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《挫画原䜜》 盆栜甲子園 【第䞉話】

第䞉話

「は、は、は、はじめたしおぇ」
 畳の䞊で䞍噚甚に䞉぀指を぀いたのは、お銎染み、この物語の䞻人公・叀橋ふるはし友暹菜ゆきなだ。
「こちらこそ、い぀もうちの幹矢みきやがお䞖話になっお。本圓にありがずうございたす」
 やさしげな声で応じたのは、颚間かざた幹矢の母芪・冬優子ふゆこ。
 ここは犏島県垂郊倖。来幎の盆栜甲子園出堎を実珟させるため、暁山ぎょうざん高校盆栜郚蚭立に奔走する幹矢の実家「颚間盆栜園」である。
「  友暹菜よ。颚間のかあちゃん、すげぇ矎人だな」
 友暹菜の無二の芪友・新藀しんどう愛里あいりが、友暹菜にだけ聞こえる声でボ゜リず぀ぶやく。
「う、うん」
「  友暹菜、お前、プレッシャヌ感じおないか」
「そ、そう、だね、倚少  」
 幹矢の祖母も姿を芋せ、頬を緩めながら、
「ほらほら、わたしが䜜った梅挬け、食べおいきな」
 ず、䞊んで正座しおいる二人に勧める。
「おい、友暹菜。颚間のおばあちゃんも、すっげぇ矎人じゃねえか」
「う、うん、わかっおるよ。倧䞈倫、ダむゞョヌブ  」
 䜕が䞀䜓、倧䞈倫なのか。
ああ、わたしの衚情、間違いなく匕き攣っおるよね
「ばあちゃん、幹矢が女の子を連れおきたの、生たれお初めおだなあ」
 幹矢の祖父が倧声で蚀う。
「ああ、そうだあ。目出床い、目出床い」
「こういうずきは冬優子さんに頌んで、赀飯炊いおもらわなくちゃなそうだよな」
「じいちゃん意味わかんねヌよ、それ」
 どうにかしお話を遮ろうず躍起になる幹矢。圌もい぀にも増しお居心地悪そうにしおいるちなみに女子二人は制服、幹矢はよれよれのシャツに䜜業ズボンです。
「今日はせっかくだから、䞀緒に倕ご飯食べおいきなんしょ」
「ああ、それがええ、それがええ」
「あずで孫に颚呂沞かさせるから。うちの颚呂は広くお気分いいぞぉ」
「おいじヌちゃんいい加枛にしおくれ」
「いえいえ、ずんでもございたせ〜ん。わたくしは単なる付き添いのお邪魔虫で。䜕ならこの子だけ、このたたここに眮いお行っお構いたせんから」
「ちょっず愛里 あんたたた、䜕テキトヌなこず蚀っおんの」
 い぀ものドタバタ。
 脇で荒垣あらがき先生が、柄たした顔でお茶を飲んでいる。

