄の明記なし。APC使用などの条件あり
・868–869.7 MHz:25 mW e.r.p.
・868.0–868.6 MHz:25 mW e.r.p.
・868.7–869.2 MHz:25 mW e.r.p.
・869.30–869.40 MHz:10 mW e.r.p.
・869.40–869.65 MHz:500 mW e.r.p.
・869.7–870 MHz:25 mW e.r.p.
・869.7–870 MHz:5 mW e.r.p.
・870–874.4 MHz:25 mW e.r.p.
・870–874.4 MHz:500 mW e.r.p.
・873–876 MHz:25 mW e.r.p.
・873–875.8 MHz:25 mW e.r.p.
・915–918 MHz:25 mW e.r.p.
・915.2–918 MHz:25 mW e.r.p.
・916.1–916.5 MHz、917.3–917.7 MHz:100 mW e.r.p.
・916.1–919.4 MHz:25 mW e.r.p.
・917.3–918.9 MHz:500 mW e.r.p.
・918–921 MHz:25 mW e.r.p.
・918–920.8 MHz:25 mW e.r.p.
・918.5–918.9 MHz、919.7–920.1 MHz:100 mW e.r.p.
・2400–2483.5 MHz:10 mW e.i.r.p.
・5725–5875 MHz:25 mW e.i.r.p.
・24.150–24.250 GHz:100 mW e.i.r.p.
・57–64 GHz:100 mW e.i.r.p.、13 dBm/MHz e.i.r.p.、10 dBm transmitter power
・61.0–61.5 GHz:100 mW e.i.r.p.
・122–123 GHz:100 mW e.i.r.p.
・244–246 GHz:100 mW e.i.r.p.
磁気の民 Inductive
近くで感じる民
つぎに、耳で聞くより近くで感じる民がいる。Inductive、誘導の民である。彼らは電波というより、磁界の手触りで近距離の儀礼を行う。IR2030の定義では、磁界と誘導ループを用いる近距離通信および測定の用途がこの民の戸籍である。そこには、車のイモビライザ、動物識別、警報、ケーブル探査、廃棄物管理、個人識別、無線音声リンク、入退室、近接センサー、盗難防止、データ転送、自動物品識別、自動道路課金などが並ぶ。[9]
この民は、遠くへ叫ぶことを好まない。輪に近づき、札をかざし、戸口を通り、耳元へ声を返す。英国の小電力無線の民のなかでも、Inductiveはもっとも「境」に親しい。扉、棚、改札、首掛けループ、店の出口、動物の耳標。そこに小さな磁界の輪を張り、通る者、触れる者、持ち去られる物を見分ける。
結界を守る者 EASとRFID
13.553–13.567 MHzには、RFIDとEASの民が濃く棲む。店の戸口に立つEAS、Electronic Article Surveillanceは、買われた物と持ち去られる物との境を見張る結界の番人である。タグは小さな札、ゲートは鳥居、通過する身体は一瞬だけ見えない儀礼を受ける。何もなければ沈黙し、異変があれば音を鳴らす。近代の商店にも、境を守る者はいる。[10]
RFIDの民は、この誘導の民と親戚である。13.56 MHz付近では、品札、身分札、蔵書、荷札が目を覚ます。札を読む者は、名を問う。札を持つ者は、短く答える。商品、荷箱、家畜、図書。タグを付けられた物は、近代の「名札をもつ精霊」となる。
通行手形を読む者 NFCとFeliCa
13.553–13.567 MHzには、NFCやFeliCaを思わせる近接通信の民も棲む。IR2030がNFCやFeliCaという方式名を直接掲げるわけではないが、near field communications、個人識別、手に持つ機器へのデータ転送という誘導の民の性格から、この枝族として描くのが自然である。[9]
カードと読取機、スマートフォンと改札、会員証と端末が、触れるほどの距離で名を交わす。彼らは遠くへ声を投げない。掌と扉口のあいだ、財布と読み取り台のあいだにだけ開く、小さな通行儀礼の民である。EASが結界の番人なら、NFCとFeliCaは結界を越えるための通行手形を読む者である。
磁界の輪で聞かせる者 誘導式イヤホン
誘導式イヤホンも、この磁気の民の親族である。銅線の輪が小さな結界となり、そこに流れる声が磁界となって耳元へ届く。補聴器や首掛けループに宿るこの民は、空へ遠く叫ぶ者ではない。身体のすぐそばで、声をもう一度、人に返す者である。
IR2030のInductive定義には、用途例としてwireless voice linksが含まれている。[9] その意味で、誘導式の音声伝送は、磁気の民のなかでもたいへん身体に近い枝村である。ただし、難聴者支援の制度上の戸籍では、ALD、Assistive Listening Deviceという別名をもつ枝族もいる。この章では、磁界の輪で耳元へ声を運ぶ者をInductiveの親族として置き、補聴援助用ラジオマイクの民は「身体の民 医療と補聴」であらためて扱う。
水の下の枝村
誘導の民には、水中に沈む枝村もある。IR2030 Table 3.10は、機器が水中に沈められる場合にかぎり、いくつかの帯域で40 dBµA/m at 10 mまで声を強めることを許す。ただし、水上へ漏れる声は低く抑えなければならない。[10]
この枝村の用途は、IR2030に細かな生活名として列挙されているわけではない。だが、誘導の民の性格から見れば、潜水作業者への短い合図、水中センサーの測定値、水中設備や札の識別、ケーブルや装置の近距離確認といった、水の下だけで交わされる小さな応答の民と考えればよい。
水の下では、遠くへ叫ぶ声は重く鈍る。そこで磁気の民は、水中に小さな輪を作り、近くにいる者とだけ名を交わす。水面の上では静かにし、水の中でだけ声を強める。まるで、水底の村でだけ許された祭りの太鼓である。
低い谷からHFの村へ
この民の棲み処は、9 kHzから30 MHzまで、低い谷筋を長く這う。9–59.75 kHzでは72 dBµA/m at 10 m、59.75–60.25 kHzでは48 dBµA/m at 10 m、60.25–90 kHzではまた72 dBµA/m at 10 mというように、細かい村境が続く。[10]
