【大槌町】藻場再生、里山と里海が人の暮らしで繋がる。岩手県大槌町に見る、環境再生型観光のいま(前編)
環境省 環境創造室|令和8年度良好な環境を活用した観光モデル事業 期初訪問レポート
磯焼けとウニの増加に悩む三陸の海で、漁師と企業と地域の人々がともに「藻場」を育て、観光から生まれた収益を保全へと還元していく。
岩手県大槌町のNPO法人おおつちのあそびは、研究者の視点を活かし、山と川と海と人をつなぐ環境再生型観光モデルを実践している団体です。
梅雨の合間、環境省環境創造室の職員、有識者・専門家の先生方、事務局の4者が現地を訪問し、その取組について伺いました。
▶「良好な環境を活用した観光モデル事業」とは

01
おおつちのあそびと、大槌という場所
岩手県大槌町は、町面積の約9割を森林が占め、海側にはリアス式海岸が広がる三陸屈指の豊かな土地です。この豊かな海で多くの漁師たちがサケ・ウニ・アワビ・ワカメ・カキなど豊富な水産物を育んできました。
しかし、近年、漁獲量の減少が起こり、磯焼けとウニの増加が深刻な課題となっています。
水産資源が減少している声を受け、地元有志の漁師やダイバー、地域のみなさんが調査をした結果、ウニの増加とあわせ磯焼けによる藻場の衰退が水産資源の減少を引き起こしていることが判明したのです。
そこで、藻場再生協議会の活動を発端とし、保全と観光の視点を加えながら、地域ぐるみでこの問題に挑んでいるのが、特定非営利活動法人おおつちのあそびです。

生態学的な調査・研究を続けてきた大場さんが代表を務める おおつちのあそびは、藻場再生協議会の研究の知見を活かし、令和6年度には「令和の里海づくり」モデル事業にて活動を実施しました。
令和7年度からは、守るだけではなく「活かす」視点を取り入れ、保全と利活用の好循環を目指して「良好な環境を活用した観光地域づくりモデル事業」の実施団体として活動しています。
SPOT 01|吉里吉里MOBAベース
海の底でコンブを育て、生命の豊かさを数える
今回の訪問は、吉里吉里MOBAベースから始まりました。
この日はアイシン東北・トヨタ紡織の皆様と大槌町藻場再生協議会が連携した協働藻場再生活動の実施日。約5か月前に投入したコンブ種苗の成育確認作業が行われました。


船でコンブ柱を沖合から引き上げ、育ったコンブの重量を測定。そしてコンブの葉の表面に付着した「葉上生物」であるヨコエビ類やワレカラ類などの小さな生き物を一種一種拾い上げ、種類と数を記録していきます。
コンブが育つほど葉上生物の多様性が増し、そこにより大きな生物が集まるため、この食物連鎖の連なりを数値で追うことで、藻場再生の『見える化』へとつなげる試みです。
今回はアカモクに付着した葉上生物も観察します。

また、コンブをはじめとする海藻類は光合成によって二酸化炭素を吸収し、「ブルーカーボン」として海中に炭素を固定する役割も担います。
藻場の再生はウニ・アワビ等の水産資源回復にとどまらず、気候変動対策としての意義も持っているのです。数値として表れる量はまだ微々たるものですが、小さな取組は対策への第一歩です。
令和7年度の実績(協働藻場再生活動)
アイシン東北・トヨタ紡織等との協働でコンブ種苗投入活動を計4回実施。自然共生サイト申請に向けた生物多様性増進計画の策定も並行して進めている。現在の藻場再生活動予算の25%を観光収益から賄えるよう、体制の構築を目指している。
SPOT 02|源水・イトヨの生息地
湧水が育む希少な命と、「地域おこし酒」の物語

