第4回 一帯一路とTao Tao Horse 雲南省と中国・ミャンマー経済回廊と日本
ここでは、まず中国の世界戦略にとっての雲南省位置づけを確認します。その上で、次回に雲南省に関するTao Tao Horse の動画コンテンツや、少数民族の対外イメージを転換することを目的として動員したインフルエンサーの動画などを紹介しようと思います。
雲南省と一帯一路
中国にとって地政学上の長年の課題が「マラッカ・ジレンマ」である。有事の際、もしマラッカ海峡が封鎖状態になってしまうと、中国は中東やアフリカからの原油・物資の供給ラインの大動脈を失ってしまう。

もし、陸路でこの危機を回避できれば戦略物資と14億の民生を守ることができる。これが一帯一路政策における「中国・インドシナ半島経済回廊」の重要な使命なのです。
雲南省は、この陸路の大動脈の接続拠点に位置づけられている。中国からミャンマー、ラオス、カンボジア、タイ、ベトナム、マレーシア、シンガポールといった東南アジアへ移動する際の中国国内の起点なのである。
中でも「中国・ミャンマー経済回廊(CMEC:China-Myanmar Economic Corridor)」が完成すれば、中国から陸路でインド洋へ抜けるルートが完成する。宿願のマラッカ危機の回避が陸路で達成できるわけだ。この中緬ルートこそ、中国・インドシナ半島経済回廊の本線なのである。
このルートで中国側の起点は昆明(雲南省)で中国内各地からの巨大な物流・交通のハブになっている。そして、ミャンマーとの国境には陸路国境ゲートである瑞麗(ルイリ)があり、ミャンマー側にはムセがある。このルートはミャンマーの首都マンダレーを中継点として、ベンガル湾(インド洋)に臨むミャンマーの港湾都市チャオピューへと至る。