mWではなく、dBµA/m at 10 mで声の大きさを測るところに、この民の気質が表れている。彼らはアンテナから空へ飛び出すというより、輪のそばに磁界を結ぶ。近づく者だけが、その気配を受け取る。
周波数と出力の小戸籍 Inductive
・9–59.75 kHz:72 dBµA/m at 10 m
・59.75–60.25 kHz:48 dBµA/m at 10 m
・60.25–90 kHz:72 dBµA/m at 10 m
・90–119 kHz:48 dBµA/m at 10 m
・119–127 kHz:66 dBµA/m at 10 m
・127–135 kHz:66 dBµA/m at 10 m
・135–148.5 kHz:48 dBµA/m at 10 m
・148.5–185 kHz:48 dBµA/m at 10 m
・148.5–1600 kHz:-5 dBµA/m at 10 m。水中使用では40 dBµA/m at 10 mまで可。ただし水上放射は-5 dBµA/m at 10 mに制限
・148.5–5000 kHz:-15 dBµA/m at 10 m/10 kHz帯域内。10 kHz超の帯域幅では-5 dBµA/m at 10 m
・240–315 kHz:24 dBµA/m at 10 m
・400–600 kHz:-5 dBµA/m at 10 m
・1600–2000 kHz:-15 dBµA/m at 10 m/10 kHz帯域内。10 kHz超の帯域幅では-5 dBµA/m at 10 m。水中使用では40 dBµA/m at 10 mまで可
・2–3.155 MHz:9 dBµA/m at 10 m。水中使用では40 dBµA/m at 10 mまで可
・3.155–3.400 MHz:13.5 dBµA/m at 10 m
・3.155–3.400 MHz:13.5 dBµA/m at 10 m。水中使用では40 dBµA/m at 10 mまで可
・3.400–6.765 MHz:9 dBµA/m at 10 m。水中使用では40 dBµA/m at 10 mまで可
・5–30 MHz:-20 dBµA/m at 10 m/10 kHz帯域内。10 kHz超の帯域幅では総電界強度-5 dBµA/m at 10 m
・6.765–6.795 MHz:42 dBµA/m at 10 m
・6.795–13.533 MHz:9 dBµA/m at 10 m。水中使用では40 dBµA/m at 10 mまで可
・7.400–8.800 MHz:9 dBµA/m at 10 m
・10.200–11.000 MHz:9 dBµA/m at 10 m
・13.533–13.553 MHz:21.5 dBµA/m at 10 m。水中使用では40 dBµA/m at 10 mまで可
・13.553–13.567 MHz:42 dBµA/m at 10 m。RFIDおよび電子商品監視、EAS用途では60 dBµA/m at 10 mまで可
・13.553–13.567 MHz:42 dBµA/m at 10 m。伝送マスクおよびアンテナ条件あり。RFIDおよびEAS用途では60 dBµA/m at 10 mまで可
・13.567–26.957 MHz:9 dBµA/m at 10 m。水中使用では40 dBµA/m at 10 mまで可
・26.957–27.283 MHz:42 dBµA/m at 10 m
・27.283–30 MHz:9 dBµA/m at 10 m。水中使用では40 dBµA/m at 10 mまで可
輪の作法
磁気の民は、広い空を占めない。むしろ、輪を作り、境を作り、そこへ近づいた者とだけ言葉を交わす。EASは商店の結界を守り、RFIDは物に名を与え、NFCとFeliCaは通行手形を読み、誘導式イヤホンは磁界の輪で声を耳元へ返す。
大きな塔を持たぬこの民は、生活の端に住む。財布の中、棚の下、改札の面、首の輪、店の出口、水の下。英国の小電力無線の地図において、Inductiveとは、遠くへ届く力より、近くで確かめる作法を選んだ民である。
身体の民 医療と補聴
身体に近い小声の民
病院と家庭にも、小声の民は住む。彼らは、声や音楽を運ぶ者というより、脈、温度、画像、診療のための数値、身体の内側からの知らせを運ぶ。英国IR2030の戸籍では、ここにActive Medical Implants and associated peripherals、Medical and Biological Applications、Medical data acquisition devices、MBANS、そしてAssistive Listening Device、ALDの枝族が並ぶ。[11]
この章では、彼らをまとめて「身体の民」と呼ぶ。ある者は身体の内側に宿り、ある者は病室や患者宅で測定値を運び、ある者は聞き取りにくい声を耳元へ戻す。彼らの力は大きくない。むしろ、小さいことが、身体に近い場所で暮らすための礼法なのである。
体内から消息を告げる者 Active Medical Implants
Active Medical Implants、能動植込み医療機器の民は、身体の内部または周縁に置かれる医療機器の無線部である。彼らは勇ましく叫ばない。401–406 MHzでは25 μW e.r.p.という極小の声で、身体の内側から外の受信者へ、生命の消息を告げる。401–402 MHz、402–405 MHz、405–406 MHzが、その静かな通り道である。[12]
この民には、動物の身体に宿る枝族もいる。315–600 kHzの動物植込み機器、12.5–20 MHzの屋内用動物植込み機器、30–37.5 MHzの医療膜植込み機器などである。人と動物、病院と研究、体内と体外。身体の民は、境目の内側から、短く、慎重に返事をする。[12]
医用テレメータの民
医用テレメータの民は、病院と患者宅のあいだで、声ではなくデータを運ぶ。173 MHz台と458 MHz台の古風な道、2483.5–2500 MHzのMBANSの道、そして430–440 MHzの無線カプセル内視鏡の道がある。
