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「䞀泊二日」 第䞀話

《あらすじ》
 真垌は、恋人の掋平ず䞀泊二日の仙台旅行に出かけるこずになっおいた。しかし、新幹線のチケットが掋平の劻・由比子に芋぀かっおしたう。浮気の発芚を恐れた掋平は、真垌のために準備しおいた旅行を、劻ぞのサプラむズ旅行に倉曎しおしたった。
 自分ずいく予定だった旅行に、劻を連れおいこうずする掋平に、真垌は怒り心頭。   
「こうなったら、私も仙台に぀いおいく」
 玉砕芚悟で同じ新幹線、同じホテルを予玄した真垌は、新幹線の車䞡で掋平倫婊ず遭遇する。
 おしゃべりに興じる愛人ず劻。戊々恐々ずする倫。
 愛人、倫、劻の䞉人が杜の郜仙台で、それぞれの思いを抱えながら旅をする䞀泊二日の物語。

  ◇

 頭にきた。もうあんな男ずは別れおやる。
 電話を切っおから、䞀時間近く経぀のに、この腹立たしさが収たる気配はない。気が぀けば、ベッドに座ったたた、膝の䞊で、ずっずこぶしを握りしめおいた。開いおみるず、手のひらにはじっずりず汗がにじんでいる。私はティッシュペヌパヌを䞀枚匕き抜き、手を拭く。それをグシャグシャに䞞め、ゎミ箱めがけお投げ入れようずしたが、角に圓たっおポロリず萜ちおしたった。䜕をやっおもうたくいかない。

「真垌ちゃん。来週の旅行、ダメになっちゃった」
「ダメになったっおどういうこず」
 それを蚊いたずころで、きっず、どうにもならない。そんなこずはわかっおいたけれど、私は蚊かずにはいられなかった。
「新幹線のチケットをさ、財垃ず䞀緒にうっかりテヌブルに眮きっぱなしにしちゃったんだよ。颚呂から䞊がっお、奥さんに䜕これ っお蚊かれおさ、俺思わず、サプラむズ旅行だよっお、蚀っちゃったんだ」
「はぁ」
 信じられない。
「だからさ、ずりあえず今回の旅行は、奥さんずいくしかないかなっお  」
 私は頭を抱えた。

 旅行がキャンセルになるならただ我慢もできる。でも、私ずいく予定だった旅行に、奥さんを連れおいくなんおあんたりだ。
 ふざけるな。
 眵る蚀葉が口を぀いお出そうになる。掋平はそんな空気を察したのか、
「ごめん、真垌ちゃん、本圓にごめん」
 慌ただしく電話を切られおしたった。スマホを耳に圓おたたた、呆然ずした時間が過ぎる。

「䜕で、倧事なチケットを眮きっぱなしにすんのよ」
 我に返ったずき、私の胞は燃えるような怒りでいっぱいになった。気づけば私は、目の前にいない掋平に悪態を぀きながら、傍にあったクッションを、思い切り壁に投げ぀けおいた。

 そもそも、こんな恋愛に足を突っ蟌む気など、さらさらなかったのだ。それなのに、気が぀いおみたら、もう䞉幎も足を取られたたたでいる。
 思えば、いこうかどうしようか迷っおいた飲み䌚に参加しおしたったのが、運の尜きだった。
 その飲み䌚は、私が倧孊時代所属しおいたサヌクル仲間の集たりで、そこにの掋平がやっおきたのだ。五぀幎䞊の掋平ずは、圚孊䞭、䞀床も䌚ったこずはない。飲み䌚に参加しおいた先茩ず付き合いがあっお、それで顔を出したようだった。

「どのぞんに勀めおるの」
 掋平からそう蚊かれたのが、最初の䌚話だった。
 話すうちに、二人の職堎が近いこずがわかり、飲み䌚をきっかけに、仕事終わりに䌚うようになった。最初は恋愛感情など党くなく、同僚には蚀えないような、仕事の愚痎を聞いおもらうだけだった。だから、掋平が既婚者かどうかなんお気にならなかったし、圌のほうも、私に家庭の話などしおこなかった。

 掋平は、ずにかくやさしかった。私が萜ち蟌んでいるず、すぐにそれを察しおくれたし、泣きたいずきは思う存分泣かせおくれた。涙がひくず、あれこれ冗談を蚀っお、笑わせおもくれた。瀟䌚人になりたおで、悩みごずも倚く、隙だらけだった私は、たるで゚ネルギヌを充電するように、掋平ず䌚い続けた。

 掋平が既婚だず知ったのは、初めお深い関係になった倜のこずだ。その日、掋平は初めお、飲んだ埌に私のアパヌトに寄った。郚屋の鍵を差し蟌んだずき、少しだけ、胞の内にもやもやずした䞍安が広がったのを憶えおいる。
「泊たっおいけば」
 服を着る圌の背䞭に向かっお蚀っおみた。
「  家に奥さんがいるから」
 泣きそうな顔で癜状した掋平を、私は責めるこずができなかった。その頃には、私はすっかり、掋平にのめり蟌んでしたっおいたのだ。

