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また癇癪…。これ、どうしたらいいの?ー泣く・叩く・物を投げる。その行動を止める方法を探す前に


「ああ……またか」


泣く。

叫ぶ。

床に寝転ぶ。

物を投げる。

大人を叩く。

何とか落ち着かせたと思ったら、また同じことが起きる。

療育や保育の現場で、こんな場面が続くと、

「これ、どうやったら止められるんだろう?」

と思うことがあります。

目の前で子どもが泣いている。

物を投げている。

誰かを叩こうとしている。

まず安全を確保して、何とかその場を落ち着かせる。

その対応で精一杯になることもあると思います。

でも、少し落ち着いたあとに考えてみたいことがあります。

「癇癪」という言葉だけでは、どんな支援が有効なのか、ほとんど選べません。

なぜなら、

「癇癪」

という一つの言葉の中に、かなり違う行動や状況がまとめられているからです。


「癇癪」では、まだ粗すぎる


例えば、

「今日も癇癪がありました」


という記録があったとします。

でも、実際には何が起きたのでしょうか。

10分間泣いていたのか。

大声で叫んだのか。

玩具を投げたのか。

大人を叩いたのか。

その場から走って離れたのか。

床に寝転んで動かなかったのか。

どれも「癇癪」と呼ばれるかもしれません。

でも、支援を考えるには情報が足りません。

だから僕は、

「癇癪があった」から、実際に起きたことまで戻る

ことが大切だと思っています。

「泣いた」

「大声を出した」

「玩具を3回投げた」

「支援者の腕を叩いた」

というように、できるだけ見たことをそのまま記述する。

これは細かい言葉遊びではありません。

行動を具体的にすることで初めて、

いつ起きるのか。

どんな出来事と一緒に起きているのか。

何が変わると起きなくなるのか。


を比べられるようになります。

機能的な行動評価でも、行動を明確に記述し、起きる場面・起きない場面、前後の出来事、環境条件などを直接観察することが重視されています。


その場で分析できなくてもいい


ただ、ここで一つ大事にしたいことがあります。

癇癪の真っ最中に、

「今の先行事象は……」

なんて冷静に考えるのは難しい。

子どもの安全を確保する。

他児を離す。

投げられそうな物を移動する。

本人が少し落ち着けるように関わる。

現場では、そちらが先です。

だから、

その場で全部を分析できなくてもいい。

少し落ち着いてから、

「そういえば、何がきっかけだったんだろう?」

と振り返ってみる。

まずはそれで十分です。

そして、人手がある現場なら少し工夫もできます。

例えば、

対応する人と、少し離れて前後の出来事を見る人を分ける。

あるいは、

「今日は物を投げる行動の前後だけ見てみよう」


と、見る行動を一つ決めておく。

それだけでも、あとから振り返れる情報は増えます。

もちろん、毎回そんな余裕があるわけではありません。

完璧な記録を目指す必要もありません。

まず一人の子、一つの場面からでいいと思います。


まずは3つだけ見てみる


例えば、こんな場面があったとします。

子どもがブロックで遊んでいた。

支援者が、

「片付けよう」

と声をかけた。

すると子どもは大声で泣き、床に寝転んだ。

支援者は、

「分かった。もう少し遊んでいいよ」

と伝えた。

子どもは泣き止み、またブロックで遊び始めた。

これを、

「片付けの時に癇癪があった」

だけで終わらせない。

3つに分けてみます。

① 行動を起こすきっかけは何だった?


ブロックで遊んでいるときに、

「片付けよう」と言われた。

② どんな行動を起こした?


大声で泣いた。

床に寝転んだ。

③ その行動によって、本人を取り巻く環境や状況はどう変わった?

片付けが一旦なくなった。

ブロック遊びを続けられる状況になった。


ここまで整理すると、

「癇癪」

という一つの言葉だったものが、少し違って見えてきます。


実は、これがABC分析


今見た3つには名前があります。

A:Antecedent


行動の前にあった出来事や条件。

つまり、

行動を起こすきっかけは何だった?

B:Behavior


実際に起きた行動。

どんな行動を起こした?

C:Consequence


行動のあとに起こった環境や状況の変化。

その行動によって、本人を取り巻く環境や状況はどう変わった?

これが、いわゆるABC分析の基本的な考え方です。

でも僕は、最初から、

「Aを書いて、Bを書いて、Cを書きましょう」

と覚えるより、

何があった?

何をした?

そのあと何が変わった?


