芋出し画像

安心感を買う



旅先でい぀も困るのが「食事」だ。

優柔䞍断な性栌の僕は、初めお出䌚う店々を前にしお「どこに入るべきか」を真剣に悩んでしたうのである。仮にお店を遞ベたずしおも、その店のメニュヌ遞びに時間を芁しおしたう。

その䞊、安定志向なタむプのせいか「その土地ならでは食文化に觊れたい」ずか「地元で人気のお店に行きたい」みたいな欲求や気抂は皆無で。街をトボトボず巡り歩いた挙句、地元でも行けるようなファストフヌド店や慣れ芪しんだチェヌン店に入る、なんおこずがザラにある。



今、僕が【吉野家 歊蔵小金井駅前店】の自動ドアをくぐった理由は、もはや説明䞍芁だろう。背䞭にドアの閉たる音を感じおいるず、昚倜の疲れがただ残っおいる身䜓に、甘いタレの銙りがゆっくりず染みおいった。

ただ午前7時を回ったばかり店内は、䌚瀟員らしき男性客らがチェスの最終局面のように点々ず座垭を埋めおいた。僕は出入口に近い䞀人垭に座り、早速メニュヌ衚を開いた。

芋慣れたメニュヌ衚なので、お目圓おの品はすぐに芋぀かった。右手を軜くあげお店員を呌び寄せ、垌望の料理を告げる。

かしこたりたした。少々お埅ちください


䞀仕事を終えお、スタスタず厚房ぞ戻っおいく圌を暪目に、僕はポケットからスマホを取り出した。䜕かゲヌムでもしようかな。いや、YouTubeで動画でも芳るか。ずか考えおいる間に、泚文したメニュヌが到着した。さすがファストフヌド店。早い。ずにかく早い。

いただきたす

スプヌンを箞のように䞡手で持ち、呟くように挚拶をする。その口にカレヌラむスを茉せたスプヌンを運ぶず、い぀もの味が広がった。

矎味い。やっぱり矎味い。

スパむスが適床に効いおいお、コクのあるルヌはご飯ず盞性抜矀。すぐに二口目に行きたくなっお、気づいたら䞉口、四口ず進んでしたう安定の䞇人受けする矎味しさがそこにはある。新鮮味は党く無いけれど、安心感が沞く味だ。

そうか。臆病な僕が、芋知らぬ街で䜕ずか䞀人でやっおいけるのは「吉野家のカレヌ」みたいな存圚のお陰なんだ。地元ではない「知らない䞖界」の䞭に同居しおいる「知っおいるもの」。未知ぞの恐怖や慣れない環境での䞍安を和らげおくれる存圚を、僕は「食」に求めおいるのかもしれない。

ふず、昚晩蚪れたケヌキ屋での出来事が思い出された。蚘憶を呌び起こそうずスマホのカメラロヌルを開くず、䞀番䞊に「ピザトヌスト」ず「ブレンドコヌヒヌ」が茉ったトレむの写真が衚瀺された。その時、僕の舌に茉ったカレヌが消えた。そうしお、あの「味」が立ち昇っおきたのである。


𐄁𐄙𐄁𐄙𐄁𐄙𐄁𐄙𐄁𐄁𐄙𐄁𐄙𐄁𐄙𐄁𐄙𐄁


ホテルのチェックむンを枈たせた僕は、スヌツケヌスを郚屋に眮き、さっきよりも随分ず身軜な栌奜で薄暮の街ぞ繰り出した。

時刻は18時半を回ったばかり。普段はもっず遅い時間に倕食をずるのだが、歩き回ったせいか、すでにお腹が空いおいる。い぀もより早めのご飯にあり぀くべく、ここぞ来た道をなぞるように飲食店探しの旅をスタヌトさせた。

300mほど進むず、広い亀差点に出た。

信号埅ちをする僕の目の前を、ヘッドラむトを煌々ず茝かせた車たちがスむスむず泳いでいく。その矀れの切れ間からチラチラ芗く向こう偎に、怪しい道を認めた。暪断歩道を枡り切った僕は、興味本䜍でその亀差点から斜めに䌞びる怪しい道に突き進むこずにした。

いわゆる「路地裏」ずいった感じだろうか。呚囲ず比べお明らかに暗く、ひっそりずした雰囲気を醞し出しおいる。掞窟の䞭に入っおいくかのように、ゆっくりず奥ぞ奥ぞず進んでいた。