173.7–174 MHz、458.9625–459.1000 MHzの民は、医療・生物用途の測定や追跡に用いられる。IR2030では、鳥に取り付けられる機器の空中使用にも触れられており、身体の民は病室だけでなく、生物の移動を読む野外の書記にもなる。[13]
2483.5–2500 MHzには、MBANS、Medical Body Area Network Systemsの民が棲む。医療施設内では1 mW e.r.p.、患者宅では10 mW e.r.p.の枝村があり、診断、監視、治療のための非音声データを運ぶ。これは身体の周りに張られる小さな網である。[13]
無線カプセル内視鏡の民は、430–440 MHzに置く。飲み込まれた小さな眼が、身体の内側を旅しながら画像を送る。これは身体の洞窟を歩く、灯を持った巡礼者である。[13]
補聴援助用ラジオマイクの民 ALD
補聴援助用ラジオマイクは、ALD、Assistive Listening Deviceの民である。IR2030では、ALDは聴覚障害のある人の聴取能力を高めるための無線通信システムであり、一つ以上の送信機と一つ以上の受信機から成るものとして定義されている。[14]
話者の胸元で拾われた声は、169 MHzや173 MHzの細い道を渡り、受信機、補聴器、首掛けループのそばへ届く。これは舞台の喝采を運ぶワイヤレスマイクと別の戸籍をもつ。教室、窓口、集会室で、聞き取りにくい声をもう一度人の近くへ戻すための小さな使者である。
ALDの民は、169.4000–169.4750 MHz、169.4875–169.5875 MHzでは500 mW e.r.p.、173.325–175.075 MHzでは2 mW e.r.p.、173.965–216 MHzでは10 mW e.r.p.の声を持つ。さらに屋内デジタルALDとして、916 MHz台の細かい枝村もある。[14]
身体のそばの礼法
身体の民の特徴は、遠くへ支配的に届くことではない。身体のそばで、必要なときに、必要な分だけ知らせることである。植込み機器は内側から消息を告げ、医用テレメータは病室と患者宅のあいだを行き来し、補聴援助用ラジオマイクは声をもう一度、人の耳元へ戻す。
この民の棲み処は、病院の壁、患者宅の寝室、補聴器のそば、体内の暗いところにある。英国の小電力無線の民俗において、身体の民とは、技術がもっとも人の近くへ寄った姿である。
周波数と出力の小戸籍 医用テレメータの民
・173.7–174 MHz:10 mW e.r.p.
・458.9625–459.1000 MHz:10 mW e.r.p.
・458.9625–459.1000 MHz:500 mW e.r.p.
・2483.5–2500 MHz:1 mW e.r.p.。MBANS、医療施設内用
・2483.5–2500 MHz:10 mW e.r.p.。MBANS、患者宅内用
・430–440 MHz:-50 dBm/100 kHz e.r.p. power density。ただし総電力は-40 dBm/10 MHz以下。無線カプセル内視鏡用
周波数と出力の小戸籍 体内植込型医療データ伝送の民
・9 kHz–315 kHz:30 dBµA/m at 10 m。PDF表では周波数欄に自動番号混入が見えるため、参照規格EN 302 195の記述も踏まえて整理
・315 kHz–30 MHz:9 dBµA/m at 10 m。PDF表では周波数欄に自動番号混入が見えるため、原表の読み取りに注意
・315–600 kHz:-5 dBµA/m at 10 m。動物植込み機器
・12.5–20 MHz:-7 dBµA/m at 10 m in any bandwidth of 10 kHz。屋内用の動物植込み機器
・30–37.5 MHz:1 mW e.r.p.
・401–402 MHz:25 μW e.r.p.
・402–405 MHz:25 μW e.r.p.
・405–406 MHz:25 μW e.r.p.
・2483.5–2500 MHz:10 mW e.r.p.。能動植込み医療機器用。周辺マスター機は屋内用
周波数と出力の小戸籍 補聴援助用ラジオマイクの民
・169.4000–169.4750 MHz:500 mW e.r.p.
・169.4875–169.5875 MHz:500 mW e.r.p.
・173.325–175.075 MHz:2 mW e.r.p.
・173.965–216 MHz:10 mW e.r.p.
・916.1–916.5 MHz、917.3–917.7 MHz、918.5–918.9 MHz、919.7–920.1 MHz:10 mW e.r.p.。屋内デジタルALDのみ
章のおわり 身体の近くに棲むということ
身体の民は、生活のなかでもっとも近い場所に棲む。体内、皮膚のそば、寝室、病室、教室、窓口、補聴器の近く。彼らは、広い空を自分のものにしない。身体のそばに小さな通り道を作り、必要な知らせだけを運ぶ。
植込み機器の微声、医用テレメータの数値、カプセル内視鏡の画像、補聴援助用ラジオマイクの声。どれも、人が生き、診られ、聞き、助けられるための小さな使者である。英国の小電力無線の民俗誌において、この民は、技術が人の身体へ礼を尽くして近づくための作法を示している。
線路と道路の民
線路の読取役 運行の目付け、安全を守る民
線路のほとりには、列車を識別する民がいる。IR2030の戸籍では、Railway Applications、すなわち鉄道車両識別、または線路と鉄道車両とのあいだに置かれる短距離データリンクの民である。[15]
彼らは、走り過ぎる車両を呼び止めはしない。ただ一瞬、線路側の読取役が名を問い、車両側の札やトランスポンダが短く答える。どの車両が、どの地点を、いつ越えたか。その小さな応答は、通過記録、保守管理、列車運行位置情報、すなわちトレインロケーションの帳面へ渡される。
この民は、時刻表の表には出てこない。だが、時刻表の裏側では働いている。列車を識別し、運行の現況を知る手がかりを残し、保守と管理の確認を支える。鉄道の民は、運行の目付けであり、列車の安全を守る小さな記録係なのである。
線路と車上の短い応答
鉄道の民の棲み処は、低いkHzの谷から2.4 GHz帯まで散っている。516–8516 kHzの低い声、27.09–27.10 MHzの細い道、2446–2454 MHzの高い道。どれも、遠くへ広く語るためというより、線路と車両が近くで名や状態を確かめ合うための道である。
