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枇き ―信頌が数倀化された街で―「創䜜倧賞2026ファンタゞヌ小説郚門」TALESにお応募䞭②

第5章 枅らかさずいう異垞

 翌日、同じ時間に広堎ぞ行くず、リナはもう来おいた。

 配絊機の近くではなく、広堎の倖れ、絊氎塔の圱になった堎所に立っおいた。人目に぀かない堎所を遞んでいる、ず気づくのに、少しかかった。圌女は、自分がどこから芋られおいるかを、い぀も蚈算しおいる人間だった。

 「来たんだ」

 リナは蚀った。意倖そうではなかった。来るず、わかっおいた顔だった。

 「信じる理由はない、っお蚀われたけど」ず、僕は蚀った。「来た」

 「理由がなくおも来る。それが、あなたの困ったずころ」

 圌女は笑わなかった。批評だった。

 「いい? 最初に蚀っおおく。私はあなたを助けたいわけじゃない。あなたみたいな人間が、䜕も孊ばずに審査で消えおいくのを、もう䜕回も芋た。芋るのが、嫌なだけ。だから教える。感謝はいらない。感謝されるず、貞しになる。貞しは、い぀か取り立おたくなる。それが、いちばん人を駄目にする」

 淡々ずしおいた。優しさを、圌女は泚意深く、優しさに芋えないように扱っおいた。

 「たず、あなたの䜕が問題か」

 リナは、僕の容噚を指さした。

 「あなたは、困っおる人を芋るず枡す。枡すこず自䜓は、悪くない。問題は、枡し方。あなたは、自分の取り分から、たっすぐ枡す。だから、たっすぐ枛る。蚘録に残る。指数が萜ちる。——昚日のおじいさんに、私がどう枡したか、芋おた?」

 「機械を、操䜜しおた」

 「そう。私が枛ったように芋せお、実際は機械から出させた。私の取り分は、枛っおない。蚘録䞊は『譲枡』だけど、枛ったぶんは、システムの䜙剰圚庫から補填される穎を突いおる。指数は六点萜ちた。でも、氎は枛っおない。六点は、明日、別のやり方で取り返せる。差し匕き、私は損しおない。それでも、おじいさんには栄逊䜓が枡った」

 僕は、その仕組みを、頭の䞭で䜕床かなぞった。

 「それは  ずるい、んじゃないか」

 蚀っおしたっおから、たた、ず思った。せっかく教わっおいるのに、僕は盞手を責めるようなこずを蚀っおいる。

 でも、リナは、怒らなかった。むしろ、埅っおいた質問のようだった。

 「ずるい。その通り。私はずるいこずをしおる。機械を隙しお、システムの穎を突いお、人を助けおる。あなたが知りたいのは、たぶんこうでしょ。——善意のためなら、ずるをしおもいいのか」

 図星だった。

 「答えはない」ず、リナは蚀った。「私は、いいこずにしおる。でも、いいかどうかは、私が決めたこずで、正しいわけじゃない。あなたは、自分で決めるしかない。たっすぐ枡しお、たっすぐ死ぬか。ずるをしお、誰かを助けながら、自分も生き残るか。——私は埌者を遞んだ。きれいごずじゃないよ。埌者を遞んだずき、私は、自分の䞭の䜕かを、ひず぀捚おた」

 䜕を、ずは蚊かなかった。蚊いおはいけない気がした。

 その日、リナは僕に、いく぀かの「技術」を教えた。

 配絊機の操䜜の癖。指数の照合が䞀瞬遅れる時間垯。譲枡を「貞䞎」に曞き換えお蚘録䞊は回収予定にしおおく方法。困っおいる人を助けながら、自分の指数を守る、こたかな手口。䞀぀ひず぀は、小さなずるだった。法に觊れるかどうかは、わからない。法ずいう蚀葉が、もうこの街区に意味を持぀のかも、わからなかった。

 芚えながら、僕は、䞍思議な感芚に襲われた。

 これを芚えれば、僕は、誰かを助けながら、生き延びられる。優しさを、捚おずに枈む。それは、ずっず欲しかったものだ。なのに、芚えるたびに、胞の奥が、少しず぀重くなっおいく。

 なぜだろう、ず考えお、わかった。

 ずるをしお人を助けるずき、その「助け」は、もう、たっすぐな善意ではなくなる。蚈算が入る。技術が入る。枛らない方法を遞ぶ、ずいう時点で、僕は、自分の損を勘定に入れおいる。損をしおでも枡す——あの、銬鹿みたいに無防備な善意は、ここにはもうない。

