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パパ活女子と話してみた #19 鰻とスプーン

ホテルを出たあとに食べたくなるものは、 サウナのあとと少し似ている気がする。

程よく疲れているせいなのか、 こってりしたものや、味の濃いものが食べたくなることが多い。

ラーメンとか、焼肉とか。 少し塩気の強いものもいい。

ただ、実際に何を食べるかは相手に合わせることが多い。

ホテルを出る前に、

「何食べて帰る?」

と聞くのが、いつもの流れだ。

彼女とも、会ったあとにご飯へ行くことが多かった。

簡単にラーメンで済ませる日もあれば、 寿司を食べに行くこともある。

彼女は、高いものをおねだりするタイプではない。

その日食べたいものを、 そのまま言う。

遠慮がないというより、素直なんだと思う。

その日も一通り落ち着いたあと、 ベッドでだらだら話していた。

「今日、何食べて帰る?」

いつものように聞くと、

「あ、鰻がいい!」

少し意外な答えが返ってきた。

スマホで近くの店を調べてみる。

その日はいつもより早い時間から会っていたので、 まだ鰻屋も開いている時間だった。

ちょうど駅へ向かう途中に、良さそうな店がある。

「ここ行ってみる?」

「行きたいです」

ホテルを出て、二人で歩いて向かうことにした。

繁華街を少し抜けると、 人通りの少ない落ち着いた路地に入る。

店が近づくにつれて、香ばしい匂いがしてきた。

鰻屋とか焼き鳥屋の前を通ったときの匂いには弱い。

食べるつもりがなくても、 あの匂いを嗅ぐと少しお腹が空く。

店に入ると、客はほとんどいなかった。

少し前までいた繁華街の騒がしさが嘘みたいに静かだ。

席に座り、メニューを広げる。

「何にする?」

そう聞くと、

「おまかせします」

と返ってきた。

食べたいものは、鰻。

でも、どの鰻を食べるかにはあまり興味がないらしい。

こういうとき、

「せっかくだから特上で」

と、一番高いものを選ぶ子もいる。

もちろん、それが悪いわけではない。

でも彼女は、そういうタイプではなかった。

食べたいものは素直に言うけど、 なんでもかんでもねだるわけではない。

この辺の距離感というか、 気遣いが心地いい。

結局、高くもなく安くもない、 真ん中の「竹」を二つ頼んだ。

「そういえば、鰻って昼に食べることが多いから、夜に店で食べたことないかも」

何気なくそう言うと、

「あたし、そもそも鰻をお店で食べたことないです(笑)」

あっけらかんと笑っていた。

「じゃあ初めてじゃん」

「そうですね(笑)」

そんな話をしながら、うな重を待つ。

特別な話をしているわけではない。

でも、くだらない会話が途切れない。

たぶん、こういう時間が一番楽だったりする。

先に漬物とお吸い物が運ばれてきた。

それを少しずつ食べながら待っていると、

「お待たせしました」

うな重が運ばれてきた。

蓋を開ける。

ふわっと、甘辛いタレと鰻の香ばしい匂いが広がる。

「いただきます」

二人で改めて言ってから、箸をつけた。

表面は香ばしく、中はふっくらしている。

濃厚なタレにも負けない鰻の旨味で、 自然とご飯が進む。

「美味しいね」

「めっちゃ美味しいです」

二人とも、なんとなくニヤニヤしながら食べていた。

美味しいものを食べているときって、 たぶんみんなこんな顔になる。

しばらくすると、 彼女が鰻を頬張りながら言った。

「なんか恥ずかしいんですけど、いつもスプーンで食べてたので食べにくいです(笑)」

「鰻、スプーンで食べるの?」

「家ではずっとそうです(笑)」

少し意外だった。

でも、言われてみれば確かにうな重は食べにくい。

丼と違って重箱なので、 隅のご飯が箸では取りづらい。

鰻の脂とたっぷりのタレで、 ご飯も少しくっついている。

スプーンなら綺麗に食べられるし、 タレの染みたご飯も最後まで取りやすい。

むしろ、合理的な気もする。

ただ、この落ち着いた雰囲気の鰻屋で、

「スプーンください」

と言えるかは別の話だ。

彼女もさすがに言わなかった。

少し食べにくそうにしながら、 それでも箸で最後まで食べていた。

鰻を食べたいと素直に言う。

でも、特上をねだるわけではない。

そして、できればスプーンで食べたい。

そういうところが、 なんとなく彼女らしい。

何度も会っていると、 こういう小さなところを知ることが増えていく。

好きな食べ物とか、 普段どんな店へ行くとか。

もっとどうでもいい、 鰻をスプーンで食べるとか。

たぶん、気が合うというのは、 同じものが好きとか、 考え方が似ているとか、 そういうことだけではない。

相手の少し変なところを知ったときに、 それを嫌だと思わないこと。

むしろ、少し面白いと思えること。

そういう小さな積み重ねも、 何度も会っている理由なのかもしれない。

最近、鰻が食べたいと思った。

暑いからなのか。 土用の丑の日という文字を、いろんなところで見かけるからなのか。

次に彼女と鰻を食べることがあれば、 今度はスプーンを頼んでみようと思う。



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