良い企業を、魅力的な株価で買う②――時価総額500億円以下、成長余地のある中小型株
はじめに
前回の「良い企業を、魅力的な株価で買う①」では、店舗数と会員数を拡大するフィットイージーを取り上げました。
成長性に対して割安な医療DX企業「くすりの窓口」
今回取り上げるくすりの窓口は、薬局検索や処方箋予約だけを行う会社ではありません。
電子お薬手帳、医薬品在庫の流通支援、薬局・医療機関向け基幹システムなどを組み合わせ、患者、薬局、医療機関、介護施設をつなぐ医療DXプラットフォームの構築を進めています。
同社の特徴は、薬局や医療施設へサービスを導入した後、月額利用料やシステム利用料などの継続収入を得られることです。
導入施設数と利用サービス数が増えるほど、ストック型収益が積み上がる仕組みです。
一方、現在の株価は、営業利益の成長率やストック型収益の比率に対して比較的低い評価にとどまっています。
ただし、同社の純利益には税負担の軽減などの特殊要因が含まれているため、表面上のPERだけを見て割安と判断することはできません。
本記事では、事業内容、成長性、競争優位性、財務、バリュエーション、リスクを整理し、
安定成長が期待できる企業を、魅力的な株価で買えるのか
を検討します。
1.事業内容
薬局検索から医療DXプラットフォームへ
くすりの窓口(5592)は、主に次の3事業を展開しています。

メディア事業
「EPARKくすりの窓口」では、利用者が現在地、駅名、営業時間、診療科などから薬局を検索し、処方箋をスマートフォンで送信できます。
薬局から薬の準備完了通知を受け取ってから来店できるため、薬局での待ち時間を短縮できます。
利用者にとっては、
待ち時間の短縮
営業時間や場所から薬局を選べる
在庫確認がしやすくなる
家族の服薬情報を管理できる
といったメリットがあります。
薬局側にとっても、
処方箋の事前受付
来店前の在庫確認
業務の平準化
患者との継続的な接点確保
新規患者の獲得
などの効果が期待できます。
みんなのお薬箱事業
「みんなのお薬箱」は、薬局や医療機関が保有する余剰医薬品を、他の施設と売買できるサービスです。
薬局では、患者ごとに必要な医薬品が異なります。
処方内容の変更や利用患者の減少によって、使用頻度の低い医薬品が余る場合があります。
同サービスを利用することで、
売り手は余剰在庫を現金化できる
買い手は必要な医薬品を割安に調達できる
廃棄される医薬品を削減できる
在庫回転率を改善できる
というメリットがあります。
参加施設が増えるほど売買される医薬品の種類と数量が増えるため、ネットワークの拡大がサービス価値の向上につながります。
基幹システム事業
基幹システム事業では、薬局、医療機関、介護施設に対して、
レセプトコンピューター
電子薬歴
予約・顧客管理
自動精算機
医療・介護施設向け業務システム
システム・データ連携
などを提供しています。
一度導入した基幹システムを変更する場合、データ移行、従業員教育、業務フローの変更などが必要です。
そのため、基幹システムは検索サービスなどと比べて解約されにくく、顧客との取引が長期化しやすい事業です。
同社は、メディア、医薬品流通、基幹システムという複数事業を連携させることで、顧客に包括的なサービスを提供する方針です。
2.成長実績
売上高・営業利益ともに継続成長
くすりの窓口は、売上高と営業利益の成長を続けています。

