その5人って誰が選んだ候補者ですか?──外国人材採用は「面接の前」で決まっているのかもしれない
「結局、企業側はどこまでやらなあかんのですか?」
特定技能の受け入れについて企業の方と話していると、
こうした声を聞くことがあります。
住居を整える。
困ったときの相談に乗る。
日本語を学べる環境をつくる。
仕事を教える。
資格取得を支援する。
その先のキャリアまで考える。
制度が変わるたびに、
受入企業に求められる役割が広がっていると感じる方もいると思います。
僕も育成就労や特定技能の制度資料を読んでいて、
だんだん人材育成の教材みたいになってきたなと思うことがあります。
ページ数も結構あります。
「まだあるんかいッ!」と思ったこともあります。笑
これだけ採用後に人を育てるのであれば、
採用前の見方も変えないとあかんのではないか。
ここで考え方を変えた方がいいんちゃうかと思うようになりました。
今回はそんな話です。
企業の負担が増えただけ?
特定技能1号は日本語学習の機会の提供、相談・苦情への対応、生活オリエンテーションなどが義務的支援として定められています。
これは親切でやってあげているという話ではありません。
制度上、必要な支援です。
会社独自で日本語研修を実施する。
資格取得費用を負担する。
専門的な研修を用意する。
キャリアアップの仕組みを整える。
こうした企業の取り組みまで、すべて同じ意味の法定支援ではありません。
制度として必要な支援と人材を育てるために企業が行う投資。
ここは分けて考えた方がいいと思っています。
僕が気になっているのは、
これ以上企業に負担させるのかという議論だけで終わってしまうことです。
もちろんコストはかかります。
時間もかかります。
担当者の負担も増えます。
これから外国人材一人ひとりにそれだけの時間と費用をかけるのであれば、考えるべきことはもう一つあります。
その時間と環境を本人は成長につなげられる人なのか。
これも重要やと思うんです。
支援が厚ければ=人は育つのか
僕は介護分野の日本語教育に関わっているので、
教育環境の重要性をかなり感じています。
学べる場所がある。
分からないことを聞ける人がいる。
仕事で必要な日本語を教えてもらえる。
できなかったことを練習できる。
こうした環境があるのと、ないのとでは全然違います。
ただですね、
環境を用意したら全員が同じように育つかというと、
そんな単純でもありません。
企業が日本語教育にお金をかけても、本人が勉強しなければ伸びません。
資格取得を支援しても、本人が勉強しなければ資格は取れません。
研修を用意しても、受け身のままなら効果には限界があります。
ジムの会費を会社が払ったからといって、
腹筋が自動生成されるわけではありません。
そんな福利厚生があるなら、僕も申し込みたいわ。
人材育成も似ていると思うんです。
会社が用意する環境 × 本人の意欲。
どちらかがゼロなら、これはなかなか前には進みません。
ほんで本人だけの問題でもありません。
「研修を用意しましたからあとは頑張ってください」で放置していたら、
それも違うんですよね。
勉強した日本語を現場で使えているか。
昨日できなかったことが、今日はできるようになっているか。
その変化に職場が気づいているか。
一番大切なんは「前よりできるようになったね」と、
ちゃんと本人に返せているか。
教えるだけではなく、変化を見つけて認める。
そこまでやって初めて、
教育環境が人を育てる環境になるんやと思います。
だから企業が採用後の育成に本気になるほど、
採用段階で見るべきものも変わってきます。
日本語が一番上手な人だけを選ぶ。
それでは足りません。
この人は入社したあとも学び続けられる人なのか。
そこまで見ないといけなくなる。
面接に並んだ5人は誰が選んだの?
