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理学療法士に会いに行く:シドニー、オーストラリア

今回、オーストラリアはシドニーにあるCITY PHYSIOにて理学療法士の臨床見学をさせていただきました。

本編の前にオーストラリアの理学療法の特徴についてお知らせします。

日本の皆さんにとって、「理学療法士」は病院やクリニックでリハビリテーションを行う専門家というイメージが強いかもしれません。しかし、遠く離れたオーストラリアでは、理学療法士は日本のそれとは少し異なる、より幅広い役割を担っています。

  • 医師の紹介状がなくても受診できる

オーストラリアでは、理学療法クリニックを直接受診することができます。つまり、病院やクリニックに行く前に、かかりつけ医の紹介状がなくても、体の不調を感じたらすぐに理学療法士に診てもらうことが一般的なのです。

  • 診断権を持つ専門家

さらに、オーストラリアの理学療法士は、日本の医師のように診断権を持っています。症状を詳しく評価し、何が原因で痛みや不調が起きているのかを診断します。これにより、患者さんはより早く、適切な治療を受けることができます。

  • 画像診断や他科への紹介も行う

必要に応じて、X線やMRIなどの画像診断をオーダーしたり、理学療法の範囲外と判断した場合には、専門の医師や他の医療機関へ患者さんを紹介したりすることもあります。

このように、オーストラリアの理学療法士は、患者さんの体の不調に対して、最初から最後まで責任を持って対応する「医療のファーストコンタクト」として、非常に重要な役割を果たしています。


私が今回見学させていただいた「CITY PHYSIO」も、まさにこのようなオーストラリアの理学療法を実践するクリニックでした。

CITY PHYSIOの立地はシドニーの街中、セントメアリー大聖堂が隣接するハイドパークからすぐ、シドニータワーアイから向かって右手に見える高層ビルの中にあります。

セントメアリー大聖堂
シドニータワーアイ(中央)とマーチンプレイス(右)
CITY PHYSIOが入るマーチンプレイス
マーチンプレイス10F CITY PHYSIO

Martin Placeで40年以上にわたり筋骨格系の理学療法を提供してきた、シドニーのシティ・フィジオです。ウィンヤード駅からすぐ、そして新しい地下鉄や駅、ライトレール、バスの中心に位置しています。当院の最先端かつカスタムビルドされた理学療法クリニックは、アクセスの良さと質の高い理学療法およびピラティスで、きっとご満足いただけます。当院のチームは、全身の詳細な理学療法評価を提供し、筋骨格系の疾患、スポーツによる怪我、頭痛、顎、首、背中の痛みに対する個別化された治療を専門としています。

CITY PHYSIO ホームページより

40年以上営業されているとのこと。理学療法クリニックの中では老舗に入るでしょう。ピラティスの機材も充実していました。

CITY PHYSIOで提供しているサービスは以下の通りです。

  • ピラティス(法人向けピラティスを含む)

  • ドライニードリング

  • マニュアルセラピー

  • 術後のリハビリ

  • テーピング

  • ブレース、ギプス、副木

  • 筋力トレーニング

  • 頭痛の管理

  • 妊娠中の腰痛

  • スポーツ理学療法

  • 運動処方

  • 電気療法

  • 脊椎マニピュレーション

  • パフォーマンス理学療法

  • 顎関節理学療法

  • 遠隔診療

  • 姿勢評価

  • 労災理学療法

特徴的なのは、ピラティス、マニュアルセラピー、ドライニードリング、頭痛の管理、顎関節理学療法、脊椎マニピュレーションや遠隔理学療法が診療科目内にあることです。どれも日本ではあまり理学療法士の介入方法として認知されているとは言えませんが、オーストラリアでは一般的な内容です。

CITY PHYSIOの特色としては、顎関節(TMJ)に関する修士号を持つ理学療法士が勤務しているところでしょう。

今回はCITY PHYSIOの代表者ニコラとシニア理学療法士のマットの臨床見学をさせていただきましたのでご紹介します。

ニコラ・ミッチェル:理学療法士、疼痛専門理学療法士疼痛管理の修士号 顔面の痛み、顎関節症 (TMJ)、頭痛が専門、長引く首、腰、股関節の痛みに対する治療も得意
マット・ハガティ:スポーツ&運動理学療法士 スポーツ外傷の診断と管理、そして複雑な腰や肩の痛みの治療が専門

顎関節症が疑われたケース

ニコラが担当したクライアントは興味深いケースでした。その方は「朝起きると顔が鈍く痛む」という症状を訴えていました。

ニコラはまず顎関節症の可能性を疑い、詳細な評価を実施しました。既往歴やスポーツ歴に特筆すべき点はないこと、職場での痛みが無いことを確認しました。顎関節の機能評価では、関節のクリック音(カクカクという音)や、関節面の不適合は認められず、開口能力も正常範囲内でした。

これらの結果から、ニコラは顎関節症の可能性を否定し、痛みの原因が首にあると判断しました。

首の姿勢と習慣が痛みの原因だった

ニコラは次に、頸椎の筋・筋膜性疼痛の関与を疑い、頸椎機能の評価に移りました。姿勢を分析したところ、スウェイバック姿勢(骨盤が前に出て、背中が丸まった姿勢)が顕著でした。さらに、日常的に頻繁に頬杖をつく習慣があることを突き止めました。

