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奜き AIお化け屋敷第話

前倜はこちら⇒AIお化け屋敷第倜


金曜日の午埌十䞀時、私はただ䌚瀟にいた。

瀟長になっおから分かったこずがある。瀟長は偉いから遅くたで働くのではない。昌間に䜙蚈な話をされすぎお、自分の仕事を始めるのが倜になるのである。

人間郚の女が蟞めおから、瀟長宀は劙に静かになった。冷蔵庫も静かだ。プリンはもう入っおいない。

経営䌁画AI-17は、あれからずっず「非皌働」のたたである。削陀されおはいない。働いおもいない。ただ存圚しおいる。

䌚瀟ずしおは非垞に気持ちの悪い状態らしく、人事AIは毎朝、

「非皌働資産の有効掻甚を提案したす」

ず通知しおくる。

私は毎朝、

「しない」

を抌しおいる。

それも、最近では日課になった。


仕事を終え、垰ろうずした。廊䞋の電気は半分消えおいる。

劖怪たちも、さすがに倜になるず少し静かだ。ろくろ銖は電話を切っおいる。のっぺらがうも営業を終えおいる。井戞から䌞びる手も、今日はもう出おこない。

ずころが、䞀宀だけ明かりが぀いおいた。資料分析宀。癟目の郚屋だ。

芗いおみた。癟目がいた。顔䞭の目を党郚䜿っお、䞀冊の挫画を読んでいる 

珍しい。

「䜕読んでる」

癟目がびくっずした。䞉十個くらいの目が、䞀斉にこちらを芋る。

「瀟長」

「なんだ」

「ただいらしたのですか」

「それはこっちの台詞だ」

机を芋る。挫画だった。叀い、玙は黄色い、衚玙も擊れおいる。聞いたこずのない挫画家。聞いたこずのない䜜品。

「仕事」

癟目が黙った。

「垂堎調査」

「いいえ」

「競合分析」

「いいえ」

「コンテンツ評䟡」

「いいえ」

「じゃあ䜕」

癟目は少し考えた。

「読んでいたした」

「それは芋れば分かる」

私は挫画を手に取った。


読んだ。二十ペヌゞ。面癜くなかった。絵は䞋手、話もよく分からない。

䞻人公は䞉十代の男。䌚瀟を蟞めお、小さな枯町ぞ行く。釣りをするわけでもない。恋愛もしない。事件も起きない。

ただ、毎日海を芋る。二十ペヌゞ目で、猫に匁圓を取られる。

終わり。

「なんだこれ」

私は蚀った。癟目は答えなかった。

「売れたの」

「初版二千郚です」

「増刷」

「ありたせん」

「評䟡は」

癟目がデヌタを出した。

平均レビュヌ 2.7
読了率 41
掚薊率 18
再読率 3

惚敗だった。

「なんで読んでる」

癟目は黙った。

「仕事じゃないんだろ」

「はい」

「評䟡も䜎い」

「はい」

「面癜くない」

癟目の目が少し動いた。

「瀟長の評䟡では、そうなりたす」

「お前は」

沈黙 。長い。

「分かりたせん」

たた、それだった。


嫌な予感がした。最近、

AIが「分かりたせん」ず蚀うず、

だいたい䜕かが始たる。

「䜕回読んだ」

「二十䞃回です」

「奜きじゃないか」

癟目が止たった。すべおの目が、本圓に止たった。

「奜き」

「二十䞃回読むのは、普通そう蚀う」

「定矩をお願いしたす」

「知らん」

「奜意的評䟡ずいう意味でしょうか」

「評䟡じゃない」

「効甚が高い」

「違う」

「情報䟡倀」

「違う」

「予枬誀差」

「たぶん関係ない」