ここで海外採用の入口を考えてみてほしいんです。
企業が海外人材を採用するとき、
オンライン面接の画面に5人の候補者が並んでいたとします。
履歴書を見る。
日本語で質問する。
志望動機を聞く。
人柄を見る。
そしてこの5人の中なら、この人が一番いいですねと1人を選ぶ。
今までの海外採用なら普通の採用活動に見えます。
僕はここで企業の方にも一度立ち止まって考えてほしいんです。
そもそも、その5人を選んだのは誰なんやろう。
企業ではありません。
その前に送出機関や現地の募集担当者などによる募集と選定があります。
企業は候補者全体の中から5人を選んでいるのではなく、
誰かが先に選んだ5人の中から、さらに1人を選んでいる。
ここを忘れたらあかんと思うんです。
もちろん候補者を丁寧に選定している送出機関はたくさんあります。
家庭状況。
来日の目的。
職歴。
日本語学習状況。
借入れの状況。
将来設計。
そうした背景まで確認して推薦してくれるところもあります。
募集方法、教育方針、選抜基準も送出機関によって違います。
だとすればですよ、
「5人面接して、一番良かった人を採用しました」
だけで、本当に採用の精度を担保できているんやろか。
面接に出てくるまでの選抜基準が分からなければ、
企業がやっているのは選抜面接というより、
提示された選択肢の中からミスマッチが少なそうな人を探す“消去法面接”
になっている可能性があると思うんです。
厳しい言い方ですが、
僕はここを日本側も考え直した方がいいと思っています。
面接から参加では遅いのかもしれない
これから企業が外国人材に対して、
日本語教育をする。
資格取得を支援する。
仕事を教える。
生活を支える。
長期的なキャリアまで一緒に考える。
そこまで採用後に関わるのであれば、採用前も履歴書と30分程度のオンライン面接だけでは足りなくなってくると思います。
僕は「面接から参加する」→「募集から参加する」。
これがこれからの海外採用では重要になると思っています。
どんな地域で募集しているのか。
本人はなぜ日本へ行きたいのか。
5年後をどう考えているのか。
日本語をどのくらい勉強しているのか。
授業への出席状況はどうなのか。
宿題や課題にどう取り組んでいるのか。
時間や約束を守れる人なのか。
注意されたことを改善できる人なのか。
何より送出機関や人材紹介会社がなぜこの人を企業へ推薦したのか。
企業がそこまで知っておく。その上で面接に挑む。
僕はこれが大事やと思っています。
紹介する側も推薦する理由を説明できるか
これは受入企業だけの課題ではありません。
僕たち人材を紹介する側にも同じことが言えます。
送出機関から履歴書を受け取る。
企業へ送る。
面接を設定する。
採用が決まる。
これだけなら極端に言えば選考書類のリレーです。
企業はその人を採用したあと、何年も一緒に働きます。
教育もします。
支援もします。
時間もお金も使います。
それやったら紹介する側も送出機関から推薦されたので紹介しましたでは弱くないですか?
少なくとも人材紹介を担う会社は候補者本人と向き合い、
登録支援機関も採用後の支援を見据えて必要な情報を共有する。
なぜこの人ならこの企業へ推薦できると思ったのかを説明できる必要があると思っています。
日本語力だけではありません。
仕事への意欲。
学習への姿勢。
将来の考え。
本人が大事にしていること。
企業との相性。
弱いところも含めて伝える。
良いところしか説明しない推薦書なんて、広告と変わりません。
大事な採用やから「ここは少し心配です」まで言える関係の方が、
僕はよっぽど健全やと思っています。
候補者本人にも企業の良いところだけを伝えない。
仕事の大変さ。
生活環境。
求められる日本語。
給与や寮費。
キャリア。
そこまで伝える。
企業にも候補者にも都合のいい話だけをしない。
その積み重ねが結局はミスマッチを減らすことに繋がるんやと思う。
募集から育成までを一本の線で見る
送出機関。
人材紹介会社。
登録支援機関。
受入企業。
日本語教育を担う人。
それぞれが自分の担当だけを見るやり方も少し変えて見て欲しいんです。
募集 → 選考 → 入国前教育 → 入社 → 支援 → 日本語教育 → キャリア形成
これを分断しないことなんちゃうかなと思います。
一人の外国人材の時間軸を関係者みんなで見る。
入国前に何を勉強していたのかを、入社後の教育担当者が知らない。
