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築52年・5年間空き家。まさかこの家が、暮らしと仕事、両方を支える場所になるとは思っていませんでした

先日、遊びに来た友人に、玄関を入ってすぐの部屋を「ここ、事務所なんです」と案内したら、少し驚かれました。その奥の三畳間には、サメを捌くための流し台と乾燥機が並んでいます。「え、住んでる家の中に、仕事場が二つも?」。笑いながら頷きつつ、自分でも時々、不思議な気持ちになります。この家に初めて足を踏み入れたときは、そんな未来はまったく想像していませんでした。

購入したばかりの時

門川町にあるこの家と出会ったのは、妻の友人からの、ある一言がきっかけでした。「うちの母の実家が、今は空き家になっていて」。案内してもらったのは、昭和49年4月に建てられた家でした。台風のたびに瓦が飛んで行かないか気を揉んでいる、誰かに譲りたい、家財は片付けるので欲しいものがあれば言ってほしい。友人のお母様は、そう静かに話してくれました。すでに人が住まなくなって5年が経っていて、庭には草が伸び、家の中には長い時間の気配だけが残っていました。

友人家族に手伝ってもらって外壁塗装

正直、二つ返事で決められる話ではありませんでした。提示された金額はとても安価なものでしたが、それでも当時の私たちの手元には、すぐに用意できる額ではありませんでした。加えて、当時暮らしていた日向からは少し距離があり、住み込みの管理人という立場では、リフォームに通う時間も、夫婦でじっくり話し合う時間もなかなか取れません。悩んだ末に何とか代金を工面しましたが、この家の売却代金は、ご兄弟四人で分けるとのことで、私にはどこか、形見分けに近いもののように感じられました。家主だったお母様のお父様──友人にとっての祖父にあたる方は、大工をされていたそうです。家には、その方の道具がそのまま残されていました。そんな思いの詰まった家を、私たちは引っ越しの日にお清めをしてから、住まわせていただくことにしました。

少しだけ雰囲気が変わりました

住めるようにするための最初の改修は、決して大掛かりなものではありませんでした。かかった費用はおよそ10万円。ほとんどが材料代で、残置物の整理と清掃、壁や床の補修、塗装といった、まずは人が暮らせる状態に戻すための作業です。期間はおよそ1か月。台所の床は張り替え、壁は塗り直し、流し台も直しました。ベニヤを丸鋸で寸法通りに切ったり、古い排水管に合う部品を探したりと、決して手際よく進んだわけではありませんが、一つひとつ形にしていきました。今も歩くと少し床が鳴る場所があるのは、あの頃の名残です。

まずは台所をなんとかしました

それから数年、母屋での暮らしはずっと続いていましたが、実は長いあいだ、荷物置きになったままの部屋がありました。手が回らなかったというのが正直なところです。離れの宿の運営、もう一軒の空き家の改修、キッチンカーの仕込み。目の前のことをこなすだけで精一杯で、この部屋を快適にする余裕は、私たちのどちらにもありませんでした。

荷物置き場となっていた事務所予定スペース

その部屋の使い道を、私たちが本気で考え始めたのは、不動産業の開業を決めたときでした。外に事務所を借りるという選択肢も、もちろん頭にはありました。実際、別の物件を借りようとして、話がまとまらなかったこともあります。けれど、費用のことを考えると、この家を使う方が現実的だという結論に、最後は落ち着きました。ただ、それは単純な損得の話だけではなかったように思います。暮らしの場所に、仕事をそのまま持ち込んでいいものか。プライベートと仕事の境目が消えてしまうのではないか。そんな迷いが、決して小さくなかったことも、正直に書いておきたいと思います。

玄関は自宅・事務所両方の顔になるので、古い下駄箱を撤去

事務所の改修にかかった費用は、およそ3万円。期間は1か月ほどで、玄関まわりと、以前は物置になっていたその部屋を仕上げました。床を下地からやり直し、天井には化粧ベニヤを張り、壁は下地処理をして漆喰で仕上げました。薄暗かった部屋が、白い壁で一気に明るくなったとき、迷っていた気持ちが、少しだけ軽くなったのを覚えています。

この頃、漆喰塗りはお手の物になっていました

同じ頃、もう一つの決断が重なりました。それまで夫婦で営んできたキッチンカーの事業を、妻がひとりで背負うことになったのです。自宅で仕込みを完結させられる方が良いだろうと、それまで近所で借りていた場所ではなく、自分たち専用の仕込み場を持つことにしました。荷物置きになっていた三畳の小部屋に、新しく排水管を通し、飲食業の許可に必要な二槽式の流し台を設置。かかった費用はおよそ15万円で、期間はやはり1か月ほど。設備工事や大工への支払いも含めた金額で、冷蔵庫などの設備費はこれとは別にかかっています。

今では、仕込み場でサメと格闘する毎日

こうして、住宅・事務所・仕込み場、あわせて三度の改修を経て、この家は今の姿になりました。事務所では、私がほぼ一日じゅう、不動産の事務作業や打ち合わせをしています。壁一枚を挟んだ仕込み場では、妻が一日のうち数時間、サメの仕込みや加工、乾燥、袋詰めをしています。同じ屋根の下で、まったく違う音がして、まったく違う仕事が動いている。それが今の、この家の日常です。

家と民泊とキッチンカーと不動産事務所が同居

友人にまた驚かれるかもしれませんが、正直、これで正解だったのかどうかは、今でもわかりません。ただ、荷物置きだった部屋から聞こえてくる物音が、以前とはまったく違う響きを持つようになったことだけは、確かなことのように思います。


※この物語には、続きの物語があります。


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