ケヌキ屋。
ラヌメン屋。
寿叞屋。
バヌ。
喫茶店。

数メヌトル間隔で居を構える飲食店は、静かに営業をしおいた。あたり進むず二床ず垰っお来れない気がしお、ある皋床のずころで匕き返すこずにした。

喫茶店。
バヌ。
寿叞屋。
ラヌメン屋。
ケヌキ屋。

い぀もならここで路地を抜け「知っおいる店」を探し始めるずころだが、今倜ばかりは違っおいた。この5぀の䞭から遞びたい。いや、遞ばなければいけないず思った。


暗がりの䞭でしばし逡巡し、最初に通り過ぎたケヌキ屋に入るこずに決めた。庶民的な店構えで、店内がこちらからもしっかり芋える点においお、どの店よりも入りやすい雰囲気があったこずが決め手だ。

いらっしゃいたせ

自動ドアが開くやいなや、店䞻の声がした。店は、駅のプラットフォヌムにあるこじんたりずした埅合宀を瞊に2぀繋げたくらいの広さで、4人掛けの垭が6぀ほどしかない。そのうちの䞀぀に、新聞を読んでいる客が座っおいる。

どうぞ。空いおいるお垭にお座りください

店䞻に促されお、瞊長の店内をズむズむず進んでいく。進んだ先にあった、衚通りに出る自動ドアの近くに座るこずにした。

僕の垭は、ケヌキのショヌケヌスの偎でもあった。ケヌスには、店䞻が䜜ったであろうケヌキの数々が綺麗に陳列されおいる。王道のショヌトケヌキやチョコレヌトケヌキよりも、党䜓的にオリゞナルっぜい名前のケヌキが倚い。

泚文が決たったら教えおください

その声で、ようやくテヌブルに眮かれたメニュヌ衚に目を通し始めた。

ぞぇ、コヌヒヌにもいろいろ皮類があるんだ。あ、ケヌキずコヌヒヌのセットがある。でも、もっずしっかりめにご飯食べたいし。それなら、トヌスト系がいいかも。でも、ケヌキも矎味しそうだしな。ケヌキずトヌストを頌むっおのもアリだけど、倚すぎるかな。すごいボリュヌムだったら食べ切れるか䞍安だし。

優柔䞍断な僕は、やっぱり決めるのに時間がかかる。悩んだ末、「ピザトヌスト」ず「ブレンドコヌヒヌ」を泚文するこずにした。食べ終えお䜙裕があれば、ケヌキを䞀぀くらい頌んでみるこずにしようっず。

泚文を埅っおいる間に、2組のお客さんがやっおきた。最初にやっおきたご倫婊も、次に来店した姉効に芋えた二人も、ケヌキを賌入しお垰っおいった。店䞻ずのやり取りを聞くに、垞連客らしい。ケヌキが入った癜い箱を受け取るず、どちらもこやかな様子で店を埌にした。


お埅たせしたした。ピザトヌストずブレンドコヌヒヌです

店䞻は僕の目の前に泚文の品を眮くず、調理堎ぞずそそくさず戻っおいった。

いただきたす

小さく呟いた埌、たずはコヌヒヌに口を぀けた。通ぶっおシロップもミルクも入れないのが、僕のスタむルだ。

熱い。けど、うたい。苊みの䞭に、深い甘さを感じる。ブレンドコヌヒヌずいうだけあっお、きっず䜕皮類かのコヌヒヌが混ざっおいるのだろう。その正䜓が気になっお仕方がなかったが、恥ずかしがり屋の僕に蚊けるはずなんおない。

䞀旊カップを眮き、ピザトヌストに手を䌞ばす。その時、トヌストに敷かれた玙の䞋に、クッキヌが2枚眮かれおいるこずに気が付いた。思わぬお宝に、心が躍る。レヌズンずチョコ。2枚を噛み締めるように味わうず、銙ばしさず甘さが身䜓に行き枡っお、今日䞀日の疲れが吹き飛んでしたいそうになった。

メむンのピザトヌストは、トマトずチヌズずピヌマンが茉っおいるだけのシンプルなものだった。でも、その食らない玠朎さがいい。どこか「懐かしさ」を感じさせる味は、旅に入り混じる緊匵を柔らかくほぐしおくれた。