面接で企業が何を評価したのかを、支援担当者が知らない。
支援の中で本人が話している将来の希望を、企業が知らない。
これではせっかく情報があるのにもったいないんですよね。
採用だけ。
ビザだけ。
支援だけ。
教育だけ。
ではなく、
一人の人を採用して、育てて、定着につなげるという一本の線にする。
僕もここはまだまだ改善していかなあかんと思っています。
育成就労が始まると育てるが重くなる
2027年4月1日から育成就労制度が始まります。
3年間の就労を通じて技能を修得し、特定技能1号水準の人材を育成していくことを大きな軸としています。
ご丁寧に名称も「育成」と入っています。
これまで以上に採用して働いてもらうだけではなく、
働きながら育てるという考え方が重要になっていくはずです。
ここで僕が今後注視したいのが育てた先の出口なんです。
特定技能では分野ごとに受入れ見込数が設定され、実際に外食業では2026年4月13日から、受入れ上限への接近を理由として在留資格認定証明書交付の一時停止措置が取られました。
育成就労と特定技能では受入れ見込数の考え方や対象期間も異なるため、「育成就労を終えたら特定技能へ移れない」と単純に言える話ではありません。
それでも育成就労で日本語や技能を身につけ、本人も会社もこれからもっと日本で働いていこうと思ったときに、その先へ進める道が十分に確保されるのか。
ここは制度開始後も見ていく必要があると思っています。
人を育てる制度である以上、育てた先まで見える制度であってほしい。
伸びる人をどう見つけるか
日本語が一番上手な人。
面接で一番流暢に話せる人。
履歴書が一番きれいな人。
もちろん大切な評価材料です。
でも採用後に何年もかけて育成していくのであれば、
現在の点数だけでは見えないものがあります。
毎日少しずつでも勉強できる。
分からないことを聞ける。
約束を守る。
注意されたあとに改善できる。
失敗したときに人のせいにしない。
自分の将来を考えている。
今どれだけできるかだけではなく、
どう伸びていく人なのかを見る採用です。
投資する価値のある人を選別するという意味ではありません。
企業が人を値踏みする話でもない。
今の日本語力や経歴だけではなく、その人の意欲や成長の可能性まで含めて理解してから採用しましょう、という話です。
ほんで企業側も成長を求めるだけではあかんと思うんです。
日本語を学んでほしいなら、学べる環境をつくる。
資格を取ってほしいなら、挑戦できる道を示す。
長く働いてほしいなら、長く働きたいと思える職場をつくる。
本人に成長を求めるなら、会社側も成長する。
結局そこはお互い様なんやと思います。
採用後にそこまで関わるなら採用前にもっと知っていい
制度が変わるたびに、
企業側の負担がまた増えたと言いたくなる気持ちは分かります。
僕も全部を軽い話やとは思っていません。
人を受け入れる以上、時間も、お金も、現場の労力も必要です。
そこまで採用後に関わる時代になったのであれば、
企業側も採用の入口について、もっと注文していいと思うんです。
「候補者を5人お願いします」
だけではなく、
「どうやってこの5人を選んだんですか?」
「入国前にどんな教育をしていますか?」
「本人は何のために日本へ行きたいと言っていますか?」
「なぜこの人を弊社へ推薦したんですか?」
そこまで踏み込んで聞いてみてはどうでしょうか。
紹介する側もそれに答える。
送出機関も情報を開く。
そして候補者本人にも、
企業のことをきちんと知ってもらう。
そうやって初めて、
「外国人材を紹介してもらう採用」から、
「一緒に採用する」へ変わっていくんやと思います。
これから外国人材採用で強い企業は、
たくさんの候補者から選べる企業だけではなく、
この会社で成長したいと思う人と出会い、
その成長に応えられる企業かもしれません。
制度が育成を求める時代になるなら、
外国人材本人だけではなく、僕たち登録支援機関や受け入れる側も採用の仕方をアップデートしていかなあかんのでしょうね。
外国人材を海外から採用されている企業の方に聞いてみたいです。
面接に来る前の候補者のことを皆さんの会社はどこまで知っていますか?
これからの外国人材の採用に改めて考えてみたい問いです。
──外国人材、現場からは以上です。
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