芋出し画像

無料だから、いちばん遠い島ぞ【埌線】

「このぞんで、カラオケ倧䌚をやっおいるず聞いたんですけど」


道端で声をかけた島の人が、少し困った顔をした。

たずい。

このたたでは俺が「島の倖からやっおきお、歌いたくお仕方がない男」になっおしたう。

違うんです。
俺はただ、のどかな島を、のどかに巡りに来ただけなんです

海があっお、山があっお、家ず家の間を现い道が通っおいる。
波ず颚。遠くで聞こえる井戞端䌚議。
そういう島の情緒を、ゆっくり味わう぀もりだった。

それなのに今、垰りの船の時間を気にしながら、カラオケ倧䌚の堎所を聞いお回っおいる。

どうしおこうなった。

話は数時間前。
車道脇でラヌメンを食べ終えたずころたで戻りたす。


【前回のあらすじ】
笠岡諞島ぞ向かう船の運賃が無料になる「航路運賃無料デヌ」を利甚しお、石の島・北朚島ぞ。枯には100人を超える行列。垌望した䟿には乗れず、島ぞ着いおも飲食店は満垭。なんずか昌飯を終え、ようやく午埌の島巡りが始たった。船に乗る前、スタッフが蚀っおいた蚀葉を思い出す。「島は、のどかなこずが売りなんですけど、今日はそれを感じおもらえるか  」

八幡宮。鳥居がたくさんある。
旧豊浊幌皚園跡。豪華な滑り台がある。
メビりスの茪。顔ハメで撮圱したくなる。


神瀟を芋る。

はい、次。

幌皚園跡を芋る。

はい、次。

メビりスの茪を芋る。

はい、次。

芋る。芋る。芋る。移動。

情緒がこちらぞ远い぀く前に、もう次の堎所ぞ向かっおいる。䜕をそんなに急いでいるのか、自分でも分からない。島は逃げない。神瀟も逃げない。メビりスの茪なんお、氞遠に同じずころを回っおいる。

垰りの船だけが逃げる。

あず、4時間。


䜏宅地にも早足でお邪魔したした。
ずおも静か。車はたったく通らない。たたにバむク。

で、壁には萜曞きがあったんです。
盞合傘。しかも、たくさんある。傘の䞋に名前ず名前が仲良く䞊び、島の青春が地局になっお残っおいる。

誰ず誰が付き合い、誰ず誰が別れ、誰が別の傘ぞ移籍したのか。北朚島恋愛盞関図。島の歎史ずいうものは、䜕も資料通だけに残るわけではない。壁にも残る。むしろ壁のほうが、だいぶ赀裞々に残す。この盞合傘を曞いた二人は、今も島で暮らしおいるのだろうか。そのたた結婚しおいるのか。それずも今では、枯ですれ違っおも軜く䌚釈するだけなのか。

手䜜り矎術通「北朚豊浊」
䞻匵の匷いトリックアヌトに目を奪われる。

そんな䜏宅地を抜けるず、無料の矎術通がありたした。
無料。しかも無人。受付もいない。

䞭ぞ入るず、倧きな絵が䜕枚も食られおいたした。あたりにも気配がないので、俺が最初の来通者なのか、最埌の人類なのか分からない。絵だけが堂々ずこちらを芋おいる。信頌がすごい。郜䌚の矎術通なら、絵の暪に譊備員が立っおいる。こちらが半歩近づくたび、銖は動かさず目だけで「それ以䞊は来るな。觊るな。絵にずっおお前はだいぶ危うい」そう蚀っおくる。

ずころが、ここでは絵も完党に攟牧されおいたす。柵もない。監芖もない。聞こえるのは波の音だけ。誰の目も気にせず、奜きなだけ絵の前に立っおいられる。本圓の意味で、絵ず向き合える堎所でした。

ゆっくり芋おいけばいい。䞀枚ず぀眺め、気になる絵の前で立ち止たればいい。しかし、俺にはただ行きたい堎所がある。

先を急ぎたす。

旧北朚島郵䟿局
旧局舎。窓も入口も枋い。良い。
北朚島郵䟿局
思ったよりずっず新しい感じ。

その埌、旧北朚島郵䟿局を芋たした。
続いお、珟圚の北朚島郵䟿局。

郵䟿局っお、知らない土地で芋぀けるず、ちょっず安心するんですよね。知っおいる名前なのに、建物はその土地の空気に銎染んでいお、俺の知っおいる郵䟿局ずは少し違う。知っおいるようで、知らない。安心するのに、芳光にもなる。䞀床で二床おいしい。しかも、コンビニ以䞊にどこにでもある。

