見出し画像

笑わないでいて#03【超短編】 −朝日 湊−雨の日に、傘を断った男の話 

#03 キスの意味

#00 雨の日の傘
#01 はじめましてじゃないけど 
#02 そのまんまの意味
#03 キスの意味
#04 ブルースター
#05 別れ
#06 母の音
#07 颯太と保健室
#08 コンクール
#09 風邪の日
#10 海デート
#11 名前をつける夜 【完結】予定
After Story
Side Story 


大学の廊下を歩いていたら、見えた。

非常階段の踊り場。
湊と、ひとりの女性が向き合っていた。

足が止まった。
——あれは、湊の彼女だ。

湊の隣にいても不自然じゃない、きれいな人。
二人の距離が、ゆっくり縮まる。
湊の袖を掴んだ。

湊が少しだけ顔を傾ける。

キスをした。

恋人なら、するだろう。
何もおかしくない。
そう思うのに、胸の奥が冷えていく。

見てはいけないものを見た。

でも——。

湊が、目を開けてこちらを見た。

一秒、間があった。
たった一秒なのに、息が止まるには十分だった。

湊は俺から目を逸らさないまま、美咲の腰を引き寄せた。
そして、もう一度キスをした。

さっきより、深く。
目が、合ったまま。

離せなかった。

逃げればいい。
わかっていた。
でも、足が動かない。

湊の目が、俺を離してくれない。

わざとだ。

見せつけられている。
そうわかった瞬間、腹の奥が熱くなった。

悔しいのか、苦しいのか、羨ましいのか、自分でもわからなかった。
どのくらいそうしていたのか、わからない。


「——ちょっとすみません」
後ろから声がした。

大量のファイルを抱えた、知らない人が立っていた。

「あ……はい」
ようやく、足が動いた。

「拾ってもらえますか?」
廊下に散らばったプリントを集めた。

顔が熱い。
耳の奥で、さっきの沈黙だけがずっと鳴っていた。



翌日。
大学の廊下で、湊が俺を待っていた。


「昨日——見てたでしょ」
笑っていた。

「……」

「どう思った?」
「別に」
「それだけ?」

答えなかった。

湊は少しだけ目を細める。
笑顔はそのままなのに、目の奥だけが笑っていなかった。

「嫌だった?」
「……別に」
「そっか」
一瞬、湊の表情から笑みが消えた。

「わざと?」
俺が聞くと、湊は逃げなかった。

「そうだよ」
笑わずに、言った。

「……なんで」
「俺のことを、どう思ってるか、わかんなかったから」

嫌なやつだと思った。

なのに、責める言葉がすぐに出てこない。
湊の顔が、いつもの軽い顔じゃなかったからだ。

「美咲と別れようと思う」

「なんで」

少しの間があった。

湊は笑った。

「うーん…俺が、別のとこ見てるから」
軽い言い方だった。

でも、その笑顔は苦しそうな顔をしている。

なんて顔してんだよ…

目を逸らせなかった。


短編ストーリーでは、気軽に読んでもらえるように、ざっくりとした内容になっております。
少しでも興味を持っていただけたら【完全版】を楽しみにして頂けたら嬉しいです。

笑わないでいて #04 ブルースター


いいなと思ったら応援しよう!

架空彼氏製作所|AIイラスト 次の彼を生み出す燃料になります。 🖤 架空の彼氏製作所