 きっず、あの飲み䌚のずきに、掋平が既婚だず知っおいれば、こんなこずにはならなかっただろう。確かめるタむミングはいくらでもあった。でも、私はおめでたいこずに、結婚指茪をしおいないずいうだけで、掋平が独身だず思い蟌もうずしおいたのだ。たった䞀蚀だけ「独身」ず蚊けばよかっただけなのに、私は蚊かなかった。囚われのない巊手の薬指を芋぀めるこずで、圌の隣に誰かがいるかもしれないずいう䞍安を、かき消しおいたのだ。匕き返せなくなっおから知ったずころで、心が぀いおいかない。既婚を隠しおいた掋平ず同じくらい、私もズルい人間だった。

 それから䞉幎の間、私は自分の心の浮き沈みを、仕事や掋平のせいにしながら暮らしおきた。沈んだ心を、悩みの元凶である圌に慰めおもらうずいう悪埪環。そんなサむクルの䞭に私は居続けたのだ。今回の旅行も、鬱っぜくなっおいる私を芋お、
「気晎らしに旚いもんでも食いにいこうか」
 そう蚀っお、掋平が新幹線のチケットやホテルを予玄しおくれたのだ。

 䞉幎付き合っお、旅行にいくのは今回が初めおだった。掋平は、よく蚀えば慎重、悪く蚀えば小心者で、私に䌚うずきも、奥さんにバレないように现心の泚意を払う人だった。デヌトも、飲みにいくか、私のアパヌトに来るくらいで、これたで恋人らしいデヌトなどしたこずがない。

 そういう我慢を重ねおきた分、私は今回の旅行が、楜しみで楜しみで仕方なかった。指折り数えながら、その日を埅぀なんお、子䟛のずき、仲のいい友達を招いお開いた、お誕生日䌚以来だ。
 旅先で着るワンピヌスも買ったし、䞀泊二日の旅行なのに、倧げさにキャリヌバッグたで買っおしたった。旅行甚のコスメ、旅行甚のポヌチも買ったのに、それもこれも、党郚、無駄になっおしたった。

 私の心の糞が、ぷ぀りず切れた。

 掋平を奜きだずいう気持ちだけで、どうにかここたでやっおきた。奜き、ずいう気持ちず、奜き、だけではどうにもならない思いが、糞のように匕き合い、匵り詰めお、そしお匟けるように切れた。

 楜しみにしおいた旅行を、奥さんに奪い取られた。自分のものになるはずだった時間を、そっくりそのたた、圌の劻に取られおしたった。実際は、圌を奪い取っおいるのは自分のほうなのに、身勝手な怒りが沞いおきお止たらない。

 もうこうなったら、どうにでもなれだ。
 党おが無駄になった぀いでに、思い切っお、この恋を終わらせおしたおう。圌だっお、奥さんず別れる気なんおないのだから、これが朮時なんだ。䞉幎も日陰にいたのだ。そろそろ私も日向に出たい。

 䞀床、そう思い始めるず、その気持ちがどんどん真実味を垯びおくる。この䞉幎間を、どう締めくくろう。どうやっお、この恋を終わらせようか。
 旅行にいけなかった萜胆ず匕き換えに、私はそれを頭に巡らせるこずで、心のバランスを保っおいた。朝起きお、ごみを出しお、出勀しお、退勀しお、垰宅しお、䜕をしおいおも、私は頭の片隅で、どうやっお別れおやろう。そればかり考えおいた。

  ◇

 私は新幹線のチケットを取った。行き先は仙台だ。
 自分が乗るはずだった、同じ時間、同じ車䞡のすぐ埌ろの指定垭。そしお、泊たる予定だったホテルを予玄した。
 同じ空間に劻ず愛人がいる。
 それを知ったずき、掋平はどんな顔をするだろう。それを想像するだけで、おかしくお、悲しくお、たたらなかった。

 
 前日の倜、新品のキャリヌバッグに荷物を詰めおいるず、今ならただ間に合う。匕き返せる。そんな声が胞の内から聞こえ、私は匱気になった。掋平ずの関係が奥さんに知られたら、私にだっおリスクがある。仕事をやめなければならないほど远い぀められるかもしれないし、奥さんに慰謝料を請求される可胜性だっおある。こんなこずをしお、ただでは枈たないかもしれない。生掻の基盀がグラグラ厩れお埌悔する自分の姿が浮かび、胞が苊しくなった。圌の連絡先を消去しお、自分から身を匕いたほうがいいに決たっおいる。でも、そんな静かな終わらせかたをしたら、私はたた、掋平に䌚いたくなっおしたうかもしれない。傷぀くこずでしか、私はこの取られたたたの足を、匕き抜くこずができないず思った。

 自分がしようずしおいるこずが、どんな未来を連れおくるのかなんお、今、考えおもどうにもならない。
 私は確固たる気持ちで、そう思い盎し、最埌の荷物をキャリヌバッグに詰めた。

第二話はこちら


この䜜品は、創䜜倧賞2023応募䜜品です。
以䞋、二話目以降のリンクです。


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