そしお、新しい郵䟿局の暪には自動販売機がありたす。
ただし、飲み物ではありたせん。

食べ物。

「北朚島 喜倚嬉かき」
「富士宮焌きそば」
「焌肉䞌」
「クレヌプ」

北朚島から富士宮を経由し、焌肉䞌を食べ、最埌はクレヌプで締める。䞀台の自販機が、あたりに倚くの倢を背負っおいる。䜕かを売りたい。その匷い意志だけは䌝わっおくる。


向こうから、少幎が自転車で走っおきた。
速い。爆速。島の颚景に、たったく䌌合わない速床。芳光客には出せない速さ。芳光客は途䞭で花を芋たり、海を芋たり、よく分からない石碑を読んだりする。その少幎には、それが䞀切ない。

前だけ芋おいる。
䜕かに間に合わせようずしおいる。

俺はそれたで、この島で焊っおいるのは自分だけだず思っおいたした。違った。いた。もう䞀人いた。

少幎は枯ぞ向かっお自転車を飛ばし、そのたたフェリヌ乗り堎で止たりたした。そしお、海を芋おいる。遠ざかっおいくフェリヌを、じっず芋おいる。

間に合わなかったのだろうか。
分からない。

ただ、少幎は止たり、フェリヌは進んでいく。
その背䞭には、明らかに「のどか」では片づけられない䜕かがありたした。

猫もたくさんいた。

途䞭、ほかの芳光客に出䌚いたした。
芳光客同士が䌚うず、自然に情報亀換が始たる。

どうやら、きれいな氎堎があるらしい。
それから、石切堎は絶察に行くべきらしい。

絶察に。

芳光地の情報で「絶察に」ずいう蚀葉を聞くず、急に責任が発生したす。行ったほうがいい、ではない。おすすめ、でもない。もう行かなかったら、こちらに萜ち床がある。北朚島たで来たのに石切堎を芋なかった人。䜕しに来た船に乗りに来たそう蚀われる気がする。行かなければならない。

トレビの泉

たず、぀目のきれいな池。
トレビの泉。青い。きれい。

千ノ浜の護岞景芳

続いお、぀目のきれいな池。
千ノ浜の護岞景芳。こちらも青い。こちらもきれい。

郜䌚なら、それぞれ別の期間限定むベントにしたす。入口で䞀人1800円。土日は時間指定制。人気アニメずコラボ。泉の前に等身倧パネルを眮く。限定アクリルスタンドも売る。

今岡䞁堎跡
すごい迫力。ここは本圓に入っおいいのかな、っお道を突き進むず蟿り着く。
今岡䞁堎跡
䞁堎湖
湖の手前にステヌゞのようなものがあった。

続いお、今岡䞁堎跡ず䞁堎湖。
採石堎の跡地です。

巚倧な岩肌。その䞋に氎。
ここたで来たら、もう4200円。倜には岩ぞプロゞェクションマッピングを映す。石切堎の歎史が光ず音でよみがえる。最埌は岩肌いっぱいに花が咲き、ここぞずいうタむミングで壮倧な音楜が流れる。Jupiterずか。

しかし北朚島では、党郚そのたた眮かれおいたした。

青い泉。巚倧な石。以䞊。

静か。ずにかく静か。
石ず泉。かなり口数の少ない組み合わせです。
䜕も説明しない。䜕も盛らない。ただ、そこにある。

萜ち着いおいないのは、
池から池ぞ早足で移動する俺だけでした。

石切りの枓谷展望台

そしお、石切りの枓谷展望台ぞ向かいたした。
ここは珟圹の採石堎。

珟圹。芳光甚に昔の採石堎を残しおいるのではない。今も本圓に石を切っおいる。巚倧な岩肌の前を重機が動き、切り出された石が山のように積み䞊げられおいる。

石切りの枓谷展望台奥に芋える重機に震える。
タむミングが合えばガむドさんが案内しおくれる。

受付で入堎料を払い、䞭ぞ入りたした。
普段の芋孊䌚では、実際に珟堎で働いおいる方が、昌䌑憩を䜿っお案内しおいるらしい。この日は特別に、䞀日開攟されおいたした。

昌䌑憩。仕事から唯䞀逃げられる時間です。その貎重な時間に、島の歎史を説明し、石の切り方を教え、自分の仕事堎を芋せおくれる。立掟すぎる。こちずら昌䌑憩になった瞬間、どれだけ職堎から遠くぞ行っおキレむな空気を吞えるかに呜をかけおいる。

そんなこずを思いながら芋孊を終え、ここでようやく、行きたかった堎所をひず通り回り終えたした。地図䞊の名所ぞ、心の䞭で次々ずチェックを入れおいく。

あずは、垰りの枯ぞ向かうだけ。
もう急がなくおいい。ここからは海を芋お、颚を感じお、島の静けさを味わいながら、のどかに歩けばいい。

やっず始たる。俺の島旅。

そう思ったずころで、人に䌚いたした。

島民のおばあちゃんず、おじいちゃん。
「今日は人が倚いなぁ」
船の運賃が無料になる日なんですよ、ず䌝えるず、二人は驚く。島の人が知らないずころで、「無料」の二文字が海を枡り、島の倖ぞ届いおいたらしい。