2026年3月期は、売上高123.3億円、営業利益26.8億円となりました。
2027年3月期についても、会社は売上高144億円、営業利益31億円を計画しています。
会社は、処方箋ネット受付、医薬品流通額、基幹システム利用施設数を拡大しながら、ストック売上を重視する方針を示しています。
売上高以上に営業利益が伸びている
2026年3月期は、売上高が前期比10.1%増だったのに対し、営業利益は37.3%増加しました。
利益成長が売上高成長を上回っているのは、
ストック売上の増加
ストック粗利益の拡大
顧客単価の上昇
販売管理費の効率化
既存システムの複数施設への展開
などが進んでいるためです。
売上高だけでなく、利益率も改善している点は評価できます。
3.成長ドライバー
処方箋ネット受付の拡大
患者がスマートフォンから処方箋を送信し、準備完了後に薬局へ行く利用形態が普及すれば、利用者と薬局の双方にメリットがあります。
利用者にとっては待ち時間が短縮され、薬局にとっては来店前に処方内容と在庫を確認できます。
会社も2027年3月期の重点施策として、処方箋ネット受付の認知度向上と予約件数の増加を掲げています。
導入施設数の拡大
くすりの窓口は、調剤薬局だけでなく、医療機関や介護施設へサービス提供先を広げています。
導入施設が増えると、
月額利用料
システム利用料
保守収入
医薬品流通関連収入
などが増加します。
一度獲得した顧客から継続収入を得られるため、新規導入施設の増加は翌年度以降の収益基盤にもつながります。
1施設当たりの利用サービス拡大
同社の成長は、新規顧客の獲得だけではありません。
薬局や医療施設が、
処方箋ネット受付
電子お薬手帳
医薬品在庫流通
電子薬歴
レセコン
自動精算機
顧客管理システム
などを複数導入すれば、1施設当たりの売上高が増加します。
複数のサービスが同じデータや業務フローで連携すれば、顧客にとっての利便性が高まるだけでなく、他社サービスへ変更する負担も大きくなります。
したがって、
顧客数の増加と、1顧客当たりの利用サービス数の増加
を同時に進められることが、くすりの窓口の成長ドライバーです。
「みんなのお薬箱」の流通額拡大
「みんなのお薬箱」は、参加施設が増えるほどサービス価値が高まりやすい事業です。
参加施設が増えると、
売りに出される医薬品が増える
購入できる医薬品の選択肢が増える
必要な薬を調達しやすくなる
サービスの利用価値が高まる
さらに参加施設が増える
という好循環が期待できます。
会社も、調剤薬局と医療機関の開拓を進め、医薬品流通額を増やす方針を示しています。
3つの事業を連携させる
くすりの窓口の成長戦略で重要なのは、3つの事業を別々に拡大することではありません。
メディア事業で薬局との接点を持ち、その顧客へ医薬品流通支援や基幹システムを提案することで、顧客当たりの利用サービスを増やせます。
反対に、基幹システムを導入している施設へ、処方箋ネット受付や電子お薬手帳を提案することもできます。
複数事業を持つことによるクロスセルが進めば、新規顧客の獲得費用を抑えながら売上高を伸ばせる可能性があります。
4.利益率・キャッシュフロー
営業利益率20%を超える高収益体質
くすりの窓口の営業利益率は、次のように改善しています。

2026年3月期には営業利益率が20%を超えました。
ストック型サービスの売上が積み上がる一方、システム開発費や本部費用が顧客数と同じ割合では増加しないことが、利益率改善の背景にあります。
一度開発したシステムを多数の薬局や医療施設へ提供できれば、顧客数の増加に伴って利益率が高まりやすくなります。
営業キャッシュフローも良好
2026年3月期の営業キャッシュフローは約29.5億円となり、営業利益26.8億円を上回りました。
本業の利益が現金収入につながっている点は評価できます。
一方、システム開発やM&Aなどによる投資支出も大きいため、投資キャッシュフローはマイナスとなっています。
したがって、
営業キャッシュフローの質は高い一方、M&Aやシステム投資後にどれだけ現金が残るか
を確認する必要があります。
純利益には特殊要因がある
2026年3月期は、営業利益26.8億円に対して純利益が営業利益を上回る水準となりました。
通常は、営業利益から支払利息や法人税が差し引かれるため、純利益は営業利益を下回ります。
同社の純利益には、繰越欠損金の利用などによる税負担軽減の影響が含まれていると考えられます。
したがって、株価評価では、会社予想EPSをそのまま使うだけではなく、
営業利益
通常の税率を適用した正常化純利益
正常化EPS
も確認する必要があります。
5.競争優位性
医療施設・薬局・利用者をつなぐネットワーク
くすりの窓口の強みは、単一のサービスではなく、薬局、医療機関、介護施設、利用者をつなぐネットワークを構築していることです。
加盟薬局や対応施設が増えるほど、利用者は自分に合った薬局を選びやすくなります。
利用者や処方箋ネット受付件数が増えれば、薬局側にとっても、同社サービスを導入する価値が高まります。
この構造は、
導入施設が増える
利用者の選択肢が増える
利用件数が増える
薬局の導入効果が高まる
さらに導入施設が増える
という好循環につながる可能性があります。
複数サービスによるスイッチングコスト
薬局が検索・予約サービスだけを利用している場合、競合サービスへ乗り換えることは比較的容易です。
しかし、同じ薬局が、
処方箋受付
電子お薬手帳
医薬品在庫流通
電子薬歴
レセコン
顧客管理
決済・精算
をまとめて利用すれば、データや業務フローが同社のサービスと深く結び付きます。
その結果、他社へ変更する際の負担が大きくなり、取引が長期化しやすくなります。
独自データの蓄積
同社は、メディア事業、みんなのお薬箱事業、基幹システム事業から得られるデータを収集・分析し、薬局・医療業界に適したサービスを提供する方針です。
会社も、複数事業から得られる独自データを活用した包括的なサービス提供を、差別化要因として説明しています。
処方箋受付、医薬品在庫、施設運営などのデータが蓄積されれば、
医薬品需要の予測
在庫の最適化
薬局経営支援
施設向け新サービス
AIを活用した業務効率化
などへ活用できる可能性があります。
競争優位性は形成途上
ただし、現時点で強固なネットワーク効果が完全に確立されていると断定することはできません。
薬局検索、処方箋予約、電子お薬手帳には複数の競合サービスがあります。
今後は、
サービスごとの解約率
1施設当たりの利用サービス数
顧客単価の推移
処方箋ネット受付件数
利用者の継続率
競合サービスへの乗り換え状況
などを確認する必要があります。
したがって、くすりの窓口については、
導入施設数、利用者数、利用サービス数の増加を通じて、医療DXプラットフォームとしての競争優位性を形成しつつある企業
と評価するのが適切です。
6.財務
自己資本比率60%を超える健全な財務
2026年3月期末の総資産は約178億円、純資産は約115億円となり、自己資本比率は60%を超えています。
営業キャッシュフローも約29.5億円を確保しており、現時点の財務体質は健全です。

