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『はい』が先に、口から出る。私は今幎も、断れなかった。


※登堎人物や䌚話は、今回のテヌマを䌝えるために構成したものです。

䜓育通の空気が、少しず぀重くなっおいくのがわかった。
四月の孊玚懇談䌚。䞭孊䞀幎、結衣のクラス。パむプ怅子が硬くお、矎緒はさっきから䜕床も座り盎しおいた。
「では、孊玚委員の圹員決めなんですが」
進行圹の先生が蚀い終わる前から、教宀の空気が固たる。誰も顔を䞊げない。スマホを芋るふりをする人、隣の人ず小声で話し出す人。矎緒の隣の䜐々朚さんは、たっすぐ前を向いたたた、埮動だにしなかった。
沈黙が、思ったより長く続いた。
矎緒は、心の䞭で数えおいた。䞀、二、䞉。誰かが手を挙げおくれれば、それでいい。自分じゃなくおいい。今幎は本圓に無理だ。結衣の䞭間テストも近いし、パヌトのシフトも増えたばかりだし。
「あの、じゃあ」
気づいたずきには、もう手が挙がっおいた。
「私、やりたす」
蚀っおから、あ、ず思った。喉の奥が、少しひやりずした。
教宀の空気が、ふっず緩む。先生が「ありがずうございたす、助かりたす」ず蚀う声が、やけに遠くから聞こえた。䜕人かがこちらを芋お、小さく䌚釈をする。ほっずした顔。それを芋お、矎緒も反射的に埮笑み返した。
よかった。空気、悪くならなかった。
そう思う自分ず、もう䞀人の自分が同時にいた。
たたやった。
垰り道、矎緒は自分の右手をがんやり芋おいた。
家に垰るず、結衣がリビングでスマホを芋ながら、麊茶を飲んでいた。
「懇談䌚、どうだった?」 「うん、たあ、普通」 「圹員ずか決たった?」 「うん」
それだけ蚀っお、結衣は自分の郚屋に戻っおいった。
以前は、孊校の話を聞いおほしくお矎緒の埌を぀いお回っおいたのに。今は必芁なこずだけ話しお、あずは自分の郚屋にいる時間のほうが長い。それが成長だずいうこずは、頭ではわかっおいる。
嚘が自分の手を離れおいく分だけ、自分の時間が増えおいくはずだった。なのに手垳の予定欄は、前より埋たっおいる。圹員䌚、地域の芋守り圓番、去幎から続いおいる子ども䌚の連絡係。
倕飯の支床をしながら、矎緒はふず思った。
䜐々朚さんは、今日もたっすぐ前を向いたたた、䜕も蚀わなかった。ただ、黙っお手を挙げなかっただけだ。責められたわけでもないし、空気が悪くなったわけでもない。
たな板の䞊で、玉ねぎを刻む手が止たった。

第1章 「はい」ず蚀った日から、数えおいる

䞉日経っおも、矎緒はただ考えおいた。あのずき、口から「はい」が出るたでに䜕秒あっただろう。䞀秒、二秒。それずも最初から答えは決たっおいお、迷ったふりをしおいただけなんだろうか。
小孊生のころ、班長を決める堎面で誰も手を挙げないず、なぜか自分が手を挙げおいた。䌚瀟員時代、誰もやりたがらない資料䜜成を「じゃあ私が」ず匕き受けおいた。結婚しおからは、近所の集たりの幹事、子ども䌚の連絡係、そしお今回のPTA圹員。
断ったこずが、䞀床もないわけではない。二幎前、地域の芋守り圓番を頌たれたずき、䜓調が悪くお「すみたせん、今回は難しいです」ず蚀った。盞手は「あ、そうですか」ずだけ蚀っお、それ以䞊䜕も蚀わなかった。それだけのこずなのに、矎緒はその倜、なかなか寝぀けなかった。
その日の倜、矎緒は倫の倧茔に、圹員を匕き受けたこずをぜ぀りず話した。
「今幎もやるこずになっちゃった」 「え、たた? 去幎もやっおなかったっけ」 「䞀昚幎ね。今幎は本圓にやりたくなかったんだけど」 「じゃあ断ればよかったのに」
倧茔に悪気はない。ただ、本圓にそう思っおいるだけだ。断ればよかった。その通りだ。でも、それができないから、こうなっおいる。
嚘の結衣は、リビングを通り過ぎるずき、ちらっずこちらを芋ただけだった。母芪が䜕かの圹員を匕き受けたこずに、特に興味はなさそうだった。䞭孊生になれば、芪のスケゞュヌルより自分の郚掻や友達関係のほうが倧事になる。それでいいはずなのに、矎緒はどこかで少し寂しかった。
手垳を開くず、圹員䌚の日皋、資料䜜成の締め切り、地域の䌚合。予定は去幎よりむしろ増えおいる。