線路側の装置と車上装置は、通過の瞬間にだけ向かい合う。そこで交わされるのは、長い物語ではない。名、位置、通過、確認。鉄道という大きな制度のなかで、この民は、ひそやかな点呼を担っている。
道路の関所役人
道路の民、Transport and Traffic Telematicsは、車両、路側機、道路課金、ITS、車載レーダーの世界に棲む。IR2030では、交通管理、ナビゲーション、モビリティ管理、ITSなどのために使われる無線機器の民として定義されている。[16]
5795–5815 MHzには、道路課金の関所役人が棲む。彼らは日本のETCに近いDSRCの親族であり、料金所や道路脇の門に立って、走り来る車に名を問う。車載器は一礼するように短く答え、道は帳場となり、通行の儀礼は速度を落としすぎぬまま終わる。
ここでは、道路そのものが役所になる。車は止まって書類を出すかわりに、短い電波の応答で通行を済ませる。近代の関所役人は、筆ではなく5.8 GHz帯の声を使うのである。
車と車、車と路側の使者
870–873 MHz、873–875.8 MHzのあたりには、車両間や車内の通信を担う民がいる。車同士が近くで合図を交わし、車内の機器が小さな知らせを渡す。道路の上にも、家屋や倉庫と同じく、短距離の小使いがいる。
5855–5875 MHz付近には、ITSの民が棲む。車と道路、車と車、道路から車へ。彼らは、交通の流れのなかで、注意、状態、周囲の気配を渡す。道路とは、舗装された地面に、見えない連絡の層が重なった場所でもある。
気配を感じる民 車載レーダーの枝族
24 GHz台、63 GHz台、76–77 GHzには、気配を感じる民がいる。彼らは声を届ける者ではない。小さな波を放ち、返ってくる響きから、近くに何がいるかを読む。前にいるもの、後ろに近づくもの、横を通るもの、壁や車両や障害物の気配。そして、その距離、動き、速さを測る。道路の民のなかでも、この枝族は耳よりも目に近い。
24 GHz台の民は、地上車両レーダーや車載レーダーとして、近くの障害物や車両を感じ取る。彼らは「ここに何かがいる」と告げるだけでなく、それが近づいているのか、遠ざかっているのか、どれほどの速さで動いているのかを読む。名を問うのではなく、通行手形を見るのでもなく、まず気配と動きを読むのである。
さらに高い76–77 GHzの民は、細い見通しの声で、距離と速さをより鋭く測る。運転者の目の外で、もうひとつの感覚が開いている。道路の上には、声を交わす民だけでなく、気配を感じ、速さを読む民も棲んでいる。
タンクの腹を読む民
道路の民の隣には、少し変わった親族がいる。タンクの腹を読む民である。IR2030ではTransport and Traffic Telematicsではなく、Radio determinationのTank Level Probing Radar、TLPRとして載る。[17]
彼らは、閉じた金属タンクや鉄筋コンクリートタンクの内側に棲む測量役である。タンクの中へレーダーの声を落とし、返ってくる響きから液面の高さを読む。液体のかさ、残量、積まれたものの気配を知る、倉庫と工場の内なる占い師である。
厳密には、レーダーが直接「積載量」を量るのではない。液面や内容物の高さを測り、そこから残量や積載量を推し量る。だが民俗の言葉でいえば、彼らはまさしく、容器の腹の内を読む者である。
周波数と出力の小戸籍 線路と道路の民
・516–8516 kHz:7 dBµA/m at 10 m。中心周波数4516 kHz。Railway Applications
・27.09–27.10 MHz:42 dBµA/m at 10 m、5 dBµA/m at 10 m、-1 dBµA/m at 10 m。中心周波数27.095 MHz。Railway Applications
・2446–2454 MHz:500 mW e.i.r.p.。チャネル帯域幅1.5 MHz以下。Railway Applications
・984–7484 kHz:9 dBµA/m。中心周波数4234 kHz。TTT表内のRailway Applications
・7.3–23 MHz:-7 dBµA/m at 10 m。中心周波数13.547 MHz。TTT表内のRailway Applications
・870–873 MHz:500 mW e.r.p.。車両間用途、帯域幅500 kHz以下
・870–873 MHz:100 mW e.r.p.。車内用途、帯域幅500 kHz以下
・873–875.8 MHz:500 mW e.r.p.。車両間用途、帯域幅500 kHz以下
・873–875.8 MHz:100 mW e.r.p.。車内用途、帯域幅500 kHz以下
・5795–5815 MHz:2 W e.i.r.p.。道路課金、またはネットワーク事業者信号に応答する短距離データリンク
・5805–5815 MHz:2 W e.i.r.p.。スマートタコグラフ、重量・寸法アプリケーション等
・5805–5815 MHz:2 W e.i.r.p.。私設システムの信号に応答する短距離データリンク
・5855–5865 MHz:33 dBm e.i.r.p.、23 dBm/MHz e.i.r.p. density
・5865–5875 MHz:33 dBm e.i.r.p.、23 dBm/MHz e.i.r.p. density
・24.050–24.075 GHz:100 mW e.i.r.p.
・24.075–24.150 GHz:0.1 mW e.i.r.p.
・24.075–24.150 GHz:100 mW e.i.r.p.。車載レーダー用
・24.150–24.250 GHz:100 mW e.i.r.p.
・24.25–24.495 GHz:-11 dBm e.i.r.p.。地上車両レーダー用
・24.25–24.5 GHz:20 dBm e.i.r.p.。前方向レーダー
・24.25–24.5 GHz:16 dBm e.i.r.p.。後方向レーダー
・24.495–24.5 GHz:-8 dBm e.i.r.p.
・63.72–65.88 GHz:40 dBm e.i.r.p.。車車間、車路間、路車間システム
・76–77 GHz:55 dBm peak e.i.r.p.、50 dBm mean e.i.r.p.、パルスレーダーでは23.5 dBm mean e.i.r.p.