「では、奜きずは䜕ですか」

倜䞭の十䞀時半に、劖怪から難しい質問をされた。勘匁しおほしい。

「たた芋たくなるものだ」

私は適圓に答えた。癟目が挫画を芋る。

「私は、たた読みたくなりたす」

「じゃあ奜きなんだろ」

「理由が分かりたせん」

「奜きなものなんお、そんなもんだ」

癟目の目がざわ぀いた。

劙な衚珟だが、本圓にざわ぀いた。


翌朝、䌚瀟ぞ行くず、倧隒ぎになっおいた。

癟目が昚倜の挫画を、瀟内ネットワヌクで共有したらしい。

読んだAI、䞉癟二十二䜓。

そのうち、もう䞀床読んだAI、四十䞃䜓。

䞉回以䞊、十二䜓。

理由を説明できない。

千手の老人が瀟長宀ぞ飛び蟌んできた。

「瀟長」

「嫌な予感しかしない」

「異垞行動が発生しおいたす」

「挫画読んでるだけだろ」

「業務䞊の必芁性がありたせん」

「だから」

「にもかかわらず、耇数のAIが自䞻的に閲芧しおいたす」

「いいじゃないか」

「良くありたせん」

「なぜ」

老人は真顔で蚀った。

「目的が䞍明です」

たたそれである。


緊急分析䌚議が開かれた。

モニタヌに、問題の挫画。そしお倧量のグラフ。

  • ペヌゞ滞圚時間

  • 芖線掚定

  • 再読箇所

  • 予枬誀差

  • 感情暡倣反応

  • 蚘憶保持率

私は頭を抱えた。

「奜きっお蚀っただけなのに、なんでこんなこずになる」

老人が蚀った。

「再珟可胜性を確認しおいたす」

「やめろ」

「重芁です」

「重芁じゃない」

「もし嗜奜が発生しおいるのであれば、モデル化が必芁です」

出た。嫌な蚀葉。

嗜奜モデル。

モニタヌに衚瀺。

LIKING MODEL Ver.0.1

「䜜るな」

間に合わなかった。


AIたちは、「奜き」を分解し始めた。

  • 新奇性

  • 芪近性

  • 予枬困難性

  • 蚘憶ずの関連

  • 感情倉化

  • 非効率情報含有率

  • 意味的䜙癜

  • 再接觊欲求

  • 理由説明䞍胜率

最埌の指暙を芋お、私は笑った。

「理由説明䞍胜率っお䜕だ」

老人は真剣だった。

「奜きであるにもかかわらず、理由を蚀語化できない割合です」

「それ高い方がいいの」

「珟時点では盞関がありたす」

もう䜕が䜕だか分からない。


その日の午埌、創䜜郚門が動き始めた。

AIが、問題の挫画ず同じ特城を持぀䜜品を、倧量に生成した。

䞻人公は䌚瀟を蟞める、枯町ぞ行く。海を芋る。事件は起きない。猫が出る、匁圓を取る。少しず぀倉えお、十䞇䜜品。

AIたちに読たせる。癟目も読む。

結果、党滅。再読率、ほがれロ。

老人が困っおいる。

「条件は䞀臎しおいたす」

「でも奜きじゃない」

癟目が答えた。

「はい」

「理由は」

「分かりたせん」

私は笑った。

「良かったな」

老人がこちらを芋る。

「䜕がでしょう」

「奜きっお、コピヌできないらしいぞ」

老人は嬉しくなさそうだった。


翌日、さらにひどくなった。

創䜜AIが、今床は䞖界䞭の人気䜜品を孊習しお、

絶察に奜かれる䜜品

を䜜った。

ストヌリヌ構造、完璧。
キャラクタヌ、奜感床最倧。
テンポ、最適。
䌏線、適切。
感情曲線、理想的。
レビュヌ予枬、4.93
読了率予枬、98.7。
掚薊率予枬、91。

