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父を見送ったあと、数珠は静かにほどけた

前回、数珠がはじけ飛んだ話を書いた。

実は、私自身にも数珠が切れた体験がある。

それは、父の葬儀の日だった。

高齢の母に代わって喪主を務めることになった私は、
葬儀会社の手配にはじまり、
親族への連絡、
棺のサイズ、
祭壇の花の数に至るまで、
すべてを取り仕切った。

さらに、火葬場の空きがなく、
お通夜と告別式の日程が一日延びたため、
その変更や調整にも追われた。

目の回るような忙しさの中、
告別式が始まる直前になって、
私は数珠を家に置いたまま来てしまったことに気づいた。

しかし、取りに帰る時間はない。

ちょうどその頃、
一度家に戻っていた母が式場へ向かう頃だったため、
私は電話で「余っている数珠があれば持ってきてほしい」と頼んだ。

母が差し出したのは、父の数珠だった。

「男物じゃないの」
思わずそう言うと、母は少し困ったように、
「買ったばかりで、一番きれいだったから」
と答えた。

仕方なく私は、その父の数珠を手に告別式に臨んだ。

家族葬だったため、
本当に親しい人たちだけの温かい葬儀だった。

そんな式を無事に終え、その足で火葬場へ向かった。
父が火葬炉へ入れば、本当に最後になる。
私たちは自然に口数が少なくなった。

父が火葬炉へ入る前の、最後のお別れの時間。

あぁこれで本当に最後なんだな。
喪主として父を無事に送ることができた安堵感と、
娘として父を失うことへの悲しさが押し寄せてきた。

住職の読経が終わり、
「合掌」
という声が斎場に響いた。
私は父の数珠を手に掛け、静かに頭を下げた。

その瞬間。

合わせた腕に、
何か軽いものが、
そっと触れた。

目をやると、それは父の数珠だった。

切れた勢いで弾け飛ぶのではなく、

一粒、また一粒と、

まるで海辺で砂の城が寄せる波に

少しずつ崩されていくように、

数珠は静かに、ゆっくりとつながりを失っていった。


「数珠が切れた……」

思わずそうつぶやくと、隣にいた娘が言った。
「本当にこんなことあるんだね。」
その言葉に私が
「なにが?」
と聞くと、娘はぽつりと言った。
「じいちゃんの数珠だったから、役目を終えたんだね。」

私は返事をしなかった。

ただ、火葬炉へ向かう父を見送りながら、
ばらばらになった数珠もまた、
その役目を終え、
父とともにいこうとしているように思えた。

あの日、ほどけた数珠の玉は、今も私の家で静かに眠っている。


父との別れを思い返すたび、
もう一つ忘れられない話がある。
お酒を飲むたび、父は決まってこう話した。

「うちの家系は、男の寿命が五歳刻みで短くなっていく。」

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妃沙 彩未(ひさ あみ) 「続きを読みたい」「また見たい」と思っていただけたことが何より嬉しいです。 いただいたチップは、これからの創作活動に大切に役立てます。