・24.05–27.0 GHz:43 dBm e.i.r.p.。Tank Level Probing Radar、閉じたタンク内用
・75–85 GHz:43 dBm e.i.r.p.。Tank Level Probing Radar、閉じたタンク内用
章のおわり 道を見張り、気配を読む小さな役人
線路と道路の民は、移動するものに名を問う。列車には車両の名を問う。車には通行の名を問う。タンクには中身の高さを問う。そして車載レーダーの民は、近くの気配と速さを読む。彼らの仕事は派手ではないが、移動と物流の裏側で、確認、記録、測定の作法を守っている。
英国の小電力無線の民俗において、この民は、道の上に棲む役人である。列車を識別する記録係、道路課金の関所役人、車と道路の使者、気配を感じるレーダーの民、タンクの腹を読む測量役。彼らは、走るもの、通るもの、積まれたもの、近づくものに、小さな声で「いま、ここ」を問うのである。
声を運ぶ小さな無線民
胸元の声を渡す者
声を運ぶ小さな無線民は、舞台の袖、映画撮影の現場、講堂、ライブ会場、そして家庭の音響機器のそばに棲む。彼らは大きな塔を建てない。人の胸元、耳の中、楽器の近く、カメラの陰に身をひそめ、声や音楽を短い距離で渡す。IR2030の戸籍では、Radio Microphones、Audio PMSE devices、Wireless Audio Applicationsなどの枝族として現れる。[18]
Radio Microphonesの民は、声や音楽を投げるための小さな使者である。話者の胸元に留まり、役者の衣装に隠れ、歌い手の手元で息を拾う。IR2030では、Radio Microphonesは、利用者の声や音楽を届けるための機器として定義されている。[18]
舞台の表で観客が見るのは、声の主である。だが、声が客席や録音卓へ届くまでには、この小さな無線民がいる。彼らは拍手を受けない。けれど、声が途切れずに渡るとき、その背後で黙って働いている。
舞台と撮影所の音響職人 Audio PMSE
Audio PMSE devicesの民は、テレビ、ラジオ、映画、ライブイベント制作のために使われる無線音響の職人である。IR2030の定義では、ワイヤレスマイク、インイヤーモニター、その他の音声伝送機器を含み、プロ用にも非プロ用にも現れる。[19]
この民は、舞台裏の足音を知っている。袖で待つ役者、暗い客席の技師、撮影所の音声担当、ライブ会場のモニター卓。そこでは、声は聞こえればよいというものではない。遅れず、割れず、混ざらず、必要な者へ届かなければならない。Audio PMSEの民は、そのために、821.5–826 MHz、826–832 MHz、1785–1805 MHzなどの棲み処をもつ。[20]
彼らは、上演の民俗の裏方である。拍手、照明、衣装、台詞。そのすべてのあいだを、細い電波の道が縫っている。
舞台の耳へ返す者 インイヤーモニター
舞台に立つ者には、自分の声が必要である。歌手は伴奏を聞き、演奏者は合図を聞き、司会者は進行を聞く。インイヤーモニターの民は、客席へ向かう音とは逆に、舞台上の耳へ音を返す。
この民は、声を外へ広げる者ではない。人の耳の内側へ、舞台の秩序を戻す者である。演者はその小さな声を頼りに、拍を取り、言葉を置き、次の一歩を知る。観客には見えにくいが、舞台上の身体は、この耳元の小道に支えられている。
家庭の音を渡す者 Wireless Audio Applications
Wireless Audio Applicationsの民は、家庭や身の回りの音を渡す枝族である。IR2030では、音声・映像の伝送や同期信号、コードレススピーカー、コードレスヘッドホンなどを含む無線音響・マルチメディアストリーミングの民として定義されている。[18]
彼らは、劇場よりも居間に近い。机の上の小さな送信機、テレビのそばのヘッドホン、棚の上のスピーカー、個人用コードレス音響機器。36 MHz台の古い低い声から、863–865 MHzの身近な声、2400–2483.5 MHzの2.4 GHzの小道まで、家庭の中にも音の無線民は棲む。[20]
ここで運ばれるのは、大勢へ向けた放送ではない。隣室へ渡る音、耳元へ返る音、機器同士を合わせる合図である。家庭の音響にも、小さな無線の祭具がある。
補聴の民との境目
声を運ぶ小さな無線民は、補聴援助用ラジオマイクの民と近いところにいる。どちらも声を拾い、どこかへ渡す。だが、ここでは上演、制作、音響、家庭用の音を扱う民を中心に置く。補聴援助用のALDは、聞き取りにくい声を人の耳元へ戻す「身体の民 医療と補聴」の枝族として別に扱う。
境目は用途で分かれる。舞台の声を整える民、撮影所の音を渡す民、家庭の音を送る民。そして、聞こえを助ける民。どれも声を運ぶが、仕える場所が違うのである。
周波数と出力の小戸籍 声を運ぶ小さな無線民
・36.61–36.79 MHz、37.01–37.19 MHz:10 μW e.r.p.。Wireless Audio Applications
・173.775–175.075 MHz:10 mW e.r.p.。Radio Microphones。チャネル間隔50 kHz
・173.7–175.1 MHz:10 mW e.r.p.。Radio Microphones。身体に装着するラジオマイクでは50 mW e.r.p.まで可。チャネル間隔200 kHz
・821.5–826 MHz:Audio PMSE devices。身体装着機器は100 mW e.i.r.p.、その他は20 mW e.i.r.p.
・826–832 MHz:100 mW e.i.r.p.。Audio PMSE devices
・863–865 MHz:10 mW e.r.p.。Radio Microphones
・863–865 MHz:10 mW e.r.p.。Audio PMSE devices。無線音響・マルチメディアストリーミング系の枝村
・863–865 MHz:10 mW e.r.p.。Wireless Audio Applications。個人用コードレス音響機器にも使われる枝村
・864.8–865.0 MHz:10 mW e.r.p.。Wireless Audio Applications。チャネル帯域幅50 kHz以下、狭帯域用途
・1785–1805 MHz:Audio PMSE devices。身体装着機器、またはSpectrum Scanning Procedureを実装する機器は50 mW e.i.r.p.、その他は20 mW e.i.r.p.
