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異形を愛でる東洋、理性を写す西洋:擬人化の比較文化論〈4〉

これまで3回にわたって、日本の擬人化文化の歴史をたどってきました。
恐怖の百鬼夜行が、道具の付喪神へと姿を変え、名前を持つキャラクターとなり、検閲をかいくぐる「見立て」の技術へと磨き上げられていく――その道のりです。

私たちの身の回りには、動物から道具にいたるまで、擬人化されたキャラクターがあふれています。この当たり前の表現は、実は人間が自分を取り巻く世界をどう捉えているかを映す、精緻な鏡なのではないか、と考えたことから、最後に視点を西洋へ転じて、この文化がどれほど独特なものなのかを確かめてみたいと思います。


境界線をどこに引くか

日本と西洋の擬人化のもっとも大きな違いは、人間とそれ以外のあいだに引かれた境界線の強固さにあると思います。

日本の精神文化の底には、八百万の神々に代表されるアニミズムが流れています。そのため、前回まで見てきたように、道具にも精霊が宿り、心を持って化けるという発想が、ごく自然に受け入れられてきました。ここには、人間と非人間を分かつ絶対の壁はなく、すべてが地続きのグラデーションとしてつながっています。

対して西洋、とりわけキリスト教文化圏では、人間は神の似姿として特別に創造され、他の被造物を治める存在とされてきました。理性を持つ人間と、それ以外の自然・物質のあいだには、越えがたい境界線が引かれています。この世界観のもとでは、人間以外のものが魂を持って振る舞うことは、神が定めた秩序を乱す行為とみなされやすく、境界を侵す存在はしばしば「悪魔」や忌むべき「怪物」として、排除や征服の対象になってきました。

何のために、擬人化するのか

目的の違いも際立っています。日本の擬人化は、恐怖や理不尽をキャラクター化し、愛着を持って共存するためのものでした。平安の百鬼夜行が室町の付喪神へと姿を変えたように、恐ろしいものはユーモアのフィルターを通して手なずけられ、日常の隣に住まわされていきます。

一方、西洋の擬人化は、主に道徳的な教訓を伝える手段として発展しました。イソップ寓話に登場する動物たちは、その生態を愛でるためではなく、人間の性質や悪徳をわかりやすく示す記号として配置されています。西洋美術の「アレゴリー(寓意)」の伝統――「正義」や「死」といった抽象概念を、特定の持ち物を携えた人の姿で表す手法も同じ発想です。複雑な概念を理知的に翻訳するための、構築的な手続きだったのです。

首をすげ替えるか、姿を保つか

この違いは、絵の技法にもはっきり表れます。日本の伝統的な戯画では、体は完全に人間の衣服をまといながら、頭だけが動物や道具に置き換わるというダイナミックな入れ替えがよく見られます。
この発想は現代の「萌え擬人化」にも受け継がれ、戦艦や刀剣、城までもが、髪型や装飾に元の特徴を凝縮させた美少女・美男子の姿に変換されます。人間と非人間を記号のレベルで自在に重ね合わせることに、心理的な抵抗があまりないのです。

これに対し、西洋のキャラクターたちは、二足歩行をして服を着て言葉を話しても、姿形や毛並みは動物としてのリアルさを保ち続けます。頭部だけをリアルな動物にすげ替えるような表現は、西洋の伝統ではむしろ不気味なものとして忌避されがちでした。境界線を生理的に混乱させないよう、丁寧なコントロールが働いているのだと思います。

なぜ、日本はここまで擬人化を極めたのか

その根底には、厳しい現実や罪悪感を、キャラクター化というクッションを介して包み込み、昇華させようとする感性があるのではないかと思います。
座敷わらしや河童のような妖怪のルーツには、貧困や水難、疫病といった、直視するにはあまりに重い記憶が横たわっている、とも言われます。それらを単なる不浄のものとして切り捨てるのではなく、時に福をもたらす存在として、時にコミカルな仲間として、社会の中に住まわせ続けてきました。

それが、日本の擬人化文化の一番奥にあるものなのだと思います。

まとめ

理知的で構築的な西洋のアレゴリーも、境界を溶かして異形を隣人に変えてしまう日本の擬人化も、どちらが優れているという話ではありません。人間が、自然や歴史、そして自分自身の内なる理不尽さとどう向き合ってきたか――その答え方の違いなのだと思います。

壊れた道具を供養し、妖怪に名前を与え、検閲の目をかいくぐって別の姿に仮託する――何にでも顔を見出し、愛着を持って接するこの精神は、私たちが生きるこの世界を、少しでも温かく、孤独ではない場所にするための知恵なのかもしれません。

<< 擬人化〈3〉「検閲をかいくぐる絵師たち」

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