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顎関節に対する徒手理学療法

「あご」は関節です。人が1回の食事で行う咀嚼回数は620回程度と言われています。1日3回食事をすると1860回あごの関節を使用することになります。

それでは、あごの関節「顎関節」の理学療法と聞いてすぐにピンと来るのは同業者でも少ないと思います。おそらく本邦では多くの理学療法士にも患者にも他の医療職にも認知されていないのが現状ではないでしょうか。

顎関節は世界的に見ると理学療法士が介入する関節のひとつです。英語ではTemporomandibular joint(側頭-下顎骨関節)といい、略してTMJと呼ばれます。海外には歯科医と連携を組みTMJに対する理学療法を展開している理学療法士が数多くいます(ためしに”TMJ+Physio”で検索してみてください)。

以下にTMJの理学療法の学術・臨床的意義の提示のためシステマティックレビューを紹介し、その後徒手理学療法の実際について触れたいと思います。


TMJに対する徒手(理学)療法の学術・臨床的意義

システマティックレビュー論文の紹介

Efficacy of Manual Therapy in Temporomandibular Joint Disorders and Its Medium-and Long-Term Effects on Pain and Maximum Mouth Opening: A Systematic Review and Meta-Analysis

顎関節症における手技療法の効果と痛みおよび最大口開口に対する中期および長期的な影響:系統的レビューおよびメタアナリシス

目的

顎関節障害に対する手技療法の中期および長期的な効果について、治療運動と単独または併用した場合を含めた系統的レビューを実施

方法
情報はPubMed、SCOPUS、Cochrane、SciELO、PEDroのデータベースから収集され、以下の基準で分析された:ランダム化比較試験であること、参加者は顎関節障害のいずれかを呈していること、治療には少なくとも1つの実験群で徒手療法が含まれていること、フォローアップ期間が3ヶ月以上であること、痛みが一次または二次アウトカムのいずれかであること、英語、スペイン語、イタリア語、ポルトガル語、フランス語で提供されていること

結果
これらの基準を満たした6つの文献が選択された。分析の結果2つの論文が低品質、4つの論文が高品質とされた。徒手療法による治療後、ベースラインと比較して痛みや口を開ける範囲に有意な改善が見られた。

考察
徒手療法は顎関節障害に対する中期的な効果的な治療法であると考えられるが、その効果は時間とともに減少する。運動療法と併用することで、これらの効果は長期的に維持される可能性がある。本研究は顎関節障害の中期および長期の治療における徒手療法と運動療法の重要性を強調する。

Herrera-Valencia, A., Ruiz-Muñoz, M., Martin-Martin, J., Cuesta-Vargas, A., & González-Sánchez, M. (2020). Effcacy of Manual Therapy in TemporomandibularJoint Disorders and Its Medium-and Long-TermEffects on Pain and Maximum Mouth Opening:A Systematic Review and Meta-Analysis. Journal of clinical medicine, 9(11), 3404. https://doi.org/10.3390/jcm911340

研究実施地

取り込まれた6編のRCT論文は日本(歯科医師が主体)を含む世界の国々で研究が行われていました。TMJの徒手両方が広く行われている根拠となります。

介入方法の種類

徒手療法と呼ばれる介入方法には関節マニピュレーションや関節モビライゼーションが含まれ、運動療法、マッサージなどを理学療法士や医師による指導のもと実施していました。

アウトカムの選択

アウトカムは痛みと開口距離が多く用いられていました。開口距離の測定には以下の道具を使用する研究がありました(類似商品が複数の会社から販売されています)。

Sammons Preston社製セラバイトROMスケール
USAmazonの商品ページ
より引用

左下角の欠けた部分に下の歯の前方2本の間を当ててスケールをくわえるようにして上の歯との距離を測定します。右端のLateral scaleは歯の噛み合わせの左右のズレを計測します。信頼性の検証も行われています。

それでは、ここからTMJに対する徒手理学療法の実際についてを紹介します。まずは関節構造と機能についてです。

解剖

TMJは滑膜関節で顆状および蝶番関節である。

Temporomandibular joint (TMJ)

TMJは関節包を持つ滑膜関節である。以下に特徴を示す。


顎関節の拡大図
Orthopedic Physical Assessment Seventh Edition
Magee, D. J., & Manske, R. C. (2020). Orthopedic physical assessment-E-Book. Elsevier Health Sciences.より画像引用
Articular disc regions:関節円盤領域
Lateral pterygoid muscle:外側翼突筋
Retrodiscal laminae:後関節円盤組織
Temporomandibular joint capsule:顎関節(側頭下顎骨関節)包

関節包 :関節包は関節突起、関節円板、下顎顆の頸部に付着している。

関節円板:関節円板は、顎関節の2つの関節面の間に位置する。円板は関節を2つの部分に分け、それぞれに滑膜を有する。円板は側副靭帯によって下顎顆に付着する。前部の円板は関節包および外側翼突筋の上部に付着し、後部は下顎窩に付着し、これを後関節円板組織と呼ぶ。