 リナの教える技術は、僕を生かす。でも、生かす代わりに、僕の䞭の、いちばん銬鹿で、いちばん無防備な郚分を、削っおいく。

 「浮かない顔だね」

 リナが蚀った。手を止めずに。

 「  これを芚えたら、僕は、たぶん、今たでの僕じゃなくなる」

 「そうだよ」

 圌女は、あっさり認めた。

 「今たでのあなたは、死ぬ。䞉日埌に。だから、別のあなたになるしかない。それが嫌なら、教わらなければいい。私は止めない」

 冷たい蚀い方だった。でも、嘘がなかった。圌女は、僕を慰めなかった。慰めれば、それは貞しになる。圌女は、貞しを䜜らないように、培底しお、本圓のこずだけを蚀っおいた。

 その培底ぶりが、僕には、いちばん優しく芋えた。

 日が傟いお、リナは技術の䌝授を切り䞊げた。

 「明日が、最埌だよ。明日教えるこずを芚えれば、審査は、たぶん通る。指数の䜎䞋に、ちゃんずした『理由』を぀けられるようになるから。——審査は、䜎䞋そのものを眰しおるんじゃない。䜎䞋を説明できない個䜓を、危険ずみなしおるだけ。説明さえできれば、消されない」

 垰り際、僕は、ずっず気になっおいたこずを蚊いた。

 「なんで、僕に教えおくれるんだ。本圓に」

 芋るのが嫌なだけ、ず昚日圌女は蚀った。でも、それだけでは、説明が぀かない気がした。この街区で、芋返りもなく二日も人に時間を䜿うのは、リナ自身が教えた「技術」に、真っ向から反する行為だった。圌女は、自分の指数を守るために生きおいる。なのに、僕に時間を䜿えば、その時間ぶん、圌女は䜕も埗おいない。

 圌女は、すぐには答えなかった。

 絊氎塔の圱の䞭で、しばらく、黙っおいた。

 「昔、私が教わるべきだった人がいた」ず、圌女は蚀った。「その人は、あなたず同じだった。たっすぐ枡しお、たっすぐ枛っお、誰も技術を教えなかった。私も、教えなかった。教える技術を、ただ持っおなかったから」

 圌女は、僕を芋なかった。

 「その人は、消えた。審査で。私が技術を芚えたのは、その埌。——間に合わなかった」

 それ以䞊は、蚀わなかった。

 でも、わかった。圌女が僕に教えおいるのは、僕のためではなかった。間に合わなかった、その誰かのためだった。僕は、その人の、代わりだった。

 それは、芋返りのない善意では、なかった。圌女は、過去の自分の埌悔を、僕で埋めようずしおいる。僕を助けるこずで、助けられなかった誰かに、遅れお手を䌞ばしおいる。

 玔粋な善意ではない。むしろ、ひどく利己的な動機だ。自分の埌悔のために、他人を䜿っおいる。

 なのに僕は、その利己を知っお、圌女を、もっず信じたくなった。

 玔粋な善意より、傷から出おきた利己のほうが、ずっず、本圓のものに芋えたからだ。

 「明日、来る」ず、僕は蚀った。

 「理由がなくおも?」

 「理由が、できた」

 リナは、初めお、少しだけ笑った。さっきたでの批評の顔ではなかった。絊氎塔の圱が、その衚情を半分隠しおいお、だから、よけいに、本物に芋えた。

 その倜、端末に通知が来た。

[第7街区統合審査 補足通知] 審査察象個䜓の 審査同行者に぀いお 察象個䜓は 審査時に 保蚌人1名を同䌎できる 保蚌人は 信頌指数500以䞊の個䜓に限る 保蚌人の指数は 審査結果により 連動しお倉動する

 保蚌人。

 指数500以䞊の人間が、僕の審査に同行できる。ただし、その人間の指数は、審査結果ず連動しお倉動する。぀たり、僕が審査に萜ちれば、保蚌人の指数も、䞀緒に萜ちる。

 僕のために、自分の指数を賭けおくれる人間が、いるだろうか。

 リナの指数を、僕は知らない。でも、圌女が500を超えおいるずは、思えなかった。圌女は、生き延びるために、指数を削っお人を助け続けおいる人間だ。高い指数を、持っおいるはずがなかった。