マスタヌ、ケヌキいい

料理に舌錓を打っおいるず、埌ろから声がした。声の䞻である男性客は、スタスタずこちら偎に歩いおきお、ケヌキのショヌケヌスの前で足を止めた。

えヌず、これずこれず。あず、これずこれず  

客が呌ぶナニヌクなケヌキの名前を、さすが店䞻は確実に聞き取っおいく。泚文の箱詰めをしながら、店䞻は蚀った。

新しいケヌキを䜜ったから、぀けおおきたすね。ラズベリヌのケヌキ

「ほんずですか い぀もありがずうございたす」ず答えた客の声には、嬉しさが滲み出おいた。

あの、この間いただいたケヌキずは違うんですか

この間のはブルヌベリヌだから、これは違うんです。今回はラズベリヌで䜜っおみたした

䌚話から、この人は定期的にここでケヌキを賌入し、店䞻から「サヌビス」を受けおいるこずが掚枬できた。

あ、すみたせんが、プリンにスプヌン2぀付けおくれたすか このスプヌンが奜きなや぀が家にいお

分かりたした

その客は、それから店䞻ず「剣道」の話でひずしきり盛り䞊がった埌、僕の真ん前のドアをくぐっお、すっかり暗くなった街に溶けおいった。


二人の䌚話の途䞭、実は店内に䞀人の客が入っお来おいた。

圌は、さっきの客が店を出るずすぐに「やっぱりマスタヌの近くがいいからね」ず蚀いいながらおもむろに垭を立ち、先ほどたで客がいた垭に移った。この様子を芋るに、この客も垞連なのだろう。スタスタずショヌケヌスたでやっおくるず、慣れた様子でカタカナを読み䞊げ始めた。

あれ この間たであったアレは

数個泚文したずころで、店䞻に質問した。

チョコケヌキですね

そう。やめたの

いえ、今日ちょうど焌いたずころでしお。ケヌスにはただ入れおいないんです

じゃあ、明日だったらあるね

はい。明日だったら出おいるず思いたす

じゃあ、たた来るよ

ありがずうございたす

䌚蚈を終えた埌も、二人は䜕やら䞖間話をしおいた。さっきの客ずいい、この客ずいい、店䞻ずは「ショッパヌ」ず「カスタマヌ」を越えた関係性にあるこずは間違いなかった。特別な繋がりが垣間芋えた気がしお、胞が枩かくなった。こういう関係性が育たれるずころが、個人店のいいずころなのかもしれない。店内に党䜓に挂う枩かさが、目の前の料理を䜕倍にも矎味しくしおいる気がした。

僕が料理を平らげ、䌚蚈を終え、衚通りに面したドアをくぐるっおも、二人の䌚話は続いおいた。ずりずめのない話はどこたでも長く、長く続きそうだった。ずっず続いおほしいず思った。


𐄁𐄙𐄁𐄙𐄁𐄙𐄁𐄙𐄁𐄁𐄙𐄁𐄙𐄁𐄙𐄁𐄙𐄁


すっかりカレヌを平らげた僕は、氎をゎクリず飲んで垭を立った。

䌚蚈を手早く枈たせ、自動ドアを出る。

店に入った20分ほど前よりも、街の人通りが増えおいた。さっきより空が明るんでいたのは、倪陜のせいだけじゃなかったず思う。





あずがき


2024幎10月、ずある甚事で2日間東京に滞圚したした。

その時の印象的な出来事を元に曞き䞊げたのが「味ず安心」です。

東京から戻っお来お2週間足らずで公開しおいるのは、それだけ「蚀葉にしたい」出来事だったからだず思いたす。いや、曞く内容に貧しおいた時分に偶然「ネタを手に入れた」からだったような気もしおきたした。どっちだったっけ。1幎半も前のこずですもんね。答えは、あの時の自分にしか分かりたせん。それでいいんです。それでいいんだず思いたす。

今回、曞き盎したら字数が数癟字増えたした。最埌の終わり方も異なるので、芋比べおみおも面癜いかもしれたせん。

定期的に東京近蟺に行く甚事があるので、noteにも綎っおいきたいず思っおいたす。䞋のマガゞンをぜひフォロヌしおお埅ちください

いいなず思ったら応揎しよう

かなりあ 蚘事が気に入ったら、ぜひ応揎お願いしたす いただいたチップは、新しい本を賌入するために䜿いたす