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湘南、茅ヶ崎、そして真鶴などの地区や地名は耳や文字から想像してきたものだった

はじめに

 7月末、東海道の普通列車でゆったりと旅をした。これまであまりにも途中の街や地域を通り過ぎるばかりで、音楽で耳にしたり、本で文字を追ったりするばかり。それらの土地はあくまでも想像の世界。けれど今回は、次回以降「気になったら降りてみよう」と思える神奈川エリアの様子を列車の窓から眺めた。いわば、未来の旅のための下見。

きょうは、そんな話。

暑い時期

 このところの暑さの中、外を出歩くのは無謀と言うべきか。もはや若くはない。やれそうだと思っても身体がついてこない現実。だからこそ自重し、涼しい場所から眺めるだけで済ますのも悪くない。それで十分。

旅の最中はつい「せっかく来たのだから」と無理をしがち。でもそこはぐっと踏みとどまり自重する。今回もそうした。涼しい時間帯や、雲が覆ったほんの少しの合間を見つけては外をちょこちょこ歩く程度にとどめ、すぐに車内に引っ込んで次の土地へ。行き当たりばったりながら、それもまたよし。「また次の機会があるさ」の気持ちでやり過ごす。

今回は東海道周辺と神奈川エリアを、そんな調子でおもに車内から眺めゆく旅となった。

ロマンスカーは

 新宿から小田原までロマンスカーに乗り、神奈川を斜めに通り過ぎてみる。快速よりもほんのわずか早くたどり着くに過ぎないものの、私鉄の特急列車は未体験。一度は乗ってみたいと思っていた憧れの列車の特急券をネットで購入。これまで仕事で都心を幾度も訪れながら、指をくわえて横目で見送るだけの乗り物の一つ。気忙しい他の都内の電車たちとはどこか違う旅をしたくなる風情を纏う。

神奈川の地をこうして訪れるのは実に久しぶり。遠い昔、この地に就職した教え子を訪ねて立ち寄ったぐらい。学会で上京するとよく逢いに来てくれた一人。その時は別用で近くに立ち寄り、都心から別の路線を乗り継ぎ、橋本あたりにたどり着いたはず。もはやそこから先の道筋は一つも思い出せない。

ある駅で出迎えてくれた教え子が元気そうだったのは何より。食事をしつつ、大学時代~就職以降の話に花が咲き、その子の新たな一面や成長を知る時間に。予定していた新幹線に滑り込むギリギリまで長居した記憶がある。

さて、ロマンスカー。この列車は高層マンションなどが立ち並ぶ丘陵地を縫うようにひた走る。神奈川は思いのほか緩やかな勾配の続く街なのだと気づかされる。その車窓から、ここよりもっと北の方に住んでいた教え子の姿を思い出した。

復路は

 小田原から静岡県へ入り三島で1泊、さらに浜松まで進み所要を済ませて1泊。折り返しはJRの普通列車で東海道を東へ。沼津で途中下車して食事を済ませ、JR東海エリアの途中下車自由な切符を熱海で使い切り、切符を買い足して乗り換えてJR東日本のエリアへ進む。ここから先は東京近郊区間のため途中下車はできない(あとで気づいたが、熱海手前の函南駅で品川までの切符を買い足せば、神奈川県内でも途中下車できた)。

車窓から眺めるだけの、次回に向けた下見の旅となった。次は上述のとおり熱海より少し西の駅で乗車券を買い、神奈川県内の駅で途中下車してみるつもり。そんな心づもりで沿線の様子を知ろうと、比較的お客さんの少ないロングシートの車窓の向こう側の海を、しばらくのあいだ眺めた。

サザンの楽曲に幾度となく登場する湘南の風景。このあたりはしばらくの間、車窓のすぐ近くに海が見渡せる。以前から彼らの曲を聴きながら「どんな土地だろう」と思いを馳せてきた場所。勝手に頭の中で膨らませていた曲のイメージと、目の前の風景が重なっていく。

おわりに

 列車は、真鶴の駅に入る。この地は川上弘美さんの小説「真鶴」の舞台。幾人かの人々がホームを乗り降りする合間、空いたドアの先に山際の細い道が見えた。主人公が東京からたびたび往復した地。一体どんなところだろう。一見すると平らな場所が見当たらないほどの斜面。小説に綴られた風景と目の前の車窓とを比べつつ、そっと反芻する。

こうして現実の地を目にできた今、もう一度あの本をめくってみようか。今度は列車を降りて、ゆっくりと散策したくなる。

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