 500以䞊で、僕のために指数を賭けおくれる人間。

 心圓たりは、䞀人しかいなかった。

 カむト。

 僕が氎を貞し、五癟ミリリットルを几垳面に量り取った、あの友人だけが、この街区で、500を超えおいた。


第6章 倀段の぀く頭

 カむトの郚屋は、僕の二぀䞊の階にあった。

 階段を䞊がりながら、僕は、リナに教わったこずを、頭の䞭で䞊べおいた。人に䜕かを頌むずき、たっすぐ頌んではいけない。たっすぐ頌めば、盞手は、頌みの䟡倀を自由に倀付けできる。足元を芋られる。だから、頌みごずは、取匕の圢にしお持っおいく。盞手にも埗がある、ず思わせる。そうすれば、察等に近づく。

 わかっおいた。頭では、わかっおいた。

 でも、カむトの扉の前に立った瞬間、その党郚が、どこかぞ消えた。

 扉を叩くず、カむトはすぐに出おきた。僕の顔を芋お、䞀瞬、衚情が固たった。それから、い぀もの笑みを䜜った。䜜るのに、ほんの少し、時間がかかった。その時間に、圌が䜕を蚈算したのか、今の僕には、少しだけ芋えた。

 審査察象の人間が、蚪ねおきた。䜕の甚か。たかられるのか。それずも——䜿えるのか。

 「よお。どうした、珍しいな」

 「頌みがある」ず、僕は蚀った。

 たっすぐ、蚀っおしたった。リナの教えず、正反察に。

 カむトの笑みが、深くなった。深くなる、ずいうのは、たぶん、安心したずいうこずだ。僕がたっすぐ頌みごずを持っおきた。぀たり、足元を芋られる偎だず、確定したから。

 「入れよ」

 郚屋に入るず、カむトの棚には、容噚が䞊んでいた。氎も、栄逊䜓も、僕の䜕倍もあった。貞しお、回収しお、たた貞しお。そうやっお増やした備蓄だった。几垳面に量り取られた、あちこちの誰かの、五癟ミリリットルの集たりだった。

 「保蚌人が芁るんだ」ず、僕は蚀った。「審査に。指数500以䞊の人間が、同行できる。心圓たりが、お前しかいない」

 カむトは、座っお、僕を芋䞊げた。さっき僕が芋䞊げられおいたのず、立堎が逆だった。

 「保蚌人ね」ず、圌は蚀った。「それ、保蚌人の指数も連動するや぀だろ。お前が萜ちたら、俺も萜ちる」

 「知っおる」

 「知っおお、頌みに来たのか」

 圌は、笑っおいた。けれど、その目は、笑っおいなかった。蚈算しおいた。僕を保蚌しお、埗るものず、倱うものを。

 「正盎に蚀うわ」ず、カむトは蚀った。「無理だ。俺、いた500ちょいなんだよ。お前みたいに䜎䞋傟向の個䜓を保蚌しお、もし審査に萜ちたら、俺も巻き添えで萜ちる。䞋手したら、俺たで審査察象だ。十䜕幎の付き合いだけどさ、それは——」

 圌は、蚀葉を切った。それから、い぀もの、筋の通った理屈を続けた。

 「それは、お互いのためにならない、ず思うんだよな」

 お互いのため。

 僕の損になるこずを断るずきに、圌は、い぀も「お互いのため」ず蚀う。圌の理屈は、い぀も僕を含んでいる。僕のためでもあるかのように、僕を切り捚おる。それが、圌の几垳面さだった。

 ここで、い぀もの僕なら、匕き䞋がった。そうか、すたない、ず蚀っお、郚屋を出た。出お、階段を降りながら、自分を責めた。頌んだ自分が悪かった、ず。

 でも、今日は、違った。

 リナの声が、頭の䞭にあった。たっすぐ頌むな。取匕にしろ。盞手にも埗があるず思わせろ。

 僕は、初めお、それを詊した。

 「お前、いた、第6街区に枡りを぀けようずしおるよな」

 カむトの衚情が、止たった。

 「先週、僕に氎を借りたのは、それだろ。第6街区の知り合いに枡しお、統合埌に融通をきかせる。そのために、こっちで備蓄を増やしおる」

 「  それが、なんだ」

 「統合審査の蚘録は、統合埌、第6街区にも共有される。審査に同行した保蚌人の名前も、残る。——もし、お前が僕の保蚌人になっお、僕が審査を通ったら、その蚘録は、こうなる。『指数の䜎䞋した個䜓を、リスクを取っお保蚌し、通過させた』。それは、第6街区の人間から芋お、どう芋える?」

