SCMヨーロッパ史:ビスマルク流、鉄道網と社会保障の連結経営
「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」
この有名な格言、実はドイツの鉄血宰相ビスマルクの言葉(あるいは引用)とされています。 自分の失敗で痛い目を見る前に、他人の失敗を見て賢く立ち回れ。 いかにも合理的で冷徹な彼らしい考え方ですよね。
ビスマルクと言えば、意外に美食家で大食漢という話がありますが、ここではそんな話はしません。 ここでご紹介するのは、「飴と鞭でサプライチェーンを無理やり統合した」怪物級の政治家の世界です。
こんにちは、サプライチェーンマニアの瀬崎健です。
前回は、ナポレオンが「自爆ボタン」を押して物流を崩壊させた失敗学をお届けしましたが、今回はその数十年後。
バラバラだったドイツを、「鉄と鉄道と保険」で一つにまとめ上げたロジスティクス界の天才が登場します。
荒ぶる2代目、ニートを経て「鉄血」へ
1815年、プロイセンの地主貴族(ユンカー)の家に生まれたオットー・フォン・ビスマルク。
普通、貴族の坊ちゃんならエリート街道を直進するはずですが、彼は「大学時代に決闘25回」という、もはや格闘家のような学生生活を送ります。
官僚になっても「上司と合わん!」と即退職。
実家の農場でニート同然の生活をしていましたが、30代でようやく政界へ。
有名な「鉄血宰相」という呼び名は、1862年の演説がキッカケです。 「現時の大問題は、言論や多数決ではなく、鉄(武器)と血(兵士)によってのみ解決される」
これ、単なる根性論じゃありません。 SCM的に読み解けば、「会議室の空論より、現場の物量とインフラが全て」という、超・現場主義な発想なんです。
鉄道は「移動手段」ではなく「動脈」である
19世紀半ば、当時のドイツは39もの国に分かれた「バラバラのパーツ状態」でした。
普通は「話し合いで仲良くしよう」と歩み寄るものですが、ビスマルクは違いました。
「先に線路(サプライチェーン)を繋いじゃえば、後から国もついてくるっしょ」 と、鉄道網を爆速で整備します。
物資の流れを先に固定して、政治を後回しにする逆転の発想です。
さらに、兵器メーカーのクルップ社と組み、最新のライフルを大量導入。 1871年、普仏戦争でフランスを圧倒し、なんと敵地のヴェルサイユ宮殿で「ドイツ帝国」の誕生を宣言します。
他人の家で勝手に自分の会社の設立パーティーをやるような、この図太さ。 お化けメンタルです。
「アメとムチ」の在庫管理
国を一つにした後、ビスマルクが直面したのは「労働者の不満」という内部リスクでした。 普通、反抗的な勢力は力でねじ伏せるだけですよね? 実際、彼は「社会主義者鎮圧法」というゴリゴリのムチを振るいました。
しかし、ここからが彼の真骨頂。 「文句を言う暇がないくらい、手厚く守ってやればいいんじゃね?」と、1880年代に世界初の「社会保障制度」を創設します。
疾病保険法(1883年):病気になっても安心
災害保険法(1884年):ケガしても大丈夫
養老・廃疾保険法(1889年):老後も安泰
これ、SCM的に見れば「人的リソースのメンテナンス・プラン」です。 労働者を「使い捨ての部品」ではなく「長く稼働させる資産」として管理したわけです。
明日も元気に働ける保証があるから、国民の忠誠心という名の「納期」が守られる。
人心掌握の要諦をついた作戦です。
伊藤博文への「鉄血注入」
このビスマルク・システムに惚れ込んだのが、日本の伊藤博文です。
1882年、憲法作りに悩む伊藤がビスマルクを訪ねると、彼はこう言い放ちます。
「日本よ、まずは強い軍隊を作れ。話はそれからだ」
まさに「インフラ(軍事)が整ってないプロジェクトに、デザイン(憲法)だけ載せても意味ないぞ」という、鬼のプロジェクトマネージャー視点。
今の日本のベースには、ビスマルクの「鉄血成分」が少なからず混ざっているんです。
鉄血宰相、実は「卵と犬」に激甘
そんな冷徹な彼ですが、プライベートはツッコミどころ満載です。
大の美食家で、特に半熟卵が大好き。 ステーキに目玉焼きを乗せた「ビスマルク風」という名前は、彼が「卵、乗せちゃいなよ!」と欲した食欲から生まれています。
さらに、愛犬(グレート・デーン)を溺愛。 重要な会議中も足元で犬が寝ているという、「令和のテレワーク先駆者」のようなスタイルを貫いていました。
結論:ビスマルクは「連結の鬼」だった
バラバラだった領土を「鉄道」で繋ぎ、反抗的な国民を「保険」で繋いだ。
彼が構築した「ビスマルク体制」というサプライチェーンは、彼が退任するまで約20年間、一度も破綻しません。
「普通は情熱で国を作るのに、彼はシステム(SCM)で国を作った」。 その回収の仕方が合理的すぎて、もはや清々しいですよね。
私も、部署間の調整がうまくいかないときは、ステーキに半熟卵を乗せて「これがビスマルクの連結力、、、」と自分を励ますことにします。
さて、次回はこの完璧なシステムが、技術の進化とともに巨大な破滅へと向かう物語。
「第一次世界大戦とサプライチェーンの変化」について紐解きます。
お楽しみに!