第2章 「いい人」でいるこずず、「郜合のいい人」でいるこずの境目

自己啓発の本を読むず、たいおい「勇気を出しお断りたしょう」ず曞いおある。それはわかっおいる。わかっおいるのに、できない。
矎緒が本圓に知りたいのは、もっず手前のこずだった。なぜ、断る前に「はい」が先に口から出おしたうのか。
矎緒にずっお「断る」は、単なる返事ではなく「盞手にどう思われるか」ずいう䞍安ずセットになっおいる。断った瞬間、盞手の衚情がわずかに曇るのを芋るのが怖い。空気が䞀瞬でも重くなるのが怖い。だから、その重さを匕き受けるくらいなら、自分が匕き受けたほうが早い。
今回の圹員決めのあず、矎緒は䞀぀だけ、小さなこずを詊しおみた。次に䜕かを頌たれたずき、即答せず「ちょっず考えさせおください」ずだけ蚀っおみる。
数日埌、子ども䌚の別の甚事で詊す機䌚があった。声をかけられた瞬間、い぀もの「はい」が喉たで出かかったけれど、なんずかそれをこらえお、「持ち垰っお考えたす」ず蚀えた。
心臓が、少し早く動いおいた。断ったわけでもないのに、䜕か倧きなこずをしたような気分だった。
䞀呌吞眮いたその先で、実際に䜕を蚀えばいいのかは、ただわからなかった。盞手ずの関係を壊さずに自分の郜合を䌝える蚀い方があるのか。䜐々朚さんのように、最初から迷わず断れる人ず自分ずの間には、䜕が違うのか。

第3章 䜐々朚さんに、聞いおみた

きっかけは些现なこずだった。子ども䌚の資料を届けるために、矎緒は䜐々朚さんの家に立ち寄った。玄関先で立ち話になったずき、思い切っお聞いおみた。
「䜐々朚さんっお、この前の懇談䌚でも、党然動じおなかったですよね」
䜐々朚さんは少し驚いた顔をしおから、笑った。
「動じおないように芋えたした? 内心はけっこうドキドキしおたすよ、毎回」
「そうなんですか? おっきり断るの埗意なタむプなのかず」
「埗意じゃないです。ただ、決めおるこずがあっお」
䜐々朚さんは玄関先で立ったたた、こう続けた。
「頌たれた瞬間じゃなくお、家を出る前に決めおくるんです。今日はどんなに蚀われおも匕き受けない、っお。だから、その堎で悩たなくおいい」
矎緒は、はっずした。自分はい぀も、その堎で初めお考えおいた。頌たれおから、断るか匕き受けるかをその数秒で刀断しようずしおいた。だから間に合わず、い぀も「はい」が先に出る。䜐々朚さんは、その勝負を懇談䌚の倖、家を出る前に終わらせおいた。
「あず」ず䜐々朚さんは付け加えた。
「断るずき、謝りすぎないようにしおたす。『すみたせん、今回は難しいです』それだけ。理由も、あんたり詳しく蚀わない。詳しく蚀うず蚀い蚳っぜくなっお、結局『じゃあこの郚分だけでも』っおなっちゃうので」
矎緒がい぀もやっおいたこずの、ちょうど逆だった。断るずき、い぀も申し蚳なさで蚀葉を埋め尜くしおいた。「本圓にすみたせん、皆さんに悪いず思うんですけど、実は䞋の子の甚事もあっお」——そうやっお前眮きを重ねおいるうちに、盞手に助け舟を出す隙を䞎えおしたう。「じゃあ、負担の軜い係だけでも」ず蚀われお、結局「はい」に着地する。
䜐々朚さんの蚀葉は短かった。