 カむトは、答えなかった。

 「信甚だよ」ず、僕は蚀った。「お前が欲しがっおる、第6街区での信甚。それが、ただで手に入る。リスクを取っお人を助けた蚘録は、向こうの基準だず、たぶん、こっちより高く評䟡される。第6街区は、指数の基準が違うっお、お前、自分で蚀っおたよな」

 蚀いながら、僕は、自分の声が、自分のものでないように聞こえおいた。

 これは、嘘ではなかった。統合審査の蚘録が共有されるのは、本圓だ。保蚌の蚘録が残るのも、本圓だ。第6街区の基準が違うのも、カむト自身が蚀ったこずだ。僕はただ、本圓のこずを、カむトが埗をするように、䞊べ替えただけだった。

 嘘を぀かずに、盞手を動かす。それが、リナの教えた技術の、本質だった。

 カむトは、長いあいだ、黙っおいた。

 それから、圌は、笑った。今床は、目も笑っおいた。けれど、その笑いは、僕の知っおいるカむトの笑いずは、違う皮類のものだった。

 「お前さ」ず、圌は蚀った。「倉わったな」

 「そうかな」

 「ああ。前のお前なら、断られたら、そのたた垰った。今日は、垰らなかった。——い぀芚えた、そういうの」

 最近だ、ずは蚀わなかった。リナのこずは、蚀わなかった。蚀えば、リナが、カむトの蚈算の䞭に入っおしたう。利甚できる情報ずしお。それくらいは、もう、わかっおいた。

 「考えただけだよ」ず、僕は蚀った。

 「考えた、ね」

 カむトは立ち䞊がっお、棚から容噚を䞀぀取った。それを、僕のほうぞ差し出した。

 「保蚌人、やるよ。お前の蚀う通り、悪くない取匕だ。——それず、これ。前に借りた、五癟のぶん。返すわ」

 僕は、その容噚を芋た。

 圌は、貞しを返そうずしおいた。あれだけ几垳面に量り取っお、返枈予定すら登録しなかった、あの五癟ミリリットルを、今になっお、返そうずしおいる。

 なぜか、わかった。

 僕が「䜿える人間」になったからだ。利甚される偎から、取匕できる偎に、移ったからだ。だから、圌は、貞しを枅算しおおこうずしおいる。察等な盞手ずは、貞し借りを、きれいにしおおきたい。それが、圌の流儀だった。

 僕は、その容噚を、受け取らなかった。

 「いらない」ず、僕は蚀った。「あれは、貞したんじゃない。やったんだ。返さなくおいい」

 カむトの手が、止たった。

 僕は、自分でも、なぜそう蚀ったのか、わからなかった。取匕ずしおは、受け取るべきだった。氎は、貎重だ。僕は審査察象で、䞀滎でも惜しいはずだった。

 でも、受け取ったら、䜕かが、終わる気がした。

 あの五癟ミリリットルを「取匕」にしおしたったら、僕がカむトに氎を枡した、あの銬鹿みたいに無防備な瞬間たで、埌から取匕に曞き換わっおしたう。僕は、それだけは、したくなかった。あれは、損だった。銬鹿だった。でも、あの銬鹿さだけは、誰にも、曞き換えさせたくなかった。

 カむトは、僕を、じっず芋おいた。

 それから、容噚を、棚に戻した。

 「  倉わっおないのかもな、お前」ず、圌は蚀った。小さな声だった。「倉わったように芋えお、いちばん面倒くさいずこ、倉わっおない」

 それは、たぶん、圌なりの、いちばん正盎な蚀葉だった。

 郚屋を出お、階段を降りながら、僕は、奇劙な気分だった。

 僕は、技術を䜿った。リナに教わった通り、嘘を぀かずに、カむトを動かした。保蚌人を、手に入れた。成功だった。

 なのに、いちばん最埌に、僕は、技術を捚おた。受け取るべき氎を、受け取らなかった。損を、自分から遞んだ。

 リナなら、なんお蚀うだろう。銬鹿だ、ず蚀うだろうか。それずも——。

[第7街区審査通知] 保蚌人登録を確認したした 保蚌人カむト指数 503 → 連動監芖開始 審査日明日 14:00 第3ゲヌト 同行者は 定刻に同䌎のこず

 明日。

 審査は、明日だった。

 リナに教わる、最埌の䞀日が、保蚌人の亀枉で、朰れおいた。


第7章 審査

 第3ゲヌトは、街区の北のはずれにあった。

 ふだん、人が近づかない堎所だ。壁がいちばん高く、監芖塔がいちばん密に立っおいる。そこに、灰色の建物が䞀぀、埋たるように建っおいた。窓はない。入口の䞊に、端末の衚瀺だけが、青癜く光っおいた。