ニコラは、これらの姿勢と習慣が首の筋肉や筋膜に過度な負担をかけ、それが原因で顔に痛みが現れていると結論付けました。

首への専門的な介入で症状は改善

原因が特定された後、ニコラはC0/1(首の最も上の部分)にトラクション(牽引)という治療法で介入を開始しました。この専門的なアプローチによりクライアントの首への負担は軽減され、長らく悩まされていた顔の痛みに軽度の改善を認めました。

このケースは、顔の痛みが必ずしも顎関節症から来るとは限らず、体の他の部位、特に姿勢や習慣が影響している可能性を示しています。ニコラのような専門家による詳細な評価が、真の原因を見つけ出す鍵となりました。

顎関節症に対する理学療法は、主な症状や原因によって以下の4つのパターンに分けられます。

  • 咀嚼筋障害(Myogenous disorders): 顎の動きに関わる咀嚼筋(咬筋、側頭筋など)が過緊張や炎症を起こしているパターンです。ストレスや歯ぎしりなどが原因で筋肉が硬くなり、痛みが生じます。理学療法では、筋肉のリラクゼーション、ストレッチ、マッサージ、ドライニードリングなどが行われ、筋肉の緊張を和らげることを目的とします。

  • 関節包・靱帯障害(Capsulitis/Ligamentous disorders): 顎関節の周囲にある関節包や靱帯が炎症を起こしたり、損傷したりしているパターンです。口を開けたり閉じたりする際に強い痛みを感じたり、関節の可動域が制限されたりします。理学療法では、炎症を抑えるための治療、関節の動きを改善するための穏やかな可動域訓練、および安定化エクササイズが行われます。

  • 関節円板の転位(Disc displacement): 顎関節の中にある軟骨のクッション(関節円板)が正しい位置からずれてしまうパターンです。口を開けるときに「カクッ」というクリック音や、円板が元の位置に戻らない場合は口が開かなくなる(クローズドロック)症状が見られます。理学療法では、関節円板の位置を修正するための下顎の誘導運動や、クリック音を避けるための動作指導が行われます。

  • 退行性関節炎(Degenerative Joint Disease): 顎関節の軟骨がすり減り、骨に変形が生じているパターンです。主に加齢や長期間にわたる顎関節への負担が原因となります。動きに伴う摩擦音(ジャリジャリ、ギシギシ)や、鈍い痛みが慢性的に続きます。理学療法では、関節への負担を軽減するための指導、周囲の筋肉を強化して関節を安定させるエクササイズ、および痛みの管理が中心となります。

今回のケースでは的確な評価と診断(オーストラリアでは理学療法士に診断権があります)により顎関節に起因した顔面痛ではないことを確認し、頸椎の評価治療、生活指導とセルフエクササイズ指導が実施されました。

初回は主に評価に多くの時間を割いていました。上記内容実施後、2週間後の再診予約を行い初回の介入終了となりました。評価から治療、再評価まで非常にスムーズでニコラの自信に満ちた臨床を見学できたことは良い経験となりました。

腰椎椎間板症が疑われたケース

次にマットが担当する腰椎椎間板症の疑いで来院されたクライアントのセッションを見学させてもらいました。

明らかに疼痛回避姿勢をとり腰椎は側弯、骨盤は臀部痛を認める側で挙上し後方回旋し荷重を避けていることが予想されました。急性期であることや多くの急性腰痛は日常生活動作指導や禁忌姿位の確認を行い安静にすることで改善することを丁寧にクライアントに説明する姿が印象的でした。

オーストラリアでは理学療法クリニックがファーストコンタクトの大きな役割を担っているため、理学療法士のもとにこのような急性期の患者が訪れることも珍しくありません。そこで必要となるのが鑑別診断能力と適宜画像検査の必要性とオーダーの判断、理学療法が適応でない場合の他科や医師への紹介など、日本では理学療法士の範疇ではない能力が必要とされます。

今回オーストラリアでディスカッションすることができた多くの理学療法士が責任を持って画像の依頼や理学療法の適応範囲と他科の診療範囲の線引きを意識して臨床を行なっている光景がとても印象的でした。

急性期の腰痛患者への評価で特にマットが重点的に行なっていたのが神経学的初見にたいするものでした。重大な神経障害を認めないことを判断したのち、現段階では積極的な画像診断は必要ないと判断し患者教育とスパズムを起こした筋への介入を決定しリリースや軽いマッサージを実施、次回の予約をとり終了していました。

急性期のクライアントはまず自分の体の異変の正体を知り、それがどのような経過をたどりどれくらいの期間で改善するのかを知りたがっています。適切な評価と具体的な回復段階の掲示、どの程度の割合で何%まで症状が軽減すると見込まれるのかなど予後予測などを適切に知らせることができれば、多くの場合クライアントは安心すると思います。そして初期介入を終えたあとの彼の顔は安堵し笑顔が見られるようになっていました。


今回訪れたシドニーの理学療法クリニック、CITY PHYSIOでは特に顎関節と上位頸椎の介入に特化した修士号と技術を持つニコラと、急性期の腰痛に対する適切なアプローチを見せてくれたスポーツ分野にも精通したマットの臨床を見学させていただきました。

2人とも優秀な理学療法士でとても勉強になりました。

CITY PHYSIO代表ニコラ

シドニーに滞在する方にぜひおすすめしたい理学療法クリニックです。

今回見学させていただくにあたり暖かく迎えてくれたCITY PHYSIOのスタッフの方々、代表のニコラ・ミッチェルとマット・ハガティに心から感謝します。ありがとうございました!


TMJに対する理学療法ついては以下からどうぞ


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