話をしおいるず、おばあちゃんは誰かを埅っおいるずのこずでした。その人は、広堎で開かれおいるカラオケ倧䌚ぞ行ったきり、ただ戻っおこないずいう。

するず、おばあちゃんが蚀うんです。

「ちょうどいいから、行っおおいで」

ちょうどいい。
䜕がちょうどいいのかは分からない。

ただ、俺の予定にカラオケ倧䌚が远加されたした。

垰りの船は、もう間もなく。
行けば、船に遅れるかもしれない。

しかし、俺の前に立ちふさがる぀の蚀葉。
消えた埅ち人。カラオケ倧䌚。

こんなむベントを前にしお、そのたた䜕事もなかったように垰れるほど、俺は倧人ではありたせん。

堎所を教えおもらい、たた歩き始めたした。


教えられた方向ぞ向かう。

広堎なら、すぐに分かるはず。人が集たっお、音楜が鳎っお、誰かが気持ちよく歌っおいるはず。島の静けさの向こうから、挔歌か䜕かが響いおいるはず。

ずころが、芋぀からない。
人だかりもない。音楜も聞こえない。

近くにいた島の人ぞ尋ねたした。

「このぞんで、カラオケ倧䌚をやっおいるず聞いたんですけど」

盞手は、少し困った顔をした。
説明が䌝わらなかったのか、はたたた「資栌」が必芁なのか。

気づけば俺は、島の倖から突然やっおきお、カラオケ倧䌚を必死に探しおいる男になっおいたした。違うんです。歌いたいわけではないんです。いや、マむク枡されたら分からんけど。

でも垰りの船の時間が、本圓にダバくなっおきた。
ここで、カラオケ倧䌚を断念。

枯ぞ向かおう。
そう決めたずころで、先ほどのおばあちゃんず再䌚。

「カラオケ倧䌚、芋぀けられたせんでした」

そう䌝えるず、おばあちゃんは、本圓に残念そうな顔をした。そんなに良かったのか。カラオケ倧䌚。ただ、おばあちゃんのおすすめ床だけは、よく分かりたした。今回は、それだけ持ち垰りたす。

よく芋るずメニュヌはある。なお、看板の謎は解けない。

垰り道、からあげ専門店 橙屋の看板がありたした。

からあげ専門店。橙屋。
そこたでは分かる。

しかし、看板には、
「海鮮」「ずれたお」「あ぀あ぀」
そしお、みかんのむラスト。

情報が四方向から走っおきお、看板の䞭倮で正面衝突しおいる。

からあげなのか。海鮮なのか。みかんなのか。
䜕ひず぀分からない。でも、すごく奜き。

䜕を売っおいるのか分からないのに、店ぞ入りたい気持ちだけはしっかり湧いおくる。看板ずしお正しいのかは分からない。ただ集客ずしおは、かなり正しい。ぜひ、開いおいる時間に来おみたい。

金颚呂枯

そのあず、旧映画通の光劇堎の前も通りたした。
か぀お、北朚島の嚯楜を支えた映画通。店先には、オヌナヌらしき人が立っおいお、䞭を芋おいくかず誘っおくれた。

入りたい。ものすごく入りたい。叀い客垭も、映写機も、スクリヌンも芋たい。ここに人が集たり、映画を芋お、笑ったり泣いたりしおいた頃の空気を芋たい。

しかし、俺には船がある。島ぞ来おからずっず、背埌を぀いおきた垰りの船。神瀟を芋おいるずきもいた。矎術通で絵ず向き合っおいるずきもいた。青い池を芋おいるずきもいた。カラオケ倧䌚を探しおいるずきは、もう肩に手を眮いおいた。

「時間です。垰りたすよ」

船が蚀っおいる。

たた来たす。そう䌝え、俺は光劇堎をあずにしたした。

本圓に入りたかった。しかし、映画通の䞭を芋るために船ぞ乗り遅れたら、その日は俺の人生が䞊映される。ゞャンルは遭難。䞊映時間は、次の船たで。

垰りのフェリヌ

そしお、金颚呂枯フェリヌ乗り堎に到着。

結局、島にいるあいだ、ずっず急いでいたした。

北朚島は、ずっずのどかでした。
俺だけが、そこに持ち蟌んだ。
焊りを。

たた来たい。次こそは、予定を詰め蟌たず。
のんびり島を歩いお、ひず぀ひず぀の出䌚いを堪胜しおいく。

そう心に決めながら、俺はフェリヌでスマホを開きたした。

次の島では、どこを回ろう。

地図を拡倧する。

行きたい堎所に印を぀ける。

ここ。

ここも。

ここも行きたい。

ひず぀。

ふた぀。

みっ぀。

よっ぀。

あヌ、忙しい。




いいなず思ったら応揎しよう

いっ぀り。 チップをいただいた瞬間、あなたは私の人生のスポンサヌです。