後関節円板組織:円板自体とは異なり、後関節円板組織は血管が豊富で、神経が非常に多く分布する。そのため、後関節円板組織は顎関節症(TMD)の痛みの主要な原因となることが多い。

関節運動

開口時の関節運動学 左:初期 右:後期
Orthopedic Physical Assessment Seventh Edition
Magee, D. J., & Manske, R. C. (2020). Orthopedic physical assessment-E-Book. Elsevier Health Sciences.より画像引用
開口初期には下顎顆は回旋し転がる
開口後期には下顎顆は関節窩から前方に滑り並進運動を起こす
  • 開口初期の特徴として関節窩(Mandibular fossa)に対して下顎骨(Mandible)は転がり運動による回旋運動を主に起こす。わずかな前方への並進運動を伴う。

  • 開口後期の特徴として下顎骨は関節窩から滑り運動により前方に逸脱し並進運動を起こす。同時に上後関節円盤組織(Superior retrodiscal lamina)は伸長される。

TMJの動作筋は以下の通りである。

咬筋、側頭筋、外側翼突筋の位置関係
Cleland, J., Koppenhaver, S., & Su, J. (2015). Netter's orthopaedic clinical examination: an evidence-based approach. Elsevier Health Sciences.のTemporomandibular jointより画像引用
内側、外側翼突筋、関節円盤の位置関係
Cleland, J., Koppenhaver, S., & Su, J. (2015). Netter's orthopaedic clinical examination: an evidence-based approach. Elsevier Health Sciences.のTemporomandibular jointより画像引用
  • 咬筋(Masseter muscle)

  • 側頭筋(Temporalis muscle)

  • 外側翼突筋(Lateral pterygoid muscle)

  • 内側翼突筋(Medial pterygoid muscle)


以上がTMJの大まかな解剖と関節運動です。
それでは顎関節の痛みはどのような病態により起こるかについてまとめます。

病態

TMJ由来の痛みを生じる病態を総称してTemporomandubular disorder(TMD)やTemporomandibular syndromeと呼称されます。

以下にTMDを生じる代表的な病態について列挙します。

咀嚼筋障害 :咀嚼筋障害は、顎の筋肉が過度に使われたり、過緊張、損傷、またはその他の原因で炎症を起こすことによって引き起こされる
顎関節症
:顎関節に関わる障害の総称。顎関節やその周囲の筋肉に痛みや機能的な問題を引き起こす疾患群を指す
顆と円板複合体の逸脱:顎関節の顆(顎の骨の突起部分)と関節円板の関係が正常でなくなる状態
円板脱臼:顎関節における関節円板が脱臼し、一時的に正常な位置から外れた後に、再び正しい位置に戻る状態を指す
滑膜炎/関節包炎:炎症により痛みや可動域の制限が生じることがある

Maini K, Dua A. Temporomandibular Syndrome. [Updated 2023 Jan 30]. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2025 Jan-. Available from: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK551612/
より抜粋

評価

徒手理学療法の対象となるのは関節症や炎症が原因の場合は関節モビライゼーションのグレード1まで、評価の結果関節構成体に損傷を認めない場合はグレード5の関節マニピュレーションまで実施可能です。ジョイントプレイテストを行い左右差や関節礫音、ロッキングの有無を確認します。

MRIの必要性など深刻な病態を除外できる場合のみ理学療法介入に移行します。

関節モビライゼーション

基本的にはジョイントプレイ検査と同様の方法でグレードを変更するだけです。以下の画像はNetter整形外科臨床検査から引用しました。この画像ではグローブを装着したセラピストの尾側の手でクライアントの下顎骨に対し下方向への牽引を加えている様子を示しています。

TMJトラクション手技
Cleland, J., Koppenhaver, S., & Su, J. (2015). Netter's orthopaedic clinical examination: an evidence-based approach. Elsevier Health Sciences.のTemporomandibular jointより画像引用

このほかにも評価により制限を認めた側の下顎骨に対して内側、外側、前方、後方へのグライドを加えることで症状の改善を認めることがあります。

加える力は振動(Oscillation)、持続牽引(Sustained stretch)のどちらでも構いません。

以下の書籍はアメリカのOMPTが主体となって発行されています。関節モビライゼーション、関節マニピュレーションの手技について網羅しているので紹介します。

短縮した筋の伸長やマッサージも同時に行うとなお効果的です。特に外側翼突筋は口内からアプローチすると効率が良いです。感染予防のためにかならずプラスチックグローブを装着し取り外しから破棄まで注意して行う必要があります。

介入後は再評価をおこないましょう。開口距離の測定は簡便で効果判定にも有効です。クライアントにも視覚で結果を示せるのでアドヒアランス向上効果も望めます。


TMJに対する徒手理学療法について概要をご紹介しました。

検査方法や介入方法については実技が実施できる国際資格の認定を持ったセラピストから直接学ぶのが最も重要です。情報化社会がどれほど進化して変わらないものがあります。自分が納得できる指導者に直接教わってくださいね。

講習会などご希望の方はプロフィール欄をご覧の上ご連絡くださいますようお願いします。

読んでいただきありがとうございました!


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