と見る方が、現場では使いやすいと思っています。

名前を覚えることより、

子どもの行動の前後まで観察できること

の方が大切だからです。


Cを見ても、「わざとやっている」とは限らない


ここは特に誤解したくないところです。

例えば、

泣いた。



片付けがなくなった。

だからといって、

「片付けをなくすために、わざと泣いた」

と考える必要はありません。

行動の機能と、本人の意図は別の話です。

子どもが、

「ここで大声で泣けば、大人が片付けを撤回するだろう」

と頭の中で作戦を立てている、と言っているわけではありません。

見るのは、

その行動によって、本人を取り巻くどんな環境や状況が変化しているのか

です。

その関係が繰り返されることで、行動が起きやすくなったり、維持されたりしている可能性を考えます。

「操作している」

「わがままだから」

という人格の話にはしない。

行動と環境との関係を見る。

ここは分けて考えたいところです。


一回見ただけで「原因」は分からない


そして、ABC分析で特に注意したいところです。

さきほどの例では、

片付けを求められた。



泣いた。



片付けがなくなった。

という流れがありました。

そこで、

「なるほど。この癇癪は片付けから逃げるためなんだ」

と決めてしまう。

これは早すぎます。

その日はとても疲れていたのかもしれない。

いつもより活動が多かったのかもしれない。

もう少しでブロックが完成するところだったのかもしれない。

体調が悪かったのかもしれない。

あるいは、たまたまその流れになっただけかもしれません。

ABCのような自然場面の観察から分かるのは、まず、

「こういう出来事が一緒に起きていた」

という関係です。

それだけで因果関係を確定することはできません。

記述的な行動評価と、条件を意図的に操作する機能分析を比較した2023年の系統的レビューでは、48研究を対象とした比較で、機能について完全に一致したのは50%でした。つまり、自然場面の観察は有用ですが、そこから機能を即断するには限界があります。

だから、

一回で決めない。

何回か見てみる。

すると、

「あれ、この時も片付けの前だった」

「でも、お母さんが迎えに来る時は起きていない」

「完成まで待つと起きないことが多い」

という条件差が見えてくることがあります。

そこで初めて、

「もしかすると、こういう条件が関係しているのかもしれない」

という仮説を持つ。

ABCは、原因を当てるための答え合わせではありません。

仮説をつくるための材料です。


「この行動には、どんな働きがある?」


行動分析では、行動の機能について、

欲しい物や活動が得られる。

嫌な要求や状況から離れられる。

人からの注目や関わりが得られる。

行動そのものによって感覚刺激などが生じる。

といった可能性が検討されます。

機能分析には長い研究蓄積があり、近年のレビューでも、2012〜2022年だけで326研究、1,333件の機能分析結果が整理されています。ただし、複数の機能が認められる場合もあり、「この行動はこの4分類のどれか」と単純に箱へ入れれば済む話ではありません。

だから僕なら、

「この行動によって、本人を取り巻くどんな環境や状況が変わっている?」

という問いから始めます。


ABCだけでは拾えないこともある


さらにもう一つ。

ここまでABCで考えてきましたが、

それだけで説明を終えないことも大切です。

例えば、

同じ片付けの場面でも、寝不足の日だけ大きく崩れる。

昼食前になると増える。

騒がしい部屋では起こるけれど、静かな場所では起こらない。

急な予定変更の時に増える。

言葉で「嫌だ」と伝えにくい。

課題がいつもより難しい。

身体のどこかが痛い。

こうした可能性もあります。

NICEのガイドラインでも、行動の機能だけでなく、身体・精神的健康、コミュニケーション、発達、感覚特性、環境、生活上の変化、活動や課題の設定などを幅広く評価することが推奨されています。評価そのものも、一度決めたら終わりではなく、状況の変化に応じて見直す継続的な過程とされています。

つまり、

ABCで行動と環境の関係を見る。

でも、

ABCだけで子どもを説明しない。

この両方が必要です。


同じ「癇癪」でも、見立ては変わる


例えば、3人の子どもがいるとします。

どの子も支援記録には、

「癇癪あり」


と書かれている。

でも、詳しく見てみます。

Aさん


遊びを終えるよう求められる。



大声で泣いて床に寝転ぶ。



片付けが延期される。

ここでは、

活動終了や要求から離れることが関係している?

という仮説が出てきます。


Bさん


欲しい玩具を使えないと言われる。



泣いて大人を叩く。



玩具を渡される。

ここでは、

欲しいものへのアクセスが関係している?

