『あの子、弱すぎ』と息子が言った日
小3の次男の意識が変わった。文句を言わず、自分の荷物を持つ。当たり前のことが、当たり前にできている。
思えば、つい昨日まではパパと私、そして息子の3人で支えていたはずのその重みが、今はパパと息子の2人へ。物理的な負荷は、3分の1から2分の1へ。私が背負わされていたものが、主(あるじ)のもとへ戻っただけ。きっかけなんて何でもよかったんだ。
あの日、練習から戻ると、真っ直ぐに報告してくれた。私はとても嬉しかった。息子が知ってほしいことだけを選び取り、伝えてくれるのを心地よく聞ける……はずだったから。
しかし、口をついて出たのは、またしてもあのエースとの小競り合いだった。
最初は、息子が仕掛けたプレーだ。ボールを奪うために体を寄せたら、相手は簡単に倒れてしまった。だが、その後が問題だ。イラついたその子が、ボールも持っていない息子に背後からタックルした。予期せぬ出来事にそのまま倒れ込み、起き上がれなくなる。仲間の肩を借りてピッチを出ると、練習の残り時間はずっと、見学を余儀なくされた。それがことの顛末だ。
我がチームは本当に荒い。競い合うクラブチームだからこそ「負けたくない」という心理は理解できる。とは言え、チーム内で削り合う現状を、私は当初から危惧していた。コーチからも「試合中ならイエローカードだぞ」との指導は入ったものの、これまでも見過ごされてきた小さな悪意が、なかったとは言えない。
私は、これが心配で見守っていたんだった――。ふと、そう気づいた。おつかいに出掛けた夫も、見ていたはずのない場面だ。
ところが、息子はこう言った。
「あの子、弱すぎ」
私に伝えてくれたのは、泣き言ではなく、その事実だった。かつて彼と初めて会った日の、息子の目の輝きを私は忘れることができない。
「俺、あんなに上手い子、見たことない」
あの日の憧れは、再会したトレーニングマッチで脆くも崩れ去った。「俺より目立つな」「シュートを決めるな」。あの子が息子に投げつけたのは、そんな歪んだ独占欲と、パシリのような扱いだった。息子の中で「憧れ」は瞬く間に「大嫌い」へと変わり、今は「絶対に同じ場所では、あいつに勝つ」という剥き出しの闘志へと変わっている。
自分と身長もさほど変わらない、一つ年上の少年。移籍して間もない彼は、U10の練習に顔を見せることはなく、U12の住人となった。選ばれし者が呼ばれたラインの向こう側で、コーチもまた、息子にあの子のいる景色を見せたかったのだろう。
半年前は、十中八九、手も足も出なかった相手。
今は、簡単にボールを奪えている。
息子にとっては、これまであり得なかったほどの手応えだ。少年の屈辱は、相当なものだろう。
私は、息子とプレースタイルがそっくりなこの少年との共演を心待ちにしている。大会も残すところあとわずか。彼がU10に降りてくることもしばらくはなくなるだろう。
二人の距離は、近づくかのように見えて、遠くなるばかりだ。

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