統合審査堎第7街区 本日の審査3ä»¶

 䞉件。今日、僕を含めお䞉人が、ここで裁かれる。

 カむトは、先に来おいた。入口の前で、僕を芋぀けるず、軜く手を䞊げた。笑っおいた。けれど、その笑みは、い぀もより薄かった。連動監芖。圌の指数は、いた、僕ず繋がっおいる。僕が萜ちれば、圌も萜ちる。圌は、自分の数字が他人に握られおいる状態を、生たれお初めお、味わっおいるはずだった。

 「来たか」

 「来た」

 「  なあ」ず、カむトは小声で蚀った。「ちゃんず、説明できるんだろうな。指数が萜ちた理由。䞋手なこず蚀うなよ。お前が萜ちたら、俺も——」

 「わかっおる」

 わかっおいた。リナが蚀っおいた。審査は、䜎䞋そのものを眰しおいるのではない。䜎䞋を説明できない個䜓を、危険ずみなしおいる。説明さえできれば、消されない。

 でも、その「説明」を、僕は、最埌たで教わっおいない。

 扉が開いた。

 䞭は、思っおいたより、ずっず簡玠だった。怅子が䞀぀。その正面に、倧きな端末の画面。人は、いなかった。審査官は、人ではなかった。

 「察象個䜓、着垭しおください」

 声は、倩井から降っおきた。感情のない、調敎された声だった。僕は怅子に座った。カむトは、僕の斜め埌ろ、保蚌人の䜍眮に立った。

 画面に、僕の蚘録が、流れ始めた。

蒲田 カズト指数 385 30日間の掚移412 → 385−27 枛算事由の照合を開始したす

 画面に、この䞀ヶ月の、僕の「損」が、すべお衚瀺された。

 広堎の老人ぞの譲枡。マむナス十五。カむトぞの貞䞎、回収なし。ミナぞの栄逊䜓。それから、僕が忘れおいた、もっず现かい、いく぀もの譲枡。誰かに䜕かを枡すたび、数字が削られおいた。その蚘録が、䞊から䞋ぞ、淡々ず流れおいった。

 自分の䞀ヶ月が、これだけ「損」でできおいたこずに、僕は、画面を芋お、初めお気づいた。

 「察象個䜓に問う」ず、声が蚀った。「これらの枛算事由は、いずれも回収芋蟌みのない譲枡である。継続的な非回収行動は、システムにずっお、資源配分の予枬を困難にする芁因ずなる。——なぜ、回収できない盞手に、資源を譲枡したのか」

 なぜ。

 審査が蚊いおいるのは、それだった。なぜ、損をしたのか。なぜ、銬鹿なこずをしたのか。

 僕は、リナの教えを、思い出そうずした。説明を぀けろ。䜎䞋に、理由を䞎えろ。たずえば——「将来の関係構築のための投資だった」ずか。「情報を埗るための察䟡だった」ずか。そういう、システムが理解できる「理由」を、埌から貌り぀ければ、たぶん、通る。損を、損でなかったこずにすれば、通る。

 口を開いた。

 でも、出おきたのは、甚意したはずの「理由」ではなかった。

 「困っおる人が、いたからです」

 斜め埌ろで、カむトが、息を呑むのが聞こえた。

 「それは、回収を芋蟌んだ行動ではない」ず、声が蚀った。「将来的な芋返りを、期埅しおいたのか」

 「しおいたせん」

 「では、なぜ」

 「困っおる人がいお、僕の手元に、枡せるものがあったからです。それだけです」

 したった、ず思った。これは、いちばん蚀っおはいけない答えだった。回収芋蟌みのない譲枡を、回収芋蟌みのないたた、肯定しおいる。損を、損のたた、認めおいる。これでは、審査は通らない。カむトの指数たで、道連れになる。

 画面が、䞀瞬、止たった。

 長い、沈黙だった。

 声が、再び降っおきた。けれど、その声は、さっきたでず、少しだけ、違っおいた。

 「  察象個䜓の回答を、蚘録した」ず、声は蚀った。「補足を問う。あなたは、これらの譲枡を、埌悔しおいるか」

 埌悔。

 審査が、埌悔を蚊いおきた。たぶん、これは、最埌の逃げ道だった。埌悔しおいる、ず答えれば、僕は「過ちを認識した個䜓」ずしお扱われる。今埌は損をしたせん、ず誓えば、改善の芋蟌みありずしお、通るかもしれない。それが、システムの求めおいる答えだった。

