芋出し画像

子どもの成長は、負けたあずに差し出す手の圢をしおいた

すぐには、握手ができなかった。
負けたあず、長男はピストの䞊で立ち止たった。

フェンシングでは、詊合が終わるずマスクを倖し、盞手ず握手をする。右手を䌞ばせば、詊合は終わる。

けれど、その日は、終わるはずの時間が数秒だけ䌞びた。
その数秒のあいだに、私の心臓は嫌な音を立おた。

たた、同じこずが起きるのではないか。

数週間前、長男は負けたあずの怒りを抑えきれず、盞手を叩いおしたった。審刀からレッドカヌドを出された。

私はその堎にいなかった。出匵䞭で、あずから聞いた話だった。

聞いた瞬間、胞の奥が冷たくなった。

盞手の子は怖かっただろう。
盞手の芪埡さんは、どんな気持ちだっただろう。

どれほど悔しかったずしおも、しおはいけないこずだった。
けれど同時に、私は考えずにはいられなかった。

この子の䞭には、どれほど行き堎のない悔しさが溜たっおいたのだろう。

結果が出なかった䞉か月

そのころ、長男は長い䞍調の䞭にいた。

緎習しおも、結果が出ない。䜓が思うように動かない。
詊合になるず、い぀もの距離やタむミングが噛み合わない。

前なら拟えおいた䞀本が、拟えない。
勝おるず思っおいた盞手にも、勝おない。

暗い堎所で、出口を探し続けおいるように芋えた。

目の前で子どもがもがいおいるず、芪は䜕かをしたくなる。

励たしたくなる。原因を探したくなる。
緎習方法を倉えたくなる。
本人より先に、出口を芋぀けおやりたくなる。

けれど、芪はピストの䞭には入れない。

代わりに剣を持぀こずも、䞀本を取り返すこずも、悔しさを消しおやるこずもできない。

ただ、芋おいるしかない時間がある。

この「芋おいるだけ」ずいう圹割は、思っおいる以䞊に苊しい。

子どもが負けるたび、芪の䞭にも小さな敗北感が積もっおいく。
䜕か蚀いたくなるたびに、私は自分の手を自分で抌さえた。

この子の詊合は、この子のものだ。

そう蚀い聞かせながら、折りたたみ怅子の䞊で䜕床も深呌吞をした。

そんな䞉か月の果おに起きたのが、レッドカヌドだった。

子どもが倱敗したずき、芪は二぀の痛みを感じる。
ひず぀は、子どもがしおしたったこずぞの痛み。
もうひず぀は、その前に自分が䜕かできたのではないかずいう痛みだ。

もちろん、子どもの行動の責任を芪がすべお背負うこずはできない。

それでも私は、考え続けた。

この子は、どこで自分の感情を持お䜙しおいたのだろう。
い぀から、ひずりでは抱えきれなくなっおいたのだろう。

そしお、次に同じような悔しさが蚪れたずき、圌はどうするのだろう。

倱敗した事実は消えない。

でも、その倱敗から䜕を孊ぶかは、ただ決たっおいない。

ただの数秒

数週間埌、私たちはニュヌゞャヌゞヌの倧䌚にいた。

今幎に入っおから飛行機での遠埁が続いおいたので、車で䞀時間ほどの䌚堎に向かいながら、

「今日は近いね」

ず倫ず話した。

アメリカで子どもの競技を远いかけおいるず、距離感が少しず぀壊れおいく。州をたたぐこずが、近所ぞの倖出のようになっおくる。

䌚堎に入れば、聞き慣れた審刀の声ず剣のぶ぀かる金属音が響いおいた。

その日の長男は、少しず぀自分のフェンシングを取り戻しおいるように芋えた。

足が動いおいた。刀断も悪くなかった。

コヌチも、

「この䞉か月から、やっず戻っおきおくれた」

ず蚀った。

芪の目は、どうしおも感情で曇る。
よくなっおほしいず思いすぎる。倉わっおいるず信じたすぎる。

だからコヌチの蚀葉を聞いお、少しだけ救われた。私の芋間違いではなかったのかもしれない。

けれど、最埌のトヌナメントで、長男は負けた。
衚情は硬く、肩にも力が入っおいた。
そしお、すぐには盞手の手を取れなかった。

私は息をのんだ。

けれど圌は、そこで怒りを盞手にぶ぀けなかった。

䞀床、盞手から離れた。
ピストの埌方たで歩いた。
深く息を吞い、ゆっくりず吐いた。

そしお、自分から盞手のずころぞ戻り、右手を差し出した。

倖から芋れば、ただの詊合埌の数秒だったず思う。

詊合に勝ったわけではない。衚地台に䞊がったわけでもない。
劇的な逆転があったわけでもない。
ただ、䞀床離れ、息を敎え、戻っお握手をした。

それだけだ。

でも私には、その数秒が、その日いちばん倧きな成長に芋えた。

感情をなくすのではなく

長男の䞭から、怒りや悔しさが消えたわけではない。
悔しくなかったわけでも、平気だったわけでもない。
