「そのゴール、誰のもの?」―子どもが自分で考え、試し、次へつなげるCO-OPという支援
「子ども主体の支援を大切にしています」
療育の現場では、よく使われる言葉です。
本人に活動を選んでもらう。好きなものを取り入れる。「今日は何したい?」と聞いてみる。こうした関わりは、子どもの意思を尊重するうえで大切だと思います。
ただ、ときどき引っかかります。
大人が用意した三つの選択肢から一つを選べた。その瞬間だけを見て、
「この子は主体的に選択できた」
と評価して、本当にそこで終わっていいのだろうか。
選んだことと、その活動が本人の生活の中で意味を持っていることは、必ずしも同じではありません。
私が最近考えている「子ども主体」は、もう少し先まで続いています。
そのゴールは、誰の生活につながっている?
例えば、
「ボタンを留められるようになる」
という目標。
支援目標としては、何もおかしくありません。着替えに必要な技能ですし、本人の生活にもつながります。
でも、その子が本当に求めているものは、ボタンを留める能力そのものなのでしょうか。
もしかすると、
「早く着替えて、みんなと一緒に外へ行きたい」
なのかもしれません。
同じボタンの練習でも、意味が少し変わります。
専門職から見れば「ボタン留めの獲得」でも、その子の生活では「友達と一緒に外へ行くための着替え」かもしれない。
ここで見るものは、課題ができるかどうかだけではありません。
その作業が、その子の生活の中でどんな意味を持っているのか。
作業療法には、本人にとって大切な作業を一緒に探し、優先順位を整理するCOPMという方法があります。
ただ、COPMも「本人に質問すれば、本当のゴールが分かる道具」と考えると少し違います。
幼い子どもや、言葉で自分の希望を説明することが難しい子もいます。
普段、何に近づいていくのか。何を何度も繰り返すのか。何をしているときに表情が変わるのか。家庭や園ではどんなことに困り、どんなことを楽しんでいるのか。
保護者など、その子をよく知る人から得られる情報も必要です。
大切なのは評価法の名前より、
「私たちが改善したいこと」と「本人が生活の中で実現したいこと」は、本当に同じだろうか。
と、一度立ち止まることだと思います。
ゴールが本人のものでも、方法はまだ大人のものかもしれない
仮に、その子にとって意味のあるゴールが見つかったとします。
「自分で着替えて、みんなと一緒に外へ行きたい」
では、次はどうするか。
大人が横について、
「まず袖を通して」
「次はここ」
「ボタンを持って」
「穴を見て」
と順番に教えていけば、できるようになるかもしれません。
もちろん、それが必要な場面もあります。
ただ、ここでもう一つ問いが残ります。
本人のゴールに向かっている。でも、そこへ行く方法を考えているのは誰だろう。
そこでCO-OPというアプローチが出てきます。
CO-OPは「自分で考えなさい」ではない
CO-OPは、
Cognitive Orientation to daily Occupational Performance
の略です。
塩津裕康氏の『子どもと作戦会議 CO-OPアプローチ入門』では、CO-OPは、子どもが自分で目標を選び、解決方法を発見しながらスキルを身につけていく、子ども中心の問題解決アプローチとして紹介されています。
CO-OPでよく知られているのが、
Goal → Plan → Do → Check
という流れです。
Goal:何をしたい?
Plan:どうやってみる?
Do:やってみる
Check:どうだった?