借入金とM&Aには注意
同社はM&Aを通じて、顧客基盤やシステム領域を拡大しています。
M&Aが成功すれば、導入施設数、売上高、利益の拡大につながります。
一方で、買収資金を借入金で調達した場合、財務負担が増加します。
また、買収した企業の業績が計画を下回れば、のれんや無形資産の減損が必要になる可能性があります。
自己資本比率だけを見ると健全ですが、
M&A後の利益貢献、借入金、のれん、無形資産の増加を合わせて確認する必要がある
と考えます。
7.バリュエーション
成長性に対して比較的低い株価評価
※以下の株価、PER、PBR、配当利回りなどの市場指標は、原則として2026年7月24日終値を基準としています。
2026年7月24日のくすりの窓口の終値は2,282円でした。
2027年3月期の会社予想は、売上高144億円、営業利益31億円です。
会社予想純利益をそのまま用いたEPSは約270円前後となるため、表面上の予想PERは8倍台です。

営業利益が15%以上増加する計画に対してPER8倍台であれば、非常に割安に見えます。
ただし、表面上のPERをそのまま使うことは適切ではありません。
正常化PERで評価する必要がある
会社予想純利益には、通常より低い法人税負担が反映されていると考えられます。
仮に、営業利益31億円に通常の法人税負担を適用し、正常化純利益を約21~22億円とすると、正常化EPSは約185~195円となります。
この場合の正常化PERは次のようになります。

正常化するとPERは11~12倍程度まで上昇します。
それでも、営業利益が15%前後成長し、ストック型収益を持つ企業としては、比較的低い株価評価です。
なぜ株価評価が低いのか
市場が慎重な評価を付けている理由として、次の点が考えられます。
純利益に税負担軽減の影響がある
M&Aへの依存
のれん・無形資産の増加
医療制度や薬局政策の変更
事業内容が複雑で理解しにくい
小型株で株式の流動性が低い
ストック収益の解約率が十分に開示されていない
低PERには合理的な理由もあります。
一方で、これらのリスクが実際の事業成長に比べて過大に評価されているなら、株価には見直し余地があります。
8.リスク
医療制度・規制変更
医療・薬局業界は、診療報酬、調剤報酬、薬価改定、電子処方箋など、国の制度変更の影響を受けます。
制度変更が同社サービスの普及を後押しする場合もありますが、国が共通の無料サービスを提供した場合、民間事業者の収益機会が減少する可能性もあります。
競合サービス
電子お薬手帳、処方箋予約、薬局システムには複数の競合企業があります。
調剤薬局大手やドラッグストアが自社アプリを強化すれば、同社のサービスを経由しない利用者が増える可能性があります。
M&Aと減損
買収した企業の売上高や利益が計画を下回る場合、
のれんの減損
統合費用の増加
人件費の増加
システム統合の遅延
などが発生する可能性があります。
ストック売上の質
ストック売上が多いことは強みですが、すべてが解約率の低い高品質なサブスクリプションとは限りません。
サービスによって、
解約率
顧客獲得費用
顧客単価
契約期間
粗利益率
が異なる可能性があります。
ストック売上高の増加だけでなく、ストック粗利益、顧客維持率、ARPUの推移を確認する必要があります。
税効果の反動
将来、法人税負担が通常の水準へ戻った場合、営業利益が増加しても純利益やEPSの伸びが鈍化する可能性があります。
小型株特有の株価変動
時価総額が小さく売買高も限られるため、大型株と比べて株価が大きく変動する可能性があります。
業績に大きな問題がなくても、大株主の売却や機関投資家の需給によって株価が下落する場合があります。
9.2029年3月期を基準とした目標株価の試算
想定PERの考え方
標準シナリオでは、正常化EPSに対してPER14倍を適用しています。
くすりの窓口は、
ストック型収益の積み上がり
営業利益率20%超
導入施設数の増加
1施設当たりの利用サービス拡大
健全な財務
という成長要素を持っています。
一方で、
医療制度変更
M&Aへの依存
のれん・無形資産
純利益に含まれる税効果
小型株としての流動性
などのリスクがあります。
このため、成長企業として一定の評価見直しを想定しながらも、SaaS企業のような高いPERは採用せず、正常化利益に対して14倍を標準値としました。

