ホラー小説|ねぇ、怖い話して?
真夏の広場
近隣の小学校が集まる合同キャンプ
「ねえ 怖い話して?」
まただ
脳の髄を擦るような声に
重い瞼を持ち上げた
刺すような眩しい喧騒の向こう側から
日焼けした子どもたちが七、八人
粘りつくように群がってくる
頭痛がひどい
頭蓋の裏側を
針で刺されているような痛み
俺は胸の奥に渦巻く
禍々しいデジャヴを必死に押し殺し
いつものように意地悪な口調で
心霊写真の話を始めた
ポケットからスマホを取り出し
青白く発光する液晶画面をかざす
「ほら ここ 顔に見えない?」
子どもたちが
甲高い悲声をあげた
だが
その表情を凝視することが
俺にはもうできなかった
「ねえ この写真……」
色白の男の子が
画面をじっと指さす
耳奥の神経へ直接滑り込む
冷ややかな声
「おじさんが いるよ?」
一瞬の静寂
風が死に絶え
蝉時雨がジジジ……
と歪んだノイズに変貌する
俺は吸い寄せられるように
掌の中の画面を覗き込んだ
そこに映っていたのは
ネットから拾った
不気味な画像などではない
真夏の酷暑の中
ベンチの上で目を剥き
肌を紫黒く変色させて横たわる
俺の死体だった
「あ……がっ……」
喉から血の混じった
喘鳴が漏れる
画面の隅には
はっきりと刻まれていた
『2026年8月1日 12:30』
俺は
昨日の昼に死んでいたのだ
じゃあ
これまで何度も繰り返してきた会話は
一体なんだったんだ?
「ねぇ 怖い話して?」
歪んだ子どもたちの声が
幾重にも重なって鼓膜を破る
ああ 逃げられない
死んだことすら許されず
この終わらない夏の午後に閉じ込められ
あの子たちの余暇の玩具として
永遠に「怖い話」を繰り返すのだ
頭の中が
白く白く濁っていく
名前も
死んだ理由も
何回目の惨劇なのかも
すべてが溶けて失われていく
「あ 大きな入道雲」
男の子が指さした空
俺は最後の力を振り絞り
顔を上げた
青の極致に広がる
白く巨大な塊
ふと視線を手元に戻した瞬間
ベンチに腰掛けていたはずの俺の意識は
プツリと切れた
残されたベンチには
ただ永遠の蝉時雨だけが
静かに静かに降り注ぐ
……
……
……
……
……
……
……
……
……
……
……
……
「……あーあ おじさん 倒れちゃった」
子どもたちの声が聞こえる
「もうお話 してくれないのかな」
無邪気な落胆の声
「ちぇっ つまんないの」
何やらコソコソ話をしている
「……あ そうだ!」
ザッ ザッ ザッ
「そこに いるんでしょ」
歩みが止まる
「ずっと視ていたの 知ってるよ」
じっとこちらを見つめて
「……ねえ 怖い話して?」

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