・2400–2483.5 MHz:10 mW e.i.r.p.。Wireless Audio Applications
章のおわり 声の通り道
声を運ぶ小さな無線民は、音を支配しない。声が必要な場所へ、必要な距離だけ届くように、舞台の裏、撮影所の隅、家庭の機器のあいだで働く。
胸元のマイク、舞台の耳へ返るモニター、コードレスのスピーカー、映像と音を合わせる短い合図。英国の小電力無線の民俗において、この民は、声と音楽の通り道を守る小さな職人である。
広帯域を渡る民――無線LAN/Wi-Fi
速く歩くデータの民
広帯域を渡る民は、足が速い。IR2030の戸籍では、WBDTS、すなわちWideband Data Transmission Systemsと、WAS、すなわちWireless Access Systemsとして現れる。無線LAN、Wi-Fi、RLAN、広帯域データ通信の民である。彼らは2.4 GHz帯、5 GHz帯、6 GHz帯、そして57–71 GHzのミリ波の高原にまで村を広げる。[21]
この民は、大量のデータを運ぶ。家の中ではルーターの周囲に集まり、職場では端末とアクセスポイントのあいだを走り、列車や車内、航空機の中にも入り込む。ただし、速い民にも礼法がある。屋内、屋外、固定設置、航空使用、車内使用、DFSやTPCなど、細かな禁忌と作法を守りながら、広い帯域を渡っていく。
英国のWi-Fiの村は、制度の改訂とともに少しずつ道を増やしてきた。IR2030の文書履歴には、2021年の5925–6425 MHzのWi-Fi/RLAN追加、2023年の5150–5250 MHzのWAS関連更新、2026年のCEPT Rec 70-03およびEU 2025/105への整合が記されている。[22]
2.4 GHzの丘
2400–2483.5 MHzには、広帯域データ伝送の古くからの丘がある。ここでは100 mW e.i.r.p.の声で、無線LANや広帯域データの民が行き交う。同じ2.4 GHz帯には、Non-specific SRDの10 mW e.i.r.p.の小道もあるが、この章ではWBDTS/WASの広帯域の民を中心に扱う。[21]
2.4 GHzの丘は、家屋の中でもっとも見慣れた無線の炉端である。ルーター、端末、センサー、音響機器、周辺機器。さまざまな者がこの丘の近くに住む。だが、広帯域の民は、その中でも多くの荷を一度に運ぶ者である。短い合図ではなく、写真、声、映像、文書、会議の顔を運ぶ。
5 GHzの回廊
5150–5250 MHz、5250–5350 MHz、5470–5730 MHz、5725–5850 MHzには、5 GHz帯の回廊が伸びる。ここでは屋内、屋外、航空機内、車内などの条件が細かく分かれる。速い民は自由に見えて、じつは部屋の壁、車両の遮蔽、航空機の内側、固定屋外設置の可否といった境界をよく知っている。[23]
5 GHzの回廊は、2.4 GHzの丘よりも混み合いを避けやすく、太い道を作りやすい。だが、その道はどこへでも伸ばしてよいわけではない。気象レーダーや他の無線の民と衝突しないため、DFSやTPCの作法を身につける。広帯域の民は速いが、速いからこそ、周囲を見る礼儀を求められる。
6 GHzの新しい村
5925–6425 MHzには、比較的新しいWi-Fi/RLANの村がある。Low Power Indoorでは250 mW、Very Low Powerでは25 mWの声を使う。壁の内側、機内、屋内の空間に広がるこの村は、現代の端末が増えた時代の新しい炉端である。[24]
この村の民は、混み合った古い道から少し離れ、新しい広場を得た。家の中、職場、学びの場、会議室。多くの端末が同時に声を交わす時代には、村の道幅そのものが暮らしの質になる。6 GHzの民は、その道幅を広げるために現れた新しい親族である。
ミリ波の高原
57–71 GHzには、ミリ波の高原がある。ここでは40 dBm e.i.r.p.、23 dBm/MHz e.i.r.p.の細く強い声が使われる。固定屋外設置の枝村では、同じ57–71 GHzでも、40 dBm e.i.r.p.に加えて27 dBmの最大送信出力という別の作法がある。[25]
この高原の民は、遠くへぼんやり広がるより、見通しのよい場所で太い道を作る。低い周波数の民が森の小径を歩くなら、ミリ波の民は、見える場所どうしを結ぶ空中の橋を渡る。遮られれば弱いが、見通しがよければ速い。そこにミリ波の民の気質がある。
屋内の炉端、車内の小広場
広帯域の民は、家の中だけに閉じこもらない。車内、列車内、航空機内にも、短い時間だけ現れる小さな広場がある。旅人は席に座り、端末を開き、見えない炉端に加わる。通信の相手は遠くにいるが、最初の声はいつも近くのアクセスポイントへ向かう。
その意味で、Wi-Fiの民は近代の囲炉裏番である。人々は火を囲むかわりに、電波の炉端を囲む。会話、仕事、映像、地図、買い物、知らせ。暮らしの多くが、この広帯域の小道を通って出入りする。
周波数と出力の小戸籍 広帯域を渡る民――無線LAN/Wi-Fi
・863–868 MHz:25 mW e.r.p.。WBDTS、広帯域データネットワーク用。最大チャネル帯域幅1 MHz以下
・916.4–919.4 MHz:25 mW e.r.p.。WBDTS、広帯域短距離データネットワーク用。帯域幅600 kHz以上1 MHz以下
・2400–2483.5 MHz:100 mW e.i.r.p.。WBDTS。周波数ホッピングでは100 mW/100 kHz e.i.r.p.、その他の変調では10 mW/MHz e.i.r.p.の放射条件あり
・5150–5250 MHz:最大平均e.i.r.p. 200 mW、最大平均e.i.r.p.密度10 mW/MHz in any 1 MHz band。WAS/RLAN
・5250–5350 MHz:最大平均e.i.r.p. 200 mW、最大平均e.i.r.p.密度10 mW/MHz in any 1 MHz band。WAS/RLAN
・5470–5730 MHz:平均e.i.r.p. 1 W、平均e.i.r.p.密度50 mW/MHz。WAS/RLAN
・5725–5850 MHz:最大平均e.i.r.p. 200 mW、最大平均e.i.r.p.密度10 mW/MHz in any 1 MHz band。WAS/RLAN
・5925–6425 MHz:Low Power Indoorは最大平均EIRP 250 mW、Very Low Power indoor/mobile outdoorは25 mW。最大平均EIRP密度12.6 mW/MHz in any 1 MHz band。WAS/RLAN
・57–71 GHz:40 dBm e.i.r.p.、23 dBm/MHz e.i.r.p.。WBDTS
・57–71 GHz:40 dBm e.i.r.p.、27 dBm maximum transmit output power。固定屋外設置のWBDTS
・2445–2455 MHz:100 mW e.i.r.p.。Short Range Indoor Data Links。音声・音楽はデジタル信号の場合のみ
章のおわり 見えない炉端
広帯域を渡る民は、現代の生活に炉端を作る。家の中、職場、車内、機内、駅の片隅。人はそこへ集まり、端末を開き、遠くの者と近くにいるように話す。
2.4 GHzの丘、5 GHzの回廊、6 GHzの新しい村、57–71 GHzのミリ波の高原。英国の小電力無線の民俗において、この民は、声だけでなく、画像、文書、映像、仕事、遊びを運ぶ、もっとも忙しい旅人である。
446MHzの町角の民――PMR446(walkie-talkie)
声のキャッチボールをする民