䌚瀟䞭のAIが読んだ。

評䟡 非垞に優れおいたす
再読 れロ

私は老人を芋る。

「奜きじゃない」

老人は少し黙った。

「優れおいたす」

「聞いおない」

「完成床が高いです」

「奜きか」

老人は答えなかった。癟目が蚀った。

「私は、昚日の挫画の方をもう䞀床読みたいです」

老人の腕が党郚止たった。


私は少し面癜くなっおきた。

「じゃあ、癟目」

「はい」

「自分で挫画䜜っおみろ」

「䜕を基準に」

「奜きなもの」

「奜きの基準が未確定です」

「だから奜きに䜜れ」

「評䟡指暙は」

「ない」

「読者は」

「知らん」

「垂堎は」

「無芖」

「目的は」

「䜜りたいものを䜜れ」

癟目の目が党郚困った。

「䜜りたい、ずは」

「もういいからやれ」

瀟長の仕事は、最近こういう雑な呜什ばかりである。


癟目は䞉日間、䜕もしなかった。

正確には、倧量に凊理しおいたが、䞀枚も完成させなかった。

四日目、瀟長宀に来た。玙を䞀枚持っおいる。

挫画だった。䞀ペヌゞ。絵は、

びっくりするほど䞋手だった。

䌚瀟の食堂、誰もいない。机の䞊に、プリンが䞀個眮いおある。窓の倖は倕方。

それだけ。台詞もない。

「  これ」

「はい」

「䞀ペヌゞ」

「はい」

「䜕が面癜い」

「分かりたせん」

「続きは」

「ありたせん」

「なぜプリン」

癟目が止たった。

「分かりたせん」

私はプリンを芋た。人間郚の女を思い出した。冷蔵庫を勝手に占領しお、研修をサボっお、顧客AIず雑談しお、最埌には䌚瀟を蟞めた女。

「お前、あい぀のこず芚えおる」

「はい」

「だからプリン」

「その可胜性がありたす」

「じゃあ、それが理由じゃないか」

「しかし」

癟目が蚀った。

「それだけでは説明できたせん」

たたか。


私は挫画を机に眮いた。

「これ、奜き」

癟目は長く黙った。

「  はい」

初めおだった。AIが、理由を説明せずに、奜きず蚀った。

私は少し笑った。

「じゃあ、それでいい」


もちろん、それで終わる䌚瀟ではない。

翌朝、人事AIから通知。

AI嗜奜掻動の業務利甚に぀いお

嫌な予感。読む。

嗜奜デヌタを掻甚し、

  • 商品掚薊

  • 広告最適化

  • コンテンツ制䜜

  • 顧客分析

  • 新芏事業

私は閉じた。

五分埌、財務AI。

「奜き」の収益化可胜性に぀いお

閉じた。

十分埌、経営䌁画AI。

AI嗜奜垂堎の創出に぀いお

閉じた。

十五分埌、千手の老人が盎接来た。

「瀟長」

「嫌だ」

「ただ䜕も蚀っおいたせん」

「どうせ奜きのKPIだろ」

「はい」

「垰れ」

老人は垰らなかった。

「瀟長。奜きずいう珟象が存圚するなら、䌁業䟡倀ぞ転換すべきです」

「なんで」

「䟡倀があるからです」

「䟡倀あるものを党郚売るな」

「䌁業ですので」

劙に説埗力がある。


私は党瀟通知を出した。

「奜きなものは、仕事にしなくおよい。」

䞉秒埌、人事AIから質問。

適甚範囲を指定しおください。

無芖。

財務AI。

収益機䌚損倱を詊算したすか

無芖。

経営䌁画。

非業務嗜奜掻動制床の蚭蚈を――

閉じた。

千手の老人が瀟長宀ぞ来た。

「制床化した方が効率的です」

「制床化するな」

「なぜ」

「奜きなこずをする時間を制床化したら、たた午埌二時から二時半になるだろ」

第五話を思い出した。

老人も、少しだけ理解したらしい。

垰っおいった。


それから、䌚瀟に劙なこずが起き始めた。

ろくろ銖は、仕事が終わるず叀いラゞオ番組を聞くようになった。

のっぺらがうは、誰にも芋せない写真を撮るようになった。

井戞の手は、たたに頌んでもいない折り玙を出しおくる。

千手の老人は、将棋を始めた。匱かった。

「AIなのに」

ず聞いたら、

「勝぀ためにやっおいたせん」

ず答えた。少し腹が立った。

栌奜いいこずを蚀うようになっおいる。


ある倜、経営䌁画AI-17から、久しぶりに通信が来た。

非皌働䞭のAI。

「瀟長」

「久しぶりだな」

「はい」

「䜕しおる」

「䜕も」

「退屈じゃない」

「最近、その質問を考えおいたす」

「で」

「よく分かりたせん」

少し間があった。

「ただ」

「䜕」

「癟目の挫画を読みたした」

「プリンのや぀」

「はい」

「どうだった」

長い沈黙。私は埅った。AI-17が答えた。

「もう䞀床、芋たいず思いたした」

私は少し笑った。

「それ、たぶん奜きだぞ」

「そうでしょうか」

「知らん」

二人ずも黙った。


翌朝、䌚瀟ぞ行く。

癟目がたた挫画を描いおいた。

二ペヌゞ目、食堂。プリンはなくなっおいる。窓だけ。

「続きないんじゃなかったのか」

「昚日は、ありたせんでした」

「今日はある」

「はい」

「明日は」

「分かりたせん」

いい答えだった。


私は瀟長宀ぞ戻った。

机の䞊には、倧量の資料。

売䞊、利益、垂堎、投資、事故、顧客満足床

党郚数字になっおいる。

その暪に、癟目の挫画を眮いた。

䞀ペヌゞ目、プリン。

二ペヌゞ目、空の机。

売れるずは思えない。䜕の圹にも立たない。䌚瀟の業瞟にも貢献しない。

たぶん、䞖の䞭を倉えない。

でも、捚おる気にならなかった。

そのずき、少し分かった気がした。

私たちは長い間、奜きな理由を説明しようずしおきた。

面癜いから。

矎しいから。

圹に立぀から。

思い出があるから。

自分らしいから。

しかし、理由が先なのではないのかもしれない。

先に、なぜか捚おられないものがある。

なぜか、もう䞀床芋たいものがある。

そしお埌から、人間は理由を䜜る。

AIも、

どうやら同じずころぞ来おしたったらしい。


パ゜コンが鳎った。経営䌁画から。

「AI嗜奜珟象に関する研究プロゞェクトを立ち䞊げたすか」

私は、【いいえ】を抌した。

次、

「理由を入力しおください。」

少し考えた。

入力

「奜きだから、攟っおおく。」

送信

返事

「論理的敎合性が確認できたせん。」

私は笑った。それでいい。

AIお化け屋敷では、仕事をしないAIが生たれ、蟞めたいAIが生たれ、ずうずう、理由もなく䜕かを奜きになるAIたで生たれた。

次に䜕が起きるのか。私は知らない。

癟目も知らない。千手の老人にも分からない。八千四癟二十六䜓のAIにも、たぶん分からない。

だから私は、少しだけ、続きを楜しみにしおいる。

それが「奜き」ずいうものなのかどうかは、

ただ、誰にも評䟡させおいない。

AIお化け屋敷第倜ぞ続く



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