という別の仮説が出ます。


Cさん


人が多く、声や音の大きな部屋に入る。



大声を出し、耳を塞いで、その場から離れる。



静かな部屋へ移ると落ち着く。

この場合、

音や人の多さなど、環境負荷が関係している?

という仮説も考えられます。

もちろん、この短い情報だけでどれも断定はできません。

でも、

同じ「癇癪」という言葉でも、支援の方向は同じではなさそうだ

ということは見えてきます。


見立てが変われば、支援の方向も変わる


ここまで見えてきて、ようやく支援を考えます。

課題の要求が関係していそうなら、

要求の難しさや量、伝え方を調整する必要があるかもしれない。

次に何が起こるか分からないことが関係していそうなら、

見通しを持てるような支援が必要かもしれない。

「嫌だ」

「休みたい」

「手伝って」

と伝える方法が乏しいなら、

別のコミュニケーション方法を教えることが必要かもしれない。

本人が同じ目的を、より安全で伝わりやすい行動で達成できるようにする。

これも支援の一つの方向です。

特に、challenging behaviorと同じ機能を持つコミュニケーション行動を教えるFunctional Communication Training(FCT)には研究の蓄積があります。

2025年のメタ分析では、2〜8歳のASD児79名を含む34件の単一事例研究を統合し、challenging behaviorの減少に大きな効果、代替コミュニケーション行動の増加に中〜大程度の効果が報告されました。一方、研究の質にはばらつきがあり、維持や他場面への般化の報告は十分ではありません。

だから、

「泣かないようにする」

「叩かないようにする」


だけではなく、

「この子は、代わりにどう伝えればいい?」

まで考える。

行動をなくすだけではなく、

本人が別の方法で同じ困りごとや要求を伝えられるようにする。

そこまで考えて初めて、支援の選択肢が広がります。


「どうやって止める?」から、「何を変える?」へ


最初は、

「また癇癪……」

「どうやって止めればいい?」

だったと思います。

でも、少しだけ見る範囲を広げると、

何がきっかけだった?



本人は実際に何をした?



その行動によって、本人を取り巻く環境や状況はどう変わった?



似たパターンはある?



この行動には、どんな働きがある可能性がある?



他の説明はない?



では、どの条件を変えてみる?


と考えられるようになります。

「癇癪」という言葉を細かくすると、

初めて支援の選択肢が見えてきます。


まず一人、一つの場面から


毎回きれいなABC記録を取る必要はありません。

癇癪の真っ最中に、完璧に分析する必要もありません。

まずは、

今、対応に困っている子を一人だけ思い浮かべてみる。

そして次に起きたとき、

少し落ち着いてから、

何があった?

何をした?

そのあと何が変わった?


を思い出してみる。

何回か見て、

似た流れがあるかを探してみる。

そこから、

「もしかすると……」

という仮説を一つ持つ。

それだけでも、

「ああ、また癇癪か……」

で終わっていた場面が、

次の支援を考えるための情報

に変わり始めます。

僕が目指したいのは、

「どうやって癇癪を止める?」

だけではなく、

「何が起きているのかを見て、どこを変えればいい?」

と考えられる支援です。

子どものふるまいを見る。

仮説を立てる。

支援して、

もう一度見る。

そして必要なら、見立てを変える。

その小さな繰り返しが、その子に合った支援につながっていくのだと思います。


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この記事では、「癇癪」という言葉から実際の現象へ戻り、条件を比べ、仮説をつくるところまで考えてきました。

では、なぜ私はそこまで**「できる条件」**にこだわるのか。

方法論ではなく、その背景にある私自身の臨床観について書いた記事があります。

「あの子、またできないかも」と思った夜に ――それでも私が「できる条件」を探す理由

参考資料


今回の評価・支援の考え方については、NICEの Challenging behaviour and learning disabilities が、行動の明確な記述、直接観察、機能仮説、身体・コミュニケーション・感覚・環境要因を含む包括的な評価を推奨しています。
NICEガイドライン⁠

ABCなどの記述的評価と機能分析の関係については、Contrerasら(2023)の系統的レビューを参照しました。
PubMed: Contreras et al., 2023⁠

機能分析研究の蓄積については、Melanson & Fahmie(2023)の40年間のレビューを参照しました。
PubMed: Functional analysis of problem behavior: A 40-year review⁠

FCTについては、Blairら(2025)のメタ分析を参照しました。
PubMed: FCT meta-analysis⁠

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