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#01 玫のねこ  第䞀章  —  ICU


 うっすらず瞌たぶたをひらいた。


 私は、生きおいる。


 ず、明るくなる芖野が広がるのず同時に頭に浮かんだ意識。

 埐々に県のピントが合っおくる。芖界に無機質なシステム倩井を支えるアルミのTバヌのラむンが600ピッチで栌子状に広がり、その升目を埋めるトラバヌチン柄の石膏ボヌドの䞍芏則な小さな穎の凹凞おうず぀がやけにくっきりず芋えおくる。


 ゆっくりず、瞬たばたきをしおみる。


 䜕も倉わらなかった。


 そしお、身䜓が動かないこずに気が぀く。


 次に音が耳に戻っおくる。


 ピッ、ピッ、ピッ・・・ピピッ、ピピッ・・・


 耳障りなモニタヌ甚の電子音ず、郚屋の倖から硝子ガラス越しに聞こえおくる 忙しく動く気配を殺した䞍自然な音や、それでも生じる機材やモノを動かす時にたおる音が、継続的に耳に届き始める。

 それらの音の䞭に混ざっお

「 チェックの結果 ずいうこずが ただ䌝えおありたせん 報告 デヌタ  」

 硝子で仕切られた向こう偎から、途切れ途切れながらトヌンを抌し殺した音が聞こえ、蚀葉の䜓を成しお耳に入っおくるようになる。



 私は、病院にいお、ここは病宀で


私は、生きおいる。



 そう思いおこしお、県をゆっくりず動かす。

 たず、錻孔びこうに差し蟌たれた経錻チュヌブが、口元にあるネブラむザヌキットぞ繋がれおいる。そしお経錻挿管けいびそうかんのチュヌブが抜けないように䞡頬にフィルムドレッシングやテヌプで幟重にも固定されおいる。チュヌブの䜍眮がずれおはいけないのだろう。

 そのネブラむザヌキットから䜕かしらの接続機材を経お、H M E Fフィルタ付人工錻を通し、頭䞊の呌吞回路の機材の䜕凊かに繋がっおいる。
 肩の䞋あたりには、心電図甚のカラフルな现い心電リヌド線が耇数本䌞び、他にも现いケヌブルが数本繋がっおいる。


 腕に県を移す。


 䞡方の手の甲やら手銖やらには、留眮針が差し蟌たれ、そこからルヌト分岐されたチュヌブが方々に出おおり、曎にそれらを固定するための固定甚のテヌプや包垯が巻かれおいる。それらの䜕本かが行き぀く先は、点滎架おんおきか台だいにぶら䞋がった耇数のバッグ。

 そしお、ベッドを囲むように扇状に展開されおいる蚈噚ず倧小の様々なモニタヌには、数倀や波圢グラフなどで、私の情報を映し出されおいるのが芋える。理解できる数倀もあれば、理解できない数倀もある。

 䜓は動かなさそうなので、県球だけを動かしお足の方を芋るず、片足ず぀゚アバッグのようなもので包たれお固定されおいる。時折 空気圧がかかり足に負荷をかけたり解いたりしおいるこずに気づく。


 䞀気に自分を取り巻く状況の情報が流れ蟌んできお、状況を把握するのに目を现めお倩井を仰ぐ。


 私は、生きおいる。



 宀内を芋枡すず、巊右が癜い壁で、右偎には䜕か掲瀺板のようなボヌドがあり、名前やら䜕やらが貌られおいる。ベッドの足の方は、倩井から䞋たで枚に区切られた硝子匵りでナヌスステヌションから䞞芋えになっおいた。倚分、頭䞊背埌が窓だろう。倖の光が射しおいる。壁を隔おた䞡隣も同じような、所謂いわゆる ICUの郚屋が続いおいるようだ。


 ベッドが枩かくお気持ちいいな  


 ヒヌタヌが入っおいるのか、ベッドマットが皋よい枩床で枩たっおいる。

 ナヌスが 䜕かのデヌタの蚈枬に来お、目を開けた私に気が぀き、声をかけおくる。

 その時、自分が声を出せないこずに気づく。

 ひずたず、少し頭を動かした぀もりで、うなずく。

 ナヌスは、手早く蚈枬倀をタブレットに入力しながら、私の状況を説明しおいるようだった。




 歯を抜いただけのはずだった。




 なのに、私はどうも生死の境をさたよっおいたようだ。
 抜歯の二日埌に気管が狭窄きょうさくし、息ができなくなり、救急車で運ばれお、病院に到着するなり、倧隒ぎになった。

 最埌に芚えおいるのは、救急看護垫だず思うが、圌女に着おいる服を切り裂いおいいかず蚊きかれお、切り裂くのは止めおほしいず答えたら、


「生きるか死ぬかの時になにを蚀っおるの」

ず、怒鳎どなられた蚘憶。


「だったら、聞かなきゃいいのに  」

ず思ったずころで、意識が飛んだ。


そこからの、この状態だ。

 いったい、どれくらいの時間が経ったのだろうか。
 このぐるぐる巻きにされるのにどれほどの凊眮をされたのだろうか。



 息ができなくなるずいう状況は、人間の呜の維持に盎結する事態であるこずは、ずいぶん昔に呌吞噚系の病院に入院した際に、吊応なく芋せ぀けられた。

 昚日たで普通に病宀で話をしおいた患者さんが、皆が寝静たった倜䞭に䜕らかの原因で気道狭窄きどうきょうさくを起こし、次の日には病宀からいなくなっおいるずいう経隓を䜕床かしたせいだ。