大槌町はリアス式海岸の地形に由来する豊かな湧水地帯としても知られています。なかでも源水川は、淡水型イトヨの貴重な生息地となっており、今回は貴重な梅花藻(ばいかも)の開花も確認できました。
訪問時には調査網を確認し、産卵期を迎えたイトヨの姿を実際に目にすることもでき、この湧水の豊かさを肌で感じることができました。

この澄んだ湧水を守ることが、地域の自然や生物多様性の保全につながります。日本酒「浜千鳥 源水」は釜石市の酒蔵・株式会社浜千鳥が、大槌町源水地区の湧水と大槌産酒米「吟ぎんが」を用いて仕込んだ純米吟醸です。
売上の一部は源水地区の環境保全活動に寄付されており、自然を守ることが経済活性化につながり、その資金でまた保全が続く好循環の一例です。
🍶日本酒「浜千鳥 源水」
大槌町源水地区の湧水と大槌産酒米「吟ぎんが」で仕込んだ純米吟醸。バナナのような含み香と爽やかな酸味、キレのある後味が特徴。売上の一部は源水地区の環境保全活動に寄付され、大槌町内限定販売のラベルは大槌の小・中・高校生がデザインしています。(株式会社浜千鳥、大槌酒米研究会、大槌町観光交流協会)
湧水・イトヨ・酒米・日本酒。地域の自然資源のつながりを丁寧に伝えることが、新しい形の「海と山をつなぐ物語」になっていきます。
🍱 大槌の海の幸
サーモン漬け丼、海鮮丼、そしてマンボウのコワダ

そして大槌には、サーモンの漬け丼、新鮮な「ホヤ貝」や立派なムラサキイガイ(ムール貝)そしてマンボウのコワダ(腸の塩辛)など海の幸を感じられる豊かな料理も多数存在します。
三陸の豊かな漁場が育む多様な料理は、観光客が地域の人々と交流しながら、保全と食の関係をひと口ひと口実感できる貴重なものです。
藻場の豊かさはこうした海の幸の持続にもつながります。
SPOT 03
虎舞 それぞれの虎が宿す、地域の誇り

今回、特に印象的だったのは、地域の若手の方々が多数参加して踊る「虎舞」です。
大槌町には5〜6種類の虎舞があり、地区によって虎の顔つきや衣装、舞の雰囲気が異なっており、観光客向けのパフォーマンスではなく、地域の若い世代が「自分たちの文化」として誇りをもって継承している姿が伝わってきました。
震災を経たこの町で、伝統芸能が次の世代に息づき、地域の人々の誇りとなっていく。同じ町の中に複数の「虎」が存在することで、地域の多様性を象徴しており、地域の文化の厚みを示しています。自分たちの虎が、自分たちの誇り。
地元の若い担い手が舞う虎舞は、大槌が震災後も前を向いて歩んできた証のひとつに見えました。
この記事は前編・後編の2本構成です
▶ 【後編】海から森に託す想い。震災を越えてきた大槌町の人々の魂 ー令和8年度観光モデル事業 現地レポート
報告/Nao
環境省 環境創造室にて、「良好な環境を活用した観光モデル事業」および広報を担当。学生時代は無人島で鳥類の生態研究を行いつつ環境教育に従事。出版社、地方公務員などを経て現職。ご当地の自然観察マップを手掛けるのが趣味。鳥の絵描き。
🌿 おおつちのあそびの取組詳細はこちら
環境省の事業ウェブサイトでは、本モデル事業の実施団体の取組情報をまとめています。
◆NPO法人 おおつちのあそび |
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最後までお読みいただき、ありがとうございます。良好な環境は、地域の豊かさを支えるとともに、産業・文化・教育にも広く関わる地域の貴重な資源です。
ー環境を「守る」だけでなく、「活かすことで守る」
このnoteでは、今後も各地の取組事例や現場の声、「良好な環境」に関するコラムなどを発信していく予定ですので、身近な水辺や地域の環境に少しでも目を向けていただけたら、私たちにとって何より嬉しいです。
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