446 MHzの町角には、声を投げ、声を受ける小さな無線民がいる。PMR446である。IR2030の戸籍では、PMR446は手に持って使う無線機であり、基地局や中継器を用いず、内蔵アンテナだけで短距離のピアツーピア通信を行う民として描かれている。[26]
工事現場、イベント会場、山道の仲間内、倉庫の端と端。PMR446は、近くの者へすぐ声を投げる町角の民である。住所録も基地局も多くを求めない。呼べば返る、返れば動ける。その簡素さに、この民の強さがある。
基地局を持たぬ町角
PMR446の民は、広い網を張る者ではない。彼らは、町角で呼び合う。広場の警備、搬入口の合図、野外行事の誘導、山道の同行者。声は遠くの都へ行かず、近くの仲間へ届けばよい。
IR2030では、PMR446はインフラ網や中継器の一部として使う民ではなく、短距離の手に持って使う機器同士で交わる民である。[26] そのため、この章では「446MHzの町角の民」と呼ぶ。人の手の温度に近い、もっとも道具らしい無線民である。
周波数と出力の小戸籍 PMR446
・446.0–446.2 MHz:500 mW e.r.p.。PMR446。空中使用不可。参照規格EN 303 405。[27]
・用途:手に持って使うwalkie-talkie。基地局、中継器、インフラ網としての使用は不可。内蔵アンテナのみ。[26]
・通信の性格:短距離、ピアツーピア、近くの仲間同士の声のやりとり。[26]
章のおわり 呼べば返る民
PMR446の民は、声を遠くへ誇らない。彼らは、近くにいる誰かへ「聞こえるか」と問うためにいる。工事現場の角、祭りの裏方、山道の列、倉庫の棚の向こう。446 MHzの町角には、呼べば返る小さな声が棲んでいる。
英国の役人 用途の棲み処を見る者
ここまで、雑居の民、磁気の民、身体の民、線路と道路の民、声を運ぶ小さな無線民、広帯域を渡る民、そして446 MHzの町角の民を見てきた。どの民も、周波数だけで生きているわけではない。それぞれに、棲み処があり、仕事があり、守るべき作法がある。
冒頭で、日本の役人は「どの免許不要局の家に入るのか」と尋ねた。では、英国の役人は何を見るのか。
英国の役人は、こう尋ねる。
「どの用途の村に住むのか」
OfcomのIR2030には、Non-specific SRD、Inductive、Medical、Railway Applications、Transport and Traffic Telematics、Radio Microphones、Audio PMSE、PMR446、Wideband Data Transmission Systemsといった用途別の村が並ぶ。[28]
英国の制度は、周波数表でありながら、生活の地図にも見える。そこには、雑居の民、磁気の民、身体の民、線路と道路の民、声を運ぶ民、広帯域を渡る民、町角で呼び合う民の棲み処が描き込まれている。
だから英国の村役人は、周波数だけを眺めない。
その民がどの用途の村に属し、どの作法で声を発するのかを見ているのである。
結び 棲み分けの知恵
IR2030を読み終えると、周波数表は乾いた官庁文書の姿を保ちながら、じつは英国の見えない生活誌であることに気づく。遭難者を探す民、札を読む民、身体を見守る民、線路に伏す民、道で車に名を問う民、舞台で声を渡す民、家の中に炉端を作る民、町角で呼び合う民。彼らは小さな出力で、社会の隙間を満たしている。
日本の役人が、無線局の戸籍を丁寧に見るなら、英国の役人は、用途の棲み処をよく見る。どちらも、小さな声を社会の中に住まわせるための作法である。
大電力の王侯が空を支配するなら、小電力の民は空を使い回す。占有せず、短く語り、譲り合い、消える。これが彼らの礼法であり、英国の電波民俗の美徳である。
註釈
[1] 前稿「日本の小電力無線の民――電波法施行規則第6条を読みながら」。
https://note.com/lopra_lab/n/nc7fbbcb54090
[2] Ofcom、UK Interface Requirement IR2030、Licence exempt Short Range Devices。
https://www.ofcom.org.uk/siteassets/resources/documents/spectrum/interface-requirements/ir-2030.pdf
[3] Ofcom、Short-range devices。
https://www.ofcom.org.uk/spectrum/radio-equipment/short-range-devices
[4] IR2030、Equipment Definitions、IR2030/1 Non-Specific Short-Range Device。
https://www.ofcom.org.uk/siteassets/resources/documents/spectrum/interface-requirements/ir-2030.pdf
[5] IR2030、Table 3.1 “Non-specific Short Range Devices (SRDs)”。
https://www.ofcom.org.uk/siteassets/resources/documents/spectrum/interface-requirements/ir-2030.pdf
[6] IR2030、Table 3.13 “Model Control”。
https://www.ofcom.org.uk/siteassets/resources/documents/spectrum/interface-requirements/ir-2030.pdf
[7] IR2030、Equipment Definitions、IR2030/31 Networked SRDs、IR2030/32 Metering device。
https://www.ofcom.org.uk/siteassets/resources/documents/spectrum/interface-requirements/ir-2030.pdf
[8] IR2030、Equipment Definitions、duty cycleの定義。
https://www.ofcom.org.uk/siteassets/resources/documents/spectrum/interface-requirements/ir-2030.pdf
[9] IR2030、Equipment Definitions、IR2030/15 Inductive。
https://www.ofcom.org.uk/siteassets/resources/documents/spectrum/interface-requirements/ir-2030.pdf
[10] IR2030、Table 3.10 “Inductive”。
https://www.ofcom.org.uk/siteassets/resources/documents/spectrum/interface-requirements/ir-2030.pdf
[11] IR2030、Equipment Definitions、Active Medical Implants、Medical Body Area Network Systems、Medical and Biological Applications、Medical data acquisition devices、Assistive Listening Device。
https://www.ofcom.org.uk/siteassets/resources/documents/spectrum/interface-requirements/ir-2030.pdf
