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笑わないでいて#01後半【超短編】 −朝日 湊−雨の日に、傘を断った男の話 

#01はじめましてじゃないけど  後半

#00 雨の日の傘
#01 はじめましてじゃないけど 後半
#02 そのまんまの意味
#03 キスの意味
#04 ブルースター
#05 別れ
#06 母の音
#07 颯太と保健室
#08 コンクール
#09 風邪の日
#10 海デート
#11 名前をつける夜 【完結】予定
After Story
Side Story 

「何だよ。湊ともう話してんじゃん」
颯太が、缶ビールを片手に近づいてくる。

「高校からの友達なんだよね、俺ら」

「颯、余計なこと言うなよ」
湊がすぐに遮った。

「余計なことって何だよ」
「余計なことは余計なこと」

湊は軽く笑いながら、颯太の肩に腕を回した。
そのまま耳元へ顔を寄せて、何かを低く囁く。

颯太の表情が一瞬だけ変わった。
笑っているのに、目だけが笑っていない。

「はいはい。わかったよ」

湊は颯太の肩をぽん、と叩くと、何事もなかったみたいに部屋の奥へ行ってしまった。
颯太だけが、その場に残る。


「湊、かっこいいでしょ」
颯太がこっちを見て笑った。

「……まあ」
「気をつけなね」
「何に」

「気に入られたら、喰われるよ?」

笑いながら言った。
冗談なのか。
それとも、忠告なのか。
判断できなくて黙っていると、颯太は缶の中身を揺らしながら、少しだけ声を落とした。

「湊はさ、誰にでも優しいから」
人の笑い声と音楽の中で、その声だけが妙にはっきり聞こえた。

「女の子にはもちろんモテるし、男にも好かれる。でも、いつも本気で誰かを好きになったりしないから、すぐ別れるんだよね」

「……それ、俺に言うこと?」
「うん。言っとこうと思って」
颯太は笑っていた。

でも、さっきまでの軽い笑い方とは少し違った。
「変な噂もいっぱい聞くかもしれないけど、全部嘘だから」

「噂?」

「湊に嫉妬してるやつとか、振られた女の子とかが、あることないこと広めてるんだよ」
颯太の指が、飲みかけの缶を少し強く握った。

「……何も知らないくせに」

その声だけ、低かった。
知っている人間の声だった。
湊の明るいところだけじゃなく、きっと暗いところも見てきた人の声。

友達、というには近い。
でも、恋人ではない。

颯太の中にある湊への感情は、名前をつける前に飲み込まれているみたいだった。

「湊と仲良くしてやってよ」
ふいに、颯太が言った。

「俺に言われても」

「うん。でも、なんかさ」
颯太は困ったように笑った。

「お前なら、湊がちょっと違う顔する気がしたから」
返事に困っていると、部屋の奥から湊が戻ってきた。

飲み物を二つ持っている。

「はい、お酒じゃないよ」
そのうちの一つを、俺に差し出した。

「……どうも」
「颯、変なこと言ってない?」
湊が颯太を見る。
颯太は大げさに肩をすくめた。

「言ってない言ってない。湊はかっこいいから気をつけろって言っただけ」
「それが変なことなんだよ」

湊は呆れたように笑った。
その横顔を、颯太が一瞬だけ見ていた。
笑っているのに、少しだけ寂しそうな目で。

俺はその視線に気づかないふりをして、湊から受け取った紙コップを握った。


——はじめまして、じゃないけど。
あの言葉だけが、夜の部屋の中でいつまでも消えなかった。


案内人 白瀬 燈

今日も来てくれてありがとう。

今回は少しお話が長めになってしまいましたので、
2日連続ストーリー更新しました。

よかったら明日も、また会いに来てください。

待っています。

-燈


短編ストーリーでは、気軽に読んでもらえるように、ざっくりとした内容になっております。
少しでも興味を持っていただけたら【完全版】を楽しみにして頂けたら嬉しいです。

笑わないでいて #02そのまんまの意味



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