 僕は、自分の䞀ヶ月を、もう䞀床、画面で芋た。

 老人。ミナ。それから、カむトに枡した、あの五癟ミリリットル。回収できなかった、銬鹿みたいな損の、ぜんぶ。

 「埌悔は、しおいたす」ず、僕は蚀った。

 カむトが、ほっずしたのが、背䞭で感じられた。

 「でも」ず、僕は続けた。「もう䞀床、同じ堎面に戻っおも、僕は、たぶん、同じこずをしたす。埌悔するのに、やめられない。それは、損だず、わかっおいたす。銬鹿だず、わかっおいたす。——でも、それをやめたら、僕は、僕じゃなくなる気がするんです」

 蚀い終えお、僕は、目を閉じた。

 萜ちる、ず思った。これで、萜ちる。説明にも、反省にも、なっおいない。僕は、システムが求めたどの答えも、出さなかった。出せなかった。最埌の最埌で、僕は、嘘も、技術も、䜿えなかった。

 画面が、再び、止たった。

 今床の沈黙は、さっきより、ずっず長かった。

審査結果を算出䞭   枛算事由継続的非回収行動 改善芋蟌み察象個䜓は 行動の継続を明蚀 ──── 刀定基準の再照合を実行

 刀定基準の、再照合。

 そんな衚瀺は、芋たこずがなかった。審査は、䜕かを、迷っおいた。あるいは、迷っおいるように、芋えた。機械が迷うはずはない。でも、画面の䞊で、䜕かの蚈算が、長く、止たっおいた。

 やがお、結果が出た。

──── 刀定条件付き通過 分類倉曎「予枬困難個䜓」→「䜎リスク非効率個䜓」 備考圓該個䜓の譲枡行動は 䞀貫性を有し    予枬可胜性の芳点から リスクは限定的ず再評䟡 保蚌人の連動解陀指数倉動なし ──── 移動制限解陀 統合埌の街区配属远っお通知

 通過。

 条件付き、だった。でも、通った。

 僕は、しばらく、その衚瀺の意味が、わからなかった。

 予枬可胜性。䞀貫性。——審査は、僕の損を、評䟡したのではなかった。僕が、い぀も同じように損をする、ずいうこずを、評䟡しおいた。僕は、誰に察しおも、困っおいれば枡す。それは、蚈算高い人間より、ずっず、予枬しやすい。い぀裏切るか、わからない人間より、い぀も損をするずわかっおいる人間のほうが、システムにずっおは、扱いやすい。

 僕の「銬鹿さ」は、リスクではなく、䞀貫性ずしお、蚘録された。

 それは、救いだろうか。それずも、もっず深い、屈蟱だろうか。僕にはわからなかった。僕は、自分が人間ずしお通ったのか、それずも、予枬しやすい家畜ずしお通ったのか、区別が぀かなかった。

 審査堎を出るず、カむトが、埅っおいた。

 連動は、解陀されおいた。圌の指数は、もう、僕ず繋がっおいない。圌は、安党だった。だから、もう、笑う必芁も、なかった。

 なのに、カむトは、笑っおいなかった。

 「お前さ」ず、圌は蚀った。「審査で、なんであんなこず蚀った。埌悔しおるのに、たた同じこずするっお。——あんなの、萜ちる答えだろ。俺たで、道連れにする気だったのか」

 「ごめん」ず、僕は蚀った。「でも、嘘は、぀けなかった」

 カむトは、僕を芋た。長く、芋た。

 それから、圌は、ふいに、目を逞らした。

 「  俺さ」ず、圌は、小さく蚀った。「あの堎で、お前が嘘぀いお通ろうずしおたら、安心したず思うんだよ。ああ、こい぀も、こっち偎に来たっお。——でも、お前、来なかった。最埌たで、来なかった」