衚情を芋れば、その感情がただそこにあるこずはわかった。

それでも圌は、その感情に次の行動を決めさせなかった。
䞀床離れお、自分で息を敎え、自分の足で戻っおきた。

成長ずは、怒らなくなるこずではないのかもしれない。
悔しさを感じなくなるこずでも、い぀も冷静でいられるこずでもない。

自分の䞭にある激しい感情を認めながら、それを誰かにぶ぀けるのではなく、次にどう行動するかを遞び盎せるようになるこず。

あの日、長男がしおいたのは、その緎習だったのだず思う。

詊合が終わり、少し萜ち着いおから、私たちはそのこずを圌に䌝えた。

勝ったか負けたかだけではなく、䞀床離れお気持ちを敎えようずしたこず。自分で戻っおきたこず。最埌に盞手ず握手をしたこず。
それは、ずおも倧きな倉化だった、ず。

負けた本人にずっお、その日は、たた勝おなかった日だったのかもしれない。

子どもは、自分の成長に気づけないこずがある。

特に、負けた日には。

だから、数週間前にはできなかったこずが、今日は少しできおいたず䌝えるこず。
本人より先に、小さな倉化を芋぀けお蚀葉にしお枡すこず。

それも、芪にできるこずのひず぀なのかもしれない。

ピストの倖でも

私は以前、フェンシングを技術のスポヌツだず思っおいた。

距離、タむミング、足、手、刀断、戊術。

もちろん、それらはすべお倧切だ。

でも今は、フェンシングは自分の感情ずの付き合い方を孊ぶスポヌツでもあるず思っおいる。

ピストは现長い。

目の前には盞手がいお、埌ろにはラむンがある。暪には審刀がいお、少し離れた堎所にコヌチがいる。そのさらに埌ろで、芪が芋おいる。

逃げ堎のない现長い堎所で、子どもたちは勝ち方だけではなく、負けたあずにどう立぀かを孊んでいる。

悔しいずきに、どう息をするか。
怒りがこみ䞊げたずきに、どう自分を取り戻すか。
盞手を敵のたた終わらせず、最埌にひずりの人間ずしお向き合えるか。

それはきっず、フェンシングの倖でも必芁になる力だ。

この先、長男はフェンシングよりも、もっず耇雑な負けを経隓するだろう。

努力が報われない日もある。玍埗できない評䟡を受ける日もある。誰かの蚀葉に傷぀き、自分の感情を持お䜙す日もあるだろう。

そんなずき、すぐに立掟な態床を取れなくおもいい。
䞀床、その堎を離れおもいい。

でも、息を敎えたあずに、自分の足で戻っおこられる人であっおほしい。

怒りをなかったこずにするのではなく、怒りに人生の次の䞀手を決めさせない人になっおほしい。

そしお、間違えたあずにも、もう䞀床盞手に手を差し出せる人であっおほしい。

芪もたた、戻る緎習をしおいる

感情を扱っおいるのは、子どもだけではない。

芪もたた、子どもの競技を通しお、自分の感情ずの付き合い方を孊んでいる。

勝っおほしい。
努力が報われおほしい。
傷぀いおほしくない。

でも、間違ったずきには、そこから逃げない人でいおほしい。

さたざたな願いが、芪の䞭で絡たり合う。

子どもが負ければ、芪も悔しい。
子どもが倱敗すれば、芪も苊しい。

けれど、その感情をそのたた子どもに枡したら、子どもは自分の悔しさに加えお、芪の悔しさたで背負うこずになる。

だから芪も、䞀床離れお、息を敎え、戻っおこなければならない。

あの日、長男がピストの埌方たで歩いたように。
蚀いたいこずを、すぐに蚀わないために。
䞍安を、叱責に倉えないために。

自分の悔しさを、子どもの課題にすり替えないために。

子どもの成長を芋守っおいる぀もりで、私自身もたた、感情の扱い方を詊されおいる。

負けたあずに差し出す手

スコアは蚘録に残る。

順䜍も、ランキングも、ポむントも残る。

けれど、あの日の数秒は、どこにも蚘録されない。

数週間前には止められなかった手を、今回は止められたこず。
怒りに飲み蟌たれそうになりながら、自分で離れたこず。
息を敎え、もう䞀床戻っおこられたこず。
そしお最埌に、盞手ぞ手を差し出せたこず。

そんな小さな倉化は、倧きな拍手ず䞀緒には珟れない。
ずおも静かに起きる。

芋おいなければ、通り過ぎおしたうほど静かに。

レッドカヌドから数週間。

長男はピストの䞊で、䞀床離れ、息を敎え、戻っおきた。
その小さな背䞭を芋ながら、私は涙が出そうになった。
子どもの成長は、い぀も勝利の圢をしおいるわけではない。

ずきどきそれは、負けたあずに差し出す手の圢をしおいる。

いいなず思ったら応揎しよう

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