☆

 友暹菜はふず振り返っお、窓の倖を芋た。
 盆栜園の棚堎には、青々ず葉を茂らせた我劻五葉束わが぀たごようた぀の盆栜がずらりず䞊べられおいる。
 先週、倧経ヶ峰おおきょうがみねの山頂で出䌚った「根䞊ねあがりの束」そっくりな䞀鉢も、静かにたたずんでいた。
 棚堎の䞀角では、男性䞉人が集たっお䜕か話をしおいる。䞀人は幹矢の父芪。顔の茪郭や背栌奜は幹也ずよく䌌おいるが、䞀段ず芖線が鋭い。もう䞀人は癜髪の幎配男性。さらにもう䞀人は、ブレザヌにネクタむ姿の、友暹菜たちず同幎代らしい小柄な男子だ。
あ、あの制服、花薫かくん高校の  
 花薫高校は垂内随䞀の進孊校である。友暹菜の父は花薫高校の卒業生だが、友暹菜自身は䞀床も、受隓先ずしお考えたこずはないそのせいもあっおか、䞭孊時代に父芪ずの折り合いが悪くなった。
「オダゞたちの話、聞いおみる」
 友暹菜の芖線に気づいた幹矢が、これ幞いずばかりに声をかける。このむず痒すぎるプレッシャヌ空間から䜕ずしおでも逃れたいのは、二人ずも同じだ。
「あ、うんうん。盆栜の話、もうちょっず聞いおみたいな〜」
「おお、そうかあ」幹矢の祖父が目を现める。
「愛里は、どう」
「おっけヌ」
「じゃ、わたしもヌ」ず荒垣先生。
 棚堎に珟れた四人友暹菜、幹矢、愛里、荒垣先生を芋お、幹矢の父芪が早速、解説を始めた。
「この方はね、高橋さんずおっしゃっお、束の根っこに生える『菌根菌きんこんきん』の研究をされおいるんだ」
「キンコンキン」ナンデスカ゜レハの友暹菜愛里。
「䞀皮のカビみたいなものなんだけど、ほずんどの怍物の根っこにはその菌根菌がくっ぀いおいお、菌ず怍物のあいだで、お互いに必芁な逊分や氎分をやり取りし合っお生きおいる。共生関係っおいうんだけどね」
「そしお、䞍思議なこずに、怍物ず菌根菌は、必ずしも䞀察䞀の関係に限定されないんですね」高橋さんが続けた。「五葉束の堎合は、ベニハナむグチずいう名前の、キノコにもなる菌根菌ず共生関係にあるんですが、さらにもう䞀぀、朝鮮ニンゞンずも関係を築いおいるらしい」
「朝鮮ニンゞンっお、あの、薬甚になる  」
「そうそう。よく知っおいるね。オタネニンゞンずも蚀っお、挢方薬の原料に䜿われおいる。わたしは、我劻五葉束ずベニハナむグチず朝鮮ニンゞンには、䞉者の共生関係が成り立぀んじゃないかず仮説を立おお、研究しおいるずころなんだ」
 うヌむ。䜕だか、深い。深いのはわかるが、それ以䞊のこずは自分にはよく理解できない。銖をかしげた友暹菜のずなりで、ブレザヌ姿の高校生が「ふふん」ず笑った。
「高橋さん。元々関心のない子たちにいくら説明したずころで、時間の無駄ですよ、無駄。すなわち、銬の耳に念仏・暖簟に腕抌し・豆腐に鎹・糠に釘」
「ず、ず、ず、豆腐にカスガむっお  意味わかんないけど、すんごい銬鹿にされた気がするよ、愛里」
「そヌみたいだねヌ」
 片手でわざずらしく県鏡の瞁を持ち䞊げるブレザヌ男子。午埌の日光を反射しお、レンズがきらりず光る。
「荒垣先生。この子たちは、先生のクラスの子」
「そうよヌ。ずっおも可愛らしい子たちでしょ♡」
「  先生が、どうしおも䌚わせたい生埒たちがいるっおいうから来おみたけど、幻滅だな」
 ブレザヌ男子が吐き捚おるように蚀った。
「な、なにおう」
 錻の穎を膚らたせながら、反論しようずする友暹菜。そこに、
「おい、ちょっず埅お」
 ず、戊隊ヒヌロヌのごずく割っお入ったのは、もちろん幹矢だ。
「お前、花高はなこうの春埜はるの亜藍あらんだよな。お前のこずはオダゞや高橋さんから聞いおるよ。我劻五葉束に興味があるんだっお」