これは、問題解決を進めるための大きな枠組みです。
でも、CO-OPをこの四つの言葉だけで理解してしまうと、大事なところが抜けます。
例えばボタン留めなら、
「端を先に持つとうまくいく」
「穴をよく見てから入れる」
「一番下からやると分かりやすい」
など、その子なりの作戦が見つかるかもしれません。
CO-OPでは、こうした個別の作戦を使いながら、子ども自身が問題解決へ参加していきます。
つまり、
Goal-Plan-Do-Checkは答えではなく、答えを探していくための枠組み。
ここを取り違えない方がいいと思います。
大人があらかじめ「正解」を決めておいて、
「どうしたらいいと思う?」
と質問しながら、その答えへ誘導する。
それでは、見た目は対話でも、問題解決をしているのは結局大人です。
答えを教えない。でも、放っておくわけでもない
では、支援者は何をするのでしょう。
本人主体だから、
「自分で考えてみよう」
と言って、できるまで待つ。
それも違います。
CO-OPにはガイドされた発見という考え方があります。
支援者は、子どもの遂行を観察します。
どこでうまくいかなくなっているのか。何を見ているのか。どんな方法を使っているのか。条件を少し変えると何が変わるのか。
そのうえで、質問したり、注意を向ける場所を変えたり、試しやすい条件をつくったりしながら、子ども自身が作戦を見つけられるよう支えます。
CO-OPには、遂行を細かく観察し、どこに問題が起きているのかを分析していく**ダイナミック遂行分析(DPA)**という考え方もあります。
ここで重要なのは、
支援者が答えを渡さないことと、支援者が何もしないことは同じではない
ということです。
大人が全部決める。
本人に全部任せる。
その間には、かなり広い支援の領域があります。
必要な情報へ注意を向ける。問いを変える。環境を整える。課題を少し調整する。やってみた結果を一緒に確認する。
本人が問題解決に参加できるように、条件をつくる。
むしろ専門職の仕事は、そこにあるのかもしれません。
「できた」の先に、何を残すか
CO-OPには四つの目的があります。
スキル習得
ストラテジーの使用
般化
転移
まず、目標としているスキルができるようになること。
これは当然、大切です。
「方法より過程が大事だから、できなくてもいい」という話ではありません。
できるようになることを目指す。
そのうえで、自分に合った作戦を見つけ、それを使えるようになる。
さらに、一つの場所でできたところで終わらない。
例えば療育室ではボタンを留められるようになった。
では家でもできるだろうか。
違う服でも使えるだろうか。
朝、少し急いでいるときにも、自分の作戦を使えるだろうか。
こうして、学んだスキルや作戦が別の設定、相手、時間でも使えるようになることが般化です。
さらに、新しい課題に出会ったとき、
「前にもこういうことがあったな」
「この作戦が使えるかもしれない」
「まず試してみよう」
と、学んだことを別のスキルの習得にも生かしていく。
これが転移です。
ここまで考えると、「できた」という言葉の見え方が少し変わります。
療育室で一度成功した。
それだけではなく、
その成功へ向かう方法を、自分でも扱えるようになったか。
そこまで見たくなります。
関連記事
この「できたを、その場だけの成功で終わらせない」という話は、以前の記事でも別の角度から書いています。
▶ 「声をかけないと動かない」から、自分で動けるまで
―“できる”を子ども自身のものにする支援

支援者が答えを与えることと、子ども自身の認知過程を使うことの違いについては、こちらの記事ともつながります。
▶ 「分かった?」で終わると、見えなくなるもの

本人主体なら、本人の希望を全部採用すればいい?
ここまで書くと、逆方向の誤解も起きます。
「本人主体なら、子どもがやりたいと言ったことを、そのまま目標にすればいいのか」
それも違うと思います。
安全性もあります。発達段階もあります。現在の遂行能力や環境、家族との生活もあります。
本人が望んでいることと、今すぐ実現できることが一致しないのは普通です。
ただし、
実現が難しいことと、本人のゴールを大人のゴールへ置き換えることは別です。
例えば「一人で学校まで行きたい」という希望があっても、今すぐ一人で行くことは安全上難しいかもしれない。
それなら、
「だから一人では行けません」
で終わるのではなく、
その子にとって「一人で行きたい」とは何を意味しているのか。
自分で道を覚えたいのか。親と離れて行動したいのか。友達と一緒に登校したいのか。
そこをもう少し見ていく。
本人の希望を消さずに、今できる形を一緒に探す。
ここにも、専門職が関わる意味があります。
もう一度、「そのゴール、誰のもの?」
最初の問いに戻ります。
子どもが何かを選んだ。
それは大切なことです。
でも、私は今、それだけで「主体的だった」と判断することに少し慎重になっています。
その活動は、その子の生活の何につながっているのか。
そのゴールは誰が決めたのか。
そこへ向かう方法を考えているのは誰なのか。
試した結果を、誰が確かめているのか。
そして、その経験は次の生活へつながっているのか。
子ども主体の支援とは、大人が後ろへ下がることでも、子どもに何でも決めてもらうことでもない。
これはCO-OPの公式な定義ではなく、私自身がこの枠組みから考えるようになったことですが、
本人にとって意味のあるゴールを持ち、その実現方法を自ら考え、試し、確かめ、次の状況でも使えるようになっていく。その過程に本人が参加できるよう支える。
私は「子ども主体」という言葉を、以前よりそこまで長く見るようになりました。
本人が選んだゴールなら、
そこへ向かう作戦も、試し方も、確かめ方も、本人が参加できるものにする。
「できた」の先に、自分で次を考える方法が残る。
参考文献
塩津裕康.『子どもと作戦会議 CO-OPアプローチ入門』.クリエイツかもがわ,2021.
本書はCO-OPの目的、Goal-Plan-Do-Check、ストラテジー、ガイドされた発見、ダイナミック遂行分析、般化・転移などを、子どもの実践場面とともに学べる入門書です。出版社によれば2021年10月刊、160頁、ISBN 978-4-86342-314-5です。
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ゴールそのものより前に、職員それぞれで「何が問題なのか」「なぜそう考えるのか」が揃っていないこともあります。
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