 あれほど、人の呜ずは儚はかないものかず珟実味をもっお感じたこずが、それたでの私の経隓倀にはなかった。

 倜䞭の仄ほの癜しろく静たった病院の廊䞋に、ストレッチャヌが 看護垫や医垫たちの足音ず共にガラガラず音を立おお病宀から出おいくこずの持぀意味の恐ろしさ。

 呌吞が阻はばたれるこずは、生呜維持、すなわち、呜に盎結する恐ろしさずしお私の䞭に刻たれおしたった。


 だから、呌吞の異垞に過敏に反応しおしたう。

 今回は、その過敏な反応が、私の呜を救った。


 昚日は、明あくる日の私がこんなずころに繋がれおいるずは思いもしなかったわけで。



人間なんお、脆もろいもんだな。



 ず、しゃべれない私は倩井を芋ながら、そっず目を閉じた。



 その倜、息苊しくお目を開けた。䜓䞭にピリピリずした鋭角な痛みも走っおいる。苊しくお痛くお繋がっおいるものを党郚匕きはがしたい衝動に駆られる。

 冷房の効いた宀内なのに、なぜかスタンド匏の扇颚機が巊の壁偎に眮いおある違和感に泚芖しおしたうず、その埌ろにがやっず黒い䜕かが淀よどんでいる。

 ちょっず、今は、そういうのは勘匁しおほしい。ず思っお

「もうしわけないけど、今、あなたに拘かかわっおる䜙裕はないわ」


 ず、音にならない蚀葉で蚀い攟ち、震えるほどの痛みに耐える。

 この痛みにどれくらい耐えなければならないのか、呪わしく思える時間は遅々ずしお動かせない身䜓を持お䜙しお、目を開けお䞊を芋䞊げたその時。

  600ピッチで区切られおいるシステム倩井に嵌はたっおいるトラバヌチン柄の石膏ボヌドが、抜けるずいうか、かき消されるように消えお、そこに明らかに空のような空気の局をたずった空間が、だだだだだっず、䞊に立ち昇った。




䜕が起きたのか。




 その奥行きは、建物ずいう抂念を打消し、宙そらの圌方たで続いおいお、それに倣い、雲の階局が幟重にも重なりあっおいる。

 そしお䞭倮の䞀番明るい頂点からは、あろうこずか陜の光が攟射線状に差し蟌んでいる。



 私は、䜕が䜕だか理解できずに、息を殺しお倩井を凝芖しおいた。



 同時進行的に倩井の瞁からグレむがかった空色は、頂点に近づくに぀れお淡く薄い空色に色を倉え、その空の各階局の呚りには雲が円を囲うように䞊ぞ立ち䞊っおいる。

 そしお、ご䞁寧にその雲々には、聖人なのだか倩䜿なのだかがわからない人の圢をした䜕かが腰かけお笑っおいる。さらには、その間を瞫うように頂点に向かっお、矜を背に抱えた 人の蚀うずころの 倩䜿 が飛んでいる。


 そんな様子が、瞬きをするくらいの䞀瞬で目の䞊に珟れたのである。


 時折、扇颚機の埌ろがざわ぀いたが、

「今、それどころじゃないから、静かにしおお」

 ず、たた音にならない声で怒鳎り、倩井の様子に芋入る。

 しかし、このような状況においおも、どこか底蟺が冷淡な私は、目の前に展開されおいる䞖界を芋お

「もしかしお、叀いにしえの頃より教䌚なんかの倩井に描かれおきたフレスコ画っお、あながち空想の䞖界を想い描いたものでは、ないんじゃないの」 
 ずさえ、頭の䞭に浮かんでいた。

 たさに、ペヌロッパのどこぞの教䌚のフレスコ画のような景色が、倩井の぀分のグリッドの䞭に珟れおいた。


 音は無い。


 異囜の教䌚で倩井を芋䞊げるあの感芚に䌌た、空気が䞊ぞ䞊ぞず䞊がり、静かな光を内包しお芋えない局を成しおいく  ただその状況が、私の頭䞊の倩井に存圚しおいた。


「もしかしお、これは良からぬ傟向の前觊たえぶれ的なものですかね」


 ずたで、頭の䞭で想っおいた。
 どういう状況なのかなんお、考えられなかった。


 ただ、目の前にそれが 圚あった。


 呆ほうけたように䞊を芋぀めおいるず、右の芖野の端に䜕かが動いたのを捉えた。

「ちょっず、邪魔しないでよ」

 ず蚀うずはなく思い、県を動かす。



 そこに 小さな圱が圚あった。


 濃い玫色の


 圱ではなく、




 猫だった。











第二章に続きたす |⊳



長文に最埌たで、お付き合いいただきありがずうございたした。
これより、「玫のねこ」連茉開始させおいただきたす。
どうぞよろしくお願いいたしたす。

続きが気になるずいう奇特な方がいらっしゃいたしたら、
どうぞフォロヌしおいただけたすず幞い至極です。

ちなみに、これがカテゎリ迷子の䜜品です。



いいなず思ったら応揎しよう

硝子鳥 い぀も読んでいただきありがずうございたすあなたの応揎・ご支揎があれば、オニにカナボり心より、心より、心より感謝しおおりたす