[12] IR2030、Table 3.4 “Medical and biological devices”、Active Medical Implants and associated peripherals。
https://www.ofcom.org.uk/siteassets/resources/documents/spectrum/interface-requirements/ir-2030.pdf
[13] IR2030、Table 3.4 “Medical and biological devices”、Medical and Biological Applications / Medical data acquisition devices / MBANS / wireless medical capsule endoscopy。
https://www.ofcom.org.uk/siteassets/resources/documents/spectrum/interface-requirements/ir-2030.pdf
[14] IR2030、Equipment Definitions、Assistive Listening Device (ALD)、およびTable 3.15 “Assistive Listening Devices (ALD)”。
https://www.ofcom.org.uk/siteassets/resources/documents/spectrum/interface-requirements/ir-2030.pdf
[15] IR2030、Table 3.6 “Railway Applications”、およびTable 3.9 “Transport and Traffic Telematics (TTT)”内のRailway Applications。
https://www.ofcom.org.uk/siteassets/resources/documents/spectrum/interface-requirements/ir-2030.pdf
[16] IR2030、Table 3.9 “Transport and Traffic Telematics (TTT)”。
https://www.ofcom.org.uk/siteassets/resources/documents/spectrum/interface-requirements/ir-2030.pdf
[17] IR2030、Radio determination内のTank Level Probing Radar、TLPR。
https://www.ofcom.org.uk/siteassets/resources/documents/spectrum/interface-requirements/ir-2030.pdf
[18] IR2030、Equipment Definitions、IR2030/24 Radio Microphones、IR2030/26 Wireless Audio Applications。
https://www.ofcom.org.uk/siteassets/resources/documents/spectrum/interface-requirements/ir-2030.pdf
[19] IR2030、Equipment Definitions、IR2030/35 Audio PMSE devices。
https://www.ofcom.org.uk/siteassets/resources/documents/spectrum/interface-requirements/ir-2030.pdf
[20] IR2030、Table 3.14 “Audio PMSE devices and video applications”。
https://www.ofcom.org.uk/siteassets/resources/documents/spectrum/interface-requirements/ir-2030.pdf
[21] IR2030、Equipment Definitions、IR2030/7 Wideband Data transmission Devices、IR2030/8 Wireless Access Systems、IR2030/9 Short Range Indoor Data Links。
https://www.ofcom.org.uk/siteassets/resources/documents/spectrum/interface-requirements/ir-2030.pdf
[22] IR2030、Document history。5925–6425 MHzのWi-Fi/RLAN追加、5150–5250 MHzのWAS関連更新など。
https://www.ofcom.org.uk/siteassets/resources/documents/spectrum/interface-requirements/ir-2030.pdf
[23] IR2030、Table 3.5、5150–5250 MHz、5250–5350 MHz、5470–5730 MHz、5725–5850 MHzのWAS条件。
https://www.ofcom.org.uk/siteassets/resources/documents/spectrum/interface-requirements/ir-2030.pdf
[24] IR2030、Table 3.5、5925–6425 MHzのWAS条件。
https://www.ofcom.org.uk/siteassets/resources/documents/spectrum/interface-requirements/ir-2030.pdf
[25] IR2030、Table 3.5、57–71 GHzのWBDTS条件。
https://www.ofcom.org.uk/siteassets/resources/documents/spectrum/interface-requirements/ir-2030.pdf
[26] IR2030、Equipment Definitions、IR2030/34 PMR446。
https://www.ofcom.org.uk/siteassets/resources/documents/spectrum/interface-requirements/ir-2030.pdf
[27] IR2030、Table 3.18 “PMR 446”。
https://www.ofcom.org.uk/siteassets/resources/documents/spectrum/interface-requirements/ir-2030.pdf
[28] IR2030、Equipment DefinitionsおよびSection 3の各用途別表。Non-specific SRD、Inductive、Medical、Railway Applications、Transport and Traffic Telematics、Radio Microphones、Audio PMSE devices、PMR446、Wideband Data Transmission Systems等の用途分類。
https://www.ofcom.org.uk/siteassets/resources/documents/spectrum/interface-requirements/ir-2030.pdf
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