「ええ、たあ」
 ブレザヌ男子、もずい春埜亜藍ず呌ばれた高校生は、幹矢の剣幕を受け流すように淡々ず答えた。
「がくは将来、生物孊者を目指しおいお。倧孊も日本囜内じゃなく、最初からアメリカかむギリスに行く぀もりなんだ。荒垣先生は䜕ず蚀っおも、スタンフォヌドで工孊博士号を取った俊才ですからね。向こうのこず、いろいろ教えおもらおうず思っお。高橋さんの菌根菌の話も、がくは初めお耳にするケヌスだったので、どういうものか気になったから」
「そんなこず聞いおんじゃねえ」
 幹矢が吠えた。
「俺が聞きおえのは、オメ゚が我劻五葉束ず真正面から向き合う぀もりがあるのか、そうじゃねえのかっおこずなんだよえッどうなんだ我劻五葉束ず本気で向き合おうずしない奎には、うちの棚の盆栜には指䞀本觊れさせやしねえぜッ」
 ひええええ。幹矢の怒激の口䞊に、友暹菜は目を癜黒させ、心臓を戊慄かせた。そしお、思った。春埜の前に倧きく広げられた幹矢の指ず手のひら。初めおたじたじず芋たけれど、䞀幎䞭戞倖で盆栜の䞖話をしおいるものだから、真っ黒に日焌けしおいお、指ず爪の隙間には取れなくなった土がこびり぀いおいる。荒々しい男の手だ。
 察する春埜の肌は、たるで女子を思わせる癜くお抜けるような色艶だが、だからずいっお、幹矢に匕け目を感じおいるふうにも芋えない。
 ぎりぎりず睚み合う二人。
぀ヌかさ、ギョヌザ高で物理教えおる荒垣先生がスタンフォヌド倧孊で博士号っお、䞀䜓どゆこず
「あらヌ、二人ずも熱いわねえ。熱いアツむ」
「別に熱くなんかなっおないッスよ、先生。コむツが勝手に  」
「ねえ、聞いお、春埜くん」
あ、激ダバな声友暹菜が息を呑む。
荒垣先生スペシャル「たずえたったくの無関係者であっおも有無を蚀わさず巻き蟌みたすわよ」モヌド発動  
「䞖の䞭っおすべお、ギブテむクでできあがっおるの。䟋えば、わたしが春埜くんに䜕かあげたずしたら、春埜くんも同じようにわたしに䜕かを返す。もし高橋さんや颚間くんが菌根菌や盆栜のこずを教えおくれたら、春埜くんも䜕かのかたちでお返しをする。わかるでしょ」
「はあ  」
「だからね、春埜くん。これはあくたで䞀぀のアむデアなんだけど、これからしばらく暁山高校盆栜郚に籍を眮いおもらっお、䞀緒に盆栜に぀いお孊ぶっおいうのはどうかしらそのあいだに、向こうの倧孊のこずも、わたしから教えおあげられるし」
「ぞ」
「ねっ♡」
せ、せんせヌ。教育者ずしお、いたいけな男子高校生盞手に色仕掛けはマズいッス  
「『しばらく』っお  どれくらいの期間なんですか」
 俯きながら、疑わしげに぀ぶやく春埜。
いいのかぁ春埜くんそれを尋ねたら、もう埌戻りできなくなるんだよッ
「そうねえ  来幎の『党囜高等孊校盆栜遞手暩倧䌚』が終了するたでっお玄束では、い・か・が」
「はあ」
「あ、それ、いいねえ」愛里がすかさず合いの手を入れる。「颚間くんず友暹菜ず春埜くんの䞉人、これで盆栜甲子園に出堎できるんじゃん」
「埅っおわたしだっおただ、盆栜郚に入るず決めたわけじゃ  」
「それじゃあ、いたこの堎で決定」やけに嬉しそうな荒垣先生愛里。「颚間くんは、どう」
 䞀瞬、りッず声を詰たらせた幹矢だったが、これが悪い取り匕きではないこずくらい、わかりすぎるくらいわかっおいる。
「よっしゃぁぁぁ今日から盆栜甲子園出堎に向けお、スタヌトッ」
 思いきり気勢を揚げる愛里。おいおい、お前がそれを蚀うのか
 狐に぀たたれたような衚情で呆然ず立ち尜くす、友暹菜・幹矢・春埜の䞉人であった。

今のずころ、ここたで