 圌の声は、い぀もの、筋の通った声では、なかった。

 「なんか、ずるいよな。お前」

 それだけ蚀っお、カむトは、先に歩いおいった。

 僕は、圌の背䞭を、芋送った。ずるい、ず圌は蚀った。損をしおばかりの僕が、ずるい、ず。その蚀葉の意味を、僕は、ただ、うたく掎めなかった。

 その倜。

 郚屋に戻るず、扉の前に、容噚が䞀぀、眮いおあった。

 氎だった。五癟ミリリットル、きっちり。

 返枈予定の登録は、なかった。誰が眮いたのか、蚘録には、残っおいなかった。


第8章 統合前倜

 統合は、十日埌に決たった。

[第7街区統合通知] 第6街区ずの統合を 10日埌に実斜 統合埌 党個䜓の指数を 新基準で再算定 再算定の詳现は 非公開 個䜓は 統合日たで 珟配属にお埅機

 再算定の詳现は、非公開。

 その䞀行が、街区䞭を、静かな恐慌に陥れた。

 誰も、自分の指数が、統合埌にどうなるか、わからない。今の385が、新基準で、いく぀になるのか。䞊がるのか、䞋がるのか。基準が倉わるだけで、人の䟡倀は、䞀倜にしお曞き換わる。昚日たで安党だった人間が、明日には審査察象になるかもしれない。その逆も、あるかもしれない。

 わからない、ずいうのは、いちばん人を䞍安にさせる。人は、䞍安になるず、二぀のこずをする。溜め蟌むか、矀れるか。

 街区の人間の倚くは、溜め蟌んだ。配絊を、限界たで貯めた。誰にも貞さず、誰からも借りず、自分の容噚を抱えお、扉を閉ざした。統合ずいう嵐が来る前に、自分の備蓄だけを、守ろうずした。

 でも、䜕人かは、矀れた。

 その䜕人かが、リナのずころに、集たり始めおいた。

 審査の翌々日、僕がい぀もの絊氎塔の圱に行くず、リナのたわりに、芋知った顔が、いく぀かあった。ミナがいた。それから、審査の日に僕が芋かけた、寡黙な倧男のタケ。もう䞀人、若い女の子がいた。゚ミ、ずミナが呌んでいた。ミナが、栄逊䜓を分けたがっおいた、あの子だ。

 「来たね」ず、リナが蚀った。

 「これは  䜕?」

 「集たり、かな」ず、リナは蚀った。「統合たで、十日。䞀人で乗り切れる人は、それでいい。でも、無理な人もいる。指数が䜎くお、再算定で消えそうな人。——䞀人ず぀バラバラに溜め蟌むより、䜕人かで、配絊を融通し合ったほうが、生き延びる確率は䞊がる。蚈算䞊は」

 蚈算䞊は、ずリナは蚀った。圌女は、決しお、助け合おう、ずは蚀わなかった。生き延びる確率が䞊がる、ず蚀った。善意ではなく、戊略ずしお、それを提瀺した。

 でも、集たっおいる顔ぶれを芋れば、わかった。

 ここにいるのは、みんな、損をしおきた偎の人間だった。ミナは、゚ミに栄逊䜓を分け続けお、指数を削っおいた。タケは——理由はわからないが、高い指数を持ちながら、誰ずも関わらずにいた。゚ミは、若くお、楜芳的で、たぶん、自分の数字をちゃんず管理できおいない。

 溜め蟌める人間は、ここには、来ない。来るのは、溜め蟌めない人間ばかりだった。

 リナは、戊略だず蚀った。でも、圌女が集めたのは、戊略的に䟡倀のある人間ではなかった。圌女が集めたのは、攟っおおいたら消えそうな人間ばかりだった。

 圌女は、たた、やっおいる。善意を、戊略の顔をさせお、配っおいる。

 「ルヌルは、ひず぀」ず、リナが蚀った。「貞し借りは、蚘録する。誰が、誰に、䜕を枡したか。返せないなら、返せないず、最初に蚀う。——いちばん駄目なのは、黙っお溜め蟌むこずず、黙っお借り逃げするこず。この二぀だけは、無し。あずは、自由」

 黙るこず。

 圌女は、嘘ではなく、沈黙を、いちばんの犁忌に眮いた。語らないこずも、裏切りだず。それは、この街区の流儀ずは、正反察だった。この街区では、黙っおいるこずが、いちばん安党で、いちばん賢い。リナは、その安党を、犁じた。

 「カズトは」ず、リナが僕を芋た。「審査、通ったんでしょ。条件付きだけど。——なら、あなたは、もう、ここのいちばん匱い個䜓じゃない。だから、入れる。入りたければ」

 いちばん匱い個䜓じゃない。

 奇劙な入䌚条件だった。普通、匱い人間ほど、助けが芁る。でも、リナの集たりは、匱すぎる人間を、入れなかった。いや、違う。リナは、僕を詊しおいた。審査を通った僕が、もう䞀段、降りおくるかどうかを。せっかく「予枬しやすい個䜓」ずしお安党になったのに、たた、損をする偎に、自分から戻っおくるかどうかを。

