SCMヨーロッパ史:地獄の自動発注。効率化が変えた戦争の形
第一次世界大戦と言えば、「新兵器の登場」や「悲劇的な塹壕戦」が有名ですが、ここではそんな教科書通りの話はしません。
ここでご紹介するのは、「効率化を極めた物流が、人を死地へ送り込み続ける」という悪夢のシステムの世界です。
こんにちは、サプライチェーンマニアの瀬崎健です。
前回は、鉄血宰相ビスマルクが「鉄道とアメ玉」を使ってドイツという巨大な帝国を連結したお話でした。
今回はその連結が「暴走」を始めます。
「世界が繋がる」=「地獄が連鎖する」
20世紀初頭、世界は「第一次グローバリゼーション」の真っ只中でした。 産業革命でモノが溢れ、原材料を求めて各国が植民地を広げ、世界中の航路や線路がパズルのように組み合わさっていたんです。
普通なら「これだけ貿易してれば、戦争なんて損だから起きないよね」と考えます。 実際、当時のインテリもそう思っていました。
ところが、この「密なネットワーク」こそが落とし穴。
1914年、サラエボで皇太子が暗殺された瞬間、同盟という名の「契約書」によって、ドミノ倒しのように世界中が戦争に引きずり込まれました。
「一箇所の不具合がシステム全体をダウンさせる」。 現代のクラウド障害と同じ構造が、100年前に発生したわけです。
ロジスティクスの進化が「終わらない戦争」を作った
第一次世界大戦は、それまでの戦争とはワケが違いました。 何が違うって、「ロジスティクスの性能が良すぎた」んです。
かつての戦争は、食料が尽きたり移動に疲れたりして、どこかで「休戦」がありました。
でも、この時代は違います。
鉄道:血管のように前線へ兵士を送り続ける。
トラック:鉄道が届かない「ラストワンマイル」を埋め尽くす。
缶詰:兵士を飢えさせずに戦わせ続ける。
この「完璧すぎる補給」のせいで、現場は「死傷者が出ても、即座に次の在庫(兵士)が補充される」という無限ループに突入しました。
フランスのヴェルダン戦では、トラックが「聖なる道」を休みなく走り続けました。
「在庫(兵員)を切らさない」というプロ意識が、皮肉にも1,600万人もの犠牲を生む要因になったんです。
潜水艦 vs 船団:海上サプライチェーンの攻防
陸が泥沼なら、海は「兵糧攻め」の修羅場です。
ドイツが放った最強の刺客、潜水艦「Uボート」。
彼らのミッションは、イギリスへ向かう商船を沈めて「物流ルートを物理的に消去すること」でした。 これを「無制限潜水艦作戦」と呼びます。
対する連合国も負けていません。 バラバラに走るから狙われるんだ、とばかりに「船団護送システム(コンボイ)」を構築。
アメリカという「チート級のサプライヤー」
この絶望的な均衡をぶち壊したのが、アメリカの参戦です。
1917年、アメリカが参戦すると、戦場には「無限の課金アイテム」が投入されたような状態になりました。 圧倒的な工業力から繰り出される食料、武器、そして若くて元気な兵士たち。
疲弊しきったドイツ側からすれば、 「こっちは在庫(資源)カツカツで回してるのに、あいつら新作を湯水のように投入してくるじゃん……」 という絶望感。
結局、物理的な物量の差――つまりサプライチェーンの総力差によって、ドイツは内部から崩壊しました。
結論:軍事ロジスティクスが「現代のビジネス」になった
戦争が終わると、この「数百万人にメシを食わせ、モノを運ぶ」という超高度なノウハウが民間へと流れました。
戦時中に発達した「物を効率よく動かす手法」は、戦後、「フィジカル・ディストリビューション(物的流通)」という言葉になり、今の私たちが使っているSCMに繋がっていったんです。
航空機や自動車の大量生産も、この大戦での「無理難題」をクリアしたからこそ実現しました。
効率を追い求めた結果、人類最大の悲劇を生んでしまった……という歴史の皮肉。 回収の仕方がヘビーすぎて、ちょっと背筋が寒くなります。
私も、効率化を追求しすぎて「現場を機械のように扱っていないか……」と、たまにはビスマルク風ステーキを食べながら振り返ることにします。
さて、次回はそんな「資本主義の暴走」にツッコミを入れ、新たな(そしてもっと過激な)理想のシステムを夢見た男。
「マルクスと夢のシステム」について紐解きます。
お楽しみに!
