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人間中心設計的判断〜なぜ、あえて得意技を「やらない」というデザインをしたのか?〜

先日、ある大学の特別講義でぼくは、自身の最も得意な手法である『ワークショップ』を、あえて封印するという決断をしました。一見、矛盾した行動に思えるかもしれません。しかし、その決断こそが、人間中心設計の専門家としての最も誠実なアプローチでした。
対象は、工学部の学生さんたち。オンラインで105分という時間です。


まずは「ユーザー」を知ることから

ワークショップデザインをするにあたり、ぼくはまず「この授業のユーザーは誰か?」を徹底的に考えました。そして、今回のユーザーは、大きく3種類いることに気づきました。

  1. 学生たち(最優先ユーザー):工学部の学生で、おそらくデザインの知識はほとんどない。技術には強い関心があるが、それがどうユーザーに届くか、という視点はまだ持っていないかもしれない。

  2. ぼくを招いてくれた先生:招聘者として、他の先生方からも評価される「良い講義」であってほしいと願っている。

  3. 学内の他の先生方:録画で講義を視聴し、その教育的価値を評価する立場。

そして、最優先ユーザーである学生たちに対する、今回の講義のゴール。それは、ただ単位を取ってもらうことではありません。「人間中心設計は、未来のエンジニアにとって最高の武器になる」――彼らにそう確信してもらうこと。これが、ぼくが自分に課した最大のミッションでした。

なぜ、あえて「やらない」を選んだのか?

このゴールを達成するために、どうすべきか。
ぼくはワークショップデザイナーであり、人間中心設計の専門家でもあります。だからこそ、得意なはずの参加型グループワークを、今回はあえて『使わない』という選択をしました。その判断は、両方の専門性を活かした結果でした。
なぜなら、もしここで中途半端なワークショップをやって、学生たちが**「結局、人間中心設計って何だったの?」と首をかしげたり、「まあ、自分たちエンジニアには関係ない話か」と他人事のように感じてしまったりしたら、それは大失敗だから**です。
そこでぼくが選んだのは、「グループワークを、あえてやらない」というデザインでした。
これは、3種類のユーザー全員の体験を考慮した、戦略的な最適解でした。

  • 学生に対しては:難しいワークは一切やめました。もし十分に時間があれば、簡単なワークから始めて徐々に難易度を上げていくこともできたでしょう。しかし、今回はそれをやっていると、人間中心設計の要諦を伝えきる前に時間切れになってしまいます。そこで、彼らが理解しやすいであろう身近な製品やサービスを複数例に出し、「なぜこれは使いやすいのか?」を論理的に解き明かすことに時間を割きました。エンジニアにとって人間中心設計とは、センスの話ではなく、「技術を人に心地よく使ってもらうための」合理的な設計思想なのだと伝えることが、この講義の大きな狙いでした。どんなに優れたテクノロジーも、人に使ってもらえなければ意味がありませんから。

  • 先生方に対しては:当初はグループワークの可能性をお伝えしていましたが、開催1週間前に「学生の負担と学習効果を考慮し、簡単なインタラクションに変更します」とその理由を簡潔にお伝えしました。この判断を信頼していただいたことで、結果的に**「この条件下では、これが学生の学びを最大化する教育デザインです」と自信を持って言える構成**にすることができました。

結果、講義は学生にも先生方にも、とても好評をいただくことができました。
「やらない」と決めたこと。それこそが、未来のエンジニアたちに一番大切なことを届けるための、最も誠実なデザインになったと考えています。

あなたの専門知識は、「誰」を幸せにするか?

私たちの仕事には、いつも複数のステークホルダーが関わっています。そして、自分の持つ専門性や得意なやり方が、必ずしも相手にとってベストな方法とは限りません。
自分の専門スキル(それがプログラミングであれ、機械設計であれ)を、どうやって「ユーザーのうれしい」に繋げるか。そのために、時には得意な武器を置く勇気も必要です。
自分の『得意なこと』をあえて手放す視点こそが、専門性を社会で本当に価値あるものに変えていく、第一歩なのかもしれませんね。


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