第4章 家に垰っお、決めたこず

その倜、矎緒は久しぶりに、倧茔に䜐々朚さんずのやりずりをそのたた話した。
「今日、䜐々朚さんに聞いたんだけどね。頌たれる前に、断るかどうか決めおから出かけるんだっお。その堎で考えないようにしおるっお」
「ぞえ。矎緒はい぀も、その堎で考えおるもんね」
「うん。だから毎回負けるんだず思う」
倧茔は少し笑っお、「じゃあ今床から、俺が先に聞いおあげようか。今日は䜕か頌たれおも倧䞈倫な日? っお」
冗談めかした蚀い方だったけれど、意倖ず圹に立぀かもしれないず矎緒は思った。
その週末、矎緒は自分なりに、ふた぀のこずを決めおみた。
ひず぀は、䜕かを頌たれる可胜性がある堎所に行く前に、「今日は匕き受けおもいい日か、無理な日か」を自分の䞭で決めおおくこず。懇談䌚の日皋が決たった時点で手垳を芋お、その週の䜙癜を確認する。䜙癜がなければ、玄関を出る前に「今回は無理」ず決めおしたう。
もうひず぀は、断るずきの蚀葉を、あらかじめ短く甚意しおおくこず。「すみたせん、今回は難しいです」「今、少し䜙裕がなくお」——理由を詳しく説明しない。謝りすぎない。䜐々朚さんの蚀葉を、そのたた借りるこずにした。

第5章 もう䞀床、あの堎面が来たら

詊す機䌚は、思ったより早く来た。
六月、子ども䌚の倏祭りの準備で、実行委員の远加募集があった。グルヌプLINEに「誰かやっおくれる方いたせんか」ずいう投皿が流れおきたずき、矎緒はすぐに指を動かさなかった。
い぀もなら、既読を぀けた瞬間に「私、倧䞈倫ですよ」ず打っおいた。
その日はたず、自分に聞いた。今週、䜙癜はあるか。
なかった。結衣の期末テストが近い。パヌトのシフトも詰たっおいる。決たっおいるこずを確認しただけだった。
「すみたせん、今回は難しそうです」
送信した。理由は曞かなかった。謝眪の蚀葉も䞀぀だけにした。心臓が少し速くなっおいるのは、い぀もず同じだった。既読が぀いお、䜕か蚀われるんじゃないかずスマホを䜕床も確認したのも同じだった。
数分埌、返っおきたのは「了解です! ありがずうございたした」ずいう、拍子抜けするほどあっさりしたスタンプだった。
䞖界は、䜕も倉わらなかった。

第6章 癖は消えない、でも決め方は遞べる

次にたた「はい」ず反射的に蚀っおしたう日も、来るだろうずは思う。実際その二週間埌、地域の草刈り圓番の話が出たずきは、たた考える前に「倧䞈倫です」ず蚀いかけお、すんでのずころで飲み蟌んだ。
それでも、いく぀か手元に残ったものはある。
頌たれる前に、決めおおく その堎で悩むず、い぀も間に合わない。予定が決たった時点で自分の䜙癜を確認し、「今回は無理」ず先に決めおしたう。あずは、決めたこずをその堎で蚀うだけ。
謝りすぎない、理由を詳しく蚀わない 「すみたせん、今回は難しいです」で終わらせる。詳しく話すほど、盞手に「じゃあこの郚分だけでも」ずいう隙を䞎えおしたう。
断ったあずの気たずさは、たいおい自分の䞭だけで倧きくなっおいる 実際に返っおくる反応は、拍子抜けするほど軜い。「了解です」のひずこずで、たいおい終わる。
矎緒は最近、手垳の隅に小さな欄を䜜った。䜕かを頌たれたずきに「䜙癜はあるか」「匕き受けたい気持ちか、矩務感か」の二぀だけをメモする欄だ。頌たれた瞬間ではなく、少し萜ち着いおから確認する。
結衣は盞倉わらず、必芁なこずだけ話しお郚屋に戻っおいく。それは倉わらない。でも以前より少しだけ、矎緒は自分の手垳を、自分のために䜿えるようになった気がする。
䜐々朚さんのようには、ただなれない。
それでも今日は、い぀もず違う蚀葉が、い぀もより少しだけ早く出おきた。
最埌たでお付き合いいただき、ありがずうございたした。
あなたにずっお背䞭を抌す、noteでありたすように♪
✏Written by Hiko📓

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