少数民族と中国・ミャンマー経済回廊
この経済回廊のルートには政治的に極めてデリケートな少数民族の問題がある。ミャンマー国境地域のシャン州やカチン州、ラカイン州などにはワ族やカチン族をはじめとする少数民族武装勢力(EAOs)の支配地域があり、ミャンマー国軍と激しい戦闘が行われている。
中国の雲南省にも25もの少数民族がいる。そして、雲南の少数民族の中には隣接するミャンマー、ラオス、ベトナムにいる少数民族と同じか、近似のものがいる。この同類の少数民族は国境を越えてつながりを持っているので、両国にとって少数民族に起きた問題は国境を越えて相手国の少数民族に連動するのである。
中国が少数民族に抑圧政策をとれば少数民族は周辺国に避難をしたり、中国批判が周辺国へ拡大するわけである。逆にミャンマーの少数民族への弾圧が中国への難民を作り出すこと(その方が多い)にもなる。
中緬関係
中国政府はこの経済回廊の治安と安全を担保するために、ミャンマー国軍(軍政)と少数民族武装勢力の双方に対して、ある時は、双方の仲介役として振舞ったり、反ミャンマー政府の少数民族勢力を後押ししたり、中国内に逃れてきたミャンマー少数民族を保護したりと、ミャンマーに対して複雑な外交アプローチをとっている。
ミャンマーにとって中国政府のこの少数民族と経済回廊の政策は、アメとムチなのであり、それは三つの顔を持つ。
第一に、この高速道路、鉄道、石油・天然ガスパイプライン、港湾といった巨大なインフラ・サプライチェーンの開発計画により中国は最大のミャンマー経済支援国になっている。間違いなくミャンマーの発展に利するものである。
第二に、軍事独裁政権により西側諸国から非難され、政治外交的には国際的に孤立し、自ら孤立政策をとっているミャンマーにとって中国は国際社会に対する強力な庇護者である。
第三に、大国中国はミャンマーにとって政治的にも、軍事的にも、経済的にも最大の脅威である。経済回廊はいつでも軍事回廊に切り替えられ、人民解放軍の侵攻の道となるだろう。
中国は唐突に経済回廊による中緬経済交流を制限したり、遮断したりすることでミャンマー経済を混乱させることができるが、それと逆のことをミャンマー政府がすることはできない、もしくはやってもあまり効果がない(自分の方が困るだけ)。つまり、ミャンマーは中国の属国化の危機にある。
これを回避するためには議会制民主主義では戦えない。ネパールでのマオイスト勢力(毛沢東主義)の台頭と政権奪取は強烈な教訓になっているだろう。こうして、ミャンマーは体制の権威主義化の悪循環に陥る。つまり、権威主義体制は、中国の支援により支えられ、その中国が脅威である故に、愈々もって権威主義体制化を強化せねばならない。中国の隣接圏の殆どの国々では似たようなことが起こっているのである。
日本とビルマ/ミャンマー
このようなミャンマーに対する中国の影響力の拡大を西側諸国が傍観しているわけではない。ミャンマーへの開発支援国の上位三カ国とその支援規模の概数を示すと下記のようになる。ミャンマーへの西側諸国の開発支援は日本を中心として進められてきた歴史がある。
■ 1位 日本 約3.5億〜4億ドル インフラ整備、保健・医療、教育、経済開発
■ 2位 アメリカ 約1.5億〜2.1億ドル 人道支援、保健衛生、民主化・市民社会支援
■ 3位 イギリス 約1.2億〜1.3億ドル
日本はミャンマーへの開発支援(ODA)では一貫して世界で最大の供与国である。日本のODAは1955年から始まり、これは戦後の賠償の支払いを兼ねて行われてきた。そして、この時点から日本はビルマにとって最大の二国間資金の供与国であった。
日本の開発援助はミャンマーにとって過渡な中国依存を牽制するものであった。1988年の軍事クーデター以降、日本は人道支援や継続案件を除き、新規ODAは一時凍結とした。
しかし、2011年の所謂、民政移管後、日本は過去の巨額な不払債務を免除し、ティラワ経済特区(SEZ)開発などの大型ODAを本格再開した。
2021年の軍事クーデター以降、再び新規ODA案件の停止・見直しが行われているが、ティラワ経済特区では日本企業104社が操業をしている。これまでの累積供与額において日本は群を抜いた最大供与国であり続けている。

日本とビルマ/ミャンマーの関係というと泰緬鉄道の悲劇、無謀なインパール作戦という過去の負の側面と現代を結び付けた捉え方ばかりが強調され、日本の若い世代の未来認識に害悪ばかりを与えている。我が国の開発支援71年の歴史に刮目し、中国の一帯一路政策の脅威すれば、日緬関係の歴史観は転換すべきである。これについては稿を改めて論じることにしよう。
この回のまとめ
1. 雲南省の地政学的役割
「マラッカ・ジレンマ」回避のため、昆明を起点にインド洋へ抜ける「中国・ミャンマー経済回廊(CMEC)」が重要。
2. 少数民族と安全保障リスク
国境を挟んで同じ少数民族が居住するため、ミャンマーの情勢不安が中国側にも波及する。
3. 中国の対ミャンマー戦略と影響力
経済支援と軍事・政治的脅威の「アメとムチ」により、ミャンマーの権威主義化と対中依存が加速。
4. 日本の支援実績と日緬関係の再定義
日本は最大のODA供与国として過度な中国依存を牽制してきた。これからは過去の負の歴史のみにとらわれず、現代の安全保障と70年の支援実績を踏まえた認識の転換が求められる。
中国は少数民族の文化を漢民族化する文化のジェノサイド政策を強行し、今に少数民族は観光資源としてしか存在価値や手段がなくなるようになるだろう。これは世界の少数民族にも見られる過酷な未来図だ。こういう構図に陥った若者にとって人生は「博物館」の中にしかないのだ。
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