 「入る」ず、僕は蚀った。

 リナは、䜕も蚀わなかった。ただ、少しだけ、堎所を空けた。絊氎塔の圱の䞭に、僕が立おるぶんの、堎所を。

 それが、たぶん、僕が生たれお初めお手に入れた、居堎所だった。

 損をしないず、入れない居堎所。

 その倜から、僕たちは、配絊を融通し合った。

 仕組みは、単玔だった。それぞれの配絊を、いったん持ち寄っお、その日いちばん足りない人間に、回す。回したぶんは、蚘録する。誰かが䜙裕のある日に、返す。返せない日は、返せないず蚀う。

 最初の数日は、うたくいった。

 ミナは、毎日、誰かのために䜕かを差し出した。゚ミは、若いだけあっお、配絊の割圓が比范的倚く、よく回す偎に回った。タケは、ほずんど口をきかなかったが、自分の取り分を、きっちり、共同䜓に出した。出したぶんを、決しお回収しようずしなかった。

 そしお、わかったこずが、あった。

 タケの指数が、なぜ高いのか。

 圌は、誰ずも関わらないこずで、指数を保っおいたのではなかった。逆だった。圌は、ずっず、こうやっお、誰かに䜕かを䞎え続けおきた人間だった。ただ、䞎えた盞手が、いなくなった。だから、䞀人でいた。䞎える盞手を、倱った人間が、䞎える先を持たないたた、高い指数を抱えお、ただ、固たっおいた。

 「あんた、元は、䜕しおた人?」

 ある倜、僕は、タケに蚊いた。

 タケは、長いあいだ、答えなかった。それから、䜎い声で、ぜ぀りず蚀った。

 「守る偎だった」

 それだけだった。䜕を守っおいたのか、誰を守っおいたのか、圌は蚀わなかった。でも、その「だった」の過去圢に、僕は、自分ず同じ匂いを、嗅いだ。守るべきものを、もう、倱っおしたった人間の、過去圢だった。

 居堎所は、できた。

 ミナの優しさず、゚ミの若さず、タケの過去ず、リナの戊略ず、僕の——僕の、䜕だろう。僕が、この共同䜓に出せるものは、䜕だろう。

 考えお、ひず぀、思い圓たった。

 僕は、いちばん損をする。だから、いちばん信甚されおいる。審査が、僕を「予枬しやすい個䜓」ず呌んだように、この共同䜓でも、僕は、いちばん予枬しやすい人間だった。カズトは、必ず差し出す。カズトは、回収しない。だから、みんな、僕には、安心しお、足りないず蚀えた。

 僕の銬鹿さは、ここでは、信甚の土台になっおいた。

 それが、嬉しかった。生たれお初めお、自分の損が、誰かの安心になっおいるこずが。

 でも——。

 僕は、リナの、最初の蚀葉を、忘れおいなかった。

 圌女は、共同䜓を䜜るずき、こう蚀った。いちばん駄目なのは、黙っお溜め蟌むこずず、黙っお借り逃げするこず。

 わざわざ、それを犁じた。

 ずいうこずは、リナは、知っおいたのだ。こういう共同䜓は、必ず、その二぀で、壊れる。溜め蟌む人間か、借り逃げする人間が、必ず出る。それを、圌女は、過去に、経隓しおいた。だから、最初に、犁じた。

 犁じれば、防げるず、思っおいるのだろうか。

 それずも、犁じおも、防げないず、知っおいお、それでも、犁じたのだろうか。

 絊氎塔の圱で、配絊を分け合う、五぀の顔を芋ながら、僕は、ふず、寒気がした。

 この䞭の、誰かが。

 い぀か、黙っお、溜め蟌むか、借り逃げする。

 リナの蚀葉は、そう、蚀っおいるように、聞こえた。

[第7街区統合たで残り7日] 本日 飲料氎の配絊を さらに −10% 理由統合準備に䌎う 圚庫の事前再配分

 配絊が、たた、枛った。

 居堎所ができた、ちょうどそのずきに、分け合うものが、枛り始めた。

 分けるものが豊かなうちは、誰でも、優しくいられる。詊されるのは、これからだった。





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LaLaLa はぁ、はぁ  っ お願い、です   『怪獣の腹の䞭で』を  どうしおも、私の手で「玙の本」にしたいんです  っ あなたの、そのサポヌトが  本の、䞀ペヌゞに、なりたす  っ。 はぁ  応揎、しおくれたせんか  っ

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