シナリオ別の目標株価
2027年3月期の正常化EPSを190円と仮定し、2029年3月期までの2年間を試算します。

弱気シナリオ
制度変更、競争激化、M&Aの不振などにより、正常化EPSの成長率が年3%にとどまるケースです。
この場合の目標株価は約2,020円となり、現在株価を下回ります。
標準シナリオ
ストック売上と導入施設数が拡大し、正常化EPSが年12%で成長するケースです。
2029年3月期のEPSは約238円となり、PER14倍を適用すると目標株価は約3,330円です。
強気シナリオ
処方箋ネット受付、医薬品流通、基幹システムがそろって成長し、正常化EPSが年18%で拡大するケースです。
2029年3月期のEPSは約265円となり、PER16倍を適用すると目標株価は約4,240円です。
目標株価の判断
以上を踏まえると、標準シナリオにおける2029年3月期の目標株価は、
3,100~3,400円程度
が一つの目安になると考えます。
現在株価には下落リスクもあります。
しかし、表面上のPERではなく正常化利益を基準にしても、営業利益の成長率とストック型収益に対して株価評価は比較的低いと考えます。
10.まとめ
安定成長に対して株価評価が抑えられた医療DX企業
くすりの窓口の魅力は、次の点にあります。
売上高と営業利益が継続的に成長している
売上高以上のペースで営業利益が増加している
営業利益率が20%を超えている
月額利用料などの継続収入を積み上げられる
薬局、医療機関、介護施設へ導入先を拡大できる
1施設当たりの利用サービス数を増やせる
医薬品流通ネットワークの拡大余地がある
営業キャッシュフローが良好
自己資本比率が60%を超えている
正常化後でもPERは11~12倍程度と比較的低い
同社の成長を支えているのは、
利用者の利便性を高めることで導入薬局を増やし、導入薬局が増えることで、さらに利用者の利便性が高まる
という好循環です。
さらに、薬局が処方箋予約、電子お薬手帳、医薬品在庫流通、基幹システムなどを複数利用すれば、1施設当たりの売上高が増加します。
一方で、ネットワーク効果が完全に確立していると断定することはできません。
今後は、導入施設数だけでなく、解約率、顧客単価、施設当たり利用サービス数、処方箋ネット受付件数などを確認する必要があります。
また、表面上のPER8倍台だけを見て割安と判断するのは危険です。
税効果を調整した正常化利益を基準にすると、PERは11~12倍程度になります。
それでも、営業利益の成長率、ストック型収益、利益率を考えると、現在の株価評価は比較的低いと考えます。
検証の結果、現時点のくすりの窓口は、
薬局ネットワークとストック収益を積み上げる安定成長企業でありながら、その成長性が株価に十分織り込まれていない可能性がある企業
と評価しました。
今後も「良い企業を、魅力的な株価で買う」という視点から、さまざまな企業を評価していきたいと思います。
※本記事に記載した株価、PER、PBR、配当利回りなどの市場指標は、原則として2026年7月24日終値を基準としています。
※業績予想は、会社が公表した決算資料および業績予想に基づいています。
※正常化利益は、通常の法人税負担などを仮定した独自の試算であり、会社が公表した業績予想とは異なります。
※目標株価は、将来のEPS成長率と想定PERを用いたシナリオ分析であり、現在の理論株価や将来の株価を保証するものではありません。
※本記事は、特定の銘柄の購入または売却を推奨するものではありません。投資に関する